Breez is Nice!

久しぶりにスリル満点のメガファイトを堪能させていただきました。

両者ともに慎重にスタートする…私の予想は見事に外れました。1ラウンドからクリチコが仕掛けます。ジョシュアは動きが硬い。経験の差は試合が動いてから出る、と決まってるわけじゃない、そのことを偉大なウクライナ人に改めて思い知らされました。

クリチコにとってジョーカーとなると見ていたジョシュアのスピードも、41歳のウクライナ人は巧妙に捌いていました。流石です。

5ラウンドは今年一番の3分間でした。ジョシュアが強引な攻撃でダウンを奪うも、立ち上がったクリチコが冷静に反撃。今度は27歳の王者が劣勢に。フランク・ブルーノを連想させる急ブレーキがかかったかのような失速、ロープに巨体をあずけるジョシュアのうつろな表情からは、全てのカードを出し切ったようにも見えました。

6ラウンド、クリチコが奪ったダウンは痛烈でした。ワンツーからの右がクリーンヒット。この時は大番狂わせを確信しましたが…。

しかし。ジョシュアはやはり、ブルーノではありませんでした。慎重に回復のラウンドを消化します。クリチコはイニシアティブを握ってる実感があったでしょう、それは確かに事実ではありましたが、ジョシュアはどっこい死んでいませんでした。

11ラウンド、ペースを掌握したと思い込んだクリチコに一瞬の油断があったのか。ゴングと同時にラッシュしたジョシュアの攻撃をまともに受けてしまいます。いつものジョシュアと違い、最後まで雑で強引な攻撃でしたが、深いダメージを負った老ライオンを沈めるのには十分なパンチをまとめます。2度目のダウンを追加して、それでも立ち上がったクリチコに一気呵成に襲いかかってゲームオーバー。

11ラウンドを「チャンピオンシップラウンド」と呼ぶのは、最終12ラウンドは両者が死力を尽くすため差がつきにくいことから、微妙な判定勝負にもつれ込むケースでは最も重要な3分間となるからです。しかし、この夜(日本では早朝でしたが)、27歳の逞しいロンドンっ子は11ラウンドを決着のラウンドと覚悟を決めてコーナーを飛び出しました。素晴らしい!


【クリチコの出来は最高でしたが、ジョシュアは大ピンチをよく凌いで〝逆転勝ち〟。2度目のダウンで止めるべきだと思いましたが、クリチコの目が生きていたのでしょう。】

10ラウンドまでのスコアは二人のジャッジが96-93、95-93でジョシュア、もう一人が95-93でクリチコ。ジョシュアは残り2ラウンドを取られても引き分け防衛していたことになりますが、KOで決着をつけた意味は大きいですね。

名門キエフ大学で博士号を取得、ウクライナ、ドイツ、ロシア、英語を完璧に操る鉄拳博士の去就はわかりませんが、試合後のインタビューでは再戦条項があることも匂わせていました。しかし、もう十分でしょう。

「この試合はジョシュアにとって早過ぎたのか、それともクリチコにとって遅すぎたのか」。正解はどちらでもありませんでした。ボクシングファンにとって幸せなことに、早すぎることもなく、遅すぎることもなく、最高のタイミングで激突したのです。


【“analyze what the heck happened.”(何が起きてしまったのかをしっかり分析したい)…偉大なウクライナ人の口から「引退」の言葉は出ませんでした。それが、悔しさが生々しい試合直後だからなのか、それとも引退する気はさらさらないのか…その答えを私たちが知るにはもううしばらく時間がかかりそうです。】

まだ、今年は半分も過ぎていませんが、両者のステイタス、9万人が詰まったウェンブリースタジアムの大観衆、全てにおいて年間最高試合決定です。

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■ハンマー投げ:室伏広治=2003年/84m86㎝=この記録はA「更新できないのも無理はない偉大な記録」、B「更新されるべき時間はとっくに経過した記録」、C「更新されるべきだが競技人口・注目度も低すぎるがゆえに残存してる記録」、全ての性格をはらんでいます。

室伏は陸上競技のフィールド選手としては異例の著名人です。2001年エドモントン世界陸上で銀メダル受賞、2004年アテネオリンピックで金メダル、2011年大邱世界陸上で金メダル、2012年ロンドンオリンピック銅メダル。187㎝、100kgの室伏が小さく華奢に見える世界の投擲競技で圧倒的な実績を残したことはもちろん、「筋肉番付」などバラエティ番組でそのずば抜けた身体能力の高さを披露、日本中にその名が知れ渡りました。

確かに「更新できないのも無理はない偉大な記録」と呼ぶのに差し支えないように思えますが、日本歴代2位は父親の室伏重信で8m90㎝も下回る75m96㎝(1984年)、3位は10m以上引き離された土井宏昭の74m8㎝(2007年)。このことからは「競技人口・注目度が低いがゆえに残存している」ということも十分に窺えます。そして、更新どころか誰も近付くことすら出来きていないとはいえ、15年近くも経つ現状は「更新されてても然るべき時間は経過している」と見ることも出来ます。

もちろん、競技人口・注目度が低い本当に劣悪な環境の中で研鑽を重ね、薬物漬けの東欧の巨人たちと互角どころか、優勢な勝負を展開した室伏の偉大さに異論を挟む余地はありません。

日陰のスポーツに全身全霊をかけて真摯に打ち込み、世界的にも傑出した業績を上げることで世間の注目を引き寄せて、陽のあたらない場所に光を注いだのです。まさにアスリートの鑑です。



ただ、第2、第3の室伏が生まれるには日本の環境は厳しくなる一方です。箱根駅伝が首都圏の交通網を半日以上麻痺させることは許されても、日本の投擲競技選手はその放物線を国立競技場の大空に描くことは許されません。旧国立競技場でも、Jリーグ、サッカー人気に押されて「芝生を傷める」投擲競技は聖地から〝追放〟されたからです。

そして、2020年東京五輪に向けて建設中の新国立競技場では五輪後は球技専用の仕様に改修、陸上競技はトラック種目も聖地でパフォーマンスを見せることが出来なくなります。

メイン会場となる新国立競技場のトラックは大会後に無残にも剥ぎ取られ、サッカーを主とした球技専用のスタジアムに改修される予定です。新国立競技場で選手が陸上競技のパフォーマンスを見せることが出来るのも、ファンが観戦することが出来るのも、五輪の数週間だけということになります。

人気が無いスポーツは、その舞台までも奪われる。ハンマーや槍、円盤など広い場所が必要なマイナースポーツは消え去るのみ。

市場優先の流れが加速する時代では当然といえば、当然の行政判断ですが、元陸上競技選手としては悲しい現実です。

現状でも高校はおろか大学でも好きなだけハンマーを投げられる環境の陸上競技部はまずないでしょう。この市場優先の流れが強まれば、きっとその方向が加速するでしょうが、老朽化したハンマーや槍、円盤、保護ネットを購入する予算を計上する高校や大学はなくなり、近い将来、競技そのものが消滅するかもしれません。

そうなると、室伏の記録は未来永劫、絶対不滅です。ハンマーもネットも、何よりも選手がこの国には存在しなくなるのですから。

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計量からものすごい盛り上がりでした。PC画面からでもジョシュア勝利に期待する7000人の熱狂が伝わってきました。

二人とも素晴らしい仕上がりです。

チャンピオンのアンソニー・ジョシュアが250.1ポンド(113.4kg)、挑戦者のウラジミール・クリチコが240.6 (109.1kg)。体重管理がだらしない選手も目に付くヘビー級の中でもこの二人はいつも完璧に仕上げてきます。

【両者ともExcellent Shape!特にいつでもきっちり体を作ってくるクリチコは流石です】

リング誌が専門家30人に聞いた予想では、なんと29人がジョシュアを支持、クリチコ勝利を予想したのはメインイベンツ社でマッチメイカーをつとめるジョリーン・ミゾーネ、ただ一人です。彼は「クリチコの後半KO勝ち」を予想。

それにしても、2−1のオッズ以上にジョシュアに大きく傾いていますね。

そのミゾーネも「今やジョシュアがまだ試されていないと言うのは私だけかもしれないが、もしクリチコに勝つようなら彼を認めざるをえない」と、自分の考えが少数派であることを認めています。

ところが、もう一人、クリチコ勝利を予想する少数派がいました。ESPNのダン・ラファエルです。ダンラファは、ミゾーネよりも早い中盤でクリチコがKOすると予想しています。

クリチコにアドバンテージがあるとしたら、やはり大きな経験差です。ジョシュアがプロで戦ってきた18人の中でクリチコレベルのボクサーは一人もいないばかりが、その18人とは次元が違うと言っても差し支えないでしょう。ジョシュアは今まで体験したことのない巨大なパワーと狡猾で卓越したテクニックを自由自在に操るリングマスターと相対することになるのです。

さらに、ジョシュアは7ラウンドまでしか戦ったことがありません。8ラウンド以降は未知のラウンドです。12ラウンドに渡って絶えることのない怒涛の攻撃を持続できるファイターは稀有です。クリチコが大きなダメージを負うことなく前半戦を凌げば、ジョシュアの手の内を把握した中盤から後半にチャンスが訪れるでしょう。しかも、そこでAJが失速するようなら、一気に試合が決着しても不思議はありません。

もう一つは、おそらくジョシュアは打たれ弱いということ。世界前哨戦となった2015年のディリアン・ホワイトとの一戦で、一瞬棒立ちに追い込まれました。ウクライナ人の破壊力は、左右共にホワイトの比ではありません。

もちろん、4つの敗北の内、3つまでがKO負けのクリチコの顎のモロさはすでに証明書付きです。顎を叩かれれば終わるのは、クリチコもまた同じなのです。


【幼少時代から飛び抜けた運動能力で周囲を驚かせてきたAJが人生最大の大勝負を迎えます。】

確かにクリチコが勝てば、無責任なメディアは「やっぱりジョシュアには早過ぎた」「全戦全勝全KOだったのは弱い相手ばかりと戦ってきたから」「21世紀のフランク・ブルーノ」と手の平を返すでしょう。

クリチコが勝てばアリやフォアマン、他の階級ではデュランのように偉大な返り咲きで歴史に大きな足跡を残すことになります。それもまた非常にドラマティックではありますが、やはり今のヘビー級、ボクシング全体の状況を見ると、若い才能が未来の扉を開ける時なのです。

ジョシュアはレオン・スピンクスやマイケル・モーラー、アイラン・バークレーではありません。そうであってはいけないのです。

クリチコとやるにはジョシュアは早過ぎたのか。それとも、ジョシュアとやるにはクリチコには遅すぎたのか。

その解答は16時間後には明らかにされます。

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全く僭越ながら、現在の主な男子日本記録をA「更新できないのも無理はない偉大な記録」、B「更新されるべき時間はとっくに経過した記録」、C「更新されるべきだが競技人口・注目度も低すぎるがゆえに残存してる記録」の3つに独断と偏見でカテゴライズ、総覧させていただきます。まず、男子100m。

■100m:伊東浩司=1998年/10秒00=「B」スプリント(体育の時間の50mも含めて)は誰もがチャレンジしたことのあるスポーツです。世界的にも人類最速は最も興味をそそられるスポーツです。東京五輪でボブ・ヘイズが10秒0(手動計時:電気計時では10秒20前後だったと思われる)を目の当たりにしてから、10秒を切ることは、日本人にとっても偉大な夢であり続けました。その夢に向かって短足の米食民族は必死に走り続け、1998年に伊東浩司が極点への境界線までその足を運んでくれました。

当時の陸上ファンは9秒台は目の前に見えていました。いつ、誰が、その結界を破っても驚かない、そういうワクワクする準備ができていました。

しかし、あろうことか、伊東浩司が激しくノックした扉は20年経っても、まだ閉じられたままなのです。


【山縣選手の入社会見から。10秒00の結界を破るのは通過点、その先にこそ彼の未来があります。】

私は大学時代、中長距離ランナーでしたが「最速」の種目には尊敬と憧憬がいつもありました。記録会で走らせてもらって、100分の1秒のゴール写真が見れる電気計時の記録が出た時は嬉しかったです。目標の11秒台には届かなくても、後輩から「12秒00もかかるなんて恥ずかしい」と冷やかされても。

9秒台へのモチベーションは、もしかしたら日本のあらゆるスポーツの中で最も具体的な数字であることはもちろん、最も希求、待望されているものかもしれません。

間違いなく、いつか誰かが破るでしょう。

しかし、遅すぎます。私がスポーツ大臣なら大変な失言ですが「競技人口も少なく、誰も注目していない円盤投じゃないんです」。

ふざけるお時間は、もう終わりです。

現在の世界レベルで言ったら、10秒斬りなんて国際大会で2次予選突破のパスポートにもなるかどうかすら怪しい記録です。

当たり前ですが、世界は日進月歩です。そこで20年も足踏みしててどうするんですか!

助けてください、桐生祥秀!

助けてください!山縣亮太!

助けてください!ケンブリッジ飛鳥!

いいえ、あなた達である必要はありません。誰でもいいのです。この20年の重量がのしかかる忌々しい扉を、誰でもいいから開け放って、世界の空気を吸わせて下さい。

ちなみに円盤投の日本記録は1979年、川崎清貴が投擲した60m22㎝です。日本最古の記録で、もう40年近くも破られていません。大学時代に陸上競技部に身を置いていた人間にとっては、この記録がいかに偉大かはわかっています。しかし、レコードホルダーの川崎も寂しい思いをしているでしょう。早いうちに打ち破って川崎清貴の名前を新聞やネットに刻んであげましょう。もう、そろそろ、そういう頃合いです。

円盤投なんて、そんな競技があることを知らない人も多いでしょう。ましてや何m投げたらすごい?と聞かれると、陸上競技部の人間でも戸惑ってしまいます。ハンマーや槍、円盤を好き放題練習できる環境なんて、世界中探してもまずないでしょう。Jリーグの突然で圧倒的な出現で「芝生を傷める投擲競技は地方でやれ!」ということで、関東インカレ投擲競技は国立競技場から排除されました。

当たり前の話です。人気がない競技、種目は表舞台から退場するしかありません。

そんな犠牲を横目に見ながら、100mや箱根駅伝を走っているのです。

個人的な偏見が色濃く出てしまったかもしれません。酔っ払っています。御免なさい。強いスポーツ、人気のあるスポーツばかりをかじってきた軽薄な人間が、改めて自分が歩いてきたスポーツのよろよろの足跡を見返すと、日の当らない場所で懸命に努力していた先輩、同輩、後輩の姿が、妙に鮮烈に思い出されてしまうのです。

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いよいよ今週末に迫りました。ジョシュア対クリチコの世界ヘビー級タイトルマッチ。

両者のファイトマネーは最低保障で1500万ポンド、日本円で約22億円。今のアメリカでこの報酬を稼げるボクサーは一人もいません。

ゲート収入は同じウェンブリーで2014年にカール・フロッチ対ジョージ・グローブスが8万人を集客しましたが、その時よりも1万人以上多い観衆がスタジアムに詰めかけることから10%強が上積みされて2500万ポンド、約36億円に膨らむ見込みです。さらにジョシュアには、リッキー・ハットンがメイウエザー戦(2007年)でマークした 英国人のPPV販売記録105万件の更新も確実視されています。ちなみに同国で最も売り上げたPPVは2015年のメイウエザー対パッキャオの115万件ですが、こちらも超越して150万件、4000万ポンド58億円の売上げが予想されています。

TV放映権収入も順調です。米国のSHOWTIMEとHBOで合計240万ポンド3億5000万円、クリチコの人気が最も高いドイツの RTLは400万ポンド5億8000万円で生中継の権利を買い取りました。日本では30日早朝6時からWOWOWが生中継してくれますが、わが国ではジョシュアもクリチコも無名なので相当に割安で視聴できます、ありがたいことですが、ボクシングファンとしては複雑ですね。


【今年1月にアンソニー・ジョシュアはムスリムの親友と一緒にドバイに旅行。親友に頼んで、クリチコとの試合で二人とも健康なままリングに上がり、健康なまま試合を終えることを祈るためにモスクに入った。ジョシュアはムスリムではないが、常日頃から信仰の大切さを感じてきた。そして当然、彼のアイドルはモハメド・アリ(クリチコも)。しかし、祈りを捧げる写真をインスタグラムにアップすると誹謗中傷で炎上。ジュシュアは「こんなことをする恥ずかしい人々が世界には存在するが、私には人が考えることをコントロールすることは出来ない」と戸惑っている。〜リング誌2017年5月号より】

さて、試合の予想です。

世界最大のブックメイカー、ウィリアムヒルズはさすが地元、この試合一色の様相を呈しています。オッズはジョシュア勝利が1.4倍、クリチコが3倍。ラウンドごとの内訳ではジョシュアの判定勝ちが6倍で最も低く、ストップだとやはりジョシュアの5〜8ラウンドがそれぞれ12倍と低配当となっています。ハイリターンはクリチコの1ラウンドKOで66倍、60秒以内なら100倍に跳ね上がります。「ジョシュアが2020年までにヘビー級4団体を統一できるか?」なども賭けられており、まさにジョシュアフィーバーですね。

大方の予想もオッズに沿った感じで、中盤から終盤にかけてジョシュアのストップ勝ち。タイソン・ヒューリーの体格とスピードを持て余したクリチコでは、同じくらいの体格でより速いジョシュアをコントロールするのは難しいと見られています。

経験値では世界戦25勝19KO2敗のクリチコが圧倒的に上。今回、予想通りにジョシュアが勝ったとしても、クリチコの殿堂入り確実のこの数字に到達することは、まず不可能なとてつもなく凄い成績です。

しかし、この戦いは「若いライオンと老いたライオンの戦い」。それは過去の歴史を紐解いても世代交代、王者のトーチが受け継がれるのが常でした。

今日のリング誌電子版が「無敗の快進撃を続ける若手に、レジェンドが挑戦した5試合」を特集しています。私見も交えてざっと紹介すると…。

①1951年マジソンスクエアガーデン
ロッキー・マルシアノ=8ラウンドTKO=ジョー・ルイス
ノンタイトルの10回戦。税金の支払いに困窮した末に戦い続けていたルイスをKOした28歳のマルシアノはこの時、37戦全勝33KO。49戦無敗のままキャリアを終えることになるマルシアノは、戦後最大のスポーツヒーローを自分の拳で痛めつてしまったことに涙し、37歳の老雄は「年を取り過ぎたってことさ」とこの試合を最後にリングに戻ることはありませんでした。

②1980年シーザースパレス
ラリー・ホームズ=10ラウンド終了TKO=モハメド・アリ
WBC世界タイトルマッチ。「もう一度奇跡を起こせ」とアリのファンで埋まった観客席は、残酷な現実を10ラウンドも見せられる羽目になりました。38歳になるアリは生涯通じてこれが唯一のKO負け。マルシアノと同じく、ホームズも試合後の会見ではアイドルを傷つけてしまったことに涙を流しました。

③1988年アトランティックシティ・コンベンションセンター
マイク・タイソン=4ラウンドKO=ラリー・ホームズ
IBF/WBA/WBC世界タイトルマッチ。今度はホームズが38歳となってアリの役回りを強いられる番です。そしてホームズもまたその輝かしいキャリアの中で、この試合が唯一のKO負け。長いブランクからチューンナップの試合も挟まずに、いきなりタイソンに挑んだホームズでしたが、3ラウンドまで左ジャブを起点にゲームを組み立てました。「ラリーが全盛期だったら勝つチャンスはなかった」と会見で語った21歳の言葉は、誰の耳にも社交辞令には聞こえませんでした。

④1991年アトランティックシティ・コンベンションセンター
イベンダー・ホリフィールド=12ラウンド判定=ジョージ・フォアマン
IBF/WBA/WBC世界タイトルマッチ。アリもフレージャーもリストンもノートンもリングを去って長い長い歳月が流れたというのに…フォアマンのカムバックは誰の目からも冗談にしか映りませんでした。恐竜はとっくの昔に一匹残らず滅びたのです。…そのはずでした…ホリフィールドは試合をコントロールしましたが、フォアマンの前進を止めることが出来ませんでした。のちに「レノックス・ルイスですら私のラッシュには後退したというのに、フォアマンは絶対に下がってくれなかった。巨大な岩石のように迫ってきた。全盛期のフォアマンがどれほど強かったのか正直、想像もつかない」とホリフィールドは吐露しています。恐竜は一匹、確かに生き残っていたのです。


【「全盛期のフォアマンがどれほど強かったのか正直、想像もつかない」イベンダー・ホリフィールド】

⑤1994年MGMグランド・ガーデンアリーナ
ジョージ・フォアマン=10ラウンドKO=マイケル・モーラー
IBF/WBA世界タイトルマッチ。45歳になったフォアマンは18歳下の若き王者に挑戦します。モーラーは「サウスポーはヘビー級王者になれない」というジンクスを初めて破った俊才でした。鋭いパンチでフォアマンの顔面を腫れ上がらせ、優勢に試合を進めていきますが、とどめを刺せません。そして10ラウンド。注意が散漫になった若者の顎をフォアマンのワンツーが撃ち抜いた時、全てが終わりました。この夜、フォアマンが二本の太い足を通していたのは、ちょうど20年前にキンシャサで履いていたトランクスでした。あの永遠に続くと思われたアリの呪縛からもまた、この瞬間に解放されたのです。HBOの名解説者ジム・ランプレーの叫びも、この奇跡の試合を完璧に表現した言葉として有名になりました。「“It happened!”(なんてこった!)」。

…さて、さてジョシュア対クリチコはどんな結果になるのでしょうか。両者ともに1ラウンドは慎重に立ち上がるでしょう。

ギアを上げるのはジョシュアです。クリチコが得意とするホールディングからの突き放しての攻撃は、ヒューリー同様大柄なジョシュア(198㎝)には通用しません。スプリンターとして専門のトレーニングをしていないにもかかわらず、あの巨体で100mを11秒53で走る瞬発力を持つジョシュアは、41歳のクリチコにとって最もコントロールしにくい厄介な相手でしょう。

中盤から終盤でジョシュアのストップ勝ちという大方の見方よりも、早い段階で決着がつくと予想します。2ラウンドから6ラウンド、ジョシュアの前半KO勝ち。

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