井上尚弥が照準を定めるフェザー級。

そこは、攻略と挑戦の難易度が一つ上のジュニアライト級よりも高い階級です。

「軽量級では層が厚く、欧米の選手も少なくないから交渉が難しくなる。そしてもちろん、王者も強くなる」(村田諒太)。

このフェザー級を睨みつけていた2人の男が、ちょうど30年前の11月4日と5日にリングに上がりました。

Weight-Classes_87_boxのコピー

まずは、11月4日の和歌山県白浜会館。

現在、大橋ジムでチーフトレーナーをつとめる松本好二が返上した日本フェザー級タイトルを、1位の玉置厚司と2位の越本隆志が争いました。

福岡の福間スポーツジムから敵地に乗り込んだ25歳の越本は「KOしないと勝てない」と、開始ゴングから攻勢を仕掛け、フラッシュダウンを奪います。

第2ラウンドに越本、第4ラウンドに玉木が右眉を大きくカット。前半で激しい流血戦に。越本が優勢に試合を進めた第8ラウンド。両者の出血まますますひどくなり、玉置が続行不可能と判断されて越本のTKO勝ちに。

16戦15勝8KO1分と無敗のレコードを伸ばした越本は、世界戦を希求しながら日本王座を6度防衛。階級レベルも交渉のコネクションも王者へ支払うファイトマネーもジュニアフェザー級以下とは景色が変わってしまうフェザー級で、地方の弱小ジムが世界戦をセットするのは不可能と思われましたが…。

2000年1月30日に、WBA王者フレディ・ノーウッドに挑戦するも9ラウンドKO負け。パワー、スピード、テクニック、全ての要素で圧倒されてしまいました。

越本戦の前にノーウッドは体重超過で王座剥奪されながら、1998年に松本の挑戦を撃退。日本人が最も苦手とする身体能力の高い黒人ファイターでしたが、ボクシングを諦めてもおかしくない、救いようのない惨敗でした。

それでも、再挑戦の機会を窺ってOPBFタイトルを獲り7度防衛。2006年1月29日、池仁珍の腰に移動していたWBAフェザー級ベルトを見事に奪い取ります。

あのエリック・モラレスをして「最もタフな試合だった」と言わしめた池仁珍と激しい打撃戦を展開、勝利をもぎ獲ったのです。

再挑戦まで6年という時間は、タイトル挑戦が安易になった今では考えられません。さらに、フェザー級と地方ジムという十字架まで跳ね返したのです。

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そして、松本好二。

1992年に敵地韓国でWBAフェザー級王者・朴永均に挑むも11ラウンドKO負け。日本タイトルを守りながら、1996年11月5日に後楽園ホールで、世界ランク入りを狙ってOPBF王者サムエル・デュランに挑戦。

6年前に辰吉丈一郎に7ラウンドKOに攻め落とされたデュランはまだ28歳でしたが、この時点でも69戦(53勝14敗2分)をこなした古豪です。

第6ラウンドにデュランの右フックを浴びて松本がダウン。劣勢の松本はしぶとくボディを攻め、第8ラウンドに左ボディでダウンを奪い返しました。2度目のダウンを奪うと、一気のラッシュ。ここで主審が試合を止めました。

そして1997年5月24日、WBAジュニアライト級王者の崔龍洙に敵地で挑戦するも善戦虚しく判定負け。なんとか日本での挑戦を模索、1998年9月22日、代々木第二体育館で挑戦したのが、のちに越本を破壊するノーウッド。

悲願の大勝負になるはずが、前日計量でノーウッドが800gのウエイトオーバー。〝リトル・ハグラー〟の異名とは程遠い規律の無さです。2時間の猶予が与えられる再計量にも応じない、ハグラーとは似ても似つかぬ不誠実さ。

ノーウッドのトレーナー、ケニー・アダムスの「手や足を切り落とす以外のあらゆる努力をした」という言い訳も、虚しく聞こえるだけ。

世界戦での計量失敗は歴史上、これが2度目(1974年10月のWBAフライ級戦:チャチャイ・チオノイvs花形進)というのも、今や隔世の感があります。

テレビ解説席の大橋秀行は、減量で消耗しきっているように見えない肉体のノーウッドに「絶対におかしい。減量も嫌、負けたくもないからだ」。

それでも、キャリア初のサウスポー対決となるノーウッドなら突け入る隙があるという期待はものの見事に裏切られてしまいました。

初回からノーウッドが一方的に支配、第10ラウンドでストップされてしまいます。




フェザー級。

越本と松本が何度挑んでもKOされてしまう、そう確信するほど強かったノーウッドでも一流王者とは言えないクラスがフェザー級です。

フェザー級の歴代最強候補にもあがるビセンテ・サルディバルに敵地で勝った柴田国明は例外中の例外として、文句無しの一流王者に勝ってタイトルを獲ったファイターはいません。

現在のフェザー級のレベルは決して高くはありませんが、ラファエル・エスピノサは一流王者になるかもしれません(ロベイシ・ラミレスとの初戦は薄氷の勝利でしたが)。

井上尚弥が122ポンドにどんな形で斬り込むのか。

そして、亀田和毅の仕切り直しの舞台は用意されるのか?

「フェザー級になると風景が少し変わる」(村田諒太)。東南アジアや中南米、アフリカなど途上国だけでなく、欧米の先進国の選手が当たり前に存在するクラス。

専業ボクサーの割合も、ファイトマネーも増え、体格だけでなく、いろんな意味でやりにくい相手が多くなります。

フェザー級で風景が変わるなら、ライト級ならどうなるんだ?ウェルター級なら?…なんて言われそうです。

もちろん、サルディバルやサルバドル・サンチェス、ファン・マヌエル・マルケス、エリック・モラレスら超一流王者が君臨していなければ、フェザー級を難関クラスなんて言ってたら笑われます。

ただ、井上尚弥のジュニアフェザー級が最重量の日本にとって、フェザー級は成層圏の外のクラスなのです。