カテゴリ: 世界最強の男

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通っていた中学校には屋根付きの土俵がありました。

しかし、相撲部はありませんでした。

「1970年代の初め頃までは野球部と相撲部が最も人気のある部活だった」という話を年配の教師から聞きましたが、もはや部員が少ないとかの次元ではなく、部そのものが無くなってしまったのでした。

近隣の中学校はもちろん、高校にも相撲部はありませんでした。私の周囲では、ボクシング部の方がまだありました(もちろんマイナーでしたが)。

私にとって相撲が最も身近にあったのは、この中学時代、構内にある土俵を毎日見ていた3年間。

それでも、日本は広い。

北陸や北日本では相撲部が普通に存在する高校があることを、大学に入ってからよく聞くようになります。

私が小学校時代に少年野球教室に普通に通ったように、少年相撲教室があり、相撲大会が開催されるのも普通の光景である町が北にはあるのです。

石川県生まれの大の里は、中学から新潟へ〝相撲留学〟したといいますから、相撲と縁のない私にとっては「中学で相撲留学なんてホンマにあるんか?」という別の惑星の出来事です。

大相撲はそれなりに見ていて、稀勢の里が大好きでしたが、その二所ノ関部屋からこんなに強い力士がこんなに早く現れるとは。

昨日の雨の明治神宮。

久しぶりにオーラをまとった日本人横綱を見ました。







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「Fight For ’84」

昨日、Netflix は大きな困難を乗り越えて五輪に挑んだ不撓不屈のボクシング選手団を描く伝記映画の制作を発表しました。

1984年のロスアンゼルス五輪で11個のメダルを獲得、そのうち9個が金メダルという歴史的な成功を収めたボクシング米国代表チームが題材です。

製作・主演はジェイミー・フォックス、監督はコロンビア人のアンドレス・バイス。

ロス1984五輪は、モスクワ1980でソ連のアフガニスタン侵攻に抗議する形で米国や日本が参加をボイコットしたことへの報復で、ソ連をはじめおおくの東側諸国が不参加となった〝片肺五輪〟でした。

当時は、ボクシング米国選手の試合は地上波生中継されていた時代。複雑な政治事情や飛行機墜落事故(1980年)でチームが壊滅した危機を乗り越え、母国開催の五輪で快進撃を見せた新生チームの活躍はボクシングファンの枠を超えて多くの人を熱狂させました。


 国内選考会。ABCが生中継してたのですね。


⬇︎9階級で金メダルは、今なお五輪史上最多の記録。

48キロ級(ライトフライ級):ポール・ゴンザレス
51キロ級(フライ級):スティーブ・マクローリー
57キロ級(フェザー級):メルドリック・テイラー
60キロ級(ライト級):パーネル・ウィテカー
63キロ級(ライトウェルター級):ジェリー・ペイジ
67キロ級(ウェルター級):マーク・ブリーランド
71キロ級(ライトミドル級:フランク・テート
75kg級(ミドル級):ヴァージル・ヒル(銀メダル)
81kg級(ライトヘビー級):イベンダー・ホリフィールド(銅メダル)
91kg級(ヘビー級):ヘンリー・ティルマン
91kg超級(スーパーヘビー級):タイレル・ビッグス

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フロイド・メイウェザーとマニー・パッキャオがリングを去り、たった1人で米国市場を牽引してきたカネロ・アルバレスにもキャリアの残り時間が少なくなる中、次世代のスーパースターはまだ候補者すら現れていません。

ヘビー級の人材は全く見当たらず、ライアン・ガルシアは人気だけ。弱い相手としか戦わないタンク・デービスでは物足りなさすぎる…。

ジャロン・エニスは「テレンス・クロフォードよりも華がある」と言われても、クロフォードと比較されている時点で終わってる。

真っ暗闇の米国ボクシング市場に一筋の光なのか、一服の毒なのかはわかりませんが、とんでもないし劇物が垂らされました。

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7月19日にラスベガスで、マニー・パッキャオが電撃復帰するのです。ずっと噂になっていたので「電撃」というのは間違っているかもしれませんが「噂は噂、パッキャオがリング復帰をほのめかすのは選挙対策で本気ではない」とも見られていただけに、契約成立のニュースに驚きました。

セバスチャン・フンドラとティム・チューの再戦と同じイベントに組み込まれ、PBCとアマゾン・プライムビデオ(PPV)の3度目のビッグファイト生配信、その目玉カードになります。


英雄の帰還か?それとも、愚か者の出戻りか?
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このゴールデンウィーク、札幌から大阪、仙台と忙しく動き回り、そんな間隙を縫ってロードショウを4本見て、ボクシングの試合を3興行見て、海外の古い友人たちとオンライン飲み会…ほとんど寝てない状態で、今日は朝からラスベガスの試合に、午後からの高校生の野球の練習試合。

大学生みたいな無茶苦茶な11日間も明日で終わり。

さて、神奈川の春季大会は明日が決勝ですが、すでに敗退した我がコーチの高校と、なかなかの強豪校の試合。

いやあ、荒れた、荒れた。眠気吹っ飛ばしてくれたわ。

海外の友人とのオンライン飲み会、プロレス好きのおっちゃんと、UFC大好きのその奥さん(アフリカン−アメリカン)との話が盛り上がって、格闘技に全く関心のない参加者にも非常に面白がってもらえました。

これが、ボクシングの話だと、知らない人まで巻き込めないんでしょうが、知識ゼロだった人でも「新日本プロレス」「UWF」「グレイシー柔術」「PRIDE」「UFC」などの〝記号〟は簡単な説明で理解できて興味を膨らませることができるんです。


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「新日本プロレス」でアントニオ猪木が目指したのは、異種格闘技戦に代表されるように「プロレスラーはリアルに強い」ということ。

その流れを受け継いだのが「UWF(正確には第二次UWF)」でした。

そこにあるのは、一貫して「プロレス」でした。

そして、プロレスの対極にあるはずの「グレイシー柔術」が、プロレスの前に姿を現します。

そもそも、プロレスとリアルファイトは、サーカスとオリンピックと同じくらい全く別物です。

ガチ童貞を頑なに貫いた前田日明は、マイク・タイソンやヒクソン・グレイシーに対戦オファーを出しましたが、それはプロレス、つまりあらかじめ勝敗が決まっているショーへの参加でした。

タイソンとは報酬だけでなく、彼の犯罪歴から日本でビジネスを行うことが難しく、ヒクソンには「フェイクは受けない」と断られてしまいます。

高田延彦は前田と違って勇気があったのか?おそらく違います。「(引退の花道に)タイソンかヒクソンと戦いたい」と語った言葉を、プロレスにロマンを見た周囲が勝手にリアルファイトで進めてしまったのです。

そして「PRIDE」という実験にインスパイアされる形で、米国で「UFC」がスポーツに昇華してみせました。

格闘技の興味のない人(興味のある人でも)にはプロレスを「八百長だから」と蔑視する人がいます。

世間的にもプロレスは、ボクシングやもしかしたらキックボクシングよりも格下と見られています。

プロレスとは何なのか?

ものすごいテーマです。こんなに深い問いが、他にあるでしょうか?

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カネロ・アルバレスがウィリアム・スカルと戯れあって、スーパーミドル級史上初のUndisputed championに返り咲きました。

それにしても、見ている自分が嫌になるような、時間の無駄な試合でした。



あれだけ引いて戦う(戦わない)ランナーを仕留めるのは鈍足のカネロでは不可能です。

しかし、カネロはこれで2021年11月6日にケイレブ・プラントを11ラウンドでストップしたのを最後に3年半、7試合もKOから遠ざかっています。

商品価値という点では、メキシコのボクシング市場で最も大きな存在であり続けているカネロはまだ34歳ですが、2005年のプロデビューから約20年、67戦(63勝39KO2敗2分)の濃厚なキャリアだけでなく、たった1人で米国市場のスターの座を守り続けた勤続疲労は心身ともに稀代の168パウンダーを蝕んでいます。

カネロは2020年3月から2022年5月までの2年2ヶ月間、リング誌PFP1位に君臨。PFPとは違い実態の価値があるFighter Of The Yearには2019年と2021年と2度選出された実績は、現役ファイターの中でも傑出したものです。

今年は2025年。2020年から6年が過ぎ、Fighter Of The Decade 2020’ の10年間が折り返しました。

気の早い話ですが、2020年代のFighter Of The Decade は誰になるのか?

Fighter Of The Decade は1990年代(〜1999年)から始まった新しいアウォードで、これまで受賞しているのは1990年代がロイ・ジョーンズJr.、2000年代がマニー・パッキャオ、2010年代がフロイド・メイウェザー。

2010年代は2015年で引退、実働6年間のメイウェザーではなくて、このディケイドをフル稼働、ジュニアミドル級からライトヘビー級の4階級を駆け抜けたカネロでも良かった気もします。

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しかし、カネロは2013年にマネーとの直接対決で完敗(オフィシャルのスコアはなぜか2−0のMD)したのが大きなマイナス、一方でメイウェザーはパッキャオとの大勝負でも勝利、この2試合の結果が大きくモノをいいました。

さて、2020年代です。

現時点での有力候補はPFPキング在位の長さで測るとカネロ、テレンス・クロフォード、オレクサンデル・ウシクが3強。

井上尚弥はあまりにも1位の在位時間が短すぎるので、PFPの尺度では論外。

もちろん、井上が今後のキャリアでローマン・ゴンサレスやカネロのように2年以上もPFP1位に君臨する可能性もゼロではありませんが…おそらく無理でしょう。

井上がFighter Of The Decade に選ばれるには、中谷潤人とのPFP対決に勝利してもう一度Fighter Of The Yearを獲り、PFP1位に1年程度は君臨することが必要でしょうか。

PFPとは違い実態の価値がある、そのFighter Of The Yearの2020年代の winner を見ると、テオフィモ・ロペス(2020年)、カネロ・アルバレス(2021年←2019年に続いて2回目)、ドミトリー・ビボル(2022年)、井上(2023年)、ウシク(2024年←2018年に続いて2回目)の5人が選出されています。

今年のFighter Of The Yearにノミネートされそうなファイターをピックアップすると、アルツール・ベテルビエフにリベンジ成功のドミトリー・ビボル、ウエルター級で団体統一したジャロン・エニス、西田凌佑との統一戦で勝利が条件の中谷潤人、プメレレ・カフとの統一戦に勝利することが前提でバム・ロドリゲス、そしてムロジョン・アフマダリエフを倒して、ニック・ボールも攻め落とすと井上が最右翼か?…混沌としています。

しかし、9月12日にテレンス・クロフォードがカネロに勝利、ジュニアウエルター級、ウェルター級に続きスーパーミドル級でもUndisputed チャンピオンになると、これで決まり。

クロフォードがFighter Of The Yearを獲ると、2014年以来11年ぶり2回目、PFP1位返り咲きも確実ですが…。

逆に、カネロはクロフォードに勝ってもFighter Of The Yearには届かないかもしれません。このあたりが不公平です。



⬆︎すでにオープンしているオッズはカネロの勝利が1/2(1.5倍)、クロフォード13/8(2.625倍)。会場はラスベガスで決定、舞台はアレジアント・スタジアムになりそうです。



Fighter Of The Decade ー2020年〜2025年現在までだと、ウシクとカネロの一騎打ちの様相ですが、この手のアウォードは同じ内容でも前半よりも後半に活躍する方が印象点で圧倒的有利。

その意味では、2010年代後半から2020年代序盤というディケイド跨ぎで輝きを見せ、現在はもうひとつパッとしないカネロは、ライトヘビー級でビボルに鮮やかにリベンジしてのPFP1位返り咲きや、3度目のFighter Of The Year 獲得となると一気に最有力に躍り出ますが…。

さらに2020年代はまだ前半。このあと印象点が高い〝後半戦〟でバム・ロドリゲスや中谷潤人、ジャロン・エニスらが大きな勝利をものにする、あるいはまだ雛の段階のスター候補が大化けするかもしれません。

現在の2020年代PFPは①ウシク、②井上、③カネロ、④クロフォード、⑤ビボルがトップ5か。

商業的価値、人気では圧倒的に1位のカネロですが、この時点ではっきりと黄昏てしまっていることを考えると、Fighter Of The Decadeは非常に厳しい。

まだ、キャリアを総括するのは早すぎるかもしれませんが、9月12日にクロフォードに負けるようなことがあれば、米国ボクシングのラスト・エンペラーがリングを去るかもしれません。

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Saturday 19, July 2025
  
Wembley Stadium, Wembley, London, United Kingdom
commission:British Boxing Board of Control
promoter:Frank Warren (Queensberry Promotions)
matchmaker:Steve Furness
media:DAZN



一昨年8月26日、ポーランドのヴロツワフ市立競技場で行われた初戦に続く第2戦。

前回はウシクの母国ウクライナ以上ににロシアの脅威に晒されているポーランドでの開催でしたが、第2戦はデュボアが生まれ育った英国ロンドンのウィンブリー・スタジアム。

アンソニー・ジョシュアやタイソン・フューリーより〝格下〟のデュボアは初体験の〝聖地〟。

ウシクもウィンブリースタジアムは初めて。ジョシュアやフューリーとそれぞれ2試合ずつ4試合も戦っていますから、意外に思えます。

第5ラウンドに起きた議論を呼ぶローブローでウシクが〝ダウン〟。ここで〝休息〟をしたウクライナの英雄が自力の差を見せつけて第9ラウンドでデュボアを仕留めました。

第8ラウンドまでのスコア(79-72*2/78-71)が示すように、あの〝ローブロー〟がなければウシクの圧勝。

27歳のデュボアはあの敗北からジャレル・ミラー、フィリップ・フルコビッチ、そしてジョシュアとビッグネームをビルドアップするように対戦、全てKOで片付けてきました。

かつて見せたひ弱いイメージは薄れていますが、38歳のウシクが操る盤石のテクニックの前には返り討ちが濃厚とみられ、ウィリアム・ヒルのオッズもウシクの1/5(1.2倍)、デュボア10/3(4.33倍)。

引退が囁かれているウクライナ人が普通の状態に仕上げてきたら、デュボアに勝ち目はないと思いますが、前回はスピード重視で233ポンド1/4まで絞って挑んだデュボアがジョシュア戦と同じ248ポンド1/4と同じくらいかそれ以上に増量してくると見られています。

タイソン・フューリーも同じ体重管理でウシクと再戦しましたが、連敗。前日計量ではデュボアに注目です。

さて、それにしても、今回のタイトルマッチはUndisputed championship。WBA /WBC /WBO /IBO王者ウシクとIBF王者デュボアの激突なのですが、IBFは指名挑戦戦に応じなかったウシクからタイトル剥奪したようなもの(ウシクが自主返上)。

どうしようもない形式主義に凝り固まったIBFにはうんざりです。リバウンド制限もストロー級からクルーザー級まで一律10ポンドって、算数もできないバカばっかなのか?

そして、ウシクは現在、多くのメディアで圧倒的評価を受ける形でPFP1位。もしデュボアが圧勝したなら、不安定なロンドンっ子がPFP1位になるのでしょうか?

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Although Oleksandr Usyk could walk through most US citeies unnoticed and unheralded,in his enbattled but defiant homeland of Ukraine the world heavy weight champion is that rarity among pugilists – a boxer who matters deeply to those living beyond the sports's usually constituency of hard core fans. 

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オレクサンデル・ウシクは、彼が米国の街を歩いても何者なのか誰も気づかないほどに無名ですが、ロシアの侵略に断固抵抗している彼の母国ウクライナでは特別すぎる存在で、ボクシングファンを超えて深く重大な意味を持つ世界ヘビー級チャンピオンです。

PFPキング、いやそれどころか議論する余地のない世界ヘビー級チャンピオンでも誰もその名前を知らない米国ほどではないにせよ、ウクライナでもボクシングはメジャースポーツとは言えません(現在のウクライナが「それどころではない」という意味ではありません)。

それでも、身長191㎝、220ポンドの38歳は母国では「英雄」という言葉ですら物足りない存在です。

ボクシング黄金時代の米国で文字通りに巨人だったジャック・ジョンソン、ジョー・ルイス、モハメド・アリーーー打ちのめされ、虐げられた人々に勇気を与えたこの3人の世界ヘビー級チャンピオンのように、ウシクもまた苦難に喘ぐ母国の人々を支える大きな希望になっているのです。


Oleksandr Usyk have proved an invaluable salve for a wounded nation and its people. 

ヴィルヘルム・オレクサンドロ・ビチウクはウクライナ南部のミコライウ生まれ、まだ23歳ですが、この戦争のベテラン兵士が語ってくれました。

「私と私の家族にとって非常に辛い戦争だ。小さい頃にクリミアに引っ越した。そして2013年にこの戦争の始まった。ロシアがクリミアを侵略、占領したんだ。私たちはミコライウに逃げ帰った」。

2021年には志願して歩兵部隊に加わりました。

「父親も兄も母国を守るために戦っていたから、従軍することに迷いはなかった」。

そして。

2022年2月24日午前4時、ロシアがウクライナへの全面侵略を開始。「起きろ!ついに始まった!ロシアが攻めてくる!」。

中尉の大きな声で私たちは叩き起こされ、ヴィルヘルムたちは直ちに戦闘配備に付きました。

「戦闘の最前線で見たのは、悲惨なんてものじゃなかった。町が破壊された、殲滅されたってニュースはいうけど、体をバラバラにされた男性の死体や、乱暴されて大怪我を負い死んだような目で空を見つめる女性や子供たちのことは語られることはない」。

ヴィルヘルムは、マリウポリの女性や子供を安全な場所まで退避させる撤退作戦に参加、ロシア軍の榴散弾の破片が当たり重傷を負ってしまいました。

野戦病院には負傷したウクライナ兵が続々と運び込まれました。ウィルヘルムは背中に負った大きな傷が塞がらない状態で「私の傷はまだ浅い」と、戦線復帰を願い出ます。

彼が次に合流したのは最前線の突破作戦。ヴィルヘルムのようなまだ傷の癒えない負傷兵がより過酷な戦闘に送り込まれるーーそれほどウクライナ軍は追い詰められていたのです。

最前線から数メートルも進むと機銃掃射の嵐に晒され、前方にはロシアの戦車部隊が待ち構えていました。



Ukrainian soldiers! Hands up! Surrender!

塹壕まで撤退した私たちは、銃撃が止んだのを不思議な思いでいましたが、すぐにスピーカーから大音量で流れるロシア兵の声が鼓膜をつんざきました。

「お前たちは完全に包囲されている!」「ウクライナ兵ども!両手をあげて出てこい!降伏しろ!」。

指揮官は「ここで全滅するわけにはいかない」と、私たちを説得して降伏を選びました。

ヴィルヘルムに大きなトラウマを残す、1年に及ぶ捕虜生活が始まります。

「ロシア人が捕虜を国際法に則って扱うことはない。捕虜の指を折ったり、牢屋に獰猛な犬を放ったり、電気ショックを与えて笑い転げていた。エイズや梅毒などに感染させた囚人と同じ房に閉じ込められることもある」。

ヴィルヘルムは「抵抗するな」という指揮官の命令に従って、言いなりになっていました。

彼が腕に印したウクライナ国旗のタトゥーに唾をかけられてもおとなしくしていましたが、それを抉り取られそうになるとナイフを奪って叫びました。

「これを抉り取るなら、まず私の心臓を抉り取れ!」。

ヴィルヘルムは警棒でめったうちにされましたが、腕の国旗は守り抜きました。

1年後、ようやく釈放されたとき、彼の体重は75kgから47kgまで削り取られて別人のように痩せさらばえていました。

すぐに戦線復帰を申し出ましたが、長期のリハビリが必要で、運動能力にも障害が残るヴィルヘルムは心理学者となって、彼と同じように肉体と精神に重大な傷を負った兵士をカウンセリングし、支援する仕事につきました。

さらに、リナト・アフメトフが資金提供している、マリウポリ防衛軍とその家族を支援するプロジェクト「The Heart of Azovstal (アゾフスタル魂)」(※)の大使にも就任。

自分たちがどれほどれほど強大で無慈悲な相手と戦っているのかを思い知らされたウクライナの傷ついた人々にとって、自分よりもはるかに強大な敵と勇敢に戦い勝利するウシクは希望そのものです。



From the frontline to ringsaide

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   ◾️写真の右端がウィルヘルム


昨年12月、彼らに思いがけないプレゼントが贈られました。

The Heart of Azovstal projectのサポートによって、サウジアラビア・リヤドで行われた世界ヘビー級タイトルマッチを観戦したのです。

王者はもちろんオレクサンデル・ウシク。挑戦者は55ポンド(24.9kg)も重いタイソン・フューリー。

「スポーツ観戦といえばサッカー、これ以上ない喧騒の中で自分のチームを大声で応援するんだ。でも、リヤドのキングダムアリーナは静まり返って、厳かな空気は試合が始まってからも変わらなかった。とんでもない経験をしていることが理解できた」。

「そんな厳粛なアリーナでウクライナ国歌を聞いたんだ。涙が出ると思ったけど、そうじゃなかった。ウシクがこれから命懸けの戦いに向かうというのに、私たちが泣くわけにはいかなかった。リングサイドからウシクの姿がよく見えたけど、現実以上に距離が近い気がした。ウシクと一緒に私たちも戦っている気持ちになったんだ」。


While many in the West have urged Usyk to retire, arguing he has nothing left to prove in the boxing ring.



英国や米国では「もうリングの上で証明することは何一つなくなった」と、ウシクに引退を勧める声があります。

フロイド・メイウェザーやマニー・パッキャオにはかけられなかった優しい言葉に聞こえますが、彼らの本音は「英国のスター選手や米国のホープにとってウシクは強すぎる。全く人気がなく商業的な価値が低いウシクが引退したら、大きなタイトルを巡って人気選手が争うことができる」ということ。

ヴィルヘルムは「ウシクには戦い続けて欲しい。小さな彼が巨大な敵に立ち向かう姿はウクライナの誇りそのものだから」と現役続行を願っています。



▶︎▶︎▶︎(※)かつて西側諸国でも「ネオナチ」と表現されるほど悪名高かったアゾフ旅団、アゾフ大隊ですが、現在は軍規を改正しています。とはいえ、ここにホワイトウォッシュ的な目的がないとは思えません。

アゾフ旅団の前身がFCメタリスト・ハリキウのウルトラス(狂信的サポーター)で、ソ連時代からスパルタクス・モスクワと友好関係にあったというのも不思議な気がします。

日本が騒乱、戦争に巻き込まれて狂信的な

ESPNの投票結果を見るまでもなく、ウシクはほぼ満場一致のPFP1位ですが、ウクライナ以外の国、専門家以外のファンの間で、ウシクが最も正確(正当?)に評価されているのは間違いなく日本です。

それはとても誇らしいことだと思います。

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クリミア併合に抵抗するビタリクリチコ。「催涙弾なんてレノックス・ルイスのパンチと比べたらたいしたことはない」。

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アゾフの話につながりますが、ゼレンスキー大統領やウシクは〝そっち側〟。キーウ市長のビタリ・クリチコはそうではないんです。


NHKの「世界のドキュメンタリー キーウ市長クリチコ 戦うボクシング元世界王者」を見た方もいるでしょう。
本当なら、国家存亡の危機、メンツはもちろん、当面の主義主張は後回しでビタリに歩み寄ってタッグを組むべきなんですが、ゼレンスキーは明らかに距離を置いています。








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来年4月に東京ドームで激突!といわれる井上尚弥と中谷潤人のPFPファイター同士の決戦。

Styles make Fights.
 
両者のスタイルだけを考えると、危険な距離に身を置かない卓越した技術を持つ中谷が有利に思えますが、こればかりはやって見ないとわかりません。

間違いなく言えるのは、両者ともそのキャリアで飛び抜けて最強の相手を迎えるということです。

勝敗予想の材料として、quality opponent、これまでの対戦相手の質、「誰に勝ったのか?」を比較してみます。

今更ですが、アルファベット認定団体の指名挑戦者や上位ランカーというだけでは評価しません。「世界ランカーに弱い奴はいない」「指名挑戦者は最強挑戦者」なんて、寝言はやめましょう。

まともなランキングの目安としては、バイアスの少ないTransnational Boxing Rankings Board(TBRB)が最も相応しいと考えますが、過去のランキングを確認できず、今回はリング誌の階級ランキングを実力評価のモノサシの一つに使います。

時系列で追いかけましょうか。

まずは12年前の2013から、2019まで。モンスターが孵化する時期でした。

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まずは、この手のテーマで海外メディアが好んで使う最高評価である【全盛期の殿堂クラス】。

…なんですが、井上、中谷、両者のキャリアからは残念ながら1人も見当たりません。

まさか、マニー・パッキャオやシュガー・レイ・レナード、モハメド・アリでもあるまいし、これは仕方がありません。



次は【現役あるいは未来のPFPファイター】。

これも両者とも無し。

2人が勝った相手のメンツを見ても「未来にPFP評価を受ける」と期待できる選手は全くいません。



すこし下って【現役あるいは未来のリング誌王者】で、ようやくお一人出現。

2013年8月25日、座間スカイアリーナ。井上尚弥が挑戦者ながらも圧倒的有利予想で、そのとおりに押し切ったのが田口良一でした。

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当時の日本フライ級王者にして、リング誌ランキングでも7位と世界的強豪と認められていました。アルファベット団体王者でも4位以内に数えられない〝雑魚王者〟がいる中で田口は高い世界評価を得ていたのです。

のちに〝つよかわいい(つまりはベイビーフェイス・アサシン)〟田口はWBAとIBFのストラップを掌握、リング誌王者にも認定されます。今なお、井上のキャリアで最高の勝利という見方も出来るでしょう。



【現役リング誌ランカー】

[1位]2014年12月30日、挑戦者ながら明白に有利と見られていた井上でしたが、強い相手には完敗覚悟のKO負け逃れに走る〝チキン〟オマール・ナルバエス(WBOジュニアバンタム級王者)に対して、リング誌のマイケル・ロゼンタールも「井上の8ラウンドストップ勝ち」を予想していたものの、早い決着はないと見られていました。

結果は、1階級フロッグジャンプの井上が「チェスゲームにはさせない」とばかりに、開始ゴングから猛攻。全く予期しない爆撃に晒されたアルゼンチン人は、2ラウンドで轟沈。

ナルバエスは、フライ級とジュニアバンタム級で無敗のまま二桁防衛。そんな〝偉業〟を成し遂げながら、PFPにはカスリもしないという〝離れ業〟をやってのけた雑魚専門王者でした。

3階級制覇を狙ったバンタム級では、ノニト・ドネア戦で見せたチキン極まる消極的な戦い方は、リング誌などから「今世紀最低の試合」と酷評され、それはゾラニ・テテ戦でも繰り返されてしまいます。

レオ・ガメスやヴィラボン・ナコンルンアンプロモーションら、数字だけならPFPどころか、殿堂入りのボクサーは少なくありませんが、ナルバエスは「勝つ気がないならライセンスを剥奪しろ」とまでコキおろされ、軽蔑されたのはこの人だけ。

しかし、なぜか日本では〝伝説の名王者〟になります。



[2位]



[3位]2019年5月18日、モンスターは英国グラスゴー、ウイスキーの聖地の一つでエマヌエル・ロドリゲス(IBFバンタム級王者)を攻め落としました。

リング誌やESPNなど、セカンドタイトルを認めないまともなメディアはロドリゲスに勝った時点で3階級制覇としているので、WBAセカンド王者ジェイミー・マクドネルは王者と認められていません。

ちなみに、この時点で1位は井上、2位はゾラニ・テテ。井上も「強い奴はかっこいい」と認めていたテテはWBSSの嘘八百に愛想をつかせて怪我を理由にトーナメントを離脱。その後、ドーピングで出場停止処分を課されましたが、ドネアではなくテテを破壊していたらWBSS優勝時点でPFP1位になっていたはずです。

そして、WBSS決勝で激闘を演じた36歳バージョンのノニト・ドネア(2019年11月7日:さいたまスーパーアリーナ)も3位評価でした(この時点では井上はリング誌王者。そこから数えると4位)。

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===ここまでが、まだ、ビッグバンが世界戦線に躍り出ていない2019年前です。

そして、このブログでは何度か繰り返していますが、井上尚弥が「弱い相手にしか勝っていない」というのは大間違い。

21世紀だけならオスカー・デラホーヤ、ワシル・ロマチェンコ、カネロ・アルバレスに続く強豪撃破のキャリアを積み重ねてきました。

キャリア序盤で、ジュニアフライ級で最高評価だったドニー・ニエテスや、フライ級でPFPキングのローマン・ゴンサレスを回避した点で、ロマチェンコに劣りますが、井上はデラホーヤやカネロと同じ完全Aサイド、離陸直後の不安定な時期に強豪王者を当てられるBサイドではありません。

逃げて当然なのです。

それをいうなら、人気のある犯罪者コンビ、ガーボンタ・デービスやライアン・ガルシアの対戦相手は目も当てられないほどの酷さです。米国には「あんなに豪快に倒すファイターは他にいないのに」とタンクのPFP評価が低いと嘆くバカファンがいますが、弱い相手を豪快に倒せばいいなら、マイク・タイソンは永遠のPFP1位です。

さて、2020年からはモンスターの世界戦線に中谷潤人も足を踏み入れます。


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ラテンアメリカの2人の反骨が亡くなりました。

13日にペルーのノーベル賞作家マリオ・バルガス=リョサが89歳で旅立ち、21日には、ラテンアメリカから初めてローマ教皇に選ばれたアルゼンチンのフランシスコが88歳で天国に招かれました。


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スポーツといえばサッカーというお国柄のアルゼンチン。全盛期にはリオネル・メッシに次ぐ人気を博したセルヒオ・マルチネスは、バチカンに招かれフランシスコから祝福の言葉を贈られました。


この2人に共通するのは既存の体制への反骨でした。

マリオ・バルガス、フランシスコ…ボクサーなお名前で親しみが持てました。



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タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に日本人から真田広之、YOSHIKI(いずれもICONS部門)、奈良美智(ARTIST部門)の3人が選ばれました。

大谷翔平と大坂なおみが2021年のICONS部門で、宮崎駿が2005年と2024年に選ばれるなど、日本人の選出も珍しくありませんが「米国が認知した」というモノサシの一つです。

https://fushiananome.superknova.org/archives/27426880.html

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マイナー競技のボクシングでも、日本人がヘビー級を制して大きなセンセーションを巻き起こせば、タイムの表紙を飾ることができるでしょうか…それでもダメか?


TIME100は2004年からスタート、まだ四半世紀を過ぎたばかりの新しいもので、ボクサーから選ばれたのはマニー・パッキャオだけ。

そのパッキャオにしても、ボクサーと政治家の合わせ技一本での選出。

ボクシングの人気と社会的ステイタスが凋落し続け、完全マイナースポーツというかもはやまともなスポーツとして見られているのかどうかも怪しい状況では仕方がありません。

1970年代までならモハメド・アリが何度も選ばれてるのでしょう…。

大谷翔平も受賞したあらゆるスポーツを対象にした〝スポーツのアカデミー賞〟ESPY賞でも、ボクサーは一人も選ばれたことがありません。

その最大の原因はこの賞が1993年から始まった、やはり比較的新しい賞でボクシングがマイナースポーツに没落したからという時代背景です。

「TIME100」でも「ESPY」でもオレクサンデル・ウシクが選ばれても良いと思うのですが、一般のスポーツファンは誰も知らないだけでなく、政治色が強くなりすぎるのがマイナスなのかもしれません。
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