10月25日、全日本大学女子駅伝対校選手権大会が宮城県・仙台市で行われ、名城大学が3年ぶり9度目の優勝を大会新記録で飾りました。

この10年間で8回目の優勝ながら、一昨年(立命大)、昨年(城西大)と王座から2年遠ざかっていた女王たちの帰還。

来年から女子駅伝へ本格参入する青学大について、名城大の米田勝朗監督は「大学女子駅伝の注目度が高まる。それはそれでいいこと。でも簡単に勝たせたらダメ」「いい結果が出したら、我々の指導方針が間違ってましたって素直に認める。そうでなければ、やっぱり男子と女子の指導は違うってなる」と負けじ魂を剥き出しにしました。


青学大は2027年秋の今大会での「初出場、初優勝」を目標に掲げています。男子駅伝チームと兼任で女子を率いる原晋監督は「女性が自分の意志で走っていない」と既存の指導法に疑問を示し、男子で培ったノウハウをいかし、男女合同での練習で強化を進めています。

これは「指導方法の対決」というだけの構図ではありません。

女子駅伝という注目度が低くまだ競争が過熱していない市場に、全国区のブランド大学が資金力を背景に参戦する、スポーツ産業革命の開幕です。

名城大もコメダ珈琲店がユニフォームロゴのスポンサー契約、合宿に差し入れをするなど地元企業からのサポートを受けています。

それでも、女子大学駅伝に大学スポーツの産業革命が巻き起こっている箱根駅伝の〝帝国〟青学大が侵攻するなら、既存の強豪校はひとたまりもありません。

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箱根駅伝の2020年代は2部校が半数を占める〝異常事態〟に。


箱根駅伝は1980年代は順天堂、早稲田、日体大、陸上競技1部校が優勝する〝健康〟な状況でしたが、90年代に入ると山梨学院大学、神奈川大学の新興勢力が合わせて5度優勝。00年代には伝統校ながらオールラウンドの陸上競技ではなく長距離特化型の駒大が4連覇を含む5度の優勝。

2010年代は〝健康〟1部校でも伝統長距離特化型でもない、資金力とブランド力で突然変異的に強大化した青学大が4連覇と席捲。青学大以外の優勝校は駒大だけで、まだ〝健康〟1部校は優勝できていません。

箱根駅伝は関東ローカル大会ですが、他の地域ブロックでこんな狂気の倒錯は起こり得ません(2部があるのは関東と関西だけですが)。

また、2023年から4年連続で本戦出場を果たした立教大学は2018年に「立教箱根駅伝2024」を立ち上げて目標年を1年前倒しで本戦出場。資金投資と大学ブランドが大きな力を発揮しました。

その立教でも今年は予選会突破を阻まれ、競争が激化し続けている現実を突きつけられました。


男子と比較すると、ブルーオーシャンの女子駅伝。青学大の新規参入はレッドオーシャンへ向かうホイッスルです(青なのにレッドなのもアレですが)。

さて、その箱根駅伝。関東ローカルの大学大会にもかかわらず、2025年の年間視聴率は紅白歌合戦、MLB開幕戦(カブスvsドジャース)に続く、3位。関東ローカル大学大会が、東京2025世界陸上より上という事実が、スポーツ産業の実態を如実に表しています。

商業価値という点で、サッカーキリンチャレンジ 日本vsブラジルは全く歯が立たないのです。

箱根駅伝は予選会で敗退した大学にも企業がユニフォームロゴを提供、青学大の空気清浄機のエアドッグジャパン(早大ラグビー部などもスポンサード)なども含めると、米国との比較では規制だらけにも関わらず、日本テレビが支払う放映権料を除いても、大学側が手にする広告規模はすでに20億円を超えていると見られています。

箱根駅伝はこの30年で「健康的な学生スポーツの地方(関東)大会」から「全国大会を遥かに凌ぐ巨額のお金が動く地方大会」「新興大学が大量の資金を投下するブランド戦略」に大きく変質しました。

青学大は「箱根駅伝の新興大学」でしたが「すでに持っているブランド」を駆使して既存勢力を駆逐しました。


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KO大学⬆︎ちなみにこの赤煉瓦は偽物でタイル製です。


しかし、立教大の〝秒速〟予選突破を見るまでもなく、青学大のブランドはアグラをかけるほど高いものではありません。滑り止め校への入学金の二重払いが問題視される中で、来年度から入学金を20万円から8万円に一気に減らす(授業料の値上げで相殺)青学大もまた、滑り止め校の性格が色濃い大学です。

今年の箱根駅伝予選会。滑り止め校の色彩が薄い慶大で、9月初旬からチームに加わったケニア人留学生、ロソ・クリントンレマションが出走しました。結果は個人371位の1時間8分31秒。〝助っ人外国人〟とは呼べない成績ですが、スポーツ推薦を一切しない慶大も箱根駅伝プロジェクトを立ち上げ、強化策を進めています。

現在の箱根駅伝予選突破レベルはスポーツ推薦なしで太刀打ちできるとは思えませんが、もし慶大が青学レベルの資金を投下すると勢力図は一変するでしょう。

スポーツ推薦枠が非常に狭い早大もまた、2020年から解禁されたスポンサーロゴを5年間採用してきませんでした。しかし、今季から大和証券とNTT docomo Businessと契約。推定3000万円以上のスポンサードを受けます。もし、早大がスポーツ推薦枠を緩和すると、青学帝国はあっけなく瓦解するのは確実です。

「スポンサー契約」に巨額のお金が動くのは当然として「スポーツ推薦」も同じです。新興大学の多くで指揮を執るのは大学職員や教員監督ではありません。年に2000万円以上の報酬を受け取るプロの監督です。

そして、高校スカウトでも高校の指導者に謝礼が渡されるのは当たり前です。選手本人も同じ。青学大に気持ちが傾いている高校生を、ブランド力のない大学が獲得する方法は一つだけ。ブランド力や卒業後の進路など青学に劣る部分を全て穴埋めしてお釣りが来ることを担保するしかありません。

そして、野球の名門高校と同様に箱根の強豪校でもスポーツ特待生にはランクがあります。Cは授業料免除・寮費免除。BはCに加えて月5万円の奨学金。Aは同じく月10万円。Sは同じく月15万円などです。

もちろんこれは、一例でAの上も存在します。今年、ある大学の〝彼ら〟と話す機会があったときにテレビでユニクロの初任給が37万円というニュースが流れて「うわ、負けそう」「いや、ボーナス入れたら負けてるよ」という声が上がりました。40万円近くもらっている学生ランナーも存在しているわけです。全く驚くことではありません。

このシリーズでも紹介しているようにNCAAではすでに「富の源泉」である学生アスリートに富を分配しています。人気のアメフトでは、高級車を乗り回す年収100万ドルを超える学生もいます。

優れた学生ランナーが高待遇を享受するのは当然です。

ただ、何の制限もなくなればブランド力や資源のある大学が〝悪の帝国〟を築くことになります。長らく箱根本戦から遠ざかっている国公立大学への門戸は永遠に閉じられるでしょう。

彼らが文武両道の純粋な学生アスリートではないこと、慶大を除く留学生のほぼ全員が〝助っ人外国人ランナー〟として来日していることは、誰もがわかっています。

日本政府が遅まきながら着手した「スポーツの産業化」とは、そういうことです。アマチュアでも稼げるところは稼いで、選手に還元しようということです。

いつまでもブラックボックス化するのではなく、箱根駅伝の財務状況も含めて透明化するのは喫緊の課題です。

先延ばしにしすぎると、競技そのものの存亡に関わる大きなスキャンダルに発展しかねません。