その小さな女の子は小学校に入学すると、兄の影響で戸田南FCスポーツ少年団でサッカーを始めた。



「小さいから」。いつも、そう言われた。

「小さいから」。その続きまで聞こえるように言う人は少なかったが、何が言いたいのかはよくわかっていた。

「小さいから、きっとダメ」。


同年代の子供たちと比べても体は一際小さかったが、練習が終わったあと毎晩2〜3時間もボールを蹴り続け、正確なキックを磨き抜いた。

戸木南ボンバーズを経て、小学6年生のとき、2009年に日テレ・ベレーザの下部組織メニーナの入団テストを受ける。



当時、1m35㎝しかなかった華奢な体格を目の前にしたクラブ側は合格させるか迷った。

「クラブは中学生から高校生までが同じチーム。体格差が大き過ぎる」「小さいから…」。

なんと、まだ12歳の小さな女の子は「大きい相手は怖くないし、私は出来る」と面接官を睨み返して来た。


しかし、体の小ささという不安は、すぐに現実となってしまう。練習や試合で年上の大きな相手に体をぶつけられると、枯れ葉のように吹っ飛ばされて、簡単に倒れた。

指導者たちは「単純な技術だけなら上だけど、体格で潰されてしまう」と諦めかけていたが、本人はどこまでも往生際が悪かった。

「相手と当たらない、最悪でも相手が強い体勢では当たらないポジションがどこにあるのか、相手が次にどう動くのか、それをいつも考えていた」という彼女は短期間で驚くべき成長を見せる。

当たりに来た相手が軽々とかわされる、当てられても大きな相手の方が倒れる。

自分よりも大きく強い相手と渡り合い、恐るべき予測能力でボールを奪うスタイルは中学生で完成されていた。

U -18に選抜されると、メニーナ4連覇の原動力になった。

2013年には、飛び級でなでしこリーグに参戦、日テレ・ベレーザを3連覇させる。

2014 FIFA U-20女子ワールドカップ出場を逃したことで、本来の年齢カテゴリーであるU -17女子ワールドカップに出場、チームを優勝に導き、世界的な注目を集めるようになる。

国内リーグにやり残したことがなくなった彼女は、2021年、24歳でACミラン・フェミニーレに移籍。ACミランの誰もが、彼女の小さな体格を不安視していなかった。

イタリアでわずか9試合で3ゴールを蹴り込んだ小さな日本人は、英国からも熱視線を集めていた。

半年で英国ウェストハム・ユナイテッドに移籍。マンチェスター・シティ戦で出色の活躍を見せると、Man Cityの首脳陣が動く。


「あの小さな日本人がどうして倒されないのか、ぶつけられても大きな相手の方が倒れる理由がわかるか?彼女には相手の動きを正確に予測する能力があるんだ」。

「ウェストハムとの契約はいつまでだ?Hasegawaを買え!」。 

昨年9月にはマンチェスター・シティと3年契約を結ぶ。

マンチェスター・シティは公式サイトで、SMALL AND MIGHTY(体は小さいけど、とにかく強い)と紹介した。


「小さいから」は、いつのまにか「小さいけど」に変わっていた。


「小さいから」…もうそんなことを口にする者は、世界中に一人もいなくなった。

https://www.mancity.com/players/yui-hasegawa