カテゴリ: 井上尚弥

このシリーズは1年も寝かせていたのですね…。

再開です。

4月25日に予定されていたIBF/WBA王者・井上尚弥とWBO王者ジョンリール・カシメロの世界バンタム級団体統一戦。

延期されていた試合の輪郭が朧げながらも見えて来ました。

2020年9月某日。会場はマンダレイベイ・イベンツセンターかMGMグランドガーデンアリーナ。

先週、無観客で再開されたトップランク& ESPN & ネバダ州アスレティックコミッションの連合チームは上々のスタートを切りました。

早ければ7月下旬に移行するフェーズ2では、会場キャパの30〜40%の観客を迎えます。順調に進めば井上のラスベガス・デビューは無観客を免れそうです。
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トップランクHPから。ボブ・アラムは忘れてるでしょうが、日本のファンはカシメロ戦の公式発表を心待ちにしています。

おあずけを喰らった、野生のQuadro Alasとの戦力比較、試合予想から、慢性的なタレント不足に悩む軽量級でモンスターに期待される〝アフター・カシメロ〟はどうなるのか、どの道を進むべきかを、いつもの如く独断と偏見で考えてゆきます。

まずは、目の前のカシメロ。

ジュニアフライ、フライ、バンタムの3階級でアルファベット団体のピースをピックアップしたフィリピン人の階級評価はリング誌で3位、ESPNで5位。

タイトルを持つ王者としては、けして高い評価を得ているわけではありません。

ただし、円熟の気配すらない31歳は「誰に負けてもおかしくないが、誰に勝ってもおかしくない」(リング誌)という〝永遠の野生〟です。

「誰に勝ってもおかしくない」。

もちろん、その中にはほぼ全てのメディアでバンタム最強の評価を得ている井上も含まれています。

どんな相手でも一撃で沈めるカードを持つ Quadro Alas は、井上にとってより評価の高いノニト・ドネアやノルディーヌ・ウバーリらよりも危険な相手です。

タイトル奪取の3試合は全て番狂わせ、フィリピンと時差のある欧米のリングだったために自国での人気は今ひとつというロード・ウォリアーの辛酸を舐めてきました。

しかし、昨年は母国の英雄マニー・パッキャオのプロモーションに迎えられ潮目が変わります。

ゾラニ・テテとの大一番は入札になり、フランク・ウォーレンに30万ドルで競り落とされてしまいますが、王者テテ75%:カシメロ25%の配分はキャリアハイの7万5000ドルの報酬をもたらしてくれました(テテの22万5000ドルもキャリアハイ)。

井上戦では10万ドル以上の報酬が確実、勝利して日本に乗り込むことになるとさらに高騰するのは間違いなく、カシメロはモチベーションを高めていましたが…。

軽量級メインの試合では、最大の収入源は入場料。

フジテレビとWOWOWが合わせて2000万円以上の放映権料を支払うと見られますが、これはトップランクが中抜きしたあと井上の報酬に回されます。

試合が行われる9月には、ソーシャルディスタンスをとって2500人の観客を入れる見込みですが、軽量級メインの席単価は格安で、@40ドル程度。

日本からの応援団なら高額チケットを売値で購入してくれるはずでしたが、一般のファンが渡米できるかどうか非常に怪しい状況です。

2500人が全員有料入場者というカジノではありえないことが起きたとしても、ゲート収入は10万ドル。井上の報酬にも足りません。

カシメロの報酬は相当低く抑えられるはずで、永遠の野生児のモチベーションはダダ下がりしてるかもしれません。
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カシメロ話です。

Ring.tv.&リング誌5月号から。 「もう6月号が届いてるのに!?」なんていう人は読み飛ばしてください。
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ジョンリール・カシメロ。

彼は貧弱な母国と欧米で無視される軽量級の悲哀を、これでもか!と味合わされながらキャリアを築いてきました。

井上尚弥が、はるかに巨大な興行となる日本ではなく、チンケなイベントにしかならないラスベガスを選択した理由が「日本でやるよりもカッコイイから」だと聞いて「そんなボクサーが世の中にいるのか?」と驚愕したカシメロ。

カネのために戦っているフィリピン人にとって、ボクシングにファッションを持ち込む日本人は理解できないでしょう。

井上とノニト・ドネアの試合を「ものすごく興味深かった。試合開始から最後まで全部観た」という31歳のフィリピン人が漏らした最初の感想は井上がキャリアで初めて見せたいくつもの綻びでも、37歳のロートルの大健闘でもありませんでした。

「こんな大きな会場をフルハウスにしてバンタム級がメインイベント?2万2000人?チケットの平均単価が80ドル?井上が俺を選んでくれたら、ここで試合ができるのか?」。

3階級制覇を成し遂げたと言え、軽量級ではその報酬は信じられないくらいの格安です。もちろん、それは日本人だけは例外です。亀田興毅や井上は平均的な軽量級世界王者の20倍以上のファイトマネーを手にします。

しかし抜群に面白い試合を見せる、つまりハラハラさせるにもかかわらずクアドロ・アラスは…平均以下の軽量級世界王者の座に甘んじてきました。

マニー・パッキャオについて驚くべきは、実はその実力ではありません。

パックマンの何が人智を超えているかといえば、それは運です。

①ミンダナオ島からマニラへ貨物船のコンテナに忍び込んで密航…しかし当時は反政府ゲリラ対策で密航は重罪、ど素人の10代の少年がどうして無事にマニラに入れたのか?

②ボクシングはメジャー競技の比国テレビ予算は当時過去最高で、4回戦でも勇気を振りまくパッキャオはたちまち人気者、すなわち高額の報酬を得ることになります。

③日本での成功を夢見ていたパッキャオは日本中のジムやジョー小泉に自分を売り込みますが、全く相手にされませんでした。そのときもし才能を見抜かれていたらアジアの奇蹟は日本で「マニー小泉」としてそれなりに強い世界王者として終わっていました。

④当時世界最高のスーパースター、オスカー・デラホーヤのメガファイト、そのセミファイナルでリーロ・レジャバの対戦相手が直前で1度ならずも2度も対戦相手がキャンセル、台湾で名護明彦らと合宿していたパッキャオに「来週土曜日にMGMグランドガーデンアリーナに来れるか?」と電報が入ります。

⑤大番狂わせを起こしたパッキャオに当時の世界2大プロモーターが契約書と現金!を持って現われます。違法のはずの二重契約を結んだにもかかわらず、アラムもデラホーヤも鬼神の活躍を見せるパッキャオを裁判によってリングから遠ざけることができず、不倶戴天のはずのTRとGBPによる共同興行で戦うというありえない待遇。

⑥将来一発殿堂入りするメキシコ時代を代表する3人が、パッキャオを噛ませ犬として待ってくれているという、注目度が低い軽量級では考えられない時代の巡り合わせ。

⑦デラホーヤの再戦要求にメイウェザーが拒否して引退、死に場所を探していたスーパースターの白羽の矢を掴み取る強運。

…神様は、パッキャオに与えたいくつもの幸運のたった一つもカシメロには恵んでくれませんでした。

それどころか、パッキャオのせいでフィリピンのボクシングファンは米国に目線を向け。国内イベントの予算は削減され、カシメロはロードウォリアー(敵地巡り)を余儀なくされます。

カシメロの世界戦はほとんどが敵地、つまり母国ではゴールデンタイムから外れた時間帯でした。

母国のアイドルから世界的なスーパースターになったパッキャオとは違い、カシメロは無名のまま出稼ぎに飛び出した流浪の狼。

Quadro Alas は「軽量級のフィリピン人」。どこで戦ってもBサイドです。劣悪な条件と報酬を飲んで戦うロードウォリアーは、たとえ相手の母国で戦っても完全絶対Aサイドの井上やカネロとは真逆の存在です。

この忌々しいパンデミックがなければ、4月27日にラスベガスで井上尚弥と3団体統一戦を賭けた激闘(そうなるとしか想像できません)のリングに上がるはずでした。

カシメロにとって米国は練習拠点も置くホームでもおかしくないはずですが、ボクシングビジネスにおいて日本の軽量級エースは絶対です。

またもやQuadro Alas はアウエーのリングに上がります。それも、何から何まで全てが日本人のために用意されたリングに。

報酬という意味では、希望した「さいたまスーパーアリーナ」よりも厳しいアウエーです。

「勝ったら埼玉で再戦したい」。ロードウォリアーらしいモチベーションです。

試合は無期限延期になったために、専門家予想は出ていません。それでも、延期直前のオッズは井上vsドネアよりも接近した1−3。

専門家予想もドネア戦よりも井上に冷たいものになるでしょう。

ドネア戦で井上はなぜかPFPだけは上がりましたが、本音の評価は間違いなく下落しています。そして、カシメロはゾラニ・テテ戦であらためてジャイアントキラーの資質を証明しました。

ただ、それらを踏まえても井上がオッズの通りに有利です。
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ジョンリール・カシメロ。

前回は「アムナット・ルエンロンとの2試合を見れば十分」と書いた31歳のフィリピン人ですが、その戦いぶりは、見れば見るほど不気味です。

井上尚弥はカシメロを「バカ」と表現しましたが、ボクシングファンでその言葉を額面通りに受け取った人は誰もいません。

現在、日本最高のボクサーが「バカ」と発したのは、最高レベルの警戒信号です。

これ以上ない簡潔で的を射た、さすがの表現です。

WBSSバンタム級トーナメントで事実上の決勝戦といわれたエマヌエル・ロドリゲスを井上は「気持ちが弱い」と見下しました。

対戦相手を卑下することがない井上にしては、珍しいというよりもあまりにも意外な言葉でした。あの謙虚な青年が対戦前に相手をここまで見下すか?とその真意を測りかねました。

多くのトップアスリートがそうであるように井上も感じたことをわかりやすい言葉にして、聞く者に伝えてくれる才能の持ち主です。そして、出来るだけ嘘はつかないようにしているのもわかります。それは、王者のプライドでもあるでしょう。

ロドリゲスとフェイスオフした感想を聞かれて「気持ちが弱い」と即答したのは、それほどまでに弱さが、疑いようもない弱さが滲み出ていたからに違いありません。

カシメロは不気味なボクサーです。

アムナット・ルエンロンとの2戦、そして直近のゾラニ・テテとの1戦。この3つがオッズで大きく不利と見られた試合でした。
John-Riel-Casimero-Amnat-Ruenroeng-Reuters-Damir-Sagolj
アムナットとは初戦から因縁があるにしても、対戦相手をあからさまに侮辱するのも反骨のフィリピン人のやり方です。

明らかなアンダードッグにもかかわらず「番狂わせの可能性も高い」という専門家予想も少なくありませんでした。

29勝20KO4敗、KO率60.61%。その小さな両拳に、軽量級としては破壊力十分のパワーを秘めているのですから「番狂わせ」の可能性があるのは当然です。

とはいえ、カシメロの試合から「一発がある」というだけで専門家が波乱の匂いを嗅ぎ取ったわけではありません。

確かにアムナット2にテテ、いずれの試合もその瞬間まで相手ペースの展開を一発で引っ繰り返しました…デオンティ・ワイルダーに代表されるワン・パンチャーの真骨頂です。

しかし、ワイルダーの逆転の一撃が意外なほど美しく理に適った軌道で真っ直ぐ放たれるテキスト・スタイルであるのに対して、カシメロのパンチがそう表現されることはありません。

フィリピンの野人が放った逆転のパンチには「awkward(見栄えが悪い)」「strange angle(見たことがない角度)」「 bizarre(奇妙な)」という、教科書に刃向かった形容詞が踊ります。 

さらには、テテ戦を実況した英国BTスポーツには「It wasn't intended.(あれは意図して撃ったパンチじゃない)」と決めつけられる始末です。

もちろん、それは英国の実況アナウンサーの間違いです。パンチャーが意図なしで放つ拳は一発もありません。無意識に放っているように見えても、全てのパンチには確かな悪意が込められているのです。

教科書に沿った教育からかけ離れたQuadro Alasのボクシング。

そして、あの傍若無人な態度が不思議なほど反感を買わないのは、そこに演技の匂いがしないからでしょう。

野獣があげる威嚇の唸り声に似ているからでしょう。あれはパフォーマンスや挑発ではなく、カシメロの素なのです。

現時点のカシメロの実績や技術は、高い評価に値しません。軽率で感情的で一貫性のない本能剥き出しのボクシング。

カシメロよりも上手くて強くて引き出しのあるボクサーはいくらでもいるでしょう。しかし、おそらく彼らのほとんどは、1人残らず見たことがない角度から放たれる奇妙なパンチに沈められるはずです。

井上が魅せた狙い澄ましたカウンターや、一瞬のタイミングを逃さないジャブクロス、教科書の最新ページで紹介されるような高等技術は、カシメロの13年間33試合のキャリアの中にはヒトカケラも見つけることができません。

ときどき目にするのは「見栄えの悪いスタイル」で、「見たことがない角度」から放たれる、「奇妙なパンチ」。

そして「なんじゃ、あのパンチは?」という変な一撃で、相手は想像をはるかに上回る甚大なダメージを負うのです。

「アムナットは打たれ弱い」「テテの顎はガラス製」。最初からわかっていたことです。変なパンチで倒されちゃっても不思議じゃない2人です。

アムナットもテテも被弾の理由を「一瞬気を緩めてしまった」と、油断にあったと後悔しました。オッズも予想も有利だったのですから、敗北の理由が自分たちの中にあるのは当然です…普通なら。

そう。普通なら。

井上の〝被害者〟たちが敗因にモンスターの技術やスピード、パワーを口にするのとは対照的です。

アムナットとテテが気を緩めてしまったのは事実でしょう。しかし、どうして素人目にもあの危険な距離で油断してしまったのでしょうか?

もしかしたら油断したのではなく、させられたのだとしたら?

もちろん、百戦錬磨の2人が隙を作るように落とし込んでいく周到な罠をカシメロが仕掛けたとは到底考えられません。

しかし、確かな事実は2人が一瞬だけ油断したこと。そして、その一瞬の刹那をカシメロが見逃さなかったということです。

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番狂わせを起こした2試合に対して、直近の敗北は2017年9月16日、3−1のオッズを引っ繰り返されたジョナス・スルタン戦でした。

完全に有利と見られていたにもかかわらず、マニラ・ブレティン紙は「カシメロは波が大きいボクサーで、その振幅は予想しやすい。母国で同じフィリピン人と戦うことは彼の波が下がる原因になりうるから、スルタンにもチャンスがある」と正確に予想していました。

試合は、スルタンが冷静にカウンターを決めて試合を進める一方で、カシメロの大きなスイングが空転。終盤の反撃も虚しく3−0で判定を落としてしまいます。

セコンドの「左からコンパクトに」という必死の指示がカシメロの鼓膜を通じると間逆に聞こえるのか、一発頼みの雑な攻撃を繰り返す姿は愚かにすら見えました。

それにしても「ホームで戦うと波が下がる」なんて、パッキャオvsラリオスを思い出してしまいました。

恐るべき、外弁慶です。

Quadro Alasの全身にもパックマンの血が流れているのでしょう。

マニラ・ブレティン紙の見立てを借りると、カシメロが井上戦でキャリア最大級の波を作ってくるのは疑いようがありません。

そして、ノニト・ドネアが健闘した原因が自分を恐れずに立ち向かってくるファイティングスピリッツだとしたら、カシメロもそのカードを明らかに持っています。

そして、何よりも、本当に恐ろしいのは説明できるヤツではありません。本当に恐ろしいヤツは教科書のどこを探しても載っていません。

Quadro Alasとは何者なのか?

一言で表現するなら…やはりこうなります。

カシメロはバカ…。
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◉Saturday 25, April 2020    

◉Mandalay Bay Resort & Casino, Las Vegas, Nevada, USA
 
◉commission=Nevada Athletic Commission
 
◉promoter=Top Rank - Bob Arum/matchmaker Brad Goodman
 
◉media=USA ESPN+ 

「井上尚弥とジョンリール・カシメロ、2人の知名度が、2011年に同じ会場で開催したノニト・ドネアとフェルナンド・モンティエル以下であることは明らか。2011年は上階席を完全封鎖したが、今回はリングサイド以外の全封鎖か?」。

日本では浮かれて報道されているものの、現地では意地悪なファンのコメントが目立つ井上のトップランクデビュー。

ボブ・アラムは昨年、井上との契約に際して「2020年は3試合、最初の2つを米国で、3つ目は日本で盛大に行う」と語りました。

米国では〝一部のマニアの中のカルトにしか知られていない〟(ESPN)井上をプロモートするリスクと、3試合目の日本開催で米国での2試合の赤字を本当に回収できるのか?ということについては「赤字になるとは考えていない、日本から2000人規模の応援団が駆けつけるからだ」と希望的観測を述べました。

現実には、新型コロナウィルスの影響がなくても日本からの2000人も観戦ツアーが詰めかけるとは考えられません。

アラムは「母国の大応援団をラスベガスやニューヨークに送り込んだリッキー・ハットンやアンソニー・ジョシュアのように」と語っていましたが、こうなると「ドネアvsモンティエルはカルバハルvsウンゴン並みの軽量級のビッグファイト」という妄想と同レベルです。

アラムの仕事は「どれだけ大きな風呂敷を広げることが出来るか?」ですから、88歳の殿堂入りプロモーターを責めるのはお門違いです。

「世界が注目する試合」「チケットの売り上げが絶好調」と嘘を並べるよりも、冷静な報道が必要でした。

「この試合は多くのシートを封鎖する興行になるだろうが、マニー・パッキャオだって米国デビューのときは誰も知らなかった。マニアに知られているだけ、今の井上の方がマシ。ここから全てが始まる」。

「チケットの価格はラスベガスの興行では最安値。WOWOWなどが必死になって観戦ツアーを募っているが、売れ行きも鈍い。ゲート収入はさいたまスーパーアリーナの5%にも届かないだろう。この試合のチケットが3年後、5年後にプレミアムが付くような活躍を井上に期待したい」。

…そんな事実をベースにした応援が出来ないんです。
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すでに何度も書いていますが、井上がやろうとしていることは常識的に考えたら絶対不可能なことなんです。

ボクシング市場が没落一方の米国でも「全く人気がないバンタム級」で、しかも「日本人」。さらに、一縷の望み、ライバルになる「メキシコの人気選手も見当たらない」。

そして、日本で試合を行うよりも経済規模は10分の1以下という、もはやビジネスとしては崩壊している「挑戦のための挑戦」。

母国の方がビッグマネーが稼げるという点で、パッキャオの米国進出ケースとは真逆。井上の米国挑戦は、非常にシュールな絵筆で描かれているのです。

当のトップランクも「米国での成功」なんてハナから考えていません。本気で「井上をパッキャオのように米国に売り込みたい」(ボブ・アラム)なら「3試合に1試合以上の割合で日本で試合を行う」なんて悠長な条件を契約に盛り込むわけがありません。

「チケット単価が1万円以上で2万人を集客した埼玉」を米国で再現出来るわけがありません。そもそも、ラスベガスはもちろん米国でも2万人を超えるキャパの箱なんて存在しません。

アラムに騙された気分ですが、こっちから喜んで騙されに行っている部分もあるから複雑です。

井上のムーンショット、成功させたいです。アラムとの契約は1年か2年でしょうから、その間に明白な成功を収めたいです。

具体的には、マジソン・スクエア・ガーデンのHuluシアターのような5000人レベルの会場をフルハウスにして日本から潤沢なスポンサー・放映権料が集まれば、100万ドルの報酬も可能です。

そうなれば、契約更新時にはゴールデンボーイ・プロモーションズもプレミア・ボクシング・チャンピオンズ も三顧の礼で井上と契約を結ぼうとするでしょう。

なにはともあれ、来月の26日(日本時間)に試合開始のゴングがなることを願うばかりです!
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あとから思えば…。

そういうことはよく、よくあります。

多くの場合は、はっきりと、そして忌々しく印されたいくつもの予兆に気づかずに、泥沼の事態に嵌まり込んでしまう、悔恨と怒りが混じり合う最悪の「あとから思えば…」です。

しかし、こんな時期にそんな馬鹿なことを言い出すわけにはいきません。


だから、明るい、素晴らしい「あとから思えば…」のお話です。

「あとから思えば…」。

2011年7月3日〜9日、ジャカルタで開催された「第21回インドネシア大統領カップ」は日本のアマチュアボクシングはもちろん、プロボクシングの現在地図から振り返っても、明るい未来へのパスポートが確かに発行された大会でした。

ロンドン2012を翌年に控えて「ここで負けたら話にならない」という国際大会です。


戦前は女子選手の充実ぶりが伝えられましたが、男子もアジア大会で連続銅メダルに輝いた須佐勝明を中心に「あとから思えば…」な豪華な名前がエントリーされました。

しかし、当時もすでに腐敗を極めていた日本ボクシング連盟の許されざる醜態は、この時点ではまだ白日のもとに晒されていません。

既得権益にしがみつく暗愚で理不尽な老人たちが仕切る腐敗連盟から派遣されたにもかかわらず、赤道直下のジャカルタに降り立ったのは、ボクシングファンが誇るにふさわしい史上最強の日の丸部隊でした。

総監督は父親同様にボクシング経験ゼロ!という山根昌守さんという、常識では絶対考えられない最悪最低の布陣。


そんな腐った組織でも、ボクシングが素晴らしいスポーツであることは揺るがしようもない永遠不滅と絶対不変の事実です。

そして、2004年のスマトラ島沖地震から中止が続いていた「大統領カップ」を復活開催にこぎつけたインドネシアに招かれたこの日本代表選手団もまた、この年に見舞われた未曾有の天災に閉塞した母国をあとにして亜熱帯のリングに上がったのです。

本当にいろんな意味で「ここで負けたら話にならない」。

そんな戦いに選手たちは躍動してくれました。
 
金メダルの期待が大きかった清水聡(ロンドン2012:バンタム級銅メダル)がまさかの初戦敗退、国際的な実績豊富な川内正嗣も準決勝で涙を飲んだ一方、須佐は52kgで優勝するなど金メダル3個、男女合わせたメダル総数は8個に上りました。

須佐の他、2つの金メダルは、なんとなんと国際大会初体験の二人によってもたらされました。

一人は49kg級の相模原青陵高校3年生。当時、まだ17歳!

準決勝の相手は、前年の全日本選手権で敗れた林田太郎を競り落とした中国の強豪ウー・ロングオ。


「不利」の予想通りにポイントでリードを許す苦しい展開でしたが、激しい打ち合いの末に逆転勝ちを収めます。

事実上の決勝戦を制した17歳は、そのままの勢いで国際大会デビューを優勝で飾りました。

帰国後すぐに行われた世界選手権代表選考試合でも、苦手なクロスレンジを徹底的に避けて林田を振り切り、雪辱。日本最強を証明して、代表切符を手にすることになるのです。



そして、もう一つの金メダルは75kg級。世界のミドル級です。

この金メダルは、全試合KO・RSC!と圧巻の内容で、やはり国際大会初体験の東洋大学職員の首にかけられたのです。

知的で温厚で優雅な現在のたたずまいからは想像も出来ませんが、当時は記者からの無神経な取材には苛立ちを隠さない態度で応じていました。

「日本人にミドル級は無理?いつまで同じことゆうとんねん」。

最高です。ずっと、そんなセリフが聞きたかったんです。
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インドネシア大統領杯。「ここで負けてちゃ話にならない」。そうです。まさにその通りでした。


そして、まさしく「あれから僕らは…」。


灼熱のジャカルタから二人の「物語」が走り出したのです。

さあ、アゼルバイジャン世界選手権!世界中の強豪が集結するバクーの決戦です!
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ボクシングマガジンとボクシングビート、二つの専門誌があるのは嬉しいことです。

毎月、どちらかを購入していますが(忘れることもあります)今月はビートを買いました。

「チャンピオンがアマチュアだった頃」という特集に惹かれたからです。

内容は「2012年6月の村田諒太と井上尚弥」というタイトルどおりで、それなりに面白かったのですが…。

その1年前、村田が初めて国際大会で優勝した2011年7月の「第21回インドネシア大統領カップ」から10月のアゼルバイジャン・バクーの世界選手権、日本ボクシング史上最も濃密な4ヶ月の物語をご紹介します。
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開幕まで140日を切りました。(画像は昨日のカウントダウンタイマーです)
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紆余曲折の末にヨルダン・アンマンで開催となった東京2020のアジア・オセアニア予選。

選手たちは現在奮闘中です。

応援している選手が敗退するニュースを読むのは悲しく厳しいですが、残っている選手は金メダル目指して頑張れ!

予想どおり、女子は大健闘、このまま大きなお土産を持って帰国して下さい。
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いよいよあと52日に迫った、井上尚弥vsジョンリール・カシメロ。

なんでラスベガスでやるのか、今もって意味がないと思いますが、それはまた別の話。

井上とカシメロ、このマッチアップは、ボクシングファンにとってあれこれ想像するだけでヨダレが出てくるようなマッチアップです。

それにしても、井上は息継ぎ無しで面白い相手を選んでくれて、感謝感激です。

あれだけ傷んだ試合の後ですから、今こそ銀行員や引越し屋さんと戯れ合っても誰も文句のないタイミングでしたが、彼は生粋のファイターです。尊敬しかないです。

さて、この団体統一戦。大方の予想では「世界評価で大きくリードする26歳のPFPファイターが5歳年上の野獣を中盤までにストップする」と見られています。

しかし、井上が一つ間違えば火の出るような大激戦になる可能性も十分に孕んでいるのは、ボクシングファンの誰もがわかっているでしょう。

現地米国での報道は腹立たしいほどまで少ないものの、オッズは出揃ってきました。
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ウィリアム・ヒルは井上を1/6(1.17倍)で支持、カシメロ勝利には7/2(4.5倍)を付けました。他のブッカーも概ね同じような掛け率が並んでいます。

ドネア戦では井上1/10(1.1倍)、ドネア11/2(6.5倍)でしたから「カシメロはドネアよりも相当に危険な相手」と見られてるわけです。

あるいは「ドネア戦で井上の評価は下がった」ということです。メディアと信者の評価は上がった一方、ブッカーの見立ては厳しくなりました。

実際には「カシメロはドネアよりも強い」「ドネア戦で井上の評価に疑問符」、その両方が掛け率に現れたのでしょう。 

ちなみにテテ戦でのカシメロは12/5(3.4倍) テテが4/11(1.36倍)でした。少なくとも、オッズの上ではカシメロにとって井上はテテよりも「遥かに強敵」とは言えません。 
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もちろん、オッズは必ずしも「実力」や「評価」を正確に反映した数字ではありません。

しかし「不規則なスピード」「何をするかわからない野生」「局面を変える一発強打」という〝番狂わせに必要な3本の導火線〟を全てコネクトした爆弾がカシメロです。

ただ、普通に考えれば、この3つの導火線は「意外性」の一言で片付けることが出来ます。

すでに井上が語っているように「近い距離では戦わない」「無理せずに少しずつ削っていく」ことで野獣の意外性を封じ込めることが出来たなら、31歳のフィリピン人は隙だらけのB級ファイターというもう一つの本性を曝け出すはずです。

では…井上にその周到で緻密な戦略を遂行する能力があるのか…?

「それだけは食わないように」と注意して臨んだドネアの左フックを早々に被弾してしまったのは、なぜなのか?

「1ラウンドがあまりにも上々のスタートだったから油断してしまった」という本人の言葉は真実なのか?あれほどまで警戒してたのに、そんなに早い段階で簡単に油断してしまったのか。

キャリアを通しても一面的な戦い方しか出来ない、つまり引き出しが極端に少ないドネアの36歳バージョンが井上戦では試合巧者に映った理由は、単なる相性の悪さだけだったのか?

そして、井上のキャリアで飛び抜けての強打者はドネアですが、カシメロはそれ以上かもしれません。

さらに井上のキャリアで、カシメロのスピードは間違いなく、ずば抜けて最速。 

リング誌などの読者投稿で「日本人は速い相手に弱い」というコメントをよく見かけますが、それは大番狂わせに沈んだ内山高志(vsジェスレル・コラレス)と山中慎介(vsルイス・ネリ)、二人の印象が強烈だからでしょう。

確かに、内山と山中はキャリア最速の相手に全く反応できずに、惨敗を喫しました。

しかし、当時の内山は36歳、山中も34歳で試合前からスピードでは明らかに劣ると見られていました(内山、山中ともに初戦の年齢)。2人ともキャリア晩年という、スピード選手を迎えるには最悪の時期でした。

一方で、井上は26歳、カシメロは31歳。さらに、種類・タイプは違うものの、スピードは五分か井上有利と見られています。 


まあ、それにしても何本も導火線を持っているカシメロ爆弾は非常に不気味です。


カシメロの後にも井上との試合を望むボクサーは後を断ちません。

「さいたまスーパーアリーナ」を見てしまった世界中の軽量級選手は、井上や井岡との対戦をあちこちでブチ上げています。

ローマン・ゴンザレスも井岡一翔を指名して「日本で」と、しっかり注文を付けています。

カシメロやロマゴンは、日本人のロマンに付き合ってラスベガスのしょぼい報酬で戦うよりも、東京や横浜、埼玉での本物の軽量級メガファイトを望んでいるのです。

「私が井上ならずっと埼玉で戦う。ラスベガスで勝ったら埼玉でリマッチしたい」(カシメロ)、「井岡と統一戦を日本で戦いたい。出来れば大阪」(ロマゴン)。

彼らの声は日本のボクシングファンの耳にどう聞こえるのでしょうか?

しつこいようですが…。

軽量級の本場はラスベガスですか?

ラスベガスでバンタム級以下の軽量級メインで大きな試合がありましたか?そんな試合を見たことありますか?

「西岡や井上のラスベガスは押し売り」と言われて、まともに反論できますか?
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有名な「靴のセールスマン」の話、とは違います。彼は靴を知らない「裸足の国」に靴の安全性やファッション性を知らしめてセールスマンとして成功したのです。

靴=バンタム級(軽量級)です。

「ラスベガスの押し売り」は、すでに「ウェルターやミドル級の高価な靴」を履いている国に「小さなバンタム級の靴」を押し売りしているのです。

彼らは靴を知らないわけじゃありません。すでに知ってるのです。しかも、自分たちにフィットしたサイズの靴を。

例えれば、米国にソフトボールを押し売りするようなものです。

もちろん、MLBが欧州でプロモーショナルツアーを展開しているような未来を開拓するビジョンがあれば話は別ですが、米国ボクシングに明るい未来があるとは考えられません。

そうですね、「押し売り」ならまだいいんです。

米国に押し売るなんて快感です、変なもん、いっぱい売り付けたいわぁ。

そうじゃなくて、この日本でもっともっとずっとずっと高く売れて、世界が羨望しているというのに…。

「とんでもない快挙」「もっと評価されるべき」「世間はなんでわかってくれない」と、米国の悪徳プロモーターとネコババ契約を結んだことを賞賛する神経が、私には理解できません。

日本の「ラスベガス志向」は「軽量級の素晴らしさを知らない米国に衝撃を与えてやる!」という高貴な心意気ではなく「軽量級の本場もラスベガス」という「トイレットペーパーは中国で生産」と同じフェイクを信じる阿呆がワッショイしてるから暗愚で醜悪なのです。

「日本のリングが大好きだ。みんなが尊敬してくれるから」。ロマゴンの言葉が全てでしょう。


酔っ払うと話が飛びまくります、そうだ、井上vsカシメロなのだ。

この試合、ドネア戦に続いて面白い試合を期待したいという希望なんて微塵もありません。

BWAAやリング誌などがドネア戦を「年間最高試合」に選出しとことを〝名誉〟と捉える向きもありますが、井上信者の方々にとってはあんな賞は〝侮辱〟と思わなきゃいけません。もう2度ともらっちゃいけません。

あれは「激闘王」賞です(八重樫東ならいいんです!いくらもらっても!実際もらってますし)。

何度ももらっていいのは年間最高選手賞(シュガー・レイ・ロビンソン賞)を筆頭に、年間最高KO賞、年間最高イベント賞(2019年は「さいたま」が惜しくも!次点=受賞はサウジアラビアのルイスJr.とジョシュアの再戦) くらいです。

今見ると、まだチケットが余ってますね。募集中のWOWOWのツアーは割高でしょうけど、なんとかうまく調整できたら、いい席でもチケット残ってるので、行きたいです。 

「ドネアvsモンティエル」 も同じような感じで行こうと思い立ちましたが、いろんな事情で行けませんでした。今回は!
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さとうれいこ 2020年02月27日 15:45
 
PPVは逆立ちしてもムリです
 
せめて試合の告知ポスターで井上が脇役になるような対戦相手がいたら盛り上がるんでしょうけど

ラスベガスでバンタム級という無理ゲーに挑戦する井上には拍手です!


「ラスベガス(のメガファイトのメイン)でバンタム級」。確かに無理ゲー、ミッション・インポシブルです。

スーパーミドル、ライトヘビー、クルーザーといういわゆる「重量級三役」が日本で全く人気がないように、欧米ではライト級以下の軽量級への関心が低いのが現状です。

軽量級の中でもバンタム以下は「sub-bantam weights are generally ignored by American boxing writers (一般的に米国の記者はバンタム級以下のボクサーを無視している) 」(リング誌4月号)と言われるほどです。

また、ラスベガスやニューヨークの大会場でメインを張ることも異例で、ノニト・ドネアvsフェルナンド・モンティエル (2011年2月)がマンダレイベイで開催されるなど希少な例はあるものの、チケットはリングサイドでも数万円レベル、上階席も完全封鎖した寂しい風景になってしまいました。

このレベルのイベントはビッグファイトに数えません。

それでも、カネロ・アルバレスやフロイド・メイウェザー、マニー・パッキャオの次元は不可能としても、バンタム以下でも「ビッグファイト」の活路はあります。
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バンタム級以下でビッグファイト。そのほとんどは、日本を舞台に行われてきました。

この四半世紀で、軽量級パラダイス・日本も含めて世界で繰り広げられた小さな巨人たちが最も輝いた決戦をランキング形式で振り返っていきます。
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2010年4月30日、日本武道館。

WBCの長谷川穂積と、WBOのフェルナンド・モンティエル。バンタム級のアルファベット王者2人が激突する一戦。
この試合は「21世紀になってからボクシングファンが最も襟を正して観た試合」でした。 

当時の長谷川は10連続防衛を重ね、boxing scene.com など一部の米国メディアではPFP10傑せに数えられるなど世界的にもバンタム最強と目されていました。

日本でも多くのメディアが「長谷川は世界的に注目されており、日本ではもっと評価されるべき」というどこかで聞いたふうな記事を垂れ流し、ボクシングマガジンはモンティエルとの試合を「日本ボクシング史上最高のマッチメイク」「バンタム級頂上決戦」と銘打ちました。

長谷川は、現在の井上尚弥の先駆けでした。

モンティエルはメキシカンでしたが、その人気と評価は決して高くなくファイトマネーも日本円で200万円前後が相場。リング誌のバンタム級ランキングでは、3階級制覇王者にもかかわらず長谷川戦が決まって9位に。それまではランク外でした、王者にもかかわらず、です。

長谷川との試合についても「長谷川の実力は未知数だが、モンティエルではテストにならない」(リング誌)と見られていました。

つまりは、誰もが認める階級最弱王者、穴王者だったのです。

実際、長谷川の前に2ラウンドで散ったB級ファイター、アレハンドロ・バルデス相手に実質敗北の内容で負傷判定ドロー、長谷川に勝った後のノニト・ドネア戦では2ラウンドの予告KOを宣言される舐められっぷり(その通りにKO負け)。

そんなダメダメなモンティエルでしたが「予告通りにKO負け」も含めて、日本では都合の悪い事実は隠され続けました。

それでも、リングサイドの亀田興毅までが「こんな緊張感のある試合は初めて」というほどに会場の空気が張り詰めていたのは「リングの上では何が起きても不思議ではない」という戰慄ではなく「長谷川は本当に強いのか?」という不安がそうさせていたのでしょう。

1年後にドネアがやってのけたように穴王者モンティエルを飲み込むーーそんな期待は試合開始前から裏切られていました。もちろん、ファンはそんなことを知る由もありませんでしたが。

リングに上がったモンティエルの雰囲気に、長谷川陣営は「オーラがすごい。こいつは間違いなく強い」(福田トレーナー)と怖気づいてしまいます。 

長谷川は懸命に戦うものの、ラウンド間のインタバルでマイクに拾われるのは「絶対王者」(ボクシングマガジンまど日本のメディア)の言葉ではありませんでした。

「速い」。「強い」。「過去最強や」。

ドネアはロベルト・ガルシアの「チャンスがあれば(2ラウンドKO予告を気にせずに)1ラウンドから行くべき」というアドバイスに「それが難しいかも。1ラウンドKO予告にすれば良かったか?1ラウンドを乗り切れば2ラウンドで倒すのは簡単なんだけど」と余裕で答えました。

ドネアが飲み込んだモンティエルに、長谷川はコーナーごと飲み込まれたのです。

「モンティエルは左のパンチは強いけど、とにかく遅いからいつでも倒せる」というガルシアの見立てが、長谷川にとっては「過去最高に速かった」のです。

モンティエルは1年前にも長谷川の防衛戦に当てがわれる予定の、いつもの雑魚挑戦者の一人でした。

内定していたエリック・モレルが前科の問題で入国できず、モンティエルとの交渉が大筋合意していたのです。

交渉を進めていた帝拳の本田明彦は「時間的な問題からモンティエル戦は一旦流れたが、1年越しの仕切り直しで交渉はやりやすかった」という一方で、その後にタイトルを獲得したモンティエル陣営は報酬の引き上げを何度も求めて「こっちの報酬はゼロでいい」(長谷川)というほど要求をエスカレートさせました。

どうしてモンティエルごときに…。

ボクシングファンの胸の中には、そんな忸怩たる思いと裏腹に、モンティエルごときよりも弱かったら…という不安もむくむくと湧き上がってくるのでした。

「あの瞬間まで主導権を握っていた」「一瞬の気の緩みが命取りになった」「腕がロープに絡まる不運がなければ4ラウンドは切り抜けられた」…いくつもの言い訳が並べられましたが、長谷川陣営はもちろん、ファンからもリベンジの声は上がりませんでした。

2016年まで現役を続けたモンティエルはことあるごとに長谷川との再戦に意欲を見せていました。「長谷川の言いなりの体重でいい。日本で再戦したい」。

しかし、その願いはとうとう叶いませんでした。 

もし、ジュニアフェザーやフェザーでリベンジを果たしていれば、長谷川穂積というボクサーに対する思いは変わっていたかもしれません。

負けっぱなしで終わらない。リベンジする。ましてや相手が勝ち逃げしてないのなら。これはボクシングの絶対哲学です。 

あの試合がモンティエルの勝ち逃げなんかじゃなかったことは、長谷川自身が身を持って証明してしまったのです。

三者とも長谷川リードと採点した3ラウンドまでのスコアカードを知ったモンティエルは「判定では絶対勝てなかった」と絶句しました。

日本で戦うことを目標にしていたモンティエルは「見たこともない報酬が約束されて人生最高のモチベーションだった」 という言葉通り、キャリア最高のパフォーマンスを見せました。

あのとき、モンティエルを選ばず、山下会長がカメラの前で公言した「恩義のある」WBCが派遣する雑魚挑戦者を黙々と倒していれば…防衛記録はもっと伸びていたでしょう。

しかし、10年前のあの日、長谷川は自分が探したリアルと確かに激突したのでした。

絶対的有利と見られたモンティエル戦で惨敗したことで、長谷川の評価も急落します。

それでも、長谷川はフェザー級の防衛戦(ジョニー・ゴンザレス戦)まで圧倒的有利の予想・オッズが建立てられました。

実際に、全盛期の長谷川を撃ち落としたモンティエルは階級10位に滑り込むのもやっとだったにもかかわらず、PFP10傑に数えられました。

過大評価の誹りを受けたものの、長谷川が世界的に評価が高かった事実は揺らぎません。

そして、その評価に甘んじることなく、リアルを目指したことも。 

「ラスベガスで一攫千金」 を夢見ながらも、海外から届くオファーは「桁が違う(少なすぎる)」と絶望し、モンティエルを高額報酬で日本に呼ぶ形でリアルを実現しようとした長谷川は、そのキャリアで一度も海外に出ることはありませんでした。

その意味では、良い意味でリアリストでした。 
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2019年の年間表彰式で京口紘人は、米国進出を果たす井上尚弥について「ぼくも続きたい。軽量級の選手がラスベガスでメインを張るなんて今までなかったことだから」と発言しました。

実際には西岡利晃が2011年に、WBCジュニアフェザー級王者としてMGMグランドガーデンのマーキー・ボールルームにラファエル・マルケスを迎えて防衛戦を行っています。

さらに、世界戦ではありませんが辰吉丈一郎もミラージュやザ・アラジンなどラスベガスのリングでメインを張っています。

辰吉人気は凄まじく、リングサイドには大応援団が詰めかけ、リングアナウンサーはジミー・レノンJr.、レフェリーはリチャード・スティール、リングサイドにはフリオ・セサール・チャベスやジェームス・トニーらビッグネームも呼ぶなど、下手な世界戦よりも派手にデコレーションされました。

4月25日のマンダレイベイもジャパンマネーをばら撒いて、とにかく豪華に取り繕うでしょう。

ただ…「辰吉のケース」は井上とは少しニュアンスが違いました。網膜剥離の診断が下された辰吉はJBC統括の試合には出場できなかったからです。

一方で、長谷川穂積や西岡、井上尚弥が目指した「ラスベガス」は、ボクシングの〝メジャー〟でした。

ラスベガスでメジャーなのはウェルター級やミドル級、ヘビー級の欧米での人気階級に限定されるというのに彼らはなぜかそこには軽量級の需要もあると勘違いしてしまうのです。

「ありもしない世界を妄想する」。

それは、かつての魔裟斗や那須川天心らキックボクサーが〝世界〟を目指したのと同じ思考回路です。

特にこの20年あまりで、ボクシングやキックのトップ選手が「ラスベガス妄想」に囚われるようになったことは、野球のメジャーリーグや欧州サッカーのトップリーグに日本人選手が挑戦し大きな成果を持ち帰るようになったことと無縁ではありません。

ボクシングの軽量級やキックにとっても、〝メジャー〟や〝トップ〟の舞台がラスベガスにあって欲しいという切実な思いが幻覚を呼び起こしてしまうのでしょう。

その強烈な思いが、ありもしない妄想や幻覚、蜃気楼を見てしまうことになりました。

そして「PFPファイターの上位=ラスベガスでPPV・20億円」などというデタラメな方程式が存在するかのようなフェイクの報道を垂れ流す日本のメディアが、思考能力の欠落した長谷川信者や西岡信者、井上信者を蔓延させてきたのです。

長谷川や西岡は「ファイティング原田を超えた」とも言われました。しかし「あれから」10年経って、二人の評価はどうなったでしょうか?

そして、あれだけ騒いでいた信者の方々はどこに消えてしまったのでしょうか?

WOWOWはどうして京口の発言に「西岡選手がいますよ!」と訂正しないのでしょうか?

当時「日本ボクシング史上最大の戦い」とまで報道された西岡のMGMメインはどうして無かったことにされたのでしょうか?

まともなスポーツなら世界王者として勝ち続けていれば「世界最強」と認められます。「弱い相手にしか勝っていない」なんて難癖をつけられる訳がありません。

しかし、ボクシングではオマール・ナルバエスのように無敗のまま2階級に渡って二桁防衛をマークしても、PFP10傑にも数えられない摩訶不思議な「伝説の名王者」(フジテレビ)が存在します。

4つのアルファベット団体が我田引水的に王者とランキングを量産、日本人世界王者も多いときは10人を超えて存在。

他のスポーツで例えると、メジャーリーグで毎年日本人の本塁打王や最多勝利投手が輩出され、サッカーで毎年バロンドールの候補に日本人がノミネートされるような状況です。

ボクシングの世界では Undisputed Champion(議論する余地のない王者)やLineal Champion(正統な王者)という他のスポーツではありえない不思議な称号もあります。

「議論する余地のない本塁打王」「正統なW杯得点王」…そんなの聞いたこともありません。
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プロボクシングの世界で「頂点」とは何なのでしょうか?

対戦相手に手枷・足枷を嵌めさせて勝ち続けるカネロは、卑怯者ではなく頂点ですか?誰も世界最高と評価しない41歳のパッキャオは、ただの人気者ではなく頂点ですか?

それとも、卑怯者や人気者だけが優遇されるボクシングに、そもそも頂点など存在しないのでしょうか?

ムーンショットには月面着陸という具体的な着地点がありました。井上が二つの拳で解こうとしているのはムーンショットよりも難問かもしれません。


そして、ボクシングでは本来なら最も評価されるべき Undisputed Champion の座に一度も就いたことのないフロイド・メイウェザーやマニー・パッキャオ、カネロ・アルバレスに飛び抜けて高い報酬と人気が集中する、スポーツと呼ぶにはあまりにも理不尽な状況が当たり前になっています。

世界的な統括団体が存在せず、腐敗し切った承認団体が跋扈するプロボクシングという迷宮では、戦士たちは自分で最強を証明するしかないという不条理なゲームが繰り広げられているのです。

目の前の試合に勝ち続けていれば、栄光も評価も自ずと手に入るのがスポーツ…だとしたら…プロボクシングはスポーツではありません。

今なおパッキャオが最高のPPVファイターである現実は、松坂大輔がNPBで最高年俸を得るようなものです。


腐臭漂う摩訶不思議な魔宮の中で、 倒錯した理不尽と不条理の悪霊を切り裂くべく、拳を挙げた戦士3人の3つの物語です。

最初は「2010年4月30日:日本武道館の長谷川穂積」。そして「2011年10月1日:MGMグランドの西岡利晃」。

そして、それから。。。「2020年4月25日:マンダレイベイの井上尚弥」。  
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