PFPは「体重同一時最強」と訳されることがあります。

そして、PFPは正当に評価されないシュガー・レイ・ロビンソンの偉大さを色付けするためのプリズム装置でもありました。

このPFPの基本概念、出自を振り返るまでもなく、PFPの前ではどの階級も平等でなければなりません。

しかし、2015年にローマン・ゴンザレスがPFPキングの座に就くまで、軽量級は負のフィルターを通した評価に甘んじてきました。

よく言われたことですが「ナジーム・ハメドやマルコ・アントニオ・バレラ、リカルド・ロペスがウェルター級やヘビー級で同じことをやっていたら間違いなくPFPキング」でした。

〝軽量級差別〟がメディアレベルでは希薄化した現代ですらも、井上尚弥がウェルター級で同じことをやっていたら今以上の評価に浴していたはずです。
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左手前は〝今は亡き〟英国ボクシングマンスリー誌の付録カレンダー(2019年版)。8月を飾ったのは井上vsジェイミー・マクドネルでした。


…もし、PFPを考えるにあたり、とことん平等公平を突き詰めるなら「競技人口」と「報酬格差」もランキングに反映させるべきかもしれません。

スポーツレベルの決定要素が「競技人口」と「報酬」、そしてそれらに必ず伴う「人気」にあることは明らかです。

野球とソフトボールのNo.1選手、どちらがレベルが高いのか?

バンタム級とウェルター級、どちらがレベルが上かを問うのと同じで、そもそも比べることなど出来ないのですから答えはありません。

しかし、野球もソフトボールも競技経験がない人でも「競技人口と報酬、人気が全く違うから野球の方がレベルが高い」と答えるでしょう。

「競技人口」は山の裾野ですから、広ければ広いほど頂上(レベル)は高くなります。

「報酬」は選手のモチベーションで生活基盤ですから、ここが莫大だとパックメイのような本物の怪物が産まれやすくなります。

6月20日現在の「競技人口」はバンタム級の1018人に対して、ウェルター級が2170人 (BoxRec)。係数は2.13。

さらに「報酬」。常時10万ドル以上のファイトマネーを稼げるバンタム級は井上尚弥ただ1人で、ビッグマネーを生み出すPPVに乗ったボクサーは1人もいません(PPVの前座選手はメガイベントの恩恵から報酬が高くなりがちですが、PPV歩合収入はゼロなので何の意味もありません)。

対して、ウェルター級はトップ選手のほとんどが100万ドルを稼ぎ、マニー・パッキャオは1000万ドルファイターです。

現代でただ1人のPPVスター(ほぼPPVのリングにしか上がらない)マニー・パッキャオを筆頭に、エロール・スペンスJr.、テレンス・クロフォードのタイトルホルダーはもちろん、マイキー・ガルシアやキース・サーマン、ショーン・ポーターらもPPVファイターです。

トップ選手かどうか微妙ながらも、ダニー・ガルシアやジェシー・バルガスも100万ドルファイトを何度も経験しています。トップですら10万ドルがほど遠いバンタムとは、まさに雲泥の差です。

「報酬」を係数化するのは難しいものの、ウェルター級ではバンタムの10倍以上、井上を例外とするなら20倍以上のファイトマネーが発生していることから「20.0」程度でしょうか。

クロフォードが「PFPなんて気にしないけど、軽量級の選手が私より上なんてありえない。そのうち女子も入れるんじゃないか?まあ、勝手にしてくれ」とボヤくのもわかる気がします。


しかし「ウェルター級やヘビー級は軽量級よりもレベルが高い。その理由は競技人口と報酬、以上」という絶対と思われた真理は、フライ級上がりのアジアの拳によってあっけなく打ち砕かれます。

とはいえ、軽量級の報酬で井上が例外という以上に、パッキャオは例外中の例外です。

ボクシング150年の歴史で、フライ級どころかフェザー級王者ですら、ウェルター級のアルファベット団体のピースも拾えていないのが現実です。

パッキャオは突然変異を通り越した、150年に一度現れるかどうかの超常現象と見なしていいでしょう。

そう考えると、やはり軽量級は層が薄く、待遇も悪いことからレベルも低い…そう考えざるをえません。

「競技人口」の2.13を当てはめるとリング誌3位の井上のランクは6.39位に、さらに「報酬」の20.0まで加重してしまうと…PFP128位にまで墜落してしまいます。

もちろん、これは数字遊びですし「報酬=レベルが高い」ならカネロ・アルバレスが歴代最高ボクサーになります。

「競技人口」でいえば、日本で1980年代にすでに野球を上回っていたサッカーが「競技人口が多いからレベルが高い」とは誰も思いませんでした。

「競技人口」と「報酬」はレベルを決める重要な決定要素の一つではありますが、その一つだけ、あるいは二つとも揃っても、あくまで数多くある決定要素の二つに過ぎません。

バンタム級のエデル・ジョフレ、ライト級時代のロベルト・デュラン、クルーザー級のイベンダー・ホリフィールド、ストロー級のリカルド・ロペスらはやはり PFPファイターに数えるべきグレートです。

そんなグレートと比べてしまうと、井上が勝った相手の質が、眼を覆うばかりに低いのは明らかです。

では、誰に勝てば良かったというのか?

BEST FIGHTER POLL (リング誌の〝年間PFP〟)で見ると、2012年プロデビューはドネアの全盛期で、軽量級でただ1人ランク入り(5位)。

しかし、フィリピーノフラッシュはジュニアフェザー級で、井上はジュニアフライで世界を目指してデビューしたばかり。対戦可能性はありませんでした。

2013年はドネアを圏外に蹴落としたギレルモ・リゴンドーが 8位に登場。この年、田口良一から日本フライ級タイトルを奪いましたが、リゴンドーはジュニアフェザー級、3階級も上のクラスでした。

2014年はついにフライ級のローマン・ゴンザレスがいきなり4位にランクイン。 井上のレーダーがようやく「文句無しの強豪」の姿をキャッチします。

この年、井上はロマゴンを待ち伏せするかのようにジュニアバンタム級に〝先乗り〟。

PFPなど世界評価からは一線を画するリングで二階級制覇・それぞれの階級で二桁防衛の〝数字魔人〟オマール・ナルバエスを、下馬評の「中盤から終盤KO」を上回る2ラウンドで粉砕したのです。

この試合を評価した boxing scene.com は井上を Fighter Of The Year に選出しました。

そして、2015年にロマゴンは軽量級史上初の1位に輝き、その座を2016年まで守りました。 井上もロマゴンと同じ、THE SUPER FLY のリングに登場、決戦を夢見ましたが…。

ロマゴンは井上の眼の前でシーサケット・ソールンビサイに2連敗、しかも4ラウンドKO負けの惨敗。

それでも、ロマゴン、井上に加えてシーサケットはもちろん、ファン・フランシスコ・エストラーダもPFP入りと、ジュニアバンタム級は軽量級ではありあないハイレベルな様相を呈します。

しかし、減量が限界の井上は、当時も不毛階級とはいえWBSS開催が決まっていたバンタム級に舵を切りました。

そこで、WBSSのドタバタ運営に翻弄され試合間隔を無駄に空けてしまうことになります。

もちろん、現状のバンタムには「文句無しの強豪」と呼べるボクサーは1人もいません。 

その中で、ジョンリール・カシメロの意外性は、それこそ全階級を通じて1、2位を争うものですが…。

これは、井上にとっては勝利しても「今日のカシメロは不発弾だった」で終わってしまう、危険なだけの仕事になってしまいます。

全ての原因は「軽量級」であるがゆえ、なのですが…タイミングは良くないですね。