カテゴリ: ゲンナディ・ゴロフキンvs村田諒太

計量後の最後の会見も淡々と進み、2人の場違いに穏やかな表情が印象的でした。

ゲンナジー・ゴロフキンも村田諒太も、互いをリスペクトする気持ちが滲み出る言葉を紡ぎました。

フェイスオフの睨み合いこそポーズを決めていましたが、終わると微笑みを交換。

この世界ミドル級屈指の強打者2人が、明日の夜に互いの急所目掛けて殴り合うなんて信じられません。

モハメド・アリやロベルト・デュラン、フロイド・メイウェザー、辰吉丈一郎、リカルド・マヨルガ、若き日のノニト・ドネア、亀田興毅、キース・サーマン、ジョンリール・カシメロ…トラッシュトーカーの言葉や振る舞いは、このスポーツを盛り上げる重要な役割を果たしてきました。

トラッシュトーク、私も嫌いじゃありません。なにしろ、ラップの源流はアリのトラッシュトークです。

もしかしたら、ゴロフキンと村田も罵声を飛ばし合い、フェイスオフでつかみ合いのパフォーマンスを仕込んだ方が、さらに話題を呼んだのかもしれません。

しかし、エリートの血統を持つ、五輪で金と銀のメダルを獲った2人の間には尊敬の念以外には何物も入り込む余地がないように見えました。



8年前、ゴロフキンのキャンプに参加した村田には日本からの取材クルーがゾロゾロ付いてきました。

彼らは邪魔で気が散る存在でしかなく、あからさまに嫌な顔や態度を取る選手もいたそうです。

しかし、このキャンプの主人であるゴロフキンは通路を塞ぐクルーの間を通るとき「excuse me(ちょっとごめんなさいね))」と、村田やクルーに微笑みかけたそうです。

そういうことが何度もあると、他の選手たちは、誰一人として村田やクルーに嫌な顔一つしなくなりました。

そういえば、この人、リングを降りるといつも微笑んでいます。全然、強く見えない。

スパーリングをしたあと、他の選手から「村田には手を抜いている」という声を聞くと「プロに慣れていない金メダリストに荒っぽいマネはしない。そもそもスパーリングは試合じゃない。プロに慣れるには少し時間がかかるもの。私がそうだったように」と、村田を慮ったといいます。

もしかしたら、一番最初の尊敬はゴロフキンから村田に向けられたのかもしれません。

今回、来日してスパーリングした8年前のことを聞かれると「当時から強かった」と、ゴロフキンが答えたと伝え聞いた村田は、村田で「(お世辞を言ってくれて)ありがとうございましたって感じですね」と、よくわきまえていました。

今の村田はゴロフキンに対して「ここまで辿り着きました」という気持ちかもしれません。

昨日の記者会見、先に座ってる村田の後ろを通るときに、ゴロフキンはポンと日本人のライバル王者の肩を叩きました。

「やっぱり強くなったな」とでも言うように。

村田とワシル・ロマチェンコのような国際大会で何度も顔を合わせた〝戦友〟とは違い、ゴロフキンは2004年アテネで銀メダル、村田は2012年ロンドンで金メダルと、2人は階級こそ同じでも〝すれ違い〟〝入れ違い〟の〝先輩と後輩〟のような関係にも見えました。

実際にはスパーリングや会話した時間は全部合わせても1時間もないはずですが、気心の知れた仲であることは、多くの人がテレビ画面を通じても感じ取ることができたのではないでしょうか?

それにしても、人間の急所に拳を叩き込むことにかけては世界最高の技術を持った者同士が戦うのです。

気心の知れた尊敬し合う者同士が戦うというのは、常人には理解の及ばない世界です。

それが出来る村田とゴロフキンは、あまりにも当たり前すぎて2人には失礼すぎる表現ですが、プロフェッショナルです。

特に、ゴロフキンは異常に映ります。

淵上誠がゴロフキンとの試合に敗れたあと。ホテルのロビーでゴロフキンがコーヒーを振る舞いながら、淵上の奥様を通訳に何時間も話し込んだなんてエピソードは、ちょっと信じられません。

もし、私が淵上なら受け入れ難いかもしれません。それよりも、もし私がゴロフキンなら相手のことも考えて、ロビーで顔を合わせても健闘を讃える挨拶くらいしか出来ません。

故意に相手を脳震盪たらしめるために拳を振るうボクシングは、本当はスポーツなんかじゃありません。

殺し合いです。村田やゴロフキンの拳なんて、大袈裟でもなんでもなく凶器そのものです。

だというのに…ゲンナジー・ゴロフキンという男は、まるで野球やテニスの試合をするように、殺し合いをしているようにも見えてきます。

ゴロフキンは、人間離れした男です。

そんなゴロフキンに挑むのは誰もが「日本人離れした」と認める村田諒太です。

日本人がどこまで戦えるのか、その大きな山を越えられるのか、それを見せてくれる村田諒太という絶好の才能に私たちは恵まれたのです。

ボクシングファンにとって、こんな幸運が他にありますか?

明日の今頃は、どちらかの名前が勝者としてコールされているでしょう。

読み上げるのはジミー・レノンJr.でしょうか?

そういえば、明日も天気は晴れるんでしたっけ?

台風1号は今、どのあたり?

さいたまスーパーアリーナあたりの桜も、もう散っているのでしょうか?



なにはともあれ、きっと2人は素晴らしい試合を見せてくれるでしょう。

なんだか、もう勝敗はどうでも良くなってきました。


このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

Saturday 9, April 2022
Super Arena, Saitama, Saitama, Japan  

World Boxing Association Super World Middle Title

International Boxing Federation World Middle Title


Gennadiy Golovkin vs Ryota Murata  

いよいよ、明日、明日です! 

今日は前日計量。

昨夜のスポーツニュースは、チャンネルの垣根を超えてこの大一番を伝えていました。

海外でも専門メディアは大きなスペースを割いて、直前に迫った日本のメガファイトを報じています。

その論調は、日本のニュース番組では「村田諒太にも勝機がある」。

一方、海外は「ゲンナジー・ゴロフキンにカネロ・アルバレスとの第3戦を戦う資格があるか?」。

ゴロフキンはカネロとの第2戦で、キャリア初のバックペダルを踏みっぱなしのディフェンシブな展開を強いられ、判定負け。

その後も、小さなミドル級セルゲイ・デレビヤンチェンコにすら守勢を強いられ、KO出来たのはアルファベット団体が〝捏造〟した嘘ランカーだけという状況が続いています。

そして、その第2戦からカネロは目を瞠るような成長を見せ、ライトヘビー級まで制圧、スーパーミドル級で完全統一を果たしました。

2人の実力曲線は第2戦で交錯し、カネロは上に、ゴロフキンは下に、大きく離れていっている…そういう見立てが世界の共通認識です。

第3戦はゴロフキンがあっさり処刑されるだけのミスマッチにしかならない、という予想もあるほどです。

昨夜も、ゴロフキンを「ミドル級最強」という報道が目立ちました。もちろん、その見方もありますが、ESPNはジャモール・チャーロを1位評価、ブックメーカーのポテンシャルオッズでも今日40歳を迎えるカザフスタン人はジャモールに対してアンダードッグです。

GGGがデレビヤンチェンコよりも大きく強い村田に、デレビヤンチェンコよりも苦戦を強いられる可能性は十分。敗北は論外、決定的な形で勝てなければカネロ戦の興味は一気に萎んで第3戦は立ち消えになるという懸念もあります。

世界も「村田にも勝機がある」と見ていますが、正確には「ゴロフキンが苦戦すると、カネロとの第3戦の開催危機につながる」という〝村田を置いてけぼり〟にしたものです。

「ゴロフキンは苦戦、あるいは敗北まで喫してしまうかもしれないが、それは大敗や惨敗ではない」という多くの予想は、間違っています。

デレビヤンチェンコと村田では火力が全く違います。

村田にはデレビヤンチェンコのクロスレンジでガチャガチャ攻め立てる手数はありませんが、危険極まる強打を持っています。

明日の試合後、サイタマ・ショッカーを見た世界のメディアは主語を変えて「村田諒太はカネロに挑戦する資格があるか?」になっているかもしれません。

とはいえ、GGGにとってはカネロ戦を除くとキャリア最大の興行になります。その空気からも、40歳になったばかりのグレートに油断や緩みは一切ないでしょう。

もちろん、村田は一世一代の大勝負、その覚悟が出来上がっています。


火を噴く激突まで、あと1日です。







このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

ボクシングでのメジャーへの挑戦。

何をもってメジャーというのか?

例えば野球部やサッカーなら日本よりも報酬も注目度も明らかに上の舞台があります。

ところが、ボクシングの場合は複雑です。

圧倒的に強い、無敗の日本王者が2人いたとします。

1人はバンタム級、1人はウェルター級。日本で人気が出て報酬も高いのは前者ですが、世界的にはどっちも無名です。

しかし、この2人が順調に世界王者になると立場は逆転します。

世界バンタム級王者の需要が最も大きいのは日本、米国や英国では見向きもされません。

しかし、ウェルター級のタイトルホルダーになると、ラスベガスやニューヨークでのメガファイトの可能性が膨らみます。

ボクシングの世界で大谷翔平になろうとするなら、その道しかありません。
スクリーンショット 2021-09-19 18.00.08
村田諒太が明後日のさいたまスーパーアリーナでやってのける大偉業は、トドのつまりはミドル級で五輪金メダリストなったという一点に尽きます。

誤解を恐れずにいうと、村田が手にしたのは、金メダルだけでなく、プロでのVIPパスポートでした。

これは、村田だけに特別なパスポートではなく、カシアス・クレイやジョージ・フォアマン、シュガー・レイ・レナード、オスカー・デラホーヤら、富裕国の金メダリストには等しく配られたものです。

そして、大小はあれ彼らは「過保護だ」とも批判されることもありました。

確かに。温室の中に敷かれたレールが用意される、そういうと聞こえは良くありませんが、そもそも彼らは、プロで世界王者になるよりも遥かに難しい難関をクリアして来たのです。

当たり前ですが、五輪で金メダルなんて普通では獲れません。井岡一翔も井上尚弥もそれに恋焦がれましたが、出場すら許されませんでした。

もちろん、フロイド・メイウェザーのように、銅メダルの憂鬱をプロでの反骨にしたグレートもいます。

また、金メダルは獲ったものの、温室の中で躓いたり、せっかく敷設してもらった線路を脱線するボクサーも珍しくありません。

そして、私たちが最もカッコいいと思うのは〝甲子園のヒーローからトップへ〟というレナードのようなキャリアでしょう。

そして、最も尊敬されるのは咬ませ犬まがいのマッチメイクをことごとく勝ち抜き、人気階級まで制圧したパッキャオのような生き様です。

もちろん、パッキャオのような驚天動地のキャリアを踏破したファイターはボクシング150年の歴史でも例を見ません。

ただ、その道しかなかったファイターは日本にも存在しました。

金色のパスポートとは全く縁のない彼らは、咬ませ犬のように敵地のリングに引っ張り上げられ、奴らの思い通りに惨めなやられ役を演じるのが常です。



最初のお話は、1992年4月10日。メキシコシティーの闘牛場。

そして、19年後の2011年4月9日。ネバダ州ラスベガスはMGMグランドガーデンアリーナ。

2人は、パッキャオが走り抜けた獣道に、足を一歩踏み入れた勇気ある戦士でした。

平仲明信と石田順裕。

彼らが目指したのも村田諒太と同じ世界の頂上。

彼らが村田と違うのは、北壁から頂上にアタックしたということでした。
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

この試合が何故「日本ボクシング史上最大」と形容されるのか?

単純な日本国民の関心度だけなら、1960年代のボクシング黄金時代に躍動したファイティング原田や、21世紀になってからでも亀田一家の方が遥かに上でしょう。

また、人気階級のビッグネーム、ゲンナジー・ゴロフキンと日本人が戦うという構図なら、すでに淵上誠と石田順裕がGGGに挑戦しています。
GGG-990x733

…明後日のメガファイトは、ドメスティックな関心に限定される原田や亀田のフライ級やバンタム級の試合ではありません。

また、人気階級の強豪王者とはいえ米国では大きな注目を集めるに至らないカザフスタン人が対戦相手に困って〝僻地〟※に呼んだ日本人とも違います。

※ウクライナ・キーウ州ブロバルウィー、モナコ公国を〝僻地〟と呼ぶのは、あくまで〝ボクシング用語〟の中です。

この試合は「米国の人気階級の強豪王者を日本に呼ぶ」という点で、すでにあちこちで比較されているように、バブル期の1988年と1990年にマイク・タイソンを東京ドームに招聘したイベントと相似します。

しかし、今回は「.日本人が〝タイソン〟と戦う」という一点において、30年以上前の〝バブルのお祭り〟とは全く違う価値を持っているのです。

商業的なインパクトが淵上や石田はもちろん、原田も亀田さえも遥かに凌駕しているばかりか、その舞台に上がる最低限の条件をクリアした日本人が存在してくれたからこそ実現したのが「日本史上最大の戦い」なのです。

10年前。日本が初めて手にした、人気階級での五輪金メダリストを、電通が音頭をとって多くの企業からスポンサーを募って神輿に担ぎ上げました。

このプロジェクトチームの最終目標は、世界ミドル級のメジャーな王者に挑戦するまで、です。

それは、世界初挑戦時に交渉されたビリー・ジョー・サンダースでも、実際に挑戦したアッサン・エンダムでもありません。

また、ジャモール・チャーロやデメトリアス・アンドラーデのような、人気階級の地味な王者でもありません。

具体的には、圧倒的なKO勝利を重ねてPFPキングに登り詰めたゲンナジー・ゴロフキンか、現在のボクシングシーンで人気の頂点に立つカネロ・アルバレスです。
IMG_2706 (1)
IMG_3384 (1)
陣営はこの2人と並行に交渉を進め、2020年にはカネロと「12月に東京ドーム」が成立寸前に迫り、カネロも日本での村田戦への興味を口にします。

プロジェクトチームが目指したのは、正真正銘の人気階級に、然るべき日本代表をぶつけることでした。

人気階級での然るべき日本代表…。そんな夢みたいな日本人が。2012年のロンドンに出現したのです。

帝拳と電通はヒト・モノ・カネ、あらゆる投資を惜しまず、ついに神輿を約束の場所まで運び込みました。

プロジェクトチームは、最終目標に辿り着きました。

ただでさえ、至難の事業に、パンデミックまで重なる不運に見舞われながらも目標を完徹した、そのご尽力とご苦労には、一ボクシングファンとして、尊敬と感謝しかありません。

今の時点で、彼らと、私たちボクシングファンは既に勝利を手にしました。

しかし、彼らの、いいえ私たち日本のボクシングファンの夢は、この最終目標の先にあります。

帝拳がどんなに強力なネットワークを持つプロモーターでも、電通が世界屈指の広告代理店でも、ここから先は指一本手出しは出来ません。

あとは、日本ボクシング史上最強ボクサーの二つの拳に全てを委ねるしかありません。

私たちが願いを賭けた160パウンダーの日本人が、神輿を降りてその舞台に上がるまで、あと2日になりました。
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

村田諒太とゲンナジー・ゴロフキンをペーパー上で審査すると、アマチュア時代に五輪で獲得したメダルの色だけで村田が上回っているものの、プロでの実績には雲泥の差があります。

世界戦での成績を並べても村田は6戦4勝4KO2敗、GGGは 25戦23勝20KO1敗1分。

GGGが勝てなかった2試合(1敗1分)は、現在PFPキングに君臨するカネロ・アルバレスとのいずれも議論を呼ぶクロスゲームでした。

GGGのプロ43戦(41勝36KO)のキャリアを振り返ると、一つのターニングポイントがあることに気付きます。

2016年9月10日のケル・ブルック戦です。

ウェルター級から二階級上げてきたブルックのスピードに戸惑いながらも、5ラウンドで英国人の野望を破壊しました。

とはいえ、小さく非力なブルックに4ラウンドまでポイントでリードを許した姿からは、反応の鈍化がはっきり感じ取れました。

翌2017年3月18日のダニエル・ジェイコブス戦は、それまで強豪が対戦を回避して来たこともあり、GGGはどれだけ強いのか?を測るテストマッチとなります。

ジェイコブスが意図的に体重超過を犯すハンデはあったとはいえ、第4ラウンドにダウンを奪った後のGGGは大きなジェイコブスのパワーを持て余し、尻すぼみの判定決着に持ち込まれてしまいます。

ウィルフレド・ゴメスと並んでいた連続KO防衛の記録も、17でストップ。この試合で〝魔法のガウン〟は、確かにはだけました。

ブルックのスピード、ジェイコブスのパワーに綻びを見せたGGGは34歳になっていました。

衰えが噴出する年齢ではありませんでしたが、弱い挑戦者を安易にノックアウトしてきたツケを支払うにはけして若くはない年齢です。

GGGの劣化を待っていたハイエナたちがにわかに色めき出します。
FINAL-page-002-738x1024
そして「GGG、衰えたり」の診断書を確認したゴールデンボーイ・プロモーションズは、カネロ・アルバレスにGOサインを出します。

大方の見立てはGGGのストップ勝ちでしたが、この試合も判定に持ち込まれます。そして、勝利は動かないと思われた内容は、まさかの三者三様・スプリットドロー。

カネロを支持したアダレイド・バードはあろうことか118-110とスコア、大きな議論を巻き起こします。

翌2018年5月にはブランクの空いたジュニアミドル級、バーネス・マーティロシュヤンを2ラウンドで粉砕するも、9月のカネロ戦ではキャリア初のアウトボクシングを強いられ、2-0のマジョリティディジションで競り負けてしまいます。

「GGGは雑魚相手に派手に勝ってただけじゃないのか?」という疑問は、2019年10月にセルゲイ・デレビャンチェンコになんとか勝ちを拾った時点で、もはや疑問ではなくなりました。

もちろん強豪王者ですが、誰に勝ったのか?となると…。

そして、2020年に38歳になったGGGは、カミル・シュレメタを倒すのに7ラウンドを要してしまいます。

シュレメタがエマヌエル・ブランダムラやスティーブン・バトラーらと同じ、世界基準とはステージが違うリーグ所属のミドル級であることは、誰も否定できないでしょう。

ブルック戦からのGGGは8戦6勝4KO1敗1分。KO出来たのはブルック、マーティロシュヤン、スティーブ・ロールス、シュメルタといったミドル級の〝マイナーリーガー〟です。

村田の世界戦4勝4KO2敗は、現時点のGGGとの比較では悲観するものではありません。

もちろん、村田はカネロと24ラウンド戦っていませんが、ゴロフキンはかつてのゴロフキンではありません。

今のGGGはアルファベット団体御用達の世界ランカーはKO出来ても、リング誌やESPNなどに名前を連ねるまともな世界ランカー相手では苦戦する…そう考えるのが自然です。

下り坂を迎えたキャリアで、GGGが迎えるのは、階級最強の1人ではないかもしれませんが、階級屈指の強打者で、マイナーリーガーとは違う村田諒太です。

そして、この試合は村田がプロ転向したときから目指していた、日本ボクシング界の夢です。

ゴロフキン陣営がこの試合が簡単ではないこと、万が一でも落とすようなことがあると、9月17日のカネロ戦が御破算になることを十分に理解しているはずです。

ゴロフキンもまた、油断のならない大勝負だと覚悟して仕上げてくるのは間違いありません。

日本史上最大の勝負まで、あと3日!
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

IMG_7019
昨夜、放送された「映像の世紀バタフライエフェクト」をNHKの配信サービスで見直しながらお昼ご飯。

秀逸なドキュメンタリーの新章、その第1回にモハメド・アリが選ばれたことはボクシングファンは静かな喜びでした。

番組テーマは「蝶の羽ばたきのような、ひとりひとりのささやかな営みが、いかに連鎖し、世界を動かしていくのか?」?

アリの行動を「ささやか」というには少し無理がありますが、アリの羽ばたきにマイノリティが呼応し、米国史上初の黒人大統領を生み出すまでに世界を変えたのは紛れもない事実です。
スクリーンショット 2022-03-03 20.39.42
4日後に迫った「村田諒太vsゲンナジー・ゴロフキン」のメガファイトからも、私たちはこの試合が何を意味しているのかをしっかり受け止めなければなりません。

村田諒太という突然変異が五輪のミドル級という、プロのアルファベット王者になるよりも遥かに難しいハードルをクリアし、世界的な人気階級で大きな爪痕を残すために大企業がプロジェクトチームまで立ち上げて重厚にサポート。

そして、主役の村田が勝利を収めるということを除いて、ついに彼らのミッションは達成されました。

これが「日本ボクシング史上最大の戦い」の経緯書ですが、これを「もう日本では見ることが出来ない」と喜ぶだけでは、未来は何も変わりません。

この試合は、ささやかなButterfly Effect ではありません。Deep Impact として受け止めて、未来につなげなければなりません。

井上尚弥や井岡一翔と、村田諒太との違いは何なのか?

「五輪に出れなかった組」と、「金メダリスト」の差だけではありません。むしろ、それは瑣末なことです。

ジュニアバンタム級やバンタム級と、ミドル級の差です。それだけが全て…そう言い切っても、全く過言ではありません。

残酷な物言いになってしまいますが「小さな体で生まれた時点でボクサーとしては不幸」(ファン・フランシスコ・エストラーダ)、「もしミドル級で同じことをやっていたら住む家も乗る車も何もかもが違った」(カリド・ヤファイ)ということです。

井上や井岡が五輪出場を逃したのは、問題の本質ではないのです。

ヤファイが言うまでもなく、彼らがジュニアバンタム級やバンタム級でやっていることを、ミドル級でもやればボクシング界に大きな衝撃を与えることができます。

ソフトボールのトップ選手とMLB選手が同列に語れないようなものです。五輪では統括団体が同じでも、全く違う世界なのです。

しかし、日本のメディアと、帝拳や大橋ジムなどの興行主は「軽量級でもラスベガスでメガファイトがある」と嘘を垂れ流してきました。

「MGMグランドガーデンアリーナで高額のPPVイベント、ファイトマネー20億円」なんて、ライト級以下の軽量級ではありえません。

4月9日のメガファイトで、フライ級やバンタム級ではラスベガスやニューヨークでメガファイトなどあり得ないこと、もし世界(世界を米国だとするなら)に本気で衝撃を与えたいなら、ミドル級やウェルター級などの人気階級でなければならないこと、がもっと伝われば、これからボクシングに取り組む若い人たちの目線も下ではなく、上を向くと思います。

遠くない未来、井上のような才能が複数階級制覇を意識して無理やりジュニアフライ級から世界を狙うなんてことがなくなり、肉や骨を削るような減量をせずに、強い肉体を作り上げて、カネも注目度も高い「上」のクラスで勝負するようになれば最高です。

何度も書いていますが、無理やりの減量は新陳代謝の劣化を早め、成人しているにもかかわらず、肉体は大きくなろうとする歪な生理に陥ってしまいます。

「減量がキツイなんて人に言ったらダメ。なんでそんなキツイ減量してるのかっていったら、ちょっとでも弱い相手と戦うためでしょ」(渡辺二郎)というのは、不人気階級が寄せ集まる軽量級で特に顕著です。

「減量って結局は弱いヤツと戦えるからやってる。あんまりカッコいとは思わない」(石井慧)という観点が必要です。

無理やり減量で層の薄いクラスを狙うのをやめてしまうと「世界王者の数は減るし、人気階級狙いなんてチャンスもなかなか回って来ない」というかもしれませんが、そもそも世界チャンピオンなんてそんなに沢山いたらおかしいし、チャンスがあちこちに転がってる方がおかしいのです。

もちろん、ストロー級がベストウエイトの選手は5階級制覇してもまだ不人気クラスのバンタム級ですが、そこは日本のマーケットが受け入れます。

もちろん、ラスベガスやニューヨーク、ロンドンでメガファイトが繰り広げられるヘビー級やミドル級などの人気階級とは報酬が違いますが。

それが嫌なら、スタート階級で「少しでも下」という従来の発想とは真逆の「少しでも上」を目指すしかありません。

土曜日の試合が「バンタム級だけどラスベガスでメガファイト」なんて嘘はもう通用しない、そんなキッカケにもなればいいのですが…。
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

ウィリアムルのオッズはゲンナジー・ゴロフキンが2/11(1.18倍)、村田諒太が7/2(4.5倍)。 

日本が誇る金メダリストが明白なアンダードッグです。



スクリーンショット 2022-04-04 19.35.35
【リング誌のインタビュー】↑↑↑ Triple Gが2001年の東アジア大会(大阪)からずっと日本に好印象を持っていたこと、村田との試合は「簡単な戦いにはならない」と覚悟していることなどを語っています。

「日本ボクシング史上最大の戦い」は、海外メディアやファンの間でも注目されています。

そこには「36歳の村田は28ヶ月、39歳のゴロフキンは16ヶ月もブランクを作った。それなのに2人ともタイトルを剥奪されないのはおかしい。ジャモール・チャーロやデメトリアス・アンドラーデの方が強い」という皮肉を込めた声も少なくありません。

村田は日本人、ゴロフキンはカネロ3を控えた商品価値が非常に高いファイターです。2人からタイトル剥奪して人気のない米国黒人にチャンスを与える意味は全くありません。

それが、プロボクシングのシステムです。

村田とチャーロやアンドラーデらとの違いは生まれた国だけではありません。彼らも五輪で金メダルの一つでも獲っていたら、米国でもっと注目されててスターとして扱われたのでしょうが、可哀想にカスリもしませんでした。

カシアス・クレイやシュガー・レイ・レナード、オスカー・デラホーヤ、村田諒太らとジャモールやアンドラーデは同じリーグではないのです。

スクリーンショット 2021-05-10 0.06.51

現在のボクシングシーンの中心は、カネロ・アルバレスです。カネロとの物語を持つゴロフキンもチャーロやアンドラーデとは別格の価値を持っています。

ゴロフキンは「具体的には何も決定していない」と否定していますが9月17日で内定されているいわれるカネロとの第3戦は、村田に勝つのが最低条件。

今週の金曜日、試合前日に40歳の誕生日を迎えるゴロフキンはすでに、劣化の綻びをいくつか見せています。

もし、村田に圧勝してもカネロ戦は明白なアンダードッグ、劣化といきなりのスーパーミドル級での試合でゴロフキンの惨敗を予想している専門家も少なくありません。

「ミドル級の五輪金メダリスト」という巨大な商業価値を看板に、メガファイトまで辿り着いた村田。

「不遇のカザフスタン人」からカネロとの因縁から大きな商品価値を手に入れたゴロフキン。

村田はカネロ戦について「全く興味がない」と明言しました。「ゴロフキンはクリーンな状態でここまで来た。そこもリスペクトする理由の一つ。カネだけ持って人気があれば、何でも許される感覚がボクシング界にある。ドーピングしたって半年で許されてしまう。ファイトマネーが高額な選手に統括団体が歩み寄っていくことが、僕は基本的に好きじゃない。ボクシングの為にもならない」。

スクリーンショット 2018-09-15 11.14.18

ゴロフキンも「禁止物質を飼料にしている牛肉を食べたで許されるなら、ドーピング検査は要らない。プロボクシングは腐っている」「第3戦はマストやハブ・トゥ(やらなければならない仕事)ではない。カネロの事ばかり聞かれるが、彼はライバルの一人に過ぎない。私のキャリアの全てであるわけもない」と、嫌悪感をあらわにしてきました。

「五輪メダリスト」 という純粋なスポーツの世界で頂点に立った2人にとって、ボクシング界は不条理と理不尽が渦巻く魔宮に見えるでしょうが、それが現実です。

そして、そこを支配する魔王が世界を睥睨しているのです。

4月9日のメガファイトにはIBFとWBAのアルファベットタイトルがステイクされていますが、この試合に賭けられた最も大きなものは、魔王への挑戦権だと思います。

「カネと人気があればドーピングでも許される」。

そんなの絶対におかしい。

キャッチウェイトや当日のリバウンド制限、対戦相手が「選んでくれて感謝する」とお礼を言う倒錯のメガファイト。

村田とゴロフキンの気持ちは、理解できます。
スクリーンショット 2018-09-15 11.13.39



しかし…。

カネロを非難し、唾棄するなら俺にだって出来る。俺にだって言葉を話す口があるし、吐く唾もある。

でも、悲しいかな、カネロを倒す拳がない。

「興味がない」なんて、言ってくれるな。

プロボクシングが腐っているなんて、誰でも知ってる。

でも、ファンはどうしようもないんだ。僕らの拳じゃ、カネロは倒せない。


試合が終わったら、勝利者インタビューで宣戦布告してくれ。

カネロ・アルバレスに宣戦布告してくれ。
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

ゲンナジー・ゴロフキンvs村田諒太。

「日本ボクシング史上最大の戦い」という文字があちこちのメディアで踊っています。

間違いありません。

日本史上最大の戦い、です。

それにしても、矛盾に満ちたメガファイトです。

まず、両者のフレームの違い。村田の右は長距離砲の性格も秘めていますが、根本的に距離を潰すファイターです。

一方、村田よりもサイズが小さいGGGはジャブを起点に自分の距離をキープして戦うのが基本ライン。

大きな村田が距離を潰しにかかり、小さなGGGがそれをさせまいとする、フレーム的には矛盾のある戦いが繰り広げられるはずです。
スクリーンショット 2022-04-02 13.34.27
更に、この試合そのものが大きな矛盾を抱えています。プロボクサーとして遥かに格上のGGGが、アウエーの日本のリングに引っ張り上げられるのです。

GGGに挑む日本人は村田で3人目ですが、淵上誠も石田順裕も日本でGGGと戦うなんて、ツユほども考えられませんでした。

つまり、この試合のAサイドは村田。ところが、オッズも戦前予想もBサイドのGGGに大きく傾いている、という倒錯。

例えば、マニー・パッキャオが、フロイド・メイウェザー戦のマニラ開催を画策するなんてありえません。

ゴロフキンが、カネロ戦を母国カザフスタンのカラガンダで戦うなんてこともあり得ません。

村田と、パッキャオやゴロフキンとの決定的な違いは五輪で金メダルを獲ったかどうか、ではありません。

村田はフィリピン人でもカザフスタン人でもない、日本人だという一点、それが決定的な違いです。

もし、パッキャオが日本人ならメイウェザー戦を東京ドームに引っ張り込んだかもしれません。

そうでなくとも、彼が手がけたメガファイトのいくつかは日本で挙行されていたはずです。

ひたすら誠実にプロボクサーという職業を追求した本物のチャンピオンが、アウエーのリングに引っ張り込まれるのです。

そんなことは、日本のファンだって百も承知です。

また、GGGも村田が、ポーランド人のカミル・シュメレタらと全く違う、自分を引っ張り込むだけのマネーとコネクションを持つ〝大金持ちのお坊ちゃん〟であることをはっきり理解しているはずです。

そして、だからこそ油断のならない相手だということも。


4月9日、5日後のさいたまスーパーアリーナ。

パイレーツ・オブ・カリビアンのメロディが場内に流れると大声援が巻き起こるでしょう。

そのあと、セブンネーション・アーミーの旋律を聞いた巨大アリーナには尊敬と畏怖の拍手が響きわたるはずです。


そして、お断りしておかなければならないのは、この試合が「日本史上最大の戦い」であることは間違いありませんが、これは9月にも更新されるかもしれないということです。

わずか5ヶ月だけ看板を出す「日本史上最大の戦い」です。

たっぷり楽しみましょう。
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

大番狂わせ。

その類型は、①グレートの経年劣化、②過大評価、③一発の交通事故、④相性、⑤純正本物の番狂わせ、の四つに大別できます。
スクリーンショット 2020-06-03 23.52.21
  お前が消えて喜ぶ者にお前のオールを任せるな!


1970年から始まったリング誌の Upset of the year を例にすると…。

①「グレートの経年劣化」は、アリスの「チャンピオン」の世界です。

「マイケル・スピンクスvsラリー・ホームズ」(1985年)や「ウィリー・ワイズvsフリオ・セサール・チャベス」(1999年)、「ソニー・ボーイ・ハロvsポンサクレック・ウォンジョンカム」(2012年)、「サダム・アリvsミゲール・コット」(2017年)…。

それは一つの時代が終わりを告げる、惜別の番狂わせです。


②の「過大評価」は「ロイド・ハニーガンvsドン・カリー」(1986年)、「マルコス・マイダナvsエイドリアン・ブローナー」(2013年)、「ジョージ・カンボソスvsテオフィモ・ロペス」(2022年)など。

そもそも過大評価だったボクサーの初黒星、結果論ですが、そこまで強いファイターではなかったということです。


③は、いわゆるパンチャーズチャンス。

「ハシム・ラクマンvsレノックス・ルイス」(2001年)、「コリー・サンダースvsウラジミル・クリチコ」(2003年)、「ファン・カルロス・サルガドvsホルヘ・リナレス」(2009年)など。

「石田順裕vsジェームス・カークランド」(2011年)は②と③の色味を帯びているかもしれません。


④の相性も、番狂わせを起こす撃鉄の一つです。

「ケン・ノートンvsモハメド・アリ」(1973年)、「アイラン・バークレーvsトーマス・ハーンズ」(1988年)などが典型。

リング誌の Upset of the yearには選ばれませんでしたが「ファン・マヌエル・マルケスvsマニー・パッキャオ第4戦」も、この撃鉄がついに引絞られた決闘でした。


そして、カリスマが演出したドラマティックなアップセットが、⑤純正本物の番狂わせ、です。

「モハメド・アリvsジョージ・フォアマン」(1974年)、「シュガー・レイ・レナードvsマービン・ハグラー」(1987年)。

リング誌の Upset of the yearには選ばれてませんが、「輪島功一vs 柳済斗」(1976年)、「辰吉丈一郎vsシリモンコン・ナコントンパークビュー」(1997年)も、この偉大な大番狂わせにカテゴライズされるべきでしょう。

この賞が存在していなかった1970年以前でも、やはり選ばれていない「カシアス・クレイvsソニー・リストン」(1964年)がこの系譜になります。


さて、4月9日。

さいたまスーパーアリーナから世界に「Upset」のニュースが駆け巡るとすると、①③④の複合的番狂わせになるのでしょうか。
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

スクリーンショット 2022-04-02 13.34.27
さて、いよいよ一週間後に迫りました。

大方の予想は「トリプルGが明白に有利」ですが、波乱が起きる要素は数え切れません。

「村田の完全ホームでの開催」「最近の試合内容は村田が上」「40歳のゴロフキンがどこまで以前の状態なのか」「両者にとってキャリア最強のパンチャー」「経年劣化はゴロフキンの方が深刻」。

もちろん、KOでも判定でも、勝利のオプションが多いのはゴロフキンです。

しかし「第1ラウンドから勝負だと思っている」という覚悟の村田は、早い段階でゴロフキンを打撃戦に引きずり込もうとするでしょう。

強靭なフィジカルを持つビッグパンチャーの激突です。

マービン・ハグラーがトーマス・ハーンズに仕掛けたように、ゴロフキンが先に襲いかかる展開も十分予想できます。

プロアマ通じて一度のダウンも経験していないゴロフキンに、プロではやはり一度も倒れていない村田。

50:50の戦争です。

すでに決定済みの勝者は「日本のボクシングファン」だけ。どちらが勝つのか、スペクタクルな打撃戦になるのは間違いありません。

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

↑このページのトップヘ