無謀にもラスベガスでその名を馳せようとトップランク傘下に入ったIBF/WBA世界バンタム級チャンピオン、井上尚弥。

今日は、彼が目指す米国ボクシングの世界を形成している〝ピラミッド〟をザックリとご紹介。

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まず、トップストーンを形成しているのは、今なおマニー・パッキャオが最大のアトラクションとなっている「PPVファイター」のグループ。

「グループ」と呼ぶにはパッキャオを例外にして、現在この座をレギュラーで獲得しているボクサーはいません。
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「二つのディケイドにまたがって世界トップに君臨する」のはタイミングもありますが、超一流の証明です。しかし、それが「四つ(1990年代、2000年代、2010年代、2020年代)」に及ぶとなると…彼をどう表現したら良いのでしょうか?

井上尚弥が見たいと切望した「パッキャオが見た風景」。井上の夢はいつか叶うのでしょうか?現時点では夢の切れ端すらも見えていません。



昨日の「タイソン・フューリーvsデオンティ・ワイルダー」は2試合連続のPPV。初戦の売上が32万5000件で再戦はさらに数字を上積みする見込みですから、準レギュラー獲得です。

「エロール・スペンスvsマイキー・ガルシア」も昨年3月に36万件を売上げ、PPVファイターの資格があることを証明しましたが、テレビ局がPPVを選ぶかどうかは対戦相手に大きく左右されそうです。

しかし、パッキャオを除くと「誰と対戦するか?」に影響されるファイターばかりです。

そして、現在のパッキャオを遥かに上回るアトラクションを持つのがカネロ・アルバレス。

これまでPPVで9試合を戦い、そのうち4試合で100万件を超える売上をマークした〝PPVモンスター〟でしたが、2018年にDAZNとスポーツ界を揺るがす超大型契約を締結、PPVの舞台から去りました。

ボクサーではゲンナディ・ゴロフキンもDAZNと大型契約を交わしましたが、DAZNにとってカネロもGGGもビジネスとしては厳しい状況が続き、このモデルは早々に頓挫する懸念が膨らんでいます。

PPVは〝日銭〟で、DAZNは〝先行投資〟。リスクを考えると前者は実に理に適ったビジネスモデルと言えます。

一方で、2015年からの5年間でPPVに乗った試合はわずか23試合しかありません。

そのうち、大きな利益をもたらした13試合の全てが、パックメイ+カネロの試合です。

残る10試合の中でゲンナディ・ゴロフキンvsデビッド・レミュー(2015年10月:15万件)、テレンス・クロフォードvsビクトル・ポストル(2016年7月:5万件)、セルゲイ・コバレフvsアンドレ・ウォード第1戦(2016年11月:16万件)、ゴロフキンvsダニエル・ジェイコブス(2017年3月:17万件)、ウォードvsコバレフ第2戦(2017年6月:13万件)、クロフォードvsアミール・カーン(2019年4月:15万件)の6試合は採算ラインの20万件に届かず、特にクロフォードの不人気ぶりは悲惨なまでに際立ちました。

残りの4試合はワイルダーとスペンスの〝合格〟試合です。

ちなみに、この直近5年では軽量級メインの試合は一つもなく、過去の歴史を遡っても19年前に行われたナジーム・ハメドvsマルコ・アントニオ・バレラ(2001年4月:31万件)のフェザー級、たった1試合だけ。

イエメン王室の寵愛を受けたハメドと、メキシコの歴史的なスーパースターであるバレラは、極めて例外的な存在です。この奇跡の2人のマッチングで、やっと軽量級のPPVが成立したのです。

井上が「最低でもフェザー」と口にしたのはこの例外を指していたのかもしれませんが、現実には「フェザーでも無理」と断言して差し支えないでしょう。

PPVファイターは1件50〜100ドルの視聴費を集めることで、テレビ局の年間総予算をも上回るような莫大な報酬を得ることができるのです。
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現状ではパッキャオしかレギュラー枠に入り込めていない極めてハードルが高いPPVファイターに続くのが「テレビファイター」です。

トップランクやゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)、プレミア・ボクシング・チャンピオンズ(PBC)といった大手プロモーション傘下に入ることで、提携先のESPNやショウタイム、 フォックスなどで試合がテレビ放映、テレビ局の番組予算がファイトマネーを支えてくれることでプロボクサーとして生活が保障されます。

かつて、米国のボクサーが憧れたのがHBOの上位プログラム「ワールド・チャンピオンシップ・ボクシング」(亀海喜寛らが出場)や、下位の「ボクシング・アフターダーク」(井上尚弥や井岡一翔が出場したThe Super Flyなど)のリングでした。

トップランクとサインした村田諒太や井上らは、このテレビファイターの地位をすでに手に入れているわけです。

しかし、彼らの場合はトップランクが「日本開催の試合」を重要な契約条項として盛り込んでおり、他のテレビファイターとはポジションが違います。

トップランクにとって他のファイターは「プロモートしてやる」存在ですが、村田と井上を傘下に迎えたのは「日本市場のおこぼれ頂戴」というのが目的です。



そして、ピラミッドの裾野を形成しているのが「クラブファイター」。

テレビ放送はせいぜい地方局、地元の会場で不定期に試合を重ねるボクサーたちです。

彼らの報酬は、地方のプロモーターが主にゲート収入を頼りに捻出。選手はボクシングだけでは生活が成り立たないパートタイムボクサーで、別に本業を持っています。 

そして、彼らはテレビとの結びつきが強い大手プロモーターとの契約を目指すのです。

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井上が目指す米国での成功がどのレベルなのかはわかりませんが、もしそれが「MGMグランドガーデンアリーナでメイン」だけでなく「FOXなど大手のPPV」だとすると「軽量級」「アジア人」という二重の足枷は絶望的に重い十字架です。

特に、PPV需要が全く存在しない「軽量級」の十字架は致命的です。

しかし、すでにテレビファイターの地位を確保している井上尚弥が目指すとしたら、やはりPPVファイターではないでしょうか?

PPVファイターとは番組予算では報酬を賄えない超弩級のスーパースター、現在ではパッキャオしかいないの極めて高いハードルです。

ゲンナディ・ゴロフキンやテレンス・クロフォードが悲惨な結果しか出せずに追い払われたPPVの壁は、尋常な高さや厚さではありません。

「PFP=メディア評価」なら1位の座に2年間も君臨したローマン・ゴンザレスに代表されるように、井上もリング誌3位にランクされるまでになりました。

PFPなら軽量級の門戸はバーゲンセール大開放されていますが、「PPV=人気」となると軽量級の実績はゼロというのが現実です。

PFPとPPV。一字違いですが、そのハードルの高さ、壁の厚さは全く異次元です。

日本の優良企業が手厚い資金を提供することで、日本から特典満載の大ツアーを募る。リングポストには「スーパードライ」か「一番絞り」のロゴ、カンバスにはNTTやトヨタの広告…マイク・タイソンを招聘した東京ドームの世界をラスベガスで再現したら、DAZNなどが先行投資ではない美味しい売上に飛びついてくるでしょう。

それならMGMグランドでバンタム級の試合がメインになることも夢ではありません。

しかし…それでは、何をやってるのか、もう訳がわかりません。

とはいえ、4月25日のマンダレイベイもビジネスとしては、もうすでにシュールな世界に突入しています。

テレビ局も客席数も、ゲート収入も視聴者数も日本でやるよりも遥かに矮小な規模になってしまうのは確実です。

現時点でラスベガスでやる意味を問われたら「だってカッコいいじゃん」というだけでしょう。そこがメジャーリーグでプレーする野球選手を全く違う点です。

かつて日本で成功したアイドルやミュージシャンがご褒美に「ロスアンゼルスでレコーディング」を楽しんでいたのと全く同じです。

悔しいのは、トップランクの狙いが軽量級では破格の利益をもたらす日本での試合でたんまりネコババしようとしていることです。

 「4月25日マンダレイベイ」を助走路にして、井上尚弥はラスベガスで「本当の意味で翔ぶ」ことが出来るのか?

井上の挑戦を〝ロスアンゼルスのご褒美レコーディング〟で終わらせないために何が必要なのかを考えていきます。