カテゴリ: 茶番劇は茶番劇

【マイク・タイソンは引退後、大きな借金を背負い、困窮していました。しかし、そんな時ですら、日本をはじめ世界中のプロレス、格闘技関係者らから押し寄せる〝茶番劇〟へのプロポーズには「NO」と頑なに拒み続けました。その理由が「どんなに落ちぶれてもボクシングを冒涜することだけはしない」という高潔な決意だったのか、それとも「戦いの恐怖に震えることはもう絶対に嫌だ」という被虐の萎縮だったのか。何れにしても、引退後に暗黒の淵に沈むと誰もが確信していたタイソンは今、信じられないほど穏やかな毎日を送っています。リング上のタイソンは、仕方なく凶悪な偽りの仮面を被っていただけだったのかもしれません。】

さて、引退から2年経ったフロイド・メイウェザーと、(ボクシングと比較すると)新興のMMAで最も輝いている格闘家のコナー・マクレガーの、完全ボクシングルールでの一戦です。

欧米メディアの目は揃って「farce(茶番劇)」「bogus(インチキ、偽物)」と辛辣です。

メイウェザーはもちろん、マクレガーも単に目立ちたいだけ、しかもボクサーは楽に勝てるし、格闘家の方も負けても何も失わない。これほどのローリスク・ハイリターンの大興行は滅多にお目にかかれるもんじゃありません。

フロイド父も「マクレガーの練習風景をYouTubeで見たが、ジャブすら真っ直ぐ、まともに打てない。彼はジャブを打ってるつもりだろうが、押し出しも引きも恐ろしいほどに遅い。しかも遅いだけじゃなく、軌道がブレてしまっているから、キレも威力もない。誰に教わったらあんなに下手くそなジャブが打てるんだ?ボクシングルールなら、彼に負けるプロボクサーを探す方が難しいだろう」とこき下ろしています。

素人から見ても、確かにその通りです。しかも、MMAの遠い距離で戦うことに慣れているから、インサイドの打ち合いにはジャブ以上に未熟です。距離が詰まると、恐怖とパニックでマクレガーは目をつぶってしまうでしょう。

これは逆も同じです。もし、完全MMAルールで戦えば、ボクシングでは考えられない遠い距離から打ち込まれる強烈な蹴りと、見たこともない角度から突っ込んでくるタックルに、メイウェザーは全く何も出来ずにテイクダウンを奪われ、秒殺でしょう。

この試合が、ゲスな見世物以外の何物でもないことは間違いありません。そして、ボクシングにとっても、MMAにとっても、過去の〝異種格闘技戦〟同様に、中長期的には何の恩恵ももたらすことはないでしょう。

それどころか、ボクシングとMMAの健全な発展と、純粋なファンを貶めることにもなります。

巷間、言われているようにこの試合で大金を手にするマクレガーは、オクタゴンを降りて悠々自適の生活を選ぶでしょう。この試合が無ければ、彼は MMAのスーパースターとして、このスポーツの健全な発展にまだまだ寄与したはずです。そして、まだ若いこのスポーツにとってマクレガーの役割は非常に大きなものがあるはずでしたが…。

メイウェザーにしても、ゲンナディ・ゴロフキンとカネロ・アルバレスの大興行に嫉妬するのは彼の性格からしたら当然です。しかし、そのジェラシーはやはり健全な方向に向けられるべきです。つまり「3Gとカネロの勝った方と戦ってやる」と宣言したら、ボクシング界はもっと大きく盛り上がっていたはずです。

もちろん、前回紹介したようにモハメド・アリや、ロベルト・デュラン、ジャック・デンプシー、アーチー・ムーア、ロイ・ジョーンズといった超ビッグネームも茶番劇の舞台に上がりました。ジャック・ジョンソンやラリー・ホームズも、金に困って見世物になりました。超ビッグネームでなければ、レオン・スピンクスやトレバー・バービックらも日本のプロレスのリングに金のために上がりました。

何をしようが、それは個人の自由です。自分の名前、ブランドを使って効率的に金儲けをすることを批判できる人間などいないでしょう。金に困っていれば尚更です。他人からとやかく言われる筋合いはありません。

かつて、シュガー・レイ・ロビンソンは「奴らはコーヒーの一杯も振舞ってくれたことはない」とこぼしましたが、その言葉、「奴ら」はメディアだけじゃなくファンも指していました。記者は絶頂期には歯が浮くような提灯記事を羅列して、ファンはまるで神を崇めるように熱狂的に応援しますが、落ちぶれたら唾を吐いて、無視する…確かに、メディアとファンというのは残酷なまでに自分勝手です。

ただ、メイウェザーとマクレガーは、現状では金に困っていません。メイウェザーはもちろん、マクレガーもボクシング界最高収入を誇るカネロの倍近い報酬を手にしているのです。そんな、二人が、何も、今この時点で、互いが名前を成した恩のあるスポーツを後ろ足で蹴り飛ばすような行為をする必要が、どれほどあるのでしょうか。

9月16日の3Gとカネロ、今年最大のメガファイトの3週間足らず前に、同じTモバイル・アリーナで、下品な野次馬だけを刺激する見世物を行う意味が、どれほどあるのでしょうか。

米国メディアはもちろん、フランスAFP通信も「下劣な見世物は大衆受けするが、一晩だけの馬鹿騒ぎでしかない。冷静にスポーツの発展を願う人々に出来ること、やるべきことはチケットやPPVを買わないことだ」と断じています。

もちろん、私は8月26日、亀海喜寛vsミゲール・コットを生中継で見ます。しかし、メイウェザーvsマクレガーもどんなに凡戦の結果が分かっていても、録画を見てしまうでしょう。私も、結局は下劣な見世物が好きなんです。所詮は、みんな、野次馬なんです。

ただ、これだけは忘れてはいけません。

メイウェザーvsマクレガーは、誰もが否定できない下劣な見世物ということ。最高のアスリートがその競技の頂点を決めるべく、究極まで研磨した技術を惜しみなく交錯させる崇高な戦いではないということ。

このイベントが注目されているのは、下劣な興味、卑しい野次馬根性だけからであるということ。

この見世物には、スポーツとしての価値は全く無いということ。

麻雀日本一が、将棋ルールで羽生善治と対決するのと同じです。

とっくの昔にピークは過ぎて、二年間も引退していた元ボクサーと、全くボクシング経験がない格闘家が、完全ボクシングルールでぶつかる、何ともタチの悪いサーカスです。

亀田興毅がやったことと大きな違いはありません。興毅は「ボクシングの素晴らしさ、凄さを伝えたい」.と語っていましたが、あのバラエティからはそんなものは全く伝わりません。

本気でそう思ってたなら、現役時代にまともな強豪と戦えば良かったんです。散々、ボクシングの価値を貶めることをしておいて、よくもそんなセリフが吐けるものです。

もちろん、亀田は超一流のチンドン屋です。彼らが奏でる欺瞞の笛太鼓に踊らされるメディアや大衆が蒙昧なだけで、彼らはチンドン屋として一流の技術を披露しているだけです。

世界を騒がすか、日本を騒がすか、せいぜいその差ですね。ただ、ボクシングのメガファイトの邪魔をしなかった亀田の方がまだマシです。

メイウェザーが取りうるベストの選択は決してマクレガーなんかではなく、3Gとカネロの勝者、あるいはアンドレ・ウォードとの夢の対決です。そこには下劣な腐臭が入り込む余地はないのですが…。

マクレガーもそうです。まだまだ、これから地歩を固めて成長しなければならない若いスポーツであるMMAの発展のために、彼が出来る最高のパフォーマンスはオクタゴンの中にしかありえないはずなのですが…。

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世界王者のまま49勝無敗でグローブを外したロッキー・マルシアノ。その記録に並んでいるフロイド・メイウェザーが、今回のネバダ州体育協会公認のボクシングの試合(と言っても相手はボクシング経験ゼロのど素人、コナー・マクレガーです)に勝つと、この記録を更新することになります。

早速、腐敗の極み、WBCがこの試合の勝者に与える(購入してもらう)ベルトを用意すると動き出しました。何でもありですね、今度は何という名前のベルトでしょうか?

一方で、欧米のメディアはほぼ例外なく「the farce bout」(茶番劇)と、冷ややかに見ています。ボクサーが〝異種格闘技戦〟(今回の試合は完全なボクシングルールで行われるため純粋な意味では異種格闘技戦とは呼べませんが)に手を出す理由は、窮乏(手っ取り早く金が欲しい、金に困っている)か、華やかなリングへの郷愁・嫉妬(目立ちたい、もう一度スポットライトを浴びたい)のどちらかです。

メイウェザーの場合は、明らかに後者です。ボクシング界がさっさと自分のことを忘れて、ゲンナディ・ゴロフキンとカネロ・アルバレスの決戦に沸いているのが気に食わなかった、ということも大きいでしょうね。GGGとカネロの試合の前に、この茶番劇をセットしたことは、揺るがぬ証拠です。

今回は華やかな場所への郷愁と嫉妬からですが、メイウェザーといえども、将来は、前者の理由「窮乏」に追い込まれてリングに上がらざるをえなくなる日が来るかもしれません…来そうですね。

ただ、欧米のメディアは、日本同様にかなり差別的です。

ジェームズ・トニーが2010年にUFC118で、ランディ・クートァと戦った時は、今回同様に「ボクシングもMMAも汚す行為だ」と非難されました。確かに、タップの仕方も学ばずにオクタゴンに入って、1ラウンド一本負けというのはMMAに対しても、クートゥアに対しても失礼千万でした。

【ジェームズ・トニーは有り余る才能を持ちながらボクシングに全身全霊を傾けたことはなく、MMAに対してもその態度は舐めきっていました。=写真はリング誌「トニーは檻の中のライオンか?」:2010年7月22日より=】

一方で、ロベルト・デュランが1992年に船木誠勝と異種格闘技戦のリングに上がった時は、米国のメディアは「暴れん坊のパナマ人が、また羽目を外してる」と、伝説の愚行を楽しんでいるようですらありました。デュランも一年間何もせず鈍りきった肉体を、たったの3週間練習しただけ。トニー以上に舐めきっていたのですが、メディアはデュランには優しいんです。

また、モハメド・アリについては異種格闘技だけに限らず、あの偉人の言動に、世界のメディアは何度も手の平を返して来ました。猪木戦についても、1976年当時のメディアは非難轟々でした。

トニー同様、メディア受けが悪いメイウェザーの風当たりが強いのは仕方がないところです。同じことをやってもデュランは許されて、メイウェザーは許されない。

もちろん、「There ‘s really nothing wrong with what mayweather doing.(何をしようがメイウェザーの勝手、自由だ)」(リング誌2017年8月号)。偉大なボクサーが、過去の威光を利用して茶番劇の舞台に上がるのは珍しいことではありませんし、特に金に困ったらそうするのが最も効率的です、メディアに非難される筋合いはありません。

日本ではアリの茶番劇は猪木戦しか思い浮かびませんが、この偉大なお方は若い頃から羽目を外すのが大好きでした。

猪木戦に先立つこと5年、1971年にNBAのスター選手、ウィルト・チャンバーレインとの喧嘩マッチがヒューストンのアストロドームで行われることが決定していました。チャンバーレインが翻意したことで、この茶番劇は流れますが、アリはチャンバーレインを見るたびに「ティンバー(木偶の坊)!」と連呼して愚弄し続けました。

【猪木と戦った1976年はアリにとっては「キンシャサの奇跡」も起こし、「スリラー・イン・マニラ」の修羅場もかい潜り、心身ともに疲弊、倦怠していた時期でした。そんな時に世界各地で異種格闘技戦を同時開催、そのメインにcelebrated Budokan Hall(名誉ある格闘技の殿堂、武道館)のリングに上がってくれというプロポーズは、新しいもの好きで偏見のないアリにとっては魅力的すぎるものでした。=写真はリング誌2017年8月号から】

さらに、アリはアーチー・ムーアの〝先例〟も知っていました。1963年にプロレスラーのマイク・ディビアスと、ボクシングルールで対戦したムーアは、一方的にプロレスラーを殴り続けて3ラウンド20秒TKO勝ち。すでに47歳になっていたムーアは前年にカシアス・クレイに予告通りに4ラウンドで葬られていました。

そして、プロ219戦目!となったこのプロレスラーとの試合で引退します。

ムーアはプロレスラーと対戦することで注目を浴びて、もう一度、世界タイトルマッチを戦いたいと考えていましたが、会場となったアリゾナ州フェニックスの観客席は人影もまばらで、その夢は潰えてしまいました。

ちなみに、ディビアスはボクシング経験がなく、この試合がデビュー戦。とっくの昔にピークが過ぎた名ボクサーが、ボクシング経験ゼロの相手と、茶番の舞台に上がる。この構図は、今回のメイウェザー対マクレガーと同じです。


【アンドレ・ザ・ジャイアントが、映画「ロッキー」のモデルとしても有名なチャック・ウェップナーをリング外に叩き落としてKO勝ち。=リング誌2017年8月号から】

フェニックスといえば記憶に新しいのが、昨年の「ロイ・ジョーンズに勝ったら10万ドル」(日本でもどっかで聞いた気がしますね、金額までほぼ同じです)。

一般公募した素人がロイとボクシングルールで戦うという見世物でしたが、当たり前に2ラウンドKO勝ち。

この時の相手、バイロン・フィリップスは総合格闘家でしたが、アマチュアボクシングの経験もあり、ロイの大ファンでした。わずか2ヶ月余り前にエンゾ・マカリネリに痛烈なKO負けを喫しているロイに「あなたと戦えるなんて一生の思い出だ。でも、もう引退して下さい。アイドルが傷つけられるのを、これ以上見るのは辛いです」と嘆願したのですが…。

300万〜400万ドルの税金を滞納してしまっていると言われているロイの場合は「窮乏」から茶番劇の舞台に上がらざるをえないのでしょうが、全盛期を知っているファンからしたら、フィリップスでなくても「もう引退してくれ」と願ってしまいます。

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決まりましたね。フロイド・メイウェザーとコナー・マクレガーの「異種格闘技戦」。

「」で表現したのは、この対決が日本の格闘技ファンにはおなじみの異種格闘技戦ではなく、純粋なボクシングの試合ということです。

現役の王者、モハメド・アリがアントニオ・猪木と異種格闘技戦を戦ったことがありましたが、アリの(ボクサーの)キャリアに「Antonio Inoki」の名前はありません。エキビジション(渡辺二郎とカオサイ・ギャラクシーの一戦みたいなもの、というかそれ以下ですね)でしたから仕方ありません。

しかし、今回の戦いはボクシングの試合なのです。ライセンスを持った二人のボクサーが、154ポンドで戦う、普通のボクシングの試合なのです。

【リング誌8月号でもこの「異種格闘技戦」は「DARK COMEDY」(悪い冗談)と特集されていますが、これは日本のボクシングファンにとっては、さらに、本当に悪い冗談です。同じ日、8月最後の土曜日は、亀海喜寛vsミゲール・コットの決戦なんです!「どっちも茶番」と言われたらそれまでですが、いくらなんでも…。】

もっとわかりやすく言うと、この試合は「アリvs猪木」や「亀田vsド素人」(すみません、「アリと亀田」、「猪木とド素人」を同列に書いてしまいましたが、ここは見逃してください)とは、全く違うのです。

つまり、この試合は「ネバダ州が認定したボクシングの公式試合」になってしまうのです。

こんなのが成立してしまうのが、アメリカですね。

2008年のオスカー・デラホーヤ対マニー・パッキャオ。異種格闘技戦ではありませんが、多くの人は、この正気の沙汰じゃないマッチアップに戸惑い、フィリピンでは国会で「試合は中止にして無効にすべき」という議案が通るほどでしたが、あの試合はまだボクシングの試合でした。

ESPNは「ゲスな試合だが、興行はメガ、おそらくPPVは300万を超える(メイ対パッキャオに次ぐ2位)」と見てますが、この興行は失敗して欲しいですね、絶対に。

もし、ESPNが予想するように「どんな内容、結果に成っても、それは刹那の盛り上がり。中長期的にはボクシングにもMMAにも好影響はない」とはいえ、味をしめたゲスが、こういうゲス試合をさらに組み続けるとなると…。

もう、お先、真っ暗闇です…が、見たいですね。何かが起こりそうできっと何も起こらないんでしょうけど。

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日本、米国ではすっかりマイナースポーツに凋落してしまったボクシングですが、この両国ですら「ボクシングは稼げる」と信じる人たちが数多く存在します。

「金と華やかな世界」は、プロの世界王者よりもはるかに尊敬される五輪金メダリストでありながら、村田諒太がプロ転向した最大の動機の一つでしょう。「パッキャオやメイウェザーみたいに何百億円とは言わないまでも、一晩で2億、3億稼ぐビッグファイトがしたい」。

パッキャオやメイウェザーを特殊な例外としても、ボクシング全体を見たとき「ボクシングは稼げる」とは、果たして事実なのでしょうか?


【マニー・パッキャオ。スポーツイラストレイテッド誌の表紙を飾った史上初のアジア人ボクサー…というより今後、この総合スポーツ誌のカバーに登場するボクサーが現れるかどうかも不安です。それほどボクシングの凋落傾向は深刻です。】

先日、2016年度版のForbes The World’s Highest-Paid Athletes(フォーブス誌スポーツ長者番付)が発表されました。

1位はクリスティアーナ・ロナウドでSalary/Winnings(試合報酬・契約金など本業での収入)が5800万ドル(1ドル110円換算で約66億円)、Endorsements(スポンサー収入)が3500万ドル(約39億円)で合計9300万ドル(約105億円)を荒稼ぎしました。

我らが錦織圭は、サラリー390万ドル(4億3000万円)、エンドースメント3000万ドル(33億円)、併せて3390万ドル(37億4000万円)で26位に顔を出しているのは誇らしいですね。エンドースメントが本業の10倍近いという、プロゴルファー並みなのは気がかりですが、経済大国日本の恩恵ではなく、プロフェッショナルの証明と受け取りましょう。これからは本業でもビッグタイトルを取って、もっと上に駆け上がって欲しいものです。

ボクシングではカネロ・アルバレス(2700万ドル+150万ドル=2850万ドル:31億円)の43位が最高で、89位にアンソニー・ジョシュア(1850万ドル+350万ドル=2200万ドル:24億2000万円)が入り、ウラジミール・クリチコ(1700万ドル+400万ドル=2100万ドル:23億1000万円)が98位に滑り込みましたが、トップ100に入ったのはこの3人だけです。

このランキングを見ると、ボクシングは決して儲かるスポーツではなく、最も稼げるのはアメリカで野球をすることですね。間違いありません。トップ100に22人を送り込んでいる現役時代の高報酬はもちろん、選手寿命や引退後の生活が保障される選手会・保険関係まで考慮すると、これは、もう明らかです。

しかし、一方で本当に数えるほどのボクサーが大金を手にすることも、また事実です。

前年(2015年度版)のランキングはメイウェザーで2億8500万ドル(310億円)+1500万ドル(16億5000万円)=326億5000万円)の史上最高額でトップ。2位がパッキャオで1億4800万ドル(165億円)+1200万ドル(13億2000万円)=178億2000万円と、フォーブスのランキングをボクサーがワンツーフィニッシュで飾っていました。

全体として見ると、ボクシングは稼げません。年間100万ドル稼ぐボクサーも、全体ではほんの一握り、20人程度でしょう。

しかし、ときとして、莫大なスポンサー収入に支えられるゴルファーや、サッカーや野球、バスケットボール選手らを一気に引き離して、ほとんどリングの上だけで稼いだ金で、彼らを大きく上回るボクサーが出現します。

それは、なぜなのか?

まず、ペイパービューのような囲い込んだファンから高額の視聴料をかき集めるシステムです。モハメド・アリ時代に始まったクローズドサーキットから続く、信者からの〝お布施徴収〟ですね。これは、ボクサーの高収入を支える一方で、一般ファンを遠ざける諸刃の剣です。

そして、いくら凋落したと言ってもボクシングへの関心は熾火のように米国でも日本でも消えずに残っています。マイク・タイソンやパッキャオのような激しく燃え上がる火種さえあれば、マーケットが爆発、拡大する可能性はいつも秘められています。

そして、もう一つは、本来ならスポーツの本質から外れることですが、「頂上決戦」を焦らす(意図的、意図的じゃないに関わらず)というマーケッティングが、この30年で明らかに存在、定着してしていることです。

厳然とした統括団体が管理するほとんど全てのスポーツでは、毎年年間王者が決められます。MLBでワールドシリーズが争われないなんてありえません。テニスの4大大会が準決勝で突如大会が止められるなんてことは、起き得ません。そんなファンを無視した愚行に走れば、そのスポーツは滅亡します。

そんなことを長い間続けてきたにも関わらず、ボクシングは衰退の一途ですが、まだ滅亡していません。本当は、どこかで一度滅亡した方が良かったのかもしれませんが。

しかし、頂上決戦が焦らされれば、焦らされるほど、ファンの欲求は高まり、商業的にはより大きな興行が期待できます。

最初のサンプルは、1987年にまさかの実現となったシュガー・レイ・レナードとマービン・ハグラー。日本から見てると「階級も違うしレナードは引退してたし、焦らすというのは違う」と思うかもしれません。しかし、米国のファンはハグラーが憎たらしいほどの強さを見せるたびに「レナードがいたら」と夢想していました。実際に、レナードがハーンズに勝ってウェルター級王座を統一した時、米国はもちろん日本の専門誌でも「レナードはハグラーに勝てるか」と特集を組んでいます。

そして、その1年後、1988年のマイク・タイソンとマイケル・スピンクス。「ヘビー級統一トーナメント」の決勝で、この二人は対決するはずでしたが、スピンクスが離脱。「タイソンから逃げた」と多くのファンはスピンクスを非難しましたが、スピンクス陣営は明らかにビジネスを考えていました。そして、その意味ではスピンクスは間違いなく勝者でした。

【当時、史上最大のメガファイトは91秒であっけなく終わります。両膝を故障していたスピンクスが、タイソンの爆発的な攻撃から1ラウンドも逃れることは出来ませんでした。しかし、タイソン戦を引き延ばした〝執行猶予期間〟で、人気者ジェリー・クーニーとの大興行で大金を手にし、タイソン戦と自らの商品価値を目一杯あげることに成功しました。】

そして、2015年、もう焦らしまくりの末に実現したメイウェザー対パッキャオ。もし、ファンが望む2009〜2010年にこの試合が実現していたら、その興行規模は半分だったという試算もあります。まぁ、半分でも腰が抜けるほどのメガファイトですが。

この3つのメガファイトを振り返ってみたいと思います。

村田諒太は、この世界の玄関に入りました。亀海喜寛は、この世界に最接近した経験のある伝説との戦いに挑みます。日本人がメガファイトの舞台に立つことも、決して大それた夢と諦めることはない、そんな希望的な状況が出来上がりつつあります。

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元PFPキング、フロイド・メイウエザーとUFCライト級王者のコナー・マクレガーの〝異種格闘技戦〟が大きな話題を呼んでいます。

対決はボクシングルールで行うことで両者の意思は一致していますから、正確には「アリ猪木」のような異種格闘技戦ではなく、MMA選手によるボクシングへの〝道場破り〟というのが正しい表現でしょう。

もしこの試合が実現するとなると、メイウエザーが要求している「ファイトマネー1億ドル」も非現実的な金額ではありません。PPVもパッキャオvsメイウエザーには届かなくともそれに次ぐような巨大な数字を売り上げると予想する関係者もいるほどで、興行的には間違いなく成功すると見られています。

そう、ビジネスとしては、間違いなくやるべきイベントなのです。

しかし、パッキャオ戦のように「現代最高のボクサー決定戦」というスポーツとしての意味は、この〝異種格闘技戦〟にはありません。低俗な野次馬根性を刺激してビジネスとしては成功しても「引退して2年経つボクサー」と「MMAの現役王者」がボクシングルールで戦うことには、下劣な見世物を超えた意義は見出せません。

ボブ・アラムは「ボクシング経験のないマクレガーに勝ち目はない。こんな試合に意味はない」と吐き捨て、オスカー・デラホーヤも「メイウエザーのキャリアに無効試合が加わるだけ。万一実現したら、ボクシング界にとっては困ったことだ」と戸惑いを隠せません。63歳のメイウエザー父に至っては「ジャブもまともに打てないマクレガーごときなら今の俺でも勝てる」とこの対決を嘲笑しています。

=創刊95年の老舗・リング誌が2016年1月号でボクシング界とは無縁のMMA選手、しかも女性を表紙にしたことは賛否両論、大きな反響を呼びました。しかし、この号がニューズスタンドに並んだときにはロンダ・ラウジーは大番狂わせに撃沈した直後だったというのは全く皮肉な話でした。

私個人も、異種格闘技戦は公平なルールが成立するわけがないのだから、競技としてはありえないものだと確信しています。もし、やるとしたらお互いのルールで2試合した結果で判定するしかないのです。

しかし、こんな試合を浅ましいショウだと誰もが受けとめていると考えるのは、どうやら大間違いなようです。

全盛期はとうの昔に過ぎ去ったロイ・ジョーンズや、引退同然の目立ちたがり屋ポール・マリナッジ、第一線への再浮上が失敗に終わったデビッド・ヘイらがMMA選手との試合に前向きなのはまだ理解することが出来ます。

効率的に最後の一儲けを目論むだけでなく、薄れゆく世間の関心を、たとえそれが好奇の目だとしても、再び自分に向かせることも彼らにとっては自尊心を満たす大切なことなのかもしれません。

ところが、誰もが認める現代ボクシング界最高級の技術の持ち主までが、MMAとの交流を歓迎しているのです。

それが誰あろう、ウクライナの誇るハイテク、ワシル・ロマチェンコです。

ESPN電子版が、ロマチェンコが元UFCバンタム級王者、TJ・デラショーと4分4ラウンドのスパーリングを行ったと動画を公開しました。異色のスパーリングは公式の試合でも金儲けでもなく、二人が「面白いからやろうじゃないか」と意気投合、「MMAの技術を向上させるために何をすべきかいつも考えている」というデラショーにとっては非常に有意義なものとなったそうです。

デラショーは「ロマチェンコの大ファンの私がこんなチャンスを逃すわけにはいかないよ。コテンパンにやられたって一生の思い出になる」と大喜び。

実際のスパーもロマチェンコには全く歯が立ちませんでした。ジェイソン・ソーサとの試合を目前に控えてキレキレのロマチェンコに対して、7月まで試合の予定がないデラショーは早くも1ラウンドから疲労の色が見えましたが、両者の間に埋めようもない大きな差が横たわっているのは誰の目にも明らかでした。

そして、メイウエザー対マクレガーの試合については二人ともが「ぜひ見たい。ボクシングにとっても MMAにとってもプラスになる」と評価している一方で、その勝敗についてデラショーは「マクレガーが上回るのは体格だけ」とボクシングルールでメイウエザーには勝てないと予想しています。

デラショーの見方は「二つの拳だけを使う戦いは距離が非常に近いから、そのプレッシャーが半端じゃない。キックやテイクダウンを仕掛けてくる相手と戦うMMAとの最大の違いは距離なんだ。ボクシングは至近距離でパンチが交錯する。これにはマクレガーでも対応しきれない」。

ロマチェンコはもっと直截にこの試合を捉えています。
「1000回戦えばマクレガーが1回勝つチャンスはあるか?と聞かれたら、答えはノーだ。マクレガーは1000回やったら1000回とも負ける」。

うーん、試合結果は見えていても、やる意味はあるんでしょうかね?

お互いのスポーツにとって刺激になることは間違いありませんし、そういう意味では悪いことではないのかもしれません。

しかし、もしメイウエザーvsマクレガーが実現、商業的に美味いという理由だけで二匹目のドジョウが続々とわいてきて、純粋なボクシングやUFCの試合よりも注目を集め、大きなイベントになってしまうとなると、それはそれで私には非常に深刻な問題だとしか考えられません。

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