いよいよ今週末に迫りました。ジョシュア対クリチコの世界ヘビー級タイトルマッチ。

両者のファイトマネーは最低保障で1500万ポンド、日本円で約22億円。今のアメリカでこの報酬を稼げるボクサーは一人もいません。

ゲート収入は同じウェンブリーで2014年にカール・フロッチ対ジョージ・グローブスが8万人を集客しましたが、その時よりも1万人以上多い観衆がスタジアムに詰めかけることから10%強が上積みされて2500万ポンド、約36億円に膨らむ見込みです。さらにジョシュアには、リッキー・ハットンがメイウエザー戦(2007年)でマークした 英国人のPPV販売記録105万件の更新も確実視されています。ちなみに同国で最も売り上げたPPVは2015年のメイウエザー対パッキャオの115万件ですが、こちらも超越して150万件、4000万ポンド58億円の売上げが予想されています。

TV放映権収入も順調です。米国のSHOWTIMEとHBOで合計240万ポンド3億5000万円、クリチコの人気が最も高いドイツの RTLは400万ポンド5億8000万円で生中継の権利を買い取りました。日本では30日早朝6時からWOWOWが生中継してくれますが、わが国ではジョシュアもクリチコも無名なので相当に割安で視聴できます、ありがたいことですが、ボクシングファンとしては複雑ですね。


【今年1月にアンソニー・ジョシュアはムスリムの親友と一緒にドバイに旅行。親友に頼んで、クリチコとの試合で二人とも健康なままリングに上がり、健康なまま試合を終えることを祈るためにモスクに入った。ジョシュアはムスリムではないが、常日頃から信仰の大切さを感じてきた。そして当然、彼のアイドルはモハメド・アリ(クリチコも)。しかし、祈りを捧げる写真をインスタグラムにアップすると誹謗中傷で炎上。ジュシュアは「こんなことをする恥ずかしい人々が世界には存在するが、私には人が考えることをコントロールすることは出来ない」と戸惑っている。〜リング誌2017年5月号より】

さて、試合の予想です。

世界最大のブックメイカー、ウィリアムヒルズはさすが地元、この試合一色の様相を呈しています。オッズはジョシュア勝利が1.4倍、クリチコが3倍。ラウンドごとの内訳ではジョシュアの判定勝ちが6倍で最も低く、ストップだとやはりジョシュアの5〜8ラウンドがそれぞれ12倍と低配当となっています。ハイリターンはクリチコの1ラウンドKOで66倍、60秒以内なら100倍に跳ね上がります。「ジョシュアが2020年までにヘビー級4団体を統一できるか?」なども賭けられており、まさにジョシュアフィーバーですね。

大方の予想もオッズに沿った感じで、中盤から終盤にかけてジョシュアのストップ勝ち。タイソン・ヒューリーの体格とスピードを持て余したクリチコでは、同じくらいの体格でより速いジョシュアをコントロールするのは難しいと見られています。

経験値では世界戦25勝19KO2敗のクリチコが圧倒的に上。今回、予想通りにジョシュアが勝ったとしても、クリチコの殿堂入り確実のこの数字に到達することは、まず不可能なとてつもなく凄い成績です。

しかし、この戦いは「若いライオンと老いたライオンの戦い」。それは過去の歴史を紐解いても世代交代、王者のトーチが受け継がれるのが常でした。

今日のリング誌電子版が「無敗の快進撃を続ける若手に、レジェンドが挑戦した5試合」を特集しています。私見も交えてざっと紹介すると…。

①1951年マジソンスクエアガーデン
ロッキー・マルシアノ=8ラウンドTKO=ジョー・ルイス
ノンタイトルの10回戦。税金の支払いに困窮した末に戦い続けていたルイスをKOした28歳のマルシアノはこの時、37戦全勝33KO。49戦無敗のままキャリアを終えることになるマルシアノは、戦後最大のスポーツヒーローを自分の拳で痛めつてしまったことに涙し、37歳の老雄は「年を取り過ぎたってことさ」とこの試合を最後にリングに戻ることはありませんでした。

②1980年シーザースパレス
ラリー・ホームズ=10ラウンド終了TKO=モハメド・アリ
WBC世界タイトルマッチ。「もう一度奇跡を起こせ」とアリのファンで埋まった観客席は、残酷な現実を10ラウンドも見せられる羽目になりました。38歳になるアリは生涯通じてこれが唯一のKO負け。マルシアノと同じく、ホームズも試合後の会見ではアイドルを傷つけてしまったことに涙を流しました。

③1988年アトランティックシティ・コンベンションセンター
マイク・タイソン=4ラウンドKO=ラリー・ホームズ
IBF/WBA/WBC世界タイトルマッチ。今度はホームズが38歳となってアリの役回りを強いられる番です。そしてホームズもまたその輝かしいキャリアの中で、この試合が唯一のKO負け。長いブランクからチューンナップの試合も挟まずに、いきなりタイソンに挑んだホームズでしたが、3ラウンドまで左ジャブを起点にゲームを組み立てました。「ラリーが全盛期だったら勝つチャンスはなかった」と会見で語った21歳の言葉は、誰の耳にも社交辞令には聞こえませんでした。

④1991年アトランティックシティ・コンベンションセンター
イベンダー・ホリフィールド=12ラウンド判定=ジョージ・フォアマン
IBF/WBA/WBC世界タイトルマッチ。アリもフレージャーもリストンもノートンもリングを去って長い長い歳月が流れたというのに…フォアマンのカムバックは誰の目からも冗談にしか映りませんでした。恐竜はとっくの昔に一匹残らず滅びたのです。…そのはずでした…ホリフィールドは試合をコントロールしましたが、フォアマンの前進を止めることが出来ませんでした。のちに「レノックス・ルイスですら私のラッシュには後退したというのに、フォアマンは絶対に下がってくれなかった。巨大な岩石のように迫ってきた。全盛期のフォアマンがどれほど強かったのか正直、想像もつかない」とホリフィールドは吐露しています。恐竜は一匹、確かに生き残っていたのです。


【「全盛期のフォアマンがどれほど強かったのか正直、想像もつかない」イベンダー・ホリフィールド】

⑤1994年MGMグランド・ガーデンアリーナ
ジョージ・フォアマン=10ラウンドKO=マイケル・モーラー
IBF/WBA世界タイトルマッチ。45歳になったフォアマンは18歳下の若き王者に挑戦します。モーラーは「サウスポーはヘビー級王者になれない」というジンクスを初めて破った俊才でした。鋭いパンチでフォアマンの顔面を腫れ上がらせ、優勢に試合を進めていきますが、とどめを刺せません。そして10ラウンド。注意が散漫になった若者の顎をフォアマンのワンツーが撃ち抜いた時、全てが終わりました。この夜、フォアマンが二本の太い足を通していたのは、ちょうど20年前にキンシャサで履いていたトランクスでした。あの永遠に続くと思われたアリの呪縛からもまた、この瞬間に解放されたのです。HBOの名解説者ジム・ランプレーの叫びも、この奇跡の試合を完璧に表現した言葉として有名になりました。「“It happened!”(なんてこった!)」。

…さて、さてジョシュア対クリチコはどんな結果になるのでしょうか。両者ともに1ラウンドは慎重に立ち上がるでしょう。

ギアを上げるのはジョシュアです。クリチコが得意とするホールディングからの突き放しての攻撃は、ヒューリー同様大柄なジョシュア(198㎝)には通用しません。スプリンターとして専門のトレーニングをしていないにもかかわらず、あの巨体で100mを11秒53で走る瞬発力を持つジョシュアは、41歳のクリチコにとって最もコントロールしにくい厄介な相手でしょう。

中盤から終盤でジョシュアのストップ勝ちという大方の見方よりも、早い段階で決着がつくと予想します。2ラウンドから6ラウンド、ジョシュアの前半KO勝ち。