カテゴリ: 壁を越える人々

初めて阪神タイガースの試合を見に、蔦のからまる甲子園球場に行ったのは小学生の頃でした。

松井秀喜も「とにかくカッコ良かった」というスターは、特にサードの守備に華がありました。

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「華がある」。

ものすごく不思議な言葉です。



上手い、巧い、というのとは違います。もちろん、下手とか拙いわけではありません。

ボクシングでいうと、モハメド・アリやシュガー・レイ・レナードには誰が見ても「華」があります。彼らと比べてしまうと、同じように派手な振る舞いをするタイソン・フューリーやフロイド・メイウェザーには「華」は、可哀想ですが、全くありません。



「華がある」。

ものすごく不思議な言葉です。



大昔、なんば花月の幕間で、島田紳助と明石家さんまの短いアドリブ漫才を見る幸運に恵まれました。

紳助の計算し尽くされた話術に会場は大爆笑。しかし、クライマックスはさんまのダジャレでした。

さんまに向かって紳助は「真面目な話してもええか?俺はファインプレーいっぱい重ねて小さい笑いを積み重ねた。お前のダジャレって、ボテボテのイージーゴロを大袈裟に捌いただけやないか?お客さんも、おかしいやろ!?俺が同じダジャレゆうたらこんな笑わんやろ!」。

間髪入れずに、会場の中年女性が「さんまちゃんには華があんねや!」と冗談っぽく叫びました。

紳助は「俺には華ないんけ!オバハン!教えてくれ!華ってなんやねん!?」。



「華がある」。

ものすごく不思議な言葉です。

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阪神タイガースが2リーグ分裂後に初優勝したのは1962年。

さぞかし大騒ぎだったと想像されるかもしれませんが、中高生の頃にテレビで見た当時の写真や動画を見てもスタンドは5割も入っていない、そんな様子でした。

私が見た写真や動画がたまたまガラガラのところだったのでしょうか?そんなことがあるでしょうか?


大学で、当時を知る大先輩の方々のお話をあちこちで聞く中で「プロ野球で大観衆が集まるのは読売だけ」「阪神タイガースの人気は1985年が最高潮だった」ということに思い至りました。

老若男女がスタンドに駆けつけ、その瞬間の歓喜を戎橋に集まった〝気狂いピエロ〟たちが爆発させる。

ある意味で、今年のA .R .Eも、あのときからの延長上なのです。

先日の読売新聞朝刊、編集手帳でも「1962年、本拠地の甲子園で広島を破っての優勝のとき、客席はガラガラだった」「阪神の人気が本格的に高まり出したのは1980年代になってから」と書かれています。

もちろん、この〝本格的〟というのは、オッサン中心のヤジではなく、今につながる女性や子供の歓声も甲子園に大きくこだまするようになったということです。

タイガース人気の本質を突き詰めると、中央(東京)への対抗心に他なりません。


西鉄ライオンズや南海ホークス、阪急ブレーブスはどんなに強くても日本シリーズでなければ読売を叩くことは出来ません。

それが日常的に可能な球団、そして中央への敵愾心をあからさまに燃やす大阪(本当は兵庫県ですが)をフランチャイズとする阪神タイガースは、読売を切り裂く唯一の牙だったのです。

では、なぜ中日ドラゴンズは〝阪神タイガース〟になれなかったのか?

大阪圏と名古屋圏の人口の違い…ではありません。「中央への敵愾心をあからさまに燃やす」という一点において、名古屋圏はあまりにも自虐的で遠慮しすぎな性格だからです。

この感情を「関ヶ原の戦い」まで遡るのが正しいのかどうかは別にして、名古屋は大阪以上に特殊なエリアです。


大阪圏と名古屋圏の大きな違いは、他地域への伝播力にもはっきりと見て取れます。

上京した地方出身者のほとんどは方言を話さず、東京言葉(標準語ではない)に馴染もうとしますが、関西出身、特に大阪から出てきたら輩は多くの場合で大阪弁を隠そうとはしません。

私の個人的な感覚でも、高校時代に東京言葉を聞くと神経が逆撫でされたのを思い出します。そいつがGY野球帽でもかぶっていようもんなら、殺意すら覚えかねませんでした。

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ところが、大阪人というのは東京ディズニーランドは大好きなのです。

「なんでユニバーサル・ジャパンなんじゃ!ユニバーサル・オーサカやろが!」と怒りつつも、「東京ディズニーランドもホンマは千葉ディズニーランドやし、いろいろウソつかなあかん大人の事情があんねんな」。

そして、野球少年たちはたとえ阪神ファンであっても、心の中では「ジャイアンツでプレーするのも悪くない」と思っているのでした。

さて、「阪神の人気が本格的に高まり出したのは1980年代になってから」「オッサン中心のヤジではなく、今につながる女性や子供の歓声も甲子園に大きくこだまするようになった」要因はどこにあるのでしょうか?

一つは、生活水準が上がって、女性や子供も野球観戦を楽しむようになったということ。その一方で大阪の民度は下げ止まり…。阪急ファンが増えていたら、民度は上がっていたのでしょうが。



ーーーここまでは、巷間すでに言い尽くされていることです。

「阪神の人気が本格的に高まり出したのは1980年代になってから」「オッサン中心のヤジではなく、今につながる女性や子供の歓声も甲子園に大きくこだまするようになった」要因が、社会構造の変化などにあるわけない、でしょう。

「プロ野球の人気が沸騰して国民的娯楽になったのは、日本が高度成長期を迎えたから」というのと、同じバカ論理です。

「プロ野球の人気が沸騰して国民的娯楽になった」最大の要因は、長嶋茂雄が登場したからです。

それまでの野球人気が「六大学>>プロ」だった事実、長嶋のプロ入りを契機に「プロ>>>>>>六大学」と逆転したことからも明らかです。



そして、阪神タイガースの人気も、一人のスター選手の登場で一変します。スタンドからダミ声のヤジだけではなく、若い女性の嬌声が聞こえるようになったのです。
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ニューヨークで活動する、この25歳のミドル級ボクサーのことを知っている人は数少ないだろう。

昨年プロデビューして、今週末(10月10日)にキャリア3試合目のリングに上がる4回戦ボクサーを知っている方がおかしな話だ。

ところが、彼は〝有名〟なのである。

彼の名前はFamous Willson。あだ名でもなんでもなく、Famousは父親が付けた彼のれっきとした戸籍上のファーストネーム。

「小さい頃はよくからかわれたから、この名前が嫌だった。でも、中学生になったらお気に入りになった。名前のように有名になってやると思えるようになたんだ」。

週末の試合はニューヨークのソニーホールで行われる。

なかなか試合が組めずにいたウィルソンにとって1年ぶりのリング。

「このままずっと試合ができないんじゃないか、そう思うこともあったけど、どんな時でも強くなければならない。逆境に立ち向かうのがスポーツだ」。


2019年ニューヨーク・ゴールデングローブ賞チャンピオンになったウィルソンは、アマチュアで約55試合を戦った後、パンデミックの最中にプロ転向を決断した。

12 歳でボクシングを始めた彼は、バスケットボールやフットボールなどの他のスポーツを優先して、最初の最初の公式戦は16 歳になったとき。 

ニューヨーク州バビロンにあるバビロン・ボクシングのケニヤッタ・ハリスの指導を受けているウィルソンは、ジム仲間のホープ、ドンテ・レインとはバチバチのスパーリングを繰り広げている。

レインの他にも有望な若手がジムには溢れている。ニューヨークでは、ミドル級の練習相手に困ることはない。

しかし、ウィルソンには絶対に忘れられない練習相手が1人いる。正確には「いる」ではなく「いた」だ。


2019年にリング禍で亡くなったジュニアミドル級のパトリック・デイだ。

2人は白熱したスパーリングを繰り返し、技術を磨いてきた。ウィルソンにとって、デイは練習相手というだけでなくリングの中でも外でも頼りになる相談相手だった。

「激しいスパーリングで友情が揺らぎそうになることもあったけど(笑い)、彼は本当にいい男で、だから私はパトリック・デイを心から愛しているんだ」。

〝有名な〟ウィルソンはニューヨークのボクシング界で名声を少しずつ積み上げるはずだ。

「世界チャンピオンになって大金を稼ぎたい。私の実力を疑っている人全員に私がここにいるぞと、見せたいんだ」とウィルソンは将来の夢を語っています。



村田諒太のスパーリングパートナーでもあったデイ。村田も「ナイスガイ」と何度も語っていましたが、きっと誰からも愛されていたのでしょう…いや、過去形で語るのは間違っていますね。
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銀座の時計塔はいつ覆面を外すのか?

ティギスト・アセファがベルリン・マラソンを連覇。優勝記録は2時間11分53秒、従来の世界記録(2時間14分4秒)を2分11秒も更新する驚異的なタイムでゴールしました。

2003年にポーラ・ラドクリフが2時間15分25秒を叩き出したときも度肝を抜かれましたが、あれから20年。

20年で3分32秒更新、です。

そう考えると、少しは衝撃度がやわらぐ気もしますが…んなわけないか。やっぱり衝撃的です。

日本のマラソン黄金期、瀬古利彦や宗兄弟、中山竹通らが躍動した1980年代、世界屈指のエリート男子が出すタイムが2時間10分台、2時間10分斬りでしたが、今や女子がそこをロック・オンしているのですから、あまりにも感慨深いです。

日本では高橋尚子の2時間20分斬りから、まともな一歩を踏み出せないまま20年間、世界との差は広がる一方です。

それにしても、女子が2時間11分で走る時代が到来してしまいました。

彼らがブレードを仕込んだ厚底シューズを脱いだら、タイムがどこまで落ちるのかも、少し興味をそそられますが…。


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清原和博、中田翔、ファン・グスマン、ポール・スパダフォーダ。

彼らが〝一つ間違えば〟、王貞治や大谷翔平、マニー・パッキャオ、フロイド・メイウェザーになれたのか?

それは誰にもわからない。

ただ、彼らの才能は「そうかもしれない」という仮説を呼び込むのには充分だったが、「絶対にそうだ」と確信するにはあまりにも朧げなものだった。

そもそも、彼らほどの才能に巡り合えるだけでも途轍もない幸運なのに、「絶対にそうだ」なんて才能など滅多やたらに転がっているもんじゃない。

彼らは過剰な仮説を裏切っただけなのです。

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https://fushiananome.superknova.org/archives/4855401.html

https://fushiananome.superknova.org/archives/29040561.html

2016年11月13日に行われたWBC強化試合で、その青年が打ち上げた急角度の弾丸ライナーが東京ドームの屋根を破壊したとき、複数の関係者がその直下に大慌てで駆けつけたのは、天井の破片など危険物が落ちてこないか、安全確認するためではありませんでした。

このとき使われていたのは大きく飛びにくい国際球。ドームの天井を破壊し、屋根がなければ推定飛距離160mの打球などあり得ないからでした。

NPBの飛ぶボールが混ざっていたと確信した彼らは、グラウンドに転がるそのボールを見て愕然とします。

なんと、ボールに刻印されていたのは国際球のマークだったのです。

「いったい、どうなってるんだ。NPBのボールに国際球のマークが入ってるぞ!杜撰にも程がある」。

本当に度肝を抜かれるのは、そのあとのことでした。

彼らの1人がボールを手に取ったときの衝撃は想像を絶するものだったでしょう。

目を閉じて握ってもわかります。それは大きくて、ツルツルしてて、重くて…NPBボールではあり得ませんでした。

あらためて破壊された天井を見上げた彼らの戦慄は、どれほどの大きさだったでしょうか。

そして、おそらく世界中で一番最初に大谷翔平のMLBでの大活躍を確信したのは彼らでした。

これから、あり得ないことがアメリカで始まる、と。

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甲子園の優勝投手が、高卒1年目で二桁勝利。彼が日本を代表する投手になって、将来はアメリカに行くと多くの人が考えていました。

しかし、多くの人にとってそれは仮説の域を出ませんでした。

その仮説が裏切られたとき、外野の人々は好きなことを言いました。「技術的にも精神的にも大きな欠陥がある」「あんな制球難の投手は草野球でも使えない」。

しかし、彼のビデオを繰り返し見たオークランド・アスレチックスのスカウト陣は、そのボールを「絶対にそうだ」と確信します。

100マイルを投げる投手はマイナーにもゴロゴロ転がっているが、空振りを取れる、強打者を押し込めるボールを投げる投手はメジャーにもほとんどいない…。

「ラスベガス移転を控えたアスレチックスは今シーズンは捨てている。だから使ってもらえてるだけ。シーズンが終わればお払い箱」「MLBではどんな弱小球団でもあんな不安定な投手に手を出すことはない」。

ところが…。制球難の長身投手をアスレチックスから引き抜いたのは、弱小どころか首位争いを繰り広げるボルチモア・オリオールズ。「優勝するために必要なピース」として迎えられたのです。

日本でも彼のボールが速さや回転数、回転軸だけでは語れない特別なものであることは知られていましたが、それが世界でも1、2を争う、いや、おそらく世界〝1〟の剛球であることは誰も見抜けませんでした。

「絶対に無理」と決めつけられた大谷翔平と、「もう終わった」と見放された藤浪晋太郎。彼らもまた、別の意味で 仮説を裏切ったのです。
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イチローも佐々木も松井秀喜も、NPBで見せた鬼神の活躍はMLBでは出来ませんでした。

彼らは、それほど日本で完成されていたとも言えます。

もちろん、日本で完成されていた全盛期のタイトルホルダーが全く通用しないことも当たり前に起きています。

日本で未完成だったバケモノ、唯一の例外が大谷翔平です。

そして、どうやら2人目が誕生しそうです。


彼は、けしてスタミナがないタイプじゃありません。来季以降でスターター復帰もあり得るでしょう。

2人でサイ・ヤングを争う。

史上最強の剛球投手が少し寄り道して解消されていたライバル関係が、太平洋を超えて再び燃え上がりそうです。

来年の今頃…。

「今日の試合は、結果的に大谷が勝ち投手。しかし、負けた藤浪が打たれたのは大谷の本塁打だけですからね。まだ、今シーズンの勝ち星、防御率は藤浪が両リーグ合わせてトップ、大谷が追う展開に変わりはありません」。
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世界ランク1位でブダペストに乗り込んだのですから、実力通りの結果です。

ただ、世界1位のプレッシャーはのしかかっていたでしょうし、最終投擲までメダル圏外の4位という〝遅れ〟には焦りもあったでしょう。

どこでビッグスローが飛び出すかで、心理的にも乱高下するフィールド競技の醍醐味がフルパッケージされた試合でした。

それにしても、勝負強い。

これまで、日本女子が世界大会で獲った金メダルは、トラック&フィールドを飛び出したマラソンだけでしたが、北口が競技場のど真ん中に金色のヤリを突き刺しました。

コーチのデイビッド・シェケラックの最後の瞬間まで落ち着き払った佇まい、北口との間ににじみ出る信頼関係も、いい感じです。


余談ですが、名前に付けられた「榛(はしばみ)」は、パティシエの父親がお気に入りの素材、ヘーゼルナッツのこと。

ヘーゼルナッツは氷河期も乗り越えて生き残った逆境に強い品種で、三大ナッツの残る二つアーモンドとカシューナッツとは一線を画して全世界で栽培され、広まりました。

金メダルがヘーゼルナッツ、銀がアーモンド、銅がカシューナッツといったところでしょうか。

追い込まれてから、大輪の花を咲かせてみせた北口に、正にぴったりの名前です。

大快挙、おめでとうございます。
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社会に認められることが「人間の幸せ」だとは思いません。

三ツ星シェフの料理を毎日たらふく食べることのできる大金持ちと、獲物に恵まれず何十日かぶりにマンモスを倒してその生暖かい肝臓を貪り食った一円も持たない原始人、どちらが食の喜びに浴しているでしょうか?どちらが人間として幸せでしょうか?


「社会に認められること」の根幹が承認欲求であれば、その人の「人間の幸せ」は極めて脆弱なものになってしまいます。

社会に高く大きく認められている大谷翔平の193㎝、95kgの巨体の中には、おそらくどこを探しても承認欲求は見つからないでしょう。「ドライチ 8球団」を目指した高校時代までは確かにあったはずのそれは、もはや何か正反対の宝石に昇華したように見えてきます。

そして、彼を見るとき「人間の幸せ」の不思議に思いを巡らせてしまいます。彼がやっていることを他の誰かにやらせたなら、それは許し難い犯罪的拷問でしかありません。労働基準法に照らせば過労死レベルを優に超えた過酷極まる労働を、かれこれ10年以上も続けていることになります。

それなのに、「ニューヨークでお気に入りのお店?外に出たことがないから知らないんです」と答えて外国人レポーターを絶句させた大谷翔平ほど幸せな人間を、私は一人も知りません。





大谷とは真逆に「(プロ野球生活を振り返って)心から楽しいと思えたことは…一度もないですね」と吐いたのは斎藤佑樹でした。

では、ハンカチ王子のプロ生活に「幸せ」はなかったのでしょうか。

もしかしたら、今振り返って思えることと、いつか将来に思い出すときとは、同じ人でも全く違う記憶が湧き上がって来るのではないでしょうか?

彼は藤浪晋太郎はもちろん、大谷よりも真夏の日本列島を沸騰させた若者でした。

もし、プロ1年目で選手生活を断念せざるを得ない大怪我をして引退していたなら、テレビタレントや甲子園の解説者として大活躍をされていたのは間違いありません。

あるいは、もっと早く「その道」に進んでいた方が、精神的にも経済的にもはるかに楽な人生を歩めていたはずです。

もちろん、彼は「一花咲かすまでは、クビになるまでマウンドにしがみつく」思いだったでしょう。その思いは「幸せ」になるために、絶対譲れない、悲壮なまでの承認欲求だったかもしれません。

ハンカチ王子の11年間もまた、他の誰かが代わって身を置けば、心の奥底まで土足で踏み込まれるような拷問の日々だったでしょう。大谷のように、日本中から絶賛されながらとは程遠い、日本中から冷たい視線を浴びながらの〝拷問〟です。

ときに嘲られもしながらも、一歩も逃げずに格闘した七転八倒のプロ11年間がもしなければ…斎藤佑樹の「いま」はもっと違ったものになっている、言い換えると私たちは「違う目で見ている」と考えるのは、穿った見方でしょうか?



毎晩「熱闘甲子園」を楽しみにしています。

もし、もっともっと早い段階で、斎藤佑樹が私たちが楽だと思う道を選んでいたなら、その口で同じコメントを語っていたなら、私は「たった一夏の記憶で一生食っていけるなんて楽な人生やなあ、ちょっとは面白いこと言わんかい!」とテレビに向かって毒付いていたかもしれません。

しかし、彼が穏やかに微笑みながら語る「誰も傷つけまい」という強い意志を滲ませたオブラートを幾重にも巻いた〝面白くないコメント〟には、まだ35歳の男の生き様が透けて見えるようで、こちらもつられて穏やかに微笑みそうになってしまいます。



ユニフォームを脱いで、新しい海に出航した斎藤佑樹と違い、藤浪晋太郎はまだ七転八倒、七転び八起きしながら荒波と格闘しています。


なにはともあれ。甲子園のスーパーヒーローは、必ず幸せを摑み獲ることになっています。

それが、スーパーヒーローの宿命なのですから。
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「学説・藤浪晋太郎論」を始めた最大の理由は、この才能が迷い込んだパズルを解くには精神論や技術論を超えた方向にしかないと考えたからでしたが、そこに至る前に「そもそもパズルに迷い込んでいない」、「迷い込んで右往左往してたのは日本のベンチだけ」という、想定内ではあるものの、おそらく最も可能性が低いと思われた形で落ち着いてしまいそうな状況です。

https://www.mlb.com/player/shintaro-fujinami-660261

このブログでも書いてきましたが、藤浪の制球難は「草野球でも使えない、投手として詰んでいる」なんてのは、何も分かっていない大間違いの見方で「あとは制球難だけ、つまり世界最高峰の舞台に王手をかけている」と見るのが正解でした。

阪神ファンであることを抜きにしても「阪神が使いこなせなかった」とは、今も思ってません。あんな見たこともない暴れ馬、ファイターズだろうがライオンズだろうが、乗りこなせるわけがありません。



タイムリミットは長くて3年と見ていました。2年目の来季が30歳、3年目で31歳、MLBではまだ3年でも31歳、そこで何らかの形を作ることができなければ「いのち短し」のアスリートです、タイムアップだと思ってましたが…。



それにしても、日本時代10年、MLB1年半ばの11シーズン。大谷の日本5年、MLB6年の11シーズンは選手成績としては比較する対象ではありません。

思い切り、藤浪寄りに語れば、日本でのルーキーイヤーは藤浪が勝ってたが、その後の10シーズンでは差は開くばかりーーーというか大谷は別のステージに旅立ってしまった、と言ったところでしょうか。

しかし、純粋なアスリートとしてみた場合、恐るべきことに藤浪は大きな怪我を一度もしていないのです。MLBが飛びつく剛球を投げ込みながら、日本でもアメリカでも全くの健康体。

藤浪のボールの質が「マイナーにもゴロゴロ転がっている160キロ投手」とは全く異質であることにアスレティックスのスカウト陣が気づいていたのは明らかですが、契約を決定的にしたのはメディカルチェックの結果だったでしょう。

「メディカルチェックのあと契約するのは当たり前」ではなく、藤浪のケースは靭帯や軟骨、関節の、ありえないほど健康で磨耗していない数値に驚いたはずです。おそらく、関節ネズミなどの兆候も全く認められなかったのでしょう。

「甲子園、NPBというアメリカから考えたら科学を無視した無茶苦茶な環境で10年以上も投げ続けてきたのにどうして?」。

野球の豪速球投手、ボクシングの強打者は故障・手術がセットであるはずです。しかし、藤浪やマニー・パッキャオのように説明不可能の例外がときとして現れます。

藤浪やパッキャオが他の選手と比べて次元が違う節制と規律を持って練習してきたからなのか?他の選手の手本になるほど理にかなった美しいフォーム、メカニクスだから故障しないのか?

…二人には失礼ですが、絶対に違います。

もともと肩や拳が頑丈だったのはあるでしょうが、トッププロの世界です。それだけで故障から免れるなら、プロ野球選手や世界チャンピオンはまず怪我なんてしません。

実はその裏付けを、アスレティックスもオリオールズもすでに把握していると思います。

藤浪の個人情報になるだけでなく、所属チームにとっては企業秘密、公開してくれるわけもありませんがスポーツドクターの説明を聴きながら拝見したいです。もしかしたら、未来の「ピッチャーズ・バイブル」が変わり、故障しないトレーニングに大きな道筋が出来るかもしれません。

いずれにしても「世界最高の剛球を投げる絶対に壊れない肩を持つ投手」が藤浪です。課題はたった一つ、制球難だけ。それも、いつも暴れているわけではありません。

その原因は技術と心理、両方にあるでしょうが、アスレティックスとオリオールズは「それ一番、簡単なヤツ」と考えたのは間違いありません。


藤浪がこの曲を登板テーマに選んだのは、一つの登板がどんな結果になろうが、それが「終わりなき旅」の一部分でしかないことを、早くから理解していたのだと思います。



大谷翔平に慣れてはいけないのは分かっています。もっと評価されて然るべきアスリートです、あんなの100年後の野球ファンが「100年前に生まれて大谷が見たかった」という怪奇現象です。

しかし「分かってても打てないど真ん中のファストボールを投げる」「MLBでも絶対に故障しない鋼鉄製の肩を持つ」「大谷翔平よりも巨大な日本人」なんていう、ユニコーンがもう一匹現れたら、常人の感覚は麻痺します。



来季はどこのチームにいるかはわかりませんが、たった数ヶ月前まであちこちで聞かれた「今年でMLBはクビ、NPBも手を出さないから独立リーグにでも拾ってもらえ」なんて意地悪な声は、もう潜んでしまいました。

もちろん、ここで扱っているのは誰であろう、藤浪晋太郎です。

日本であれほど私たちをヤキモキさせた暴れ馬を、MLBがやすやすと乗りこなす…それはそれで、もちろん99.99%の喜びです。

しかし「MLBの南蛮どもにも、もうちょっとヒヤヒヤさせろ」 「まさかこれで阪神のコーチ力が貧しいなんて結論づけはされないよな?」という0.01%の忸怩たる思いも小さな棘のように刺さっています。 

とにかく、がんばれ藤浪晋太郎! 
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その小さな女の子は小学校に入学すると、兄の影響で戸田南FCスポーツ少年団でサッカーを始めた。



「小さいから」。いつも、そう言われた。

「小さいから」。その続きまで聞こえるように言う人は少なかったが、何が言いたいのかはよくわかっていた。

「小さいから、きっとダメ」。


同年代の子供たちと比べても体は一際小さかったが、練習が終わったあと毎晩2〜3時間もボールを蹴り続け、正確なキックを磨き抜いた。

戸木南ボンバーズを経て、小学6年生のとき、2009年に日テレ・ベレーザの下部組織メニーナの入団テストを受ける。



当時、1m35㎝しかなかった華奢な体格を目の前にしたクラブ側は合格させるか迷った。

「クラブは中学生から高校生までが同じチーム。体格差が大き過ぎる」「小さいから…」。

なんと、まだ12歳の小さな女の子は「大きい相手は怖くないし、私は出来る」と面接官を睨み返して来た。


しかし、体の小ささという不安は、すぐに現実となってしまう。練習や試合で年上の大きな相手に体をぶつけられると、枯れ葉のように吹っ飛ばされて、簡単に倒れた。

指導者たちは「単純な技術だけなら上だけど、体格で潰されてしまう」と諦めかけていたが、本人はどこまでも往生際が悪かった。

「相手と当たらない、最悪でも相手が強い体勢では当たらないポジションがどこにあるのか、相手が次にどう動くのか、それをいつも考えていた」という彼女は短期間で驚くべき成長を見せる。

当たりに来た相手が軽々とかわされる、当てられても大きな相手の方が倒れる。

自分よりも大きく強い相手と渡り合い、恐るべき予測能力でボールを奪うスタイルは中学生で完成されていた。

U -18に選抜されると、メニーナ4連覇の原動力になった。

2013年には、飛び級でなでしこリーグに参戦、日テレ・ベレーザを3連覇させる。

2014 FIFA U-20女子ワールドカップ出場を逃したことで、本来の年齢カテゴリーであるU -17女子ワールドカップに出場、チームを優勝に導き、世界的な注目を集めるようになる。

国内リーグにやり残したことがなくなった彼女は、2021年、24歳でACミラン・フェミニーレに移籍。ACミランの誰もが、彼女の小さな体格を不安視していなかった。

イタリアでわずか9試合で3ゴールを蹴り込んだ小さな日本人は、英国からも熱視線を集めていた。

半年で英国ウェストハム・ユナイテッドに移籍。マンチェスター・シティ戦で出色の活躍を見せると、Man Cityの首脳陣が動く。


「あの小さな日本人がどうして倒されないのか、ぶつけられても大きな相手の方が倒れる理由がわかるか?彼女には相手の動きを正確に予測する能力があるんだ」。

「ウェストハムとの契約はいつまでだ?Hasegawaを買え!」。 

昨年9月にはマンチェスター・シティと3年契約を結ぶ。

マンチェスター・シティは公式サイトで、SMALL AND MIGHTY(体は小さいけど、とにかく強い)と紹介した。


「小さいから」は、いつのまにか「小さいけど」に変わっていた。


「小さいから」…もうそんなことを口にする者は、世界中に一人もいなくなった。

https://www.mancity.com/players/yui-hasegawa
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