世界王者のまま49勝無敗でグローブを外したロッキー・マルシアノ。その記録に並んでいるフロイド・メイウェザーが、今回のネバダ州体育協会公認のボクシングの試合(と言っても相手はボクシング経験ゼロのど素人、コナー・マクレガーです)に勝つと、この記録を更新することになります。

早速、腐敗の極み、WBCがこの試合の勝者に与える(購入してもらう)ベルトを用意すると動き出しました。何でもありですね、今度は何という名前のベルトでしょうか?

一方で、欧米のメディアはほぼ例外なく「the farce bout」(茶番劇)と、冷ややかに見ています。ボクサーが〝異種格闘技戦〟(今回の試合は完全なボクシングルールで行われるため純粋な意味では異種格闘技戦とは呼べませんが)に手を出す理由は、窮乏(手っ取り早く金が欲しい、金に困っている)か、華やかなリングへの郷愁・嫉妬(目立ちたい、もう一度スポットライトを浴びたい)のどちらかです。

メイウェザーの場合は、明らかに後者です。ボクシング界がさっさと自分のことを忘れて、ゲンナディ・ゴロフキンとカネロ・アルバレスの決戦に沸いているのが気に食わなかった、ということも大きいでしょうね。GGGとカネロの試合の前に、この茶番劇をセットしたことは、揺るがぬ証拠です。

今回は華やかな場所への郷愁と嫉妬からですが、メイウェザーといえども、将来は、前者の理由「窮乏」に追い込まれてリングに上がらざるをえなくなる日が来るかもしれません…来そうですね。

ただ、欧米のメディアは、日本同様にかなり差別的です。

ジェームズ・トニーが2010年にUFC118で、ランディ・クートァと戦った時は、今回同様に「ボクシングもMMAも汚す行為だ」と非難されました。確かに、タップの仕方も学ばずにオクタゴンに入って、1ラウンド一本負けというのはMMAに対しても、クートゥアに対しても失礼千万でした。

【ジェームズ・トニーは有り余る才能を持ちながらボクシングに全身全霊を傾けたことはなく、MMAに対してもその態度は舐めきっていました。=写真はリング誌「トニーは檻の中のライオンか?」:2010年7月22日より=】

一方で、ロベルト・デュランが1992年に船木誠勝と異種格闘技戦のリングに上がった時は、米国のメディアは「暴れん坊のパナマ人が、また羽目を外してる」と、伝説の愚行を楽しんでいるようですらありました。デュランも一年間何もせず鈍りきった肉体を、たったの3週間練習しただけ。トニー以上に舐めきっていたのですが、メディアはデュランには優しいんです。

また、モハメド・アリについては異種格闘技だけに限らず、あの偉人の言動に、世界のメディアは何度も手の平を返して来ました。猪木戦についても、1976年当時のメディアは非難轟々でした。

トニー同様、メディア受けが悪いメイウェザーの風当たりが強いのは仕方がないところです。同じことをやってもデュランは許されて、メイウェザーは許されない。

もちろん、「There ‘s really nothing wrong with what mayweather doing.(何をしようがメイウェザーの勝手、自由だ)」(リング誌2017年8月号)。偉大なボクサーが、過去の威光を利用して茶番劇の舞台に上がるのは珍しいことではありませんし、特に金に困ったらそうするのが最も効率的です、メディアに非難される筋合いはありません。

日本ではアリの茶番劇は猪木戦しか思い浮かびませんが、この偉大なお方は若い頃から羽目を外すのが大好きでした。

猪木戦に先立つこと5年、1971年にNBAのスター選手、ウィルト・チャンバーレインとの喧嘩マッチがヒューストンのアストロドームで行われることが決定していました。チャンバーレインが翻意したことで、この茶番劇は流れますが、アリはチャンバーレインを見るたびに「ティンバー(木偶の坊)!」と連呼して愚弄し続けました。

【猪木と戦った1976年はアリにとっては「キンシャサの奇跡」も起こし、「スリラー・イン・マニラ」の修羅場もかい潜り、心身ともに疲弊、倦怠していた時期でした。そんな時に世界各地で異種格闘技戦を同時開催、そのメインにcelebrated Budokan Hall(名誉ある格闘技の殿堂、武道館)のリングに上がってくれというプロポーズは、新しいもの好きで偏見のないアリにとっては魅力的すぎるものでした。=写真はリング誌2017年8月号から】

さらに、アリはアーチー・ムーアの〝先例〟も知っていました。1963年にプロレスラーのマイク・ディビアスと、ボクシングルールで対戦したムーアは、一方的にプロレスラーを殴り続けて3ラウンド20秒TKO勝ち。すでに47歳になっていたムーアは前年にカシアス・クレイに予告通りに4ラウンドで葬られていました。

そして、プロ219戦目!となったこのプロレスラーとの試合で引退します。

ムーアはプロレスラーと対戦することで注目を浴びて、もう一度、世界タイトルマッチを戦いたいと考えていましたが、会場となったアリゾナ州フェニックスの観客席は人影もまばらで、その夢は潰えてしまいました。

ちなみに、ディビアスはボクシング経験がなく、この試合がデビュー戦。とっくの昔にピークが過ぎた名ボクサーが、ボクシング経験ゼロの相手と、茶番の舞台に上がる。この構図は、今回のメイウェザー対マクレガーと同じです。


【アンドレ・ザ・ジャイアントが、映画「ロッキー」のモデルとしても有名なチャック・ウェップナーをリング外に叩き落としてKO勝ち。=リング誌2017年8月号から】

フェニックスといえば記憶に新しいのが、昨年の「ロイ・ジョーンズに勝ったら10万ドル」(日本でもどっかで聞いた気がしますね、金額までほぼ同じです)。

一般公募した素人がロイとボクシングルールで戦うという見世物でしたが、当たり前に2ラウンドKO勝ち。

この時の相手、バイロン・フィリップスは総合格闘家でしたが、アマチュアボクシングの経験もあり、ロイの大ファンでした。わずか2ヶ月余り前にエンゾ・マカリネリに痛烈なKO負けを喫しているロイに「あなたと戦えるなんて一生の思い出だ。でも、もう引退して下さい。アイドルが傷つけられるのを、これ以上見るのは辛いです」と嘆願したのですが…。

300万〜400万ドルの税金を滞納してしまっていると言われているロイの場合は「窮乏」から茶番劇の舞台に上がらざるをえないのでしょうが、全盛期を知っているファンからしたら、フィリップスでなくても「もう引退してくれ」と願ってしまいます。