Breez is Nice!

今日はオッズと予想の話です。

さぁ、村田諒太vsアッサン・エンダム。もう、今週末です!待った無しです!

bet-at-home.comのオッズはエンダム勝利が2.25倍、村田勝利が1.62倍。WOWOWなどでよく使われる日本風にアレンジすると、アバウト5-2で村田が大きく有利というところでしょうか。ドローが24.00倍とやや低い数字になっていることからも、試合は判定までもつれ込むと見られています。

村田有利のオッズが出ることは予想通りとはいえ、日本のファンから見ると「そんな簡単な相手じゃないだろう」というのが実感でしょう。嬉しいんだけど、本当にそう思ってくれてるの?ってところです。

五輪金メダルの威光と、電通―フジテレビ、トップランクー帝拳という圧倒的なバックアップ体制も加味されたオッズ、地元判定の匂いをはっきり嗅ぎ取った上での数字であることは十分に理解しているつもりですが、いざいろんなブッカーが「村田有利」と打ち出してくると戸惑いを隠せません。

これも、シュガー・レイ・レナードや、オスカー・デラホーヤを授かったことのない国のボクシングファンが初めて体験する心地良い動揺、戸惑いなのかもしれません。

当たり前ですが、世界中の専門家もファンも、ブッカーも、村田がプロでは何一つ証明しないまま、ミドル級屈指の強豪と激突することを知っています。

それでも、プロフェッショナルの賭け屋が「村田有利」とオッズを叩いているのです。


【シュガー・レイ・レナード。五輪の金メダリストからスターダムに駆け上がった典型です。「村田とレナードを比べるか?気は確かか?」。そう思うのが当然です。レナードもベニテスに勝つまでは「よくも『シュガー・レイ』なんて厚かましい名前を名乗って恥ずかしくないのか」、そう揶揄され続けました。】

レナードがウィルフレド・ベニテスのウェルター級王座に挑戦するとき、5−1でレナードを支持するオッズに専門家は首を傾げました。「人気はここまでオッズを動かすのか」と。実際に、一方的なオッズに反して専門家予想は真っ二つに割れました。

ベニテスのディフェンスをレナードが突き破ることが出来るわけがない…そう言われると、誰も反論できないほどの技術を、プエルトリコの天才は確かに持っていました。

金メダルを取ったプライドは過小評価され過ぎ、レナードは相手が強ければ強いほどその真価を発揮する…モントリオールの輝きを目の当たりにしたファンにはレナードが躓くなんて想像も出来なかったでしょう。

金メダリストが必ずプロでも通用するとは限りません。しかし、本物の野獣にとって「温室」は「檻」とイコールです。何も知らないメディアやファンの凡庸な目には「温室」に見えたそれは、実は猛獣を解き放つまでの刹那のゲートなのかもしれないのです。

エンダムにとっては、相手は五輪の金メダリスト。しかも、その金メダリストの地元に引っ張り込まれたのです。昨年のリオ五輪にも出場したエンダムの、五輪への憧憬は私たちの想像をはるかに上回るものでしょう。そのメダルの価値、重みは、もしかしたらアフリカ大陸の辺境からやって来た天衣無縫のエンダムこそが、最もよく理解しているのかもしれません。

エンダムの立場からすると「倒さなければ勝てない」と考えるのが自然です。前戦でESPNの年間最高KO賞に輝く22秒の秒殺劇を演出したものの、決してエンジンのかかりが早い方ではないエンダムですが、1ラウンドから一気に攻め込んでくることも考えられます。

エンダムが広いリングの要求を通したのは、村田のプレッシャーをさばく空間を少しでも大きくしたいという思いであることは間違いありません。しかし、プロ入り以来、ずっと世界基準から大きく劣ったボクサーとしか対峙してこなかった村田にとって、最も注意しなければならないのは序盤でしょう。

エンダムのスピード、コンビネーションの滑らかさ、フェイントの狡猾さ。世界トップレベルのエンダムのパフォーマンスが、村田を最も困惑させるのは序盤です。五輪で金メダルを取ったボクサーの順応力が並外れていることは、カメルーン人もよく理解しているでしょう。エンダムにとって序盤は大きなチャンスです。

1ラウンドで攻勢をかけて、そこで村田にダメージを与えることが出来るのがベスト。そこで効果的なパンチを入れることが出来ずに、村田が得意の前進を始めたら、広いリングを目一杯使ってボクシングする。引き出しの多いエンダムは2段構え、3段構えで臨んでくるでしょう。

村田が様子見に時間を費やすであろう序盤はまだしも、賢明なエンダムは強烈な右を持っている日本人との正面衝突は徹底的に避けて、距離を作りたがるでしょう。デビッド・レミュー戦でもそうだったように。

しかし、もう皆さんよくご存知のように、このアフリカーナ、器用に見えて結構不用意にパンチを食うんです。えーー?っていうくらいに。倒せるときに倒すのは当然なんですが、何回倒しても安心できないという、わけのわからない吸収力を持っているのもこの漆黒のボクサー最大の恐るべき特徴なんですね。

ミドル級、それもピーター・クイリンやレミューのパンチなんて不用意にもらったら、普通なら命取りなはずなのに…なんで?。


【ボクシングマガジンも「距離を潰すこと」が勝利の鍵を握ると見ています。】

オッズは5−2。しかし、試合予想はもつれると思います。もちろん、圧倒して勝って欲しいですが。

もうあっちこっちのメディアで散々書き尽くされていることを、ここでも書いてしまうのは躊躇してしまいますが、5月20日、村田諒太が試されます。

海風の吹く初夏の有明コロシアムで、村田諒太が何者であるのかが、ついにわかるのです。

リング誌もESPNも凡戦の末に村田が小差判定で勝つ、そう見ています。現時点では、ゲンナディ・ゴロフキンやカネロ・アルバレスの脅威になるとは考えられていません。

夏祭りにはちょっと早いですが、ドドン!と打ち上げましょう。北米からもはっきり見える、どでかい花火を。

あのタフ過ぎるカメルーン人を相手にしたら、誰だって普通はぐずぐずの試合にしかなりません。

普通じゃないことを見せてやりましょう。

9月16日にゴロフキンかカネロ、勝った方がミドル級最強の称号を得るはずなんですが、そのメガファイトがミドル級最強決定戦じゃなく、準決勝になっちゃうってことを、この週末に東京から世界に知らしめましょう。

「ゴロフキン、カネロ!どっちが勝ってもいいけど、首を洗って待ってろよ!」
(贅沢言わせてもらうとカネロに勝って欲しいですね…カネロー!東京ドームを開けて待ってるぞ!)

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あと一週間を切りました。

今日は、日本のボクシング、村田諒太が、世界からどう見られているのか?

村田がプロ転向を表明、2013年のデビュー戦を圧巻の内容で勝利したことは、ネットはもちろん世界中のボクシングメディアで大きく報じられました。「金メダリスト、東洋太平洋王者を全く寄せ付けず」。もちろん、多くの記事で「ミドル級の東洋太平洋王者の実力は世界基準から大きく劣る」という事実もきっちり伝えられていましたが。

2014年2月にリング誌が村田を6ページに渡って特集しました。ざざっと超訳させていただきます。

【村田諒太は「あしたのジョー」ではない。】

『村田諒太:待ち受けるのは輝ける〝あした〟か?=五輪金メダリストは変わったルートを辿ってスターダムを目指す=』

日本のボクシング界は、非常に興味深いファンタジーに彩られてきた。

なんとそれは、パルプフィクション、〝マンガ〟だ。マンガがクール・ジャパンの代名詞であることは誰でも知っているが、クール・ジャパンと日本のボクシングはどうしても結びつかないだろう。しかし、これは事実なのだ。嘘だと思うなら、日本の友人に聞いてみるがいい。彼(彼女)は日本の世界王者の名前は一人も知らないだろうが、「あしたのジョー」は必ず知っているから。

矢吹丈〜1968年にコミック初版が出されてからTVアニメや映画、ビデオゲーム、あらゆるメディアで人気を博した「あしたのジョー」の主人公の名前だ。1990年には辰吉丈一郎というイミテーションまで登場、日本のリングで最大のスターとなった。

貧しい一匹狼のジョーが生きて行く場所は、リングの中にしか無かった。英国だろうが日本だろうが、フィラデルフィアから東京まで、世界中どこでもいつでも、ボクシングのテーマは変わらない。「ロッキー」がそうであるように「あしたのジョー」もまた、ボクシングの世界の共通言語なのだ。

どん底から這い上がった若者が、エリートの王者を叩きのめす。

そして、日本における矢吹丈の地位は、米国のロッキー・バルボアをはるかに凌駕する。日本に存在する「バンタム級への憧憬」は、ファイティング原田に起源すると思い込みがちだが、それは大きな勘違いだ。バンタムは矢吹丈の階級だから、日本人にとっては特別なのだ。

しかし、村田は「あしたのジョー」ではない。彼はどん底や、バンタム級とは対極に立っている人間だ。

ロンドン五輪で金メダル、それもミドル級で獲得した村田は、薄汚れた河川敷の粗末なバラック小屋のジムで練習などしない。彼のプロモートは世界最高(トップランク)と日本最高(帝拳)が共同で行っている。

ボブ・アラムは「村田はスーパースターの有力候補だ」と断言する。アラムに虚言癖があることは誰でも知っているが、それは彼の仕事の一部でもある。しかし、村田に関しては、いつもの大げさな言動だと片付けられない。トップランクの世界戦略において、村田が重要なプレイヤーであることは疑う余地もない。

ワシル・ロマチェンコやゾウ・シミン、アラムは多くの五輪の金メダリストを青田買いしているが、ボクシングの歴史とインフラが整った日本の金メダリストは他のメダリストとは商業的な可能性が全く違うのだ。

トップランクが最も魅力を感じている国は、経済界同様にもちろん、中国。しかし、この共産主義国は、毛沢東がボクシングを禁止した時代からまだ40年しか経っていない。

中国市場を開拓するのは、ゼロからのスタート。プールの無い国で、次代のマイケル・フェルプスを探すようなものだ。


【リング誌が日本人ボクサーの特集に何ページも割くことはありません。もちろん、村田が注目されるのは日本人だからではなく、「ミドル級の金メダリスト」だからですが。〜アマチュアとプロは違う。しかし、ただ一つ言えることは村田の右はすでにプロの世界レベルに達している。〜】

テキサスレンジャースのダルビッシュ有、ニューヨークヤンキース(当時)の鈴木一朗は、選手として貢献するだけでなく、無視できない額のジャパンマネーをチームにもたらしている。日本には野球のインフラが米国では信じられないほどに整っているからこそ、の現象だ。

ボクシングに関しても、野球ほどではないにしろ、インフラは十分に整っている。日本のスポーツファンは〝心の準備〟が出来ているのだ。村田がラスベガスのビッグファイトのリングに上がる時、日本の大企業が何社も広告を出し、惜しみない支援することは疑いようがない。

また、日本の歌謡曲やアイドルがアジアで圧倒的な人気を集めているように、村田の試合はアジアの大都市でもスムースに歓迎される可能性まである。

日本国内では村田はすでに、最高のスポーツセレブの一人だ。最も強力なTV局の一つ(フジテレビ)と、最も影響力のある広告代理店(電通)が村田が乗った神輿を担いでいるのだから、当然といえば当然だが、世界王者にもなっていないボクサーとしてはかつてなかった現象だ。

「村田以前」のボクサーは、ジムとの契約に縛られ、日本ボクシングコミッションは、自分たちの管理からはなれて海外で試合を行うことを好まない。世界で3番目の経済大国、日本はあらゆるビジネスで国内市場だけで完結できる。それはボクシングも同じで、日本人ボクサーは海外に出なくとも十分な報酬を受け取って来た。

アメリカで危険を冒して戦うよりも、東京のリングに上がる方が大きな報酬を受け取れるのだから当たり前の話である。どこの世界にハイリスク・ローリターンを選択する人間が存在するだろうか。このこともまた、この国のボクサーが海を渡らない大きな理由になっている。

日本で唯一(最も価値のある「モダン部門」)の殿堂入りボクサーで、あのエデル・ジョフレを倒したただ一人の男、ファイティング原田ですら海外で戦ったのはバンコクとロスアンゼルス、シドニーのわずか3度だけ。もし、偉大なジョフレが日本に行くことを拒んでいたら、原田の存在感はここまで大きなものではなかっただろう。

もし、ゲンナディ・ゴロフキンが日本人の軽量級選手なら、ベルトをクローゼットに隠して、世界的には無名のままだったはずだ。しかし、ゴロフキンは日本人ではなかった。軽量級だったとしても、ボクシングのインフラが整っていないカザフスタンにとどまる選択肢はなかった。ミドル級のカザフスタン人がボクシングを職業に選んだ時、もはや選択肢は一つしか無い。国境の外で戦うしか、生きる術は無いのだ。

【日本の中だけで戦うつもりはない。この階級で本物と認められるためには、世界の舞台で勝つしかないのは十分わかっている。】

村田は経済大国、日本に金メダルをもたらしたボクサーだが、信じられないことに、日本のコミッションはライトヘビー級のランクすら持っていない。ほとんど全てのボクサーは、軽量級なのだ。

どうしてそんな環境でミドル級の金メダリストが生まれたのか?その問いには誰も答えることは出来ない。「アジアでは時として神秘的なことが起きる」のだ。

つまり、日本人のスター選手としては考えられないことだが、村田は海を渡らなければその実力を証明することが出来ない。ミドル級の世界王者になって日本で試合が組めるとしたら、全く無名の挑戦者を呼ぶか、電通とフジテレビがスポンサーから今以上の金をかき集める以外に方法は無い。

村田はカザフスタン人ではない。最も恵まれた国の一つ、日本のプロボクサーだ。しかし、彼がミドル級であること、たったそれだけの事実でも、やはり選択肢は一つしか無い。国境を、海を越えて戦うしか、その職業を全うする手段が無いのだ。

村田がリングに向かう時、その背中には「パイレーツ・オブ・カリビアン」のテーマが流れる。その意図は明らかだ。〝自分の国〟を持たない村田は、海を越えて、敵国で富を略奪するしか無いのだ。

海外で戦うということは、日本の軽量級のスター選手が恩恵を授かる地元判定も期待できないということだ。海賊から自国選手を守るために、その逆の洗礼は受けるだろうが。

それでも、村田には軽量級選手では絶対に手にすることが出来ない、巨大で残酷なハイリスク・ハイリターンが待っている。

我々(米国)も海賊の侵略をやすやすと許すつもりなど毛頭無い。海賊は叩き返す。

ただし、海賊ではなく覇王であるなら話は別だ。ボクシングの世界は常に覇王の誕生を心待ちにしている。村田がマニー・パッキャオに次ぐ太平洋を越えてきた二人目の覇王なのか、それとも波打ち際で門前払いできるつまらない蛮族なのか。

…村田諒太の「明日はどっちだ?」。

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日本時間早朝の英国バーミンガム、バークレイカードアリーナ。

村中優は、12ラウンド通じて勇敢に攻め続けましたが、ジャッジは119-107が2人、残る1人は118-109。大差判定に散りました。私の拙い採点でも116-111、ヤファイの勝利に文句はありません。

村中は2ラウンドにダウンを奪われますが、スリップに見えました。まあ、パンチをもらってから滑ってるので、ダウンの判定に文句は言えませんが。

何よりこのリングはアウエーの中のアウエーです。スリップはダウンに、拮抗したラウンドは相手にポイントが振られる、それがアウエーなのです。


【計量後のフェイスオフ。完全アウエー、完全Bサイドの村中でしたが、敵地の雰囲気を十分楽しんでいるように見えました。】

後半に入るとヤファイは明らかに失速、思い通りにならない展開にイライラし出します。村中の左ボディが確実に効果をあげ始めています。疲弊したバーミンガムの英雄は6ラウンド、マウスピースを2度も吐き出してしまいます。

ヤファイもお返しとばかりにボディで応酬しますが、8ラウンドにあからさまなローブローで減点。

結果的には2人のジャッジはこの減点以外はヤファイの完封勝利、残る1人も村中が減点以外で取ったのは1ラウンドだけという判定でした。

ヤファイが村中の攻撃を受けてマウスピースを吐き出したのは、2回ともどう見ても試合を中断させるための故意に見えましたが、主審は減点どころか、注意もしません。

解説でも「(マウスピースをはめる時間で)ヤファイが休める」と安堵していましたが、露骨な反則ですね。

25勝のうちKOは8つしかない村中ではなく、井上尚弥のパンチなら序盤で試合を終わらせることができたでしょう。

試合後、ヤファイは「2ラウンドで両拳を痛めてしまい、そのあとは勝つことだけに専念した」とバツが悪そうに語り、プロモーターのエディ・ハーンは「今夜はいい勉強になった。もう1度 WBAタイトルを防衛したら、次は統一戦だ」と今後のヤファイの進路を明かしました。

現在のスーパーフライ級はWBAがヤファイ、WBCがローマン・ゴンザレスを大番狂わせで破ったシーサケット・ソールンビサイ、IBFがヘルウィン・アンカハス、そしてWBOは井上尚弥です。

【リング誌で3月の月間最高選手に選ばれたソールンビサイはロマゴンとの再戦など注目度が急上昇、英国に安く呼ぶことは難しそうです。】

ヤファイが英国を出て戦うことはないでしょうから、一番呼びやすいフィリピン人のアンカハスが統一戦のターゲットでしょうか。

井上でも正直、英国では戦いたくないですね。あんなジャッジが認められるなら、井上の攻撃も英国人に都合のいいように中断されるでしょう。

明白にラウンドを支配しないと、ポイントも全部持っていかれそうです。リナレス対クロラの第1戦も、判定が想像以上の小差であったことに、日本のファンは冷や汗をかきました。リング誌やESPNなど世界のメディアは「リナレスの大差判定勝ち。ジャッジは別の試合でも見ていたのだろう」とは書いてくれますが、判定の数字は変わりません。

倒さなければ勝てないとまでは言わないまでも、完全に支配しなければ負ける可能性があるのです。

それでも、あの舞台でヤファイをぶっ倒して欲しいですね。

軽量級選手にとっては、ラスベガスよりもO2アリーナやマンチェスターアリーナで英国のスター選手と戦う方がずっと華やかで、村中のような弱小ジムのボクサーにとっては報酬も日本でやる以上にもらえるはずです。

【アマ、プロ通じてヤファイは常に注目を浴びてきました。英国はもちろん米国でもその活躍は折に触れて紹介されています。この軽量級のスターを日本に呼ぶのは難しそうです。倒すなら敵地に乗り込むしかありません。〜リング誌2014年2月号から〜】

おそらく井上の場合は日本の方が報酬ははるかに高いでしょうから渡英する意味は少なくなりますが、中量級贔屓が甚だしいラスベガスで無名選手を相手にするよりも、軽量級でも熱狂する英国の大観衆の前で地元選手を痛烈に倒す方がワクワクします。

それにしても、村中選手、お疲れ様でした。2年前の日本タイトル戦で体重超過、秤の上でタイトルを失った時は「ボクシングやる資格なし」とも思いましたが、今朝はあんな敵地で敢然と戦う姿に清々しい勇気を見せていただきました。

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村田諒太の大勝負を一週間後に控えて、遠く英国で一人の日本人が圧倒的不利の予想の中、地元の英雄に挑みます。

WBA世界スーパーフライ級タイトルマッチ。カリド・ヤファイ対村中優。

この階級は、世界最強の呼び声高い我らが井上尚弥に、PFP1位から陥落したローマン・ゴンザレス、そのロマゴンを倒したシーサケット・ソールンビサイ、河野公平からタイトルを奪取したルイス・コンセプシオンら、日本でもお馴染みのタレントが揃っています。

井上のライバル王者とはいえ、ヤファイは日本ではほとんど無名。しかし、さすがボクシング沸騰の英国、今回の試合はO2アリーナ、マンチェスターアリーナに次ぐ英国3番目の規模を持つ室内競技場、バーミンガムのバークレイカードアリーナで開催されます。

【「バークレイカード」はネーミングライツで付けられた名前で、「ナショナル・インドア・アリーナ(国立室内競技場)」として英国民には親しまれています。ボクシングの興行なら1万5000人レベルで収容できるとのことですが、どれくらいの観客が詰めかけるのでしょうか。】

村中は25勝(8KO)2敗1分、ヤファイは21戦全勝14KOですが、戦績的には大きく見劣りしません。

しかし、地元のオッズは大きく傾いています。ヤファイの勝利はあろうことか1.02倍!村中勝利は11倍です。普通に考えたら誰がヤファイに賭けますか?でも、地元のファンは賭けるんですよね。それがスポーツブックと、株価の決定的な違いです。

ヤファイはバーミンガムで生まれ育った地元の英雄、2010年のヨーロッパ選手権モスクワ大会で銀メダル、2011年のアゼルバイジャン世界選手権ではラウシー・ウォーレンに敗れてベスト4とアマエリートでした。

この世界選手権では村田諒太がミドル級で銀メダルを獲得、翌年のロンドン五輪に弾みをつけました。

プロ入り後も、英連邦、IBFとWBAのインターコンチネンタルと地域タイトルをコレクション、無敗のまま昨年、体重超過のコンセプシオンを圧倒した末にWBA王座をもぎ取りました。バーミンガム出身の世界王者は、バンタム級のオーエン・モラン以来、なんと110年ぶりの快挙で、地元は相当に盛り上がったそうです。

今回の村中戦は「HOME COMING(英雄の凱旋)」と銘打たれ、スカイ・スポーツで英国全土に生中継されます。コンセプシオン戦も、ジョシュア対モリナのアンダーカードとしてマンチェスターアリーナで行われましたから、ずっとAサイドで戦ってきたスター候補ですね。


【軽量級の日本人の存在感は相当に大きいのですが、英国選手相手だと今やBサイドに回るのがデフォルトです。ヤファイの人気はまだまだ伸びそうですから、井上でも敵地に向かわなければならないかもしれません。】

ホルヘ・リナレスとアンソニー・クロラの2戦は、両者の実力を考えると、理不尽なまでにオッズはクロラに好意的だったように、今回の試合もオッズが反映しているのは現実の実力ではなく、英国ボクシングの沸点の高さでしかありません。

コンセプシオン戦を見てもヤファイのボクシングには怖さ、強さは、高い次元では感じ取ることはできません。現状では、凡庸な王者を英国が過大評価しているようにも見えます。井上を脅かす存在ではありません。

村中にもチャンスはあります。アリーナは360度ヤファイのサポーターで埋められ、アウェーの空気は半端じゃないでしょうが、リナレスがやったように英国ファンの酔いをスッキリ覚ましてやりましょう。

大ブーイングの中入場して、落胆で静まり返ったスタジアムを退場するのです。そして、控室で喜びを爆発させましょう。

村中ー!!ちぇすとーーッ!!

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ボクシングには、ミニマム級からヘビー級まで、17も階級があります。17まで細分化する必要などあるわけもなく、世界戦を量産することで承認料を稼ぎたい下劣なアルファベット団体と、一人でも多くの世界王者を作りたい興行側の歪んだ思惑が暴走し続けた結末です。

当然の帰結として、世界王者の地位は失墜、ボクシングそのものもニッチなスポーツに転落してしまいました。日本を見ても、世界王者の認知度の低さは悲惨なまでです。純粋想起で井上尚弥を認知している人は20%もいないでしょう。

ここ数年で、最も認知度の高かったボクサーは亀田兄弟が傑出していますが、彼らもボクシングのパフォーマンスが評価・注目されたわけではありません。厳しい言い方になりますがチンドン屋的な注目です。これがチンドン屋なら、人の耳目を引くことが仕事ですから、超一流、本当に素晴らしかったのですが、彼らはチンドン屋でなかったことが返す返す残念でなりません。


【ヘクター・カマチョはボクサーとしてはもちろん、人の耳目を引きつけることに関しても超一流でした。】

もちろん、ボクサーとしてもチンドン屋としてもお粗末な世界王者もいますから、彼らだけを糾弾するのは不公平です。先日も長兄は、その才能を遺憾なく発揮してくれました。ただし、それはあくまでもチンドン屋の才能を発揮しただけで、彼の言う「ボクシングの素晴らしさ」がどこまで伝わったかは疑問です。

リング誌のPFPランキングに日本人として初めて入った山中慎介と井上ですら、ボクシングの魅力を、一般のスポーツファンにも十分伝えることが出来ているか、となると極めて怪しいものがあります。ボクシングの世界王者っていうのはこれくらい凄い存在で、世界的な評価も高くて、報酬もサッカーや野球のようなメジャースポーツと比べても遜色がない…そいうことがわかってもらえると良いのですが、スーパーフライ級やバンタム級では世界的な注目度は低く、日本のリングが世界最大のマーケットというのが現実です。

井上がロマゴン戦の観戦で渡米した時、リングサイドでファンからサインを求められ驚いたというエピソードがありますが、そういうレベルです。

ボクシング全体が今やマニアのスポーツですが、中でも軽量級はマニアの中のマニアでないとまずニーズの無い階級です。

かつて、長谷川穂積が「尊敬するパッキャオのようにベガスに進出して一攫千金」と意気込んでいましたが、あれは本当に可哀想な妄想です。

確かにパッキャオはフェザー級で100万ドルファイターとスターの座を掴み取りました。それは不人気階級にもかかわらず、当時のフェザーには超弩級のスター選手3人も存在、覇権争いを繰り広げていたリングに、かませ犬として割って入り、3人とも撃破しちゃったからです。軽量級なのにスターが居並んでいたという奇跡の偶然と、そんな怪物たちを木っ端微塵にしてしまう異次元の実力がなければ、アメリカの土地で、軽量級のスター誕生なんて笑い話でしかありえません。

もし、長谷川vsフェルナンド・モンティエルが日本ではなく、ベガスで開催されていたら興行規模は惨めなものになっていたでしょう。あの試合も日本でやったからこそ、ビッグファイトたりえたのです。

また、西岡利晃のMGMメインイベントも極めて恥ずかしい虚飾でした。ラファエル・マルケスは一発殿堂もありうる軽量級屈指のスターでしたが、そのピークはとっくの昔に過ぎ去ったロートル。それでも、浜田剛史らは「今度は文句無しの強豪。西岡もさすがに不利予想を立てられるでしょうな」と語っていましたが、海外では圧倒的有利の予想で、周囲の引退勧告を振り切ってリングに上がるラファエルの健康を気遣う記事も少なくありませんでした。

そして「タイソンやデラホーヤ、メイウェザー、パッキャオが戦ったMGMのリングに西岡が立つ」という報道は正確ではありません。

西岡が立ったのは、同じカジノリゾートホテル内にある宴会場にこしらえたリングです。あの試合は「日本人初のMGMでメイン」という願望がまずありきで、それをなりふり構わず仕立て上げた下劣な虚構でした。さすがに、今ではWOWOWもMGMグランドアリーナの試合を放送するときに「ここは西岡さんも立ったあのMGMです」とは言わなくなりましたが。

大昔、福田健吾という、やはり亀田さん寄りのボクサーがいました。アイドル並みの人気で映画にも主演しました。「ウェルター」というタイトルの。そういう意味では、彼もまたボクシングの真実を図らずも伝えてくれました。「俺はフェザーだけど、一番かっこいいのはウェルター」ということを。

軽量級でラスベガスやアメリカの大舞台にメインイベンターとして立って100万ドルレベルの報酬を得られるのは、飛び抜けて人気のあるヒスパニックか、そのライバルを張れる英国人くらいです。日本のボクシング界も偽りのベガス妄想はもうそろそろ終わりにして、いかに日本で軽量級の大きな試合を継続可能な形で根付かせるかに注力するときです。その方が、軽量級には実体のないベガス妄想よりも、はるかにずっと夢があります。

もっと言えば、ベガスを始め欧米で強力なマーケットが確立されている中量級以上の階級よりも、「日本を真の意味でメッカにする」という道筋を模索できる軽量級の方が、興行的にははあるかに夢があるとも映ります。

村田諒太がよく語っている「ミドル級は美味しい階級。軽量級だとラスベガスで戦っても日本よりもファイトマネーが少ない」というのが真実です。あのパッキャオですら、1000万ドルを超える報酬を受け取り、ボクシング界の頂上を征服したのはウェルター級でした。

「日本人ボクサーにはベガスの夢は無い」のではなく、「日本人軽量級ボクサーにはベガスに夢はまず無い」のです。どうしてもベガスで目立ちたいのであれば、ライト級以上で超強豪をことごとく打ち負かすしか無いのです。

しかし、長谷川や西岡が妄想を膨らませてしまうのも無理はない魅力がラスベガスを始め、アメリカのメガファイトにふんだんに詰まっているのも、また事実です。

そして、その舞台は主にウェルター級とミドル級の選手によって彩られてきました。

そんなミドル級に、日本人が、自国の試合とはいえ、軽量級選手のようにAサイドで(暫定)王者を迎えるのです。

ボクシングの階級には、残念ながら貴賎があります。競技人口、注目度、報酬。メディアでも世界最大のESPNの階級ランキング10傑は、軽量級になるとベスト5までしか発表されません。

反論覚悟で言わせてもらうなら「日本が軽量級のメッカ」というのは、「ドブさらい」ということです。人気のない階級のメッカ、軽量級の人気選手は日本に関心がない。この現状を悔しいと思うなら、日本でメガファイトを、継続可能な形で根付かせることです。それができれば、これ以上に素晴らしいことはないでしょう。

話は逸れました。来週、村田が勝てば、長谷川らが勘違いするほどに煌びやかな中量級のリングに、日本人が上がる可能性があるのです。

ボクシングファンとしては興奮を抑えることなど、出来るわけがありません。

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