カテゴリ: 井上尚弥

無謀にもラスベガスでその名を馳せようとトップランク傘下に入ったIBF/WBA世界バンタム級チャンピオン、井上尚弥。

今日は、彼が目指す米国ボクシングの世界を形成している〝ピラミッド〟をザックリとご紹介。

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まず、トップストーンを形成しているのは、今なおマニー・パッキャオが最大のアトラクションとなっている「PPVファイター」のグループ。

「グループ」と呼ぶにはパッキャオを例外にして、現在この座をレギュラーで獲得しているボクサーはいません。
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「二つのディケイドにまたがって世界トップに君臨する」のはタイミングもありますが、超一流の証明です。しかし、それが「四つ(1990年代、2000年代、2010年代、2020年代)」に及ぶとなると…彼をどう表現したら良いのでしょうか?

井上尚弥が見たいと切望した「パッキャオが見た風景」。井上の夢はいつか叶うのでしょうか?現時点では夢の切れ端すらも見えていません。



昨日の「タイソン・フューリーvsデオンティ・ワイルダー」は2試合連続のPPV。初戦の売上が32万5000件で再戦はさらに数字を上積みする見込みですから、準レギュラー獲得です。

「エロール・スペンスvsマイキー・ガルシア」も昨年3月に36万件を売上げ、PPVファイターの資格があることを証明しましたが、テレビ局がPPVを選ぶかどうかは対戦相手に大きく左右されそうです。

しかし、パッキャオを除くと「誰と対戦するか?」に影響されるファイターばかりです。

そして、現在のパッキャオを遥かに上回るアトラクションを持つのがカネロ・アルバレス。

これまでPPVで9試合を戦い、そのうち4試合で100万件を超える売上をマークした〝PPVモンスター〟でしたが、2018年にDAZNとスポーツ界を揺るがす超大型契約を締結、PPVの舞台から去りました。

ボクサーではゲンナディ・ゴロフキンもDAZNと大型契約を交わしましたが、DAZNにとってカネロもGGGもビジネスとしては厳しい状況が続き、このモデルは早々に頓挫する懸念が膨らんでいます。

PPVは〝日銭〟で、DAZNは〝先行投資〟。リスクを考えると前者は実に理に適ったビジネスモデルと言えます。

一方で、2015年からの5年間でPPVに乗った試合はわずか23試合しかありません。

そのうち、大きな利益をもたらした13試合の全てが、パックメイ+カネロの試合です。

残る10試合の中でゲンナディ・ゴロフキンvsデビッド・レミュー(2015年10月:15万件)、テレンス・クロフォードvsビクトル・ポストル(2016年7月:5万件)、セルゲイ・コバレフvsアンドレ・ウォード第1戦(2016年11月:16万件)、ゴロフキンvsダニエル・ジェイコブス(2017年3月:17万件)、ウォードvsコバレフ第2戦(2017年6月:13万件)、クロフォードvsアミール・カーン(2019年4月:15万件)の6試合は採算ラインの20万件に届かず、特にクロフォードの不人気ぶりは悲惨なまでに際立ちました。

残りの4試合はワイルダーとスペンスの〝合格〟試合です。

ちなみに、この直近5年では軽量級メインの試合は一つもなく、過去の歴史を遡っても19年前に行われたナジーム・ハメドvsマルコ・アントニオ・バレラ(2001年4月:31万件)のフェザー級、たった1試合だけ。

イエメン王室の寵愛を受けたハメドと、メキシコの歴史的なスーパースターであるバレラは、極めて例外的な存在です。この奇跡の2人のマッチングで、やっと軽量級のPPVが成立したのです。

井上が「最低でもフェザー」と口にしたのはこの例外を指していたのかもしれませんが、現実には「フェザーでも無理」と断言して差し支えないでしょう。

PPVファイターは1件50〜100ドルの視聴費を集めることで、テレビ局の年間総予算をも上回るような莫大な報酬を得ることができるのです。
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現状ではパッキャオしかレギュラー枠に入り込めていない極めてハードルが高いPPVファイターに続くのが「テレビファイター」です。

トップランクやゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)、プレミア・ボクシング・チャンピオンズ(PBC)といった大手プロモーション傘下に入ることで、提携先のESPNやショウタイム、 フォックスなどで試合がテレビ放映、テレビ局の番組予算がファイトマネーを支えてくれることでプロボクサーとして生活が保障されます。

かつて、米国のボクサーが憧れたのがHBOの上位プログラム「ワールド・チャンピオンシップ・ボクシング」(亀海喜寛らが出場)や、下位の「ボクシング・アフターダーク」(井上尚弥や井岡一翔が出場したThe Super Flyなど)のリングでした。

トップランクとサインした村田諒太や井上らは、このテレビファイターの地位をすでに手に入れているわけです。

しかし、彼らの場合はトップランクが「日本開催の試合」を重要な契約条項として盛り込んでおり、他のテレビファイターとはポジションが違います。

トップランクにとって他のファイターは「プロモートしてやる」存在ですが、村田と井上を傘下に迎えたのは「日本市場のおこぼれ頂戴」というのが目的です。



そして、ピラミッドの裾野を形成しているのが「クラブファイター」。

テレビ放送はせいぜい地方局、地元の会場で不定期に試合を重ねるボクサーたちです。

彼らの報酬は、地方のプロモーターが主にゲート収入を頼りに捻出。選手はボクシングだけでは生活が成り立たないパートタイムボクサーで、別に本業を持っています。 

そして、彼らはテレビとの結びつきが強い大手プロモーターとの契約を目指すのです。

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井上が目指す米国での成功がどのレベルなのかはわかりませんが、もしそれが「MGMグランドガーデンアリーナでメイン」だけでなく「FOXなど大手のPPV」だとすると「軽量級」「アジア人」という二重の足枷は絶望的に重い十字架です。

特に、PPV需要が全く存在しない「軽量級」の十字架は致命的です。

しかし、すでにテレビファイターの地位を確保している井上尚弥が目指すとしたら、やはりPPVファイターではないでしょうか?

PPVファイターとは番組予算では報酬を賄えない超弩級のスーパースター、現在ではパッキャオしかいないの極めて高いハードルです。

ゲンナディ・ゴロフキンやテレンス・クロフォードが悲惨な結果しか出せずに追い払われたPPVの壁は、尋常な高さや厚さではありません。

「PFP=メディア評価」なら1位の座に2年間も君臨したローマン・ゴンザレスに代表されるように、井上もリング誌3位にランクされるまでになりました。

PFPなら軽量級の門戸はバーゲンセール大開放されていますが、「PPV=人気」となると軽量級の実績はゼロというのが現実です。

PFPとPPV。一字違いですが、そのハードルの高さ、壁の厚さは全く異次元です。

日本の優良企業が手厚い資金を提供することで、日本から特典満載の大ツアーを募る。リングポストには「スーパードライ」か「一番絞り」のロゴ、カンバスにはNTTやトヨタの広告…マイク・タイソンを招聘した東京ドームの世界をラスベガスで再現したら、DAZNなどが先行投資ではない美味しい売上に飛びついてくるでしょう。

それならMGMグランドでバンタム級の試合がメインになることも夢ではありません。

しかし…それでは、何をやってるのか、もう訳がわかりません。

とはいえ、4月25日のマンダレイベイもビジネスとしては、もうすでにシュールな世界に突入しています。

テレビ局も客席数も、ゲート収入も視聴者数も日本でやるよりも遥かに矮小な規模になってしまうのは確実です。

現時点でラスベガスでやる意味を問われたら「だってカッコいいじゃん」というだけでしょう。そこがメジャーリーグでプレーする野球選手を全く違う点です。

かつて日本で成功したアイドルやミュージシャンがご褒美に「ロスアンゼルスでレコーディング」を楽しんでいたのと全く同じです。

悔しいのは、トップランクの狙いが軽量級では破格の利益をもたらす日本での試合でたんまりネコババしようとしていることです。

 「4月25日マンダレイベイ」を助走路にして、井上尚弥はラスベガスで「本当の意味で翔ぶ」ことが出来るのか?

井上の挑戦を〝ロスアンゼルスのご褒美レコーディング〟で終わらせないために何が必要なのかを考えていきます。 
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ジョンリール・カシメロ。

粗削りな時代のパッキャオの香りを漂わせた、Quadro Alasはもう31歳。

31歳は粗削りと言ってる年齢ではありません。軽量級としては若くはありません。

中量級に進出したとはいえ、パッキャオの31歳といえばアントニオ・マルガリートを切り刻んで史上初の8階級制覇を成し遂げた頃の円熟期です。
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カシメロの4つの敗北は格下相手に喫したポカが2つ、アンダードッグのオッズの通りに敗れた格上相手が二つですが・・・・。


カシメロ、31歳。パッキャオ、31歳。

オスカー・デラホーヤやジョシュア・クロッティ、マルガリートら〝ゴリアテ〟を相手に勇敢な〝ダビデ〟の戦いを繰り広げながら世界中のボクシングファンを魅了していた時代のパッキャオの巧妙さを、〝永遠の原石〟カシメロの中に探すのは不可能です。

番狂わせで撃沈されたゾラニ・テテのケースも、命取りになったのは南アフリカ人の不注意なダッキング。カシメロは幸運でした。


ただ…。不気味ですね。本当にカシメロは幸運だったのでしょうか?本当にテテは運悪く油断しただけだったのでしょうか?

ヤツは永遠の原石でしょうけど、石コロではありません。

井上のキャリアで危険な強打者といえばノニト・ドネアただ一人だけですが、カシメロはスピードも加味すると、過去最強の相手と言って差し支えないでしょう。

4つの敗北にはモルティ・ムザラネとアムナット・ルエンロンという軽量級屈指のやりにくい強豪につけられた二つの黒星が含まれています。

カシメロを語るとしたらアムナットとの2試合で十分でしょう。ダーティファイトの応酬となった初戦と、左一撃で試合をひっくり返した再戦。

要は、怖いもの知らずで、荒っぽい喧嘩屋です。どこにでもいる、腕っぷし自慢のB級ボクサーです。

このフィリピンの原石と、研磨された宝石に近い井上尚弥との共通点は、ほとんどないように見えます。

しかし、クアドロ・アラスもモンスターも、ジュニアフライ級で最初の世界タイトルを獲り、一つの階級=ジュニアバンタムをスキップ(井上はフライをスキップ)してバンタムまで3階級制覇したこと、4つ目のクラスにもかかわらず一発で試合を決めるパンチャーであり続けていることは酷似しています。

野球やサッカーならどんなスラッガーの本塁打でも、どんなストライカーのシュートでもそれで試合が決するシーンは限定されていますが、ボクシングの場合は別です。

野球なら例え満塁本塁打であっても、それがサヨナラ本塁打でない限り、勝負が決することはなく試合は続きます。

しかし、ボクシングはそうはいきません。

パンチャーの一発は試合開始1秒から12ラウンド最後の1秒まで、それがどの瞬間であっても、当たればそこで全てが、どんな劣勢でも精算されてしまいます。

「軽率なミス」とカシメロに倒されたアムナットとテテは同じセリフを吐きました。

「あれだけは注意する」と最大の警戒をしていたはずのドネアの左を、2ラウンドで被弾した井上も「油断してしまった」と悔やみました。


それにしても…。

アムナットとテテは本当に「軽率なミス」を犯したのでしょうか?

井上は本当に「油断」のせいで、ドネアの左をもらってしまったのでしょうか?

カシメロの相手には、理由もなく「軽率なミス」を繰り返すボクサーが偶然集まるのでしょうか?

井上の「左だけは注意」という唯一の厳戒態勢が早々に破られたのは、油断ではなく警戒網がザルだった、防御に欠陥があったと考えるのは的外れでしょうか?

もちろん、粗探しをしだしたら、全盛期のパックメイでも穴はいくらでもあります。

そもそも、あちこち瑕疵だらけのカシメロの粗探しをしたら、それこそキリがありません。

しかし、それにしても不気味な相手です。

パッキャオとは次元が違うとはいえ、カシメロも格上の絵札をひっくり返す能力に長けているのは認めざるを得ません。

3階級制覇を達成したにもかかわらず、軽量級の低報酬に悩み「呼ばれたらどこでも行く」と世界8か国で戦ってきたカシメロの逞しさ、野生は日本人がずっと昔に忘れ去ったものです。

井上戦もカシメロは「さいたまで戦いたい」と希望したものの、井上の意向でラスベガスになりました。

マニラで行われた壮行会で井上について「結構なご身分だ。ビジネスとして成立しないのにラスベガスでやりたいと希望したらそれが通るんだから、羨ましいよ。私が井上の立場なら興行的に大きく報酬も高い日本から一歩も出ないけどね」と皮肉り、敵愾心を燃やしています。

エマヌエル・ロドリゲスよりもはるかに精神的に強靭で、ドネアよりもはるかに若くて反射に優れ、そして速い。

何よりも、とにかく、一発で試合を決める武器を持っている。

さらに、3階級制覇してもまだまだハングリー。

現在のバンタム級では、最も危険な相手かもしれません。
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日本時間4月26日、ネバダ州ラスベガス マンダレイベイ リゾート&ホテル イベンツセンター

IBF/WBA王者・井上尚弥vsWBO王者ジョンリール・カシメロ


1988年にWBOが創設されて以来の「4-Belt & 17 Division  Era (4団体17階級時代)」で、このクラスで団体統一したのはフェルナンド・モンティエル(2010年vs長谷川穂積=WBO+WBC)と井上尚弥(2019年vsノニト・ドネア=IBF+ WBA)の二人だけ。

完全統一のUndisputed Championはもちろん、3団体王者も生まれていませんから、井上vsカシメロの勝者が4-Belt & 17 Division  Era 史上初の3団体統一王者に就きます。

マニラで行われた記者会見には、等身大のモンスターも登場。

現在のオッズは……。

団体統一戦とはいえ、米国や世界では注目度の低いバンタム級の試合です。オッズが立ち上がるのはまだ先の話になりますが、井上が圧倒的有利となるのは間違いありません。

昨年11月のドネア戦ではさいたまスーパーアリーナに、破格のチケット価格(A席10万円、B席5万円、C席3万円、D席2万円、E席1万円)で2万人以上の有料観戦者を集めました。

しかし、ラスベガスでは興行規模では10分の1では済まないでしょう。ビジネス的には大きな疑問も投げかけられていますが、これはもう夢、夢、夢への先行投資です。

ちなみにチケット価格は25ドル(約2700円)から300ドル(約3万2900円)。

同じ会場で行われたバンタム級注目の決戦、ドネアvsモンティエル(20ドル〜250ドル)よりもやや高い設定です。その試合と同様に上階席は封鎖される見通しなので、最安値の席でもよく見えるはずです。

軽量級の面白さを識るファンにとっては、これ以上ない最強のコスパです。

とにかく、「ラスベガスで軽量級メインのビッグファイト」という未だかつて誰も見たことがない蜃気楼を、現実のものにする最初の一歩にするのだ!

近い将来「マンダレイベイでは半分のシートが封鎖されて無料券もまかれた」と笑い話にしてやりましょう。

そんなわけで米国での報道は非常に乏しく、日本とフィリピンのメディアが情報の中心となっています。

昨日は、The Manilla Bulletin 新聞がカシメロの最新情報をレポートしてくれました。

現在、マイアミでキャンプを張っているカシメロは、先週の木曜日に31歳の誕生日を迎えたばかりで「キャリア最高のファイトマネーに興奮している。日本に呼ばれると期待していたが、場所は関係ない。絶対に勝つ」。

Inoue knows he’s in for a Firefight at Mandalay Bay.

「井上が米国で嵐を巻き起こすことに興奮を抑えられない。井上は世代を代表する強打者で、カシメロは今が全盛期の本物の王者。井上は火が噴くような戦いになることを覚悟している」とボブ・アラムの煽りを紹介。

“It is my goal to be the Undisputed Bantamweight king, and I am coming to America to put on a great fight for the fans. I would like to thank Mr. Bob Arum and MGM Resorts for making my Las Vegas dream a reality. Now, the work begins, and I will kick off my 2020 schedule at Mandalay Bay in devastating fashion.”

 井上の意気込みも「バンタム級の完全統一王者になるのが目標。米国のファンに面白い試合を魅せたい。ラスベガスでメインという夢を叶えてくれたアラムとMGMに感謝する。2020年最初の試合を破壊的なやり方で勝利する」と伝えています。

MPプロモーションのシーン・ギボンスも「4月25日の試合が戦争になることをカシメロはよく理解している。そして戦争こそカシメロが最も得意とするスタイル。井上はドネア戦どころじゃないトラブルに巻き込まれるだろう」と相変わらず自信満々。

「負ける可能性はラッキーパンチを食らうこと。それだけは注意したい」と、井上も同じように思ってるわい!というコメントも。

カシメロも「チャンスがあれば倒しに行くが、無理はしない。12ラウンド判定でも勝てる。私はドネアが失ったパワーとスピードを兼ね備えている」と余裕を見せていますが…。

また、ABS-CBN News  でも「ラスベガスよりも埼玉で戦いたかったが、私が勝てば埼玉で再戦したい」と、もう勝ったつもりです。
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井上尚弥がジョンリール・カシメロに勝利した瞬間、世界バンタム級に33年ぶりのLineal Champion が誕生します。

世界には日本で馴染みのない二種類の〝ベルトを持たない世界チャンピオン〟が存在します。

一人目は非常にわかりやすい Undisputed Champion です。日本語に訳すと「議論する余地のない王者」。

私にこの言葉を最初に教えてくれたのはマービン・ハグラーでした。

「Undisputed Middle weight Champion of the Worldーー!Marvelous!Marvin !Hagler!〜〜」。
 
Undisputed Champion とは文字どおり「誰が一番強いのか?」を議論する余地のない世界チャンピオンのことです。

全てのベルトを束ねて、他の誰をも王者を名乗らせない圧倒的な存在感を持つ王者。それが Undisputed Champion です。

ライトヘビー級のマイケル・スピンクス、ヘビー級のマイク・タイソン、クルーザー級のイベンダー・ホリフィールド…砕け散ったプライドのピースを再びコンプリートさせる彼らの格好良さといったら!くらくらと眩暈がしました。

かつて長谷川穂積や西岡利晃、山中慎介らを「議論する余地のない王者」と紹介するメディアやリングアナウンサーがいましたが、あれは大間違いです。

「議論する余地」があるから彼らはそれぞれの流儀で、それを埋めようとのたうち回ったのです。

長谷川はライバル王者との決戦によって。西岡は打倒PFPファイターを希求して。山中は具志堅用高の伝説的な「13連続防衛」を更新することを目指して。

三人とも「高額の承認料とベルト代を支払う日本人王者に長く防衛してもらいたい」というアルファベット団体の思惑に反旗を翻したのです。

勇気の橋を渡りきることは出来ませんでしたが、彼らが見せようとしてくれたのは、まさにボクシングファンの希望でした。

日本武道館の長谷川が、フェルナンド・モンティエルを圧倒的有利の予想通りに、斬り落としていたら…。

ホームデポセンター(当時)の西岡がジョニー・ゴンザレス戦(1−3)など比較にならないアンダードッグで迎えたノニト・ドネアを大番狂わせで沈めていたら…。

両国国技館の山中が、卑怯者のルイス・ネリに神の拳を叩き込み、日本ボクシング史上最高の雪辱劇を演出してくれていたら…。

彼らが投げた勇気のコインは、残念ながら裏面になっただけです。

*****完全に話が横道に逸れてるので、元に戻して。


Undisputed Championと並んで、日本で馴染みがないのが、バンタム級で33年ぶりに井上が就くかもしれない Lineal Champion です。

33年前、1987年のバンタム級シーンではWBC王者ミゲール〝ハッピー〟ロラが最強と目されていましたが、 Lineal Champion はアントニオ・エスパラゴサ。
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1987年3月29日、守口市民体育館で予定どおりにWBA世界バンタム級タイトルマッチが行われていたら…。

「やや不利」と見られていた26歳のエンドレスファイターが地元の大声援に押されて1歳年上のベネズエラ人から勝利をもぎ取れば、ファイティング原田以来の日本人二人目のLineal Championの座に就いていたはずでした。

しかし、当時の日本にはLineal Championなどという概念は一般的でなく、「WBAは老舗で正統派」「WBCの王者にこそ実力者が多い」と、2団体への嫌悪感もほとんど感じることができませんでした。

マンダレイベイまで69日。

このシリーズを書こうと思い立った「カシメロの正体」にとりかかるまで、かなりの遠回りになりそうです。。。  
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>個人的にはWBCは要らないと思っていますのでカシメロに勝てばそれでいいと思っています。 
 
BoxRecなどと違いサイトを開いてもバナーすら出て来ない非営利のランキング機構であるTBRBによると井上カシメロの勝者は33年ぶりのバンタム級リネラルチャンピオンとなるそうです。 
 
防衛戦は王者の義務 と言っている井上がWBCも取るとなるとIBF指名戦、統一戦へのスケジュール調整なども含めると階級上げはまたまだ先になりそうですね。
 
2020-02-12 22:51:14 返信編集

名無し 110.67.148.120

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「4-Belt & 17 Division  Era (4団体17階級時代)」。

この悲しいカオスの時代を語るとき、「a champion(議論する余地のある複数人が乱立するアルファベット団体の王者)」と「The Undisputed Champion (他に王者を名乗らせない議論する余地のない王者)」というキーワードは切っても切り離せません。

この時代の日本人世界王者は、1人残らずa championです。


そして、こんな混迷した時代だからこそ、あの厄介なチャンピオンも息を吹き返してしまうのです。

「Lineal Champion」です。

「名無し」さんの「井上カシメロの勝者は33年ぶりのバンタム級リネラルチャンピオンとなるそうです」という投げかけは、非常に興味深いものです。

なにしろ、その歴史は日本のボクサーもしっかり絡んだストーリーなのですから。

33年ぶり、つまり33年前、1987年。

WBCのミゲール・ハッピー・ロラが階級最強王者と目されていました。このWBCのストラップはロラを番狂わせで下したヒバロ・ペレス、そのペレスからさらに大番狂わせでベルトを掠め獲ったグレグ・リチャードソンとタイトルが転がり続けます。

そして、リチャードソンを仕留めたのが辰吉丈一郎でした。

しかし、やっかいなことに「王者を倒した者だけが王者と認められる」というLineal Champion の法則に則ると、この玉座に就いていたのはWBAのピースを持つベルナルド・ピニャンゴでした。

そして、ピニャンゴを巡っても日本人ボクサーが、バンタムの糸に絡まって来るのです。
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The Undisputed Champion は1972年のエンリケ・ピンダーから48年、もう半世紀も産まれていません。そしてLineal Championは。。。

受験シーズン、ちょっと趣向を変えまして…。
 
▶︎「4-Belt & 17 Division  Era (4団体17階級時代)」とはどんな時代か? a champion と The Undisputed Champion を使ってを100字以内で述べよ。(2020年東京大学:国際運動学部拳闘学科)

◉模範解答=1=◉…過去のどんな時代よりも最も安易にアルファベット団体が承認した「a champion」にはなれるが、過去のどの時代よりも「The Undisputed Champion 」になるのが困難な時代。リアルを追求するボクサーにとって最も厳しい時代。

◉模範解答=2=◉ …アルファベット団体の世界王者の価値が完全に失墜したことで「a champion」はもちろん「The Undisputed Champion」でも注目されない時代。「王者かどうか」ではなく「お前は誰なのか」が問われる時代。「私は世界チャンピオン」というのでは有象無象の1人。「俺はフロイド・メイウェザー」「私はマニー・パッキャオ」。最高の価値には世界タイトルなど必要も意味もない時代。

どちらの解答も満点で差し支えないと思いますが、あなたが採点者で、二つの解答のどちらかを選ばなければならないとしたら…どちらを優位の正解にしますか?

※東大とか100字とかは適当ですから字数を数えたりしないように!

>>>明日は早いので、今夜はここまで。おやすみなさいませ。

次は33年前の世界バンタム級 Lineal Championとエンドレス・ファイターのお話です。
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4月25日 ネバダ州ラスベガス マンダレイベイ リゾート&カジノ 

IBF/WBA王者・井上尚弥vsWBO王者ジョンリール・カシメロ

バンタム級3団体統一戦。この試合の勝者が The Undiputed Champion、議論する余地のない王者へ王手をかけることになります。

The Undiputed Champion は強いチャンピオンを指すボヤッとした表現ではありません。「議論する余地のない」、つまり「他に世界王者を誰も名乗れない」状況を二つの拳で作り上げた本物のチャンピオンのことです。

少し前まで、日本のリングアナウンサーやメディアが「議論する余地のない王者」と浅はかに使っていましたが、あれは大間違いです。ようやく気付いて最近は控えているようですが。

現在では主要4団体のタイトルをコンプリートした王者が The Undisputed Champion です。

普通は4団体のピースを集めれば、リング誌の王者にも認定されます。

第5勢力のIBOをはじめマイナー団体も存在しますが、現在では主要4団体のタイトルをコンプリートすることをもってThe Undiputed Champion=議論する余地のない王者と認めることに異論はないでしょう。
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1団体8階級時代に世界王者となった白井義男はもちろんThe Undisputed Champion です。

議論する余地のある王者、つまり a champion がひしめく「4-Belt & 17 Division  Era (4団体17階級時代)」の32年の歳月でThe Undisputed Champion はバーナード・ホプキンス、ジャーメイン・テーラー、テレンス・クロフォード、オレクサンダー・ウシクのたった4人しか産まれていません。

一方で、WBOが創設された1988年以前、4階級制覇は前の年の1987年に達成したトーマス・ハーンズただ1人でしたが、その後の32年間で21人が4つの階級で世界王者となりました。

この2年間では5人( マイキー・ガルシア/ドニー・ニエテス/井岡一翔/カネロ・アルバレス/レオ・サンタクルス)が超人ヘンリー・アームストロングですら不可能だった4階級制覇の難事業をやってのけているのです。

そして、1970年代までは4人しかいなかった偉大さの証明、3階級制覇は55人がそのリストに名前を連ね、この5年間では13人が達成しました。2018年は井上尚弥ら5人が3階級制覇、もはや月間行事に向かって突き進んでいます。

日本人だけでも2010年の亀田興毅から約10年で5人が3階級制覇、もはや偉大さを測る物差しとして意味をなさなくなりました。 

この「王者の大安売り」が続いている最大にして唯一の要因は 4-Belt & 17 Division  Era です。

WBAのヒルベルト・メンドサJr.も、WBCのマウリシオ・スライマンも、IBFのも誰もが「世界王者は多すぎる、乱発を控えて減らさなければならない」と口を揃えていますが、彼らの生業が承認事業である限りそれが実行に移されることは永遠にありません。

自動車メーカーに車を作るな、というのと同じです。

「世界王者を作りたい」承認団体と、「世界王者になりたい」ボクサーが溢れているのです。

4-Belt & 17 Division  Eraが量産した最大のヒット商品は世界チャンピオンです。この32年間でどれだけ売れたのか、何人の世界王者が生まれたのか?…もはや世界中の誰も知る由がない神秘の領域です。 

承認団体がWBAとWBCに分裂した1960年代末から、対立王者を倒す形でThe Undisputed Championの座に就いた本物の世界王者は渡辺二郎、ただ1人です。

2団体時代のWBA王者・渡辺はWBC王者のパヤオ・プーンタラトを倒す1試合でThe Undisputed Champion になることができました。当時は両団体の統一戦への警戒心が強く、渡辺のタイトルはその日のうちに剥奪(当初は「統一戦のリングに上がった時点で剥奪」と報じられていましたが、現実の剥奪指令は試合後で、短い時間でしたが渡辺は間違いなくThe Undisputed Championでした)。

世界王者になること、そのタイトルを防衛すること、複数階級制覇をこなすこと、あらゆる世界戦が安易になった4-Belt & 17 Division  Era ですが、どの時代よりもはるかに困難な事業がたった一つだけ存在します。

The Undisputed Championになることです。

白井や原田がたった1試合、渡辺が2試合で手に入れた「議論する余地のない王者」。

4-Belt & 17 Division  Era でこの座を獲得するには、統一王者に勝つタナボタを除くと最低でも4試合を要することになります。

醜悪な4-Belt & 17 Division  Eraで唯一残された聖域。この時代を代表するパックメイでも一度も成し遂げることの出来なかった、厳かで神々しい大仕事に井上尚弥が挑みます。

現在、IBFとWBAをコレクションした井上に足りないピースはあと二つ。WBO(カシメロ)と WBC(ノルディーヌ・ウバーリ)です。

まずはWBO、フィリピンの喧嘩屋を片付けるまで、あと73日! 
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日本時間2月9日。ペンシルバニア州アレンタウン 、PPLセンター。

WBC世界フェザー級タイトルマッチ、王者ゲイリー・ラッセルJr. が無敗のモンゴリアン、タグ・ニャンバヤルをさばいた興行のセミファイナル。

ギレルモ・リゴンドーvsリボリオ・ソリス、WBAバンタム級王座決定戦です。

それにしても、WBAのヒルベルト・メンドサJr.会長は「1団体が複数の世界王者を抱えるのはおかしい」と訴えるリング誌などに「もっともだ、私たち承認団体は間違っている。是正する」と公言してから一向に改善されていません。

WBAに限ったことではありませんが「承認すれども統括せず」という承認団体という存在は、そもそもの成り立ちからして腐敗するしかない黴菌団体です。

国や地域が統括しているボクシング界では、かつて「ニューヨーク州公認世界チャンピオン」のようなスタイルがありましたが、当時に戻るべきとは思いませんが…。

それにしても承認団体の好き放題は酷すぎます。JBCに毅然とした態度なんて求める方がおかしいのかもしれませんが、立場は遥かに上です。もっと正義を貫かねばならない、喫緊の時期に差し掛かっているのですが…どうやらそれどころじゃないようですし…。

ああ、アルファベット団体の話は今夜のテーマではありません。

話を戻して…井上尚弥にカネの匂いを嗅ぎつけたキューバのジャッカルが、バンタム級に降りて来ました。

舞台は、ペンシルバニア州、アレンタウンです!この地でボクシングの世界戦が開催されたことってあるのでしょうか?
この街のことは小学生の頃から知っています。大好きなビリー・ジョエルの名曲で歌われた、あのアレンタウンです。

工場で噴き出すスチーム音からのオープニング、英語なんてABCもわかっちゃいない小学生でも、アレンタウンが錆びれた悲しい工業都市であることは直感できました。

一度も行ったことがない街ですが、ビリー・ジョエルの歌だけでず〜っと昔から知ったかのアレンタウン。

そこで、リゴンドーが拳を交えたのはリボリオ・ソリス。

2人とも日本のリングで世界線を戦った経験のある、ボクシングファンならお馴染みの名前です。

39歳のキューバ人と37歳のベネズエラ人による、WBAセカンド王座を賭けたタイトルマッチ。

リゴンドーの誕生日は、BoxRecでは9月、リング誌は5月としていますが、どっちにしても40歳目前です。最近の試合でも劣化が目立つジャッカルのタンクに、まだ何か残されているのかどうかを占う一戦でした。

結論からいえば、タンクの中は空っぽでした。

試合は1ラウンドから波乱含み。ソリスのスローな左フックが再三ヒット。これまでのキャリアで3度ダウンしているキューバ人の4度目が、いつ訪れても不思議ではない立ち上がり。

しかし、7ラウンドにはリゴンドーの左アッパーが炸裂、ベネズエラ人をロープに飛ばします。主審は「ダウン」を宣告。ソリスはなんとか生き延びますが、結果的にはこのダウンのポイントが効きました。

スプリットデジション(116−111/115−112/112−115)でリゴンドー勝利がコールされると、場内からブーイング。

ソリスは「判定は受け入れるしかないが、私が勝者だ。初回でKOされそうになってからリゴンドーは逃げてばかりだった」と不満を爆発。まあ、でも負けてました、ソリス。

リゴンドーは「ソリスは強敵だったが私の勝利に間違いはない。バンタム級でも減量は全く問題ない」と例の泣き顔で語り、トレーナーのロニー・シールズは「バンタム級のベルトを持っている相手なら誰でもかかって来い」と自信を見せ「井上尚弥とサイタマで戦いたい」と本音も。

リゴンドーの勝利で文句のない内容でしたが、綺麗に勝ったとは言い難い内容でした。打たれ脆さも相変わらずです。

ボクシングは何が起こるかわかりません。井上が次戦でジョンリール・カシメロに惨敗しても大きな驚きはありません。

しかし…今日のリゴンドー、あるいはソリスでも井上の前に12ラウンド無事に立っていられるとは到底思えません。

ソリスは日本のリングで何度も証明しているように、ストロングポイントの見当たらない平均点(以下?)のボクサー。

リゴンドーはスピードと反射の衰えが酷すぎました。そのせいか、持ち前の技巧もサビついて見えたのは気のせいでしょうか。

そして、錆びついた39歳のキューバ人がアレンタウンで腰に巻いたのは、WBAセカンドタイトルのベルト。まさにお似合いのラストベルトでした。
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DONAIRE’ LONG COUNT
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2019年11月7日。

さいたまスーパーアリーナは2万人を超える有料入場者でフルハウス。軽量級がメイン、それもバンタム級で2万人も入るのは世界中どこを探しても日本だけです。

軽量級ゆえに不遇に甘んじてきたノニト・ドネアもメインで1万人以上の観衆の前で戦うのは、初体験だったでしょう。

ゲート収入は未発表ですが普通に考えて2億円レベル。これもラスベガスやニューヨークでは想像もできない数字です。

世界中の軽量級の選手が「日本で井上と戦いたい」と声を上げたのも無理はありません。


圧倒的なオッズと予想通りに、IBF王者井上は勝利を収めました。ただし、その展開は誰も予想していないものでした。

予想を裏切ったのは、12ラウンドに渡ってリングにいた3人です。

カットと骨折に苦しんだ井上。大健闘のドネア。そして不可解なジャッジを犯したレフェリー。
 

この試合でもありえないロングカウントが数えられてしまいました。

「それだけはもらわないように」と最大の警戒をしていたはずの左フックを早々に浴びた井上は、眼窩底骨折と右鼻孔下を骨折。衝撃で右目上をカットしてしまいます。

そこにヒットしたわけではないパンチでカットしてしまったのは、今後が心配です。ドネアのパンチ力ではなく、明らかにカットしやすい薄い皮膚、そしてもしかしたら脆い骨、です。

ドネアのパンチがそこまで強力なら今までの対戦相手は全員骨折して血だるま、目尻を衝撃でカットしているはずです。

それでも、試合は井上が主導権を握りながら進みます。

9ラウンドにはドネアの右ストレートで井上がダウン寸前の大ピンチに陥るなど、目の離せない展開が続きました。

そして、迎えた11ラウンド。

井上の右アッパーから左のボディがドネアの右の胴体、ストマックを斬り抜きました。ポーカーフェイスのドネアの表情がついに歪み、背中を見せてロープ伝いに逃げるとしゃがみこみます。

もちろん、ダウン。

本来なら打撃を受けたダメージで背中を向けたその時点で「ダウン」。そこからカウントを取るべきでした。

しかし、アーネスト・シャリフ主審は背走するドネアをかばうように体を入れて、井上の追撃を遮断。

「ローブローだと勘違いしたのではないか」というシャリフに同情的な意見もありますが、ベルト付近にヒットした微妙なパンチとは全く違います。

さらに、明らかなロングカウント。

もし、シャリフが正しいレフェリングをしていたら、ドネアはカウントアウトされていたでしょうか?

レフェリーのカウントを聞きながら立ち上がってきたドネアの姿を見れば、あそこでカウントアウトされることはなかったでしょう。

しかし、余分に与えられた5秒前後の回復時間は、再開後のモンスターの猛攻を凌ぐことができた理由の一つと考えられます。

幸い、ジーン・ターニーとバスター・ダグラスのケースとは違い、ドネアのロングカウントは勝利には結びつきませんでしたが、明らかに間違ったジャッジでした。

そして、12ラウンド判定。井上勝利に十分な内容だったにもかかわらず、一人のジャッジ(ロバート・ホイル)は1点差の114−113と採点。このスコアリングも苦い後味を残します。

彼のスコアでは、11ラウンドにダウンがなく井上の10−9ならドローだったことになります。


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B
oxing would not be Fun without Controversy. 

ボクシングに議論を呼ぶ判定は付き物、だから面白い。


本当にそうでしょうか?

全面的には受け入れることはできません。何よりも「議論を呼ぶようなジャッジ」は排除する方向で取り組んでいかなければなりません。

それでも、ここで紹介したロングカウントと採点については「ボクシングに議論を呼ぶ判定は付き物、だから面白い」という言葉を、完全に否定することはできないかもしれません。

また、そのときは明らかな誤審にしか見えなかったジャッジが長い時間で濾過されると正しかったかもしれないとも思えて来る場合もあります。




…もし、デンプシーが速やかにニュートラルコーナーに下がっていたら…バリーはカウントを10まで数え上げ、デンプシーの歴史的評価はさらに上になっていたでしょう。

……しかし、彼が羽織っている神話のガウンは今ほど豪奢で分厚くなかったかもしれません。

 

…あと2秒で勝利していたテーラーは、あの試合を境に全く別のボクサーになってしまいました…もしかしたらスティールの〝不可解なストップ〟は実は早すぎたのではなく、むしろ遅すぎたのかもしれません。



…あのとき、クレメンツが正しく「10−6」と採点していれば、パッキャオvsマルケスのリマッチはなく、もちろん衝撃的なフィナーレまで連なる4試合に及ぶ大叙事詩は紡がれなかったかもしれません。



…そして、さいたまスーパーアリーナの11ラウンド、シャリフが正確にカウントを数えていたら…36歳のフィリピン人が最後の1秒まで勇敢に戦い抜いた感動を私たちは目撃することができなかったかもしれません。 
 
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1990年2月11日。

トーキョー・ショッカーから30年。

あれから、もう30年も経ちましたか…。 モハメド・アリを知らない私にとってマイク・タイソンはヘビー級で出会った最初のスーパースターでした。

そして、私にとっても全てのボクシングファンにとっても、ヘビー級で最後のスーパースターでした。

いろいろ加筆しています。

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DOUGLAS’ LONG COUNT

1990年2月11日、東京ドーム。

観客は主催者発表で5万1000人。実数発表が当たり前ではない20世紀の興行です。実際には相当の空席が確認できました。

完全統一ヘビー級タイトルマッチ。王者マイク・タイソンvsジェームス・バスター・ダグラス。

タイソンにとって、イベンダー・ホリフィールドとの世紀の一戦を前にした〝肩慣らし〟。誰もがそう信じていました。

オッズも予想も「タイソン敗北」を示唆するものは皆無でした。
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しかし、試合が開始するとオハイオ州コロンバスからやってきた29歳が、これまでタイソンが戦ってきた相手とは違う、むざむざ生贄になるつもりがないことに、世界中が気付きます。

ダグラスの長くて速いジャブは小さなタイソンの突進を堰き止めるだけではなく、ラウンドが進むにしたがって着々とダメージを蓄積させていきました。

「タイソンは全てのラウンドを失っている、大番狂わせが起きる」。

一方的な展開になっていた、第8ラウンドも終わろうかとしていた、そのとき。「それ」が起きました。

タイソンが放った右アッパーがヒット、ダグラスは背中からカンバスに堕ちてしまいました。

歴史に残る大金星を掴みかけたその手でダグラスは倒れたままで、二度マットを叩きます。

これまでのタイソンの相手と全く違う象徴的な光景でした。倒されて悔しがっているのです。

しかし…すぐに立ち上がれません。

At ‘two’ he banged his glove in disgust over being floored, but still came perilously close to not beating referee Octavio Meyran’s count, getting up a fraction of a second before it reached 10. Or did he? 

オクタビオ・メイラン主審のカウントは明らかに遅い。タイムキーパーの声から明らかに遅れていました。

オフィシャルではメイランのカウント9でダグラスは立ち上がりましたが、タイムキーパーの計測ではダウンしていた時間は13〜14秒、本来ならカウントアウトしていなければならない10秒を明らかに超過していたのです。

ダグラスは、ジーン・タニー同様にロングカウントだと気付かなかったでしょう。ダウンしたボクサーはレフェリーのカウントと、自分のダメージをミックスして考えながら立ち上がるのです。

「判定までいくとタイソン寄りのスコアになる」とダグラスは9ラウンドも攻撃の手を緩めずに、タイソンを痛めつけます。

そして10ラウンド。

「真っ直ぐにしか下がれない、下がると何も出来なくなる」「ナンバリングシステムが染み付いた攻撃は研究されたらおしまい」「タイソンの首振りはナンバリングシステムよりもワンパターン」…テディ・アトラスらが指摘したいくつもの欠陥を撒き散らしながら、無敗の幻想は崩壊してしまいます。

Although it turned out to be inconsequential, when Tyson was knocked out in the10th round, referee Meyran had given him a similarly Long Count.

そして…これは多くのボクシングファンが忘れてしまっていることですが、10ラウンドに倒れたタイソンもまた、メイランのゆっくりとしたロングカウントの声を聞くことになるのです。

もしあのとき、タイソンが立ち上がってファイティングポーズを取っていたなら…メイランのロングカウントは〝おあいこ〟になったのですが…。

デンプシーのケースと異なり、このロングカウントの責任はタイソンにはありません。

タイソンは不運でした。しかし、世界は「人生を踏み外したタイソンがリングでも負けるべくして負けた」と意地悪な目を向けました。

それは、間違いです。メイランが正しいレフェリングをしていたら、タイソンは勝っていたのです。

※この試合はドン・キングが大騒ぎして一時サスペンデッドになりますが、結局は「ダグラスのKO勝ち」に落ち着きました。


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さて、さて、さて、次は井上尚弥vsノニト・ドネア、です。

こちらは、加筆も何もありません。全てが私の DONAIRE’ LONG COUNT です。 
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ボクシングの試合で最も議論を呼ぶのは、判定です。

最近の日本のリングでも「村田諒太vsアッサン・エンダム第1戦」(2017年5月20日)、「井上尚弥vsノニト・ドネア」(2019年11月7日)がすぐに思い出されます。

前者は、「誰がどう見ても勝利が盗まれた」(ESPN)村田の圧勝劇で、ヒルベルト・メンドサJr.会長までが誤審を謝罪するほど。

後者は、ジャッジの1人ロバート・ホイルが114-113とスコア。井上のキャリアでは最大の苦戦とはいえ、勝利は明白で、1点差にしか見えなかったホイルは「ジャッジ席に座る前に目医者に行くべき」(リング誌)でした。


そして、スコアカードだけではなく、リング上の第三の男=レフェリーが下す判断も数多くの議論を巻き起こして来ました。

「フリオ・セサール・チャベスvsメルドリック・テーラー」で〝あと2秒〟でテーラーの勝利を奪ったリチャード・スティールや、ケニー・ベイレスら、ネバダ州の名レフェリーによく見られる早過ぎるストップは、その典型です。

それでも、スコアカードやストップのタイミングは、そのジャッジにしか見抜けなかった真実や、最も近くで見ていたレフェリーだから下せた決断などが、百歩譲ればあるかもしれません。

「マニー・パッキャオvsファン・マヌエル・マルケス第1戦」でパッキャオが3度ダウンを奪った初回を10−7(本来は10−6とすべき)とつけたバート・A・クレメンツのような、百歩譲っても有り得ない採点やストップも、少なからずありますが…。

しかし、言い訳の効かない、素人でも「おかしい!」と声を上げてしまうレフェリーの不可解な判断もあります。

ロングカウント。10秒を超える不可解なカウントは、その代表です。

世界がロングカウントに揺れた「二つの大事件」を英国ボクシングニューズ誌2月6日号が特集、それにまだ生々しい記憶「井上尚弥vsノニト・ドネアの11ラウンド」をリレーします。

ポール・ギャリコについてなど加筆しています。
 

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TUNNEY’S LONG COUNT

1927年9月22日、シカゴはソルジャーズ・フィールド。

世界ヘビー級タイトルマッチ。王者ジーン・タニーが1年前に大番狂わせでタイトルを奪った元王者ジャック・デンプシーを迎え撃つ大一番です。

運命の第7ラウンド。デンプシーロールから放たれたすくい上げるようなアッパーがタニーの顔面にヒット、王者が痛烈にダウン!

当時、ニューヨーク・デイリー・ニューズ社の新聞記者だったポール・ギャリコは「デンプシーの左右の強打でタニーがダウン!」と長距離電話でレポート(デンプシーとのインタビューはもちろんスパーリングまでしたギャリコは「ポセイドンアドベンチャー」など映画やテレビドラマの原作となる小説をいくつも著した人気作家になります)。

伝説を通り越して神話の時代です。

レフェリーのデイブ・バリーはカウントを取ろうと右腕を振りますが、すぐ横でデンプシーが立ち上がったらすぐに襲いかかろうと鬼の形相で構えているのに気付き、ニュートラルコーナーに下がるよう指示しました。

デンプシーが世界王者になってから8年の歳月が流れ、タニーに王座を追われたのは3年のブランク明けでした。

In winning the title from Jess Willard eight years before, the rules had been vastly different.

この8年間で、ボクシングのルールは大きく様変わりしました。

「ダウンを奪った選手はニュートラルコーナーに下がって待機しなければならない」という新ルールもその一つです。

デンプシーはこのルールを知らなかったのです。

納得できない表情で、すぐ近くのコーナーに下がったデンプシーでしたがバリー主審は「そこじゃない!」とニュートラルコーナーを指さしました。

Tunney-Dempsey-II


このタイムラグで生き延びたタニーは、続く8ラウンドにダウンを奪い返して判定勝利をものにします。

デンプシーはこの試合を最後にグローブを吊るしてしまいました。

…もし、あのロングカウントがなかったら…?

デンプシーの評価は、リベンジの重要性を重んじる欧米での評価は、間違いなくもっと高いものになっていたでしょう。

ただし、このロングカウントは主審に責任はありません。バリーは自分の仕事を完璧にこなしました。

新しいルールを知らなかったデンプシーの責任が100%です。


そして、次の大事件の舞台は68年の歳月と7000㎞以上の距離を隔てた、1990年2月11日の東京で起こります。 
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