4月10日金曜日。

天気晴朗なれども風強し。


海が程近い川沿いですから珍しくはありませんが、それにしても強風でした。

昼休み。

誰からも相手にされない私にしては珍しく、1人ではなくものすごく若い女性と一緒。勝鬨橋方面へ。

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晴海通りを真っ直ぐ、築地市場のあたりは人影がちらほらも、勝鬨橋まで来ると人通りはほとんどありません。

個人的にとか、歓送迎会などで会社ぐるみとか、はたまたその両方だとかでお世話になってた、いつくかのお店にご挨拶。

悲しいことに、今日で締めちゃう店もありました。

私は人嫌いで自己中でどうしようもない無能人間ですが、周囲には奇跡的に恵まれてて、こういう運の良さって何なんだろうと真剣に思います。 

そして、いっぱい助けてくれた人たちに何の恩返しも出来ない…。それの繰り返しの人生でした。
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そのものすごく若い女性、うちの会社でバイトしてた大学生のAさんなんですが、彼女が店の顔なじみと「私も今日までなんですー」と明るく笑うのも辛くて…。

去年の夏から就職が決まってからバイトしてくれてた4年生。今回の件で卒業旅行を取り止めたばかりか、バイト仕事がなくなって今日でおしまい。

本当なら私のお手伝い、通訳みたいな仕事をお願いしてたのですが、出張なんてもう論外な状況ですし…。

そもそも、彼女は内定していた就職も一時取り消しされたばかり…。


隅田川テラスと名付けられた美しく整備された河川敷に降りると、上流の浅草方面も下流の東京湾も、何組かの親子が散歩してるだけ。
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花壇に近づくと、あ!と思うくらいの花の甘い香りが鼻に広がりました。

ブス女子大生が「匂いがわかるから大丈夫ですねー」と憎まれ口を叩いても、本当にもう何も返せなくて「いろんな人に悲しい思いばっかりさせちゃってるなあ」と下を向くと「人間、生きてたらどんなことでも時間が経ったら全部笑える!」と、英語で言われました。

それは、つい数週間前に米国から インターン的にうちの会社で働いてた日本かぶれの女子大生Bさんが、チャーター機で送り返されるときに羽田のロビーで私が励ました言葉でした。

ほとんど報道されませんでしたが、米国はものすごい数のチャーター機を手配して日本で働いてたり、留学してたりしてた自国民を羽田から半強制帰国させていました。

わずか1ヶ月前のそのときは、羽田から夜間、次々に離陸するチャーター機の絵面は見方によっては「ノアの箱船」でしたが…。

全ての便がニューヨーク行きで、そこで14日間隔離されるわけですが、彼女の場合はその間に米国、とりわけニューヨークの状況が本当に一気に悪化してしまいました。

彼女が「帰りたくない」と泣くのを説得したのは私でしたが、とんでもない間違いを犯してしまったという気も…。

いろんな悪いことが、ものすごいスピードで侵攻してきて、自分は何もできないばかりか、守らなければいけない人を守れないばかりか…。

「俺は平和なときにおちゃらけてるだけで、こんな大事な時には何もできない情けない奴だなあ」と 肩を落とす私の眼の前にAさんが差し出したスマホには「ドン、クライン、泣かないでぇ」とおどけたBさんが…。

「そこはどこで今何時だ?家族にちゃんと会えたのか?」と聞くのが精一杯。

こんな事態でもBさんは「必ずまた行くから給料上げろ、そして思い出横丁と八五に連れて行け」と可愛く笑ってくれて。羽田のロビーでは号泣してたくせに。


ひとしきりBさんと話して、Aさんに「お前、いつの間にそんなに大人になったんだよ」とスマホを返すと「次は想い出横丁と八五、行きますよ」と睨まれました。

思い出横丁って新宿の汚い飲み屋で、そこまで美味しくなく、そこまで安くもなく、トイレは共同で離れている、何より狭くて、それなのになぜか混んでいる、という戦後バラックから引き続きの〝長屋飲み屋〟みたいなとこで、なぜか外国人に人気があるんです。

人混みNGの私にとって、さらに狭い、トイレは店から離れた共同(そんなのありえません)なんてありえません。そもそも、職場は銀座の外れで、新宿まで電車乗って思い出横丁なんてありえないんですが…。

八五というのは、銀座の外れの外れにあるラーメン屋。一番の名物は超行列、という私が最も嫌悪し唾棄するラーメン屋です。

もちろん、お店に罪はありません。超行列ができるんだからさぞかし美味しいラーメンなんでしょう。素晴らしいお店です、きっと。

「Bが来たら思い出横丁も行くし、八五も並びましょうね」と笑うAさんに「そのときは会社つぶれて俺は路頭に迷ってるからおごってくれな」とやっと返せました。

「愚鈍なおっさん vs 頭の回転の早い若い女の子」は完全なミスマッチです。男子なら、あっちが泣いてこっちが励ますんですが…。
 

いままでもそうでしたが、この1ヶ月は自分の無力さを思い知らされる毎日です。それでも、この重たい逆境を乗り越えたら…こんな私でも、あんなに大嫌いだった人混みや行列が愛おしくなりそうです。