ボクシングには、ミニマム級からヘビー級まで、17も階級があります。17まで細分化する必要などあるわけもなく、世界戦を量産することで承認料を稼ぎたい下劣なアルファベット団体と、一人でも多くの世界王者を作りたい興行側の歪んだ思惑が暴走し続けた結末です。

当然の帰結として、世界王者の地位は失墜、ボクシングそのものもニッチなスポーツに転落してしまいました。日本を見ても、世界王者の認知度の低さは悲惨なまでです。純粋想起で井上尚弥を認知している人は20%もいないでしょう。

ここ数年で、最も認知度の高かったボクサーは亀田兄弟が傑出していますが、彼らもボクシングのパフォーマンスが評価・注目されたわけではありません。厳しい言い方になりますがチンドン屋的な注目です。これがチンドン屋なら、人の耳目を引くことが仕事ですから、超一流、本当に素晴らしかったのですが、彼らはチンドン屋でなかったことが返す返す残念でなりません。


【ヘクター・カマチョはボクサーとしてはもちろん、人の耳目を引きつけることに関しても超一流でした。】

もちろん、ボクサーとしてもチンドン屋としてもお粗末な世界王者もいますから、彼らだけを糾弾するのは不公平です。先日も長兄は、その才能を遺憾なく発揮してくれました。ただし、それはあくまでもチンドン屋の才能を発揮しただけで、彼の言う「ボクシングの素晴らしさ」がどこまで伝わったかは疑問です。

リング誌のPFPランキングに日本人として初めて入った山中慎介と井上ですら、ボクシングの魅力を、一般のスポーツファンにも十分伝えることが出来ているか、となると極めて怪しいものがあります。ボクシングの世界王者っていうのはこれくらい凄い存在で、世界的な評価も高くて、報酬もサッカーや野球のようなメジャースポーツと比べても遜色がない…そいうことがわかってもらえると良いのですが、スーパーフライ級やバンタム級では世界的な注目度は低く、日本のリングが世界最大のマーケットというのが現実です。

井上がロマゴン戦の観戦で渡米した時、リングサイドでファンからサインを求められ驚いたというエピソードがありますが、そういうレベルです。

ボクシング全体が今やマニアのスポーツですが、中でも軽量級はマニアの中のマニアでないとまずニーズの無い階級です。

かつて、長谷川穂積が「尊敬するパッキャオのようにベガスに進出して一攫千金」と意気込んでいましたが、あれは本当に可哀想な妄想です。

確かにパッキャオはフェザー級で100万ドルファイターとスターの座を掴み取りました。それは不人気階級にもかかわらず、当時のフェザーには超弩級のスター選手3人も存在、覇権争いを繰り広げていたリングに、かませ犬として割って入り、3人とも撃破しちゃったからです。軽量級なのにスターが居並んでいたという奇跡の偶然と、そんな怪物たちを木っ端微塵にしてしまう異次元の実力がなければ、アメリカの土地で、軽量級のスター誕生なんて笑い話でしかありえません。

もし、長谷川vsフェルナンド・モンティエルが日本ではなく、ベガスで開催されていたら興行規模は惨めなものになっていたでしょう。あの試合も日本でやったからこそ、ビッグファイトたりえたのです。

また、西岡利晃のMGMメインイベントも極めて恥ずかしい虚飾でした。ラファエル・マルケスは一発殿堂もありうる軽量級屈指のスターでしたが、そのピークはとっくの昔に過ぎ去ったロートル。それでも、浜田剛史らは「今度は文句無しの強豪。西岡もさすがに不利予想を立てられるでしょうな」と語っていましたが、海外では圧倒的有利の予想で、周囲の引退勧告を振り切ってリングに上がるラファエルの健康を気遣う記事も少なくありませんでした。

そして「タイソンやデラホーヤ、メイウェザー、パッキャオが戦ったMGMのリングに西岡が立つ」という報道は正確ではありません。

西岡が立ったのは、同じカジノリゾートホテル内にある宴会場にこしらえたリングです。あの試合は「日本人初のMGMでメイン」という願望がまずありきで、それをなりふり構わず仕立て上げた下劣な虚構でした。さすがに、今ではWOWOWもMGMグランドアリーナの試合を放送するときに「ここは西岡さんも立ったあのMGMです」とは言わなくなりましたが。

大昔、福田健吾という、やはり亀田さん寄りのボクサーがいました。アイドル並みの人気で映画にも主演しました。「ウェルター」というタイトルの。そういう意味では、彼もまたボクシングの真実を図らずも伝えてくれました。「俺はフェザーだけど、一番かっこいいのはウェルター」ということを。

軽量級でラスベガスやアメリカの大舞台にメインイベンターとして立って100万ドルレベルの報酬を得られるのは、飛び抜けて人気のあるヒスパニックか、そのライバルを張れる英国人くらいです。日本のボクシング界も偽りのベガス妄想はもうそろそろ終わりにして、いかに日本で軽量級の大きな試合を継続可能な形で根付かせるかに注力するときです。その方が、軽量級には実体のないベガス妄想よりも、はるかにずっと夢があります。

もっと言えば、ベガスを始め欧米で強力なマーケットが確立されている中量級以上の階級よりも、「日本を真の意味でメッカにする」という道筋を模索できる軽量級の方が、興行的にははあるかに夢があるとも映ります。

村田諒太がよく語っている「ミドル級は美味しい階級。軽量級だとラスベガスで戦っても日本よりもファイトマネーが少ない」というのが真実です。あのパッキャオですら、1000万ドルを超える報酬を受け取り、ボクシング界の頂上を征服したのはウェルター級でした。

「日本人ボクサーにはベガスの夢は無い」のではなく、「日本人軽量級ボクサーにはベガスに夢はまず無い」のです。どうしてもベガスで目立ちたいのであれば、ライト級以上で超強豪をことごとく打ち負かすしか無いのです。

しかし、長谷川や西岡が妄想を膨らませてしまうのも無理はない魅力がラスベガスを始め、アメリカのメガファイトにふんだんに詰まっているのも、また事実です。

そして、その舞台は主にウェルター級とミドル級の選手によって彩られてきました。

そんなミドル級に、日本人が、自国の試合とはいえ、軽量級選手のようにAサイドで(暫定)王者を迎えるのです。

ボクシングの階級には、残念ながら貴賎があります。競技人口、注目度、報酬。メディアでも世界最大のESPNの階級ランキング10傑は、軽量級になるとベスト5までしか発表されません。

反論覚悟で言わせてもらうなら「日本が軽量級のメッカ」というのは、「ドブさらい」ということです。人気のない階級のメッカ、軽量級の人気選手は日本に関心がない。この現状を悔しいと思うなら、日本でメガファイトを、継続可能な形で根付かせることです。それができれば、これ以上に素晴らしいことはないでしょう。

話は逸れました。来週、村田が勝てば、長谷川らが勘違いするほどに煌びやかな中量級のリングに、日本人が上がる可能性があるのです。

ボクシングファンとしては興奮を抑えることなど、出来るわけがありません。