その株価は適正か?


全盛期のマイク・タイソンやロイ・ジョーンズは史上最高ボクサーと持て囃されましたが、今ではその評価は暴落。当該階級の歴代トップ10にも入れてもらえません。

11/21のリング誌電子版でも「全盛期のタイソンでもソニー・リストンに飲み込まれてしまう。それほどまでタイソンは精神的にも技術的にも弱く一面的 Liston vs. Tyson (Spinks version) – Liston by late stoppage. 」と取りつく島もありません。

タイソン世代の私としては複雑ですが、信じられないほどの精神的な弱さ、敗北内容の眼を覆う劣悪さ、下がるとおしまいの技術の欠如、アリ退場で陥没したあの時代の一瞬に無双した幸運なボクサーとしか評価できません。 

株価と同じく、リアルタイムで動くモノの評価は一様に過大評価され勝ちで、後世ではその評価が目減りするのが常です。

今回、俎上に上げる1990年代以降の「4-Belt Era (4つのベルトの時代)」の日本人PFPでも、現役選手はまだレガシーが完成していないという点では不利です。

一方で熱量が過剰に伝わるリアルタイムの評価は、間違いなく有利に働きます。

例えば辰吉丈一郎や長谷川穂積、西岡利晃は「ファイティング原田」と比較され、史上最高ボクサーと取り沙汰されたことがありました。

しかし、今ではそんな素っ頓狂な話は無かったかのように綺麗サッパリ忘れ去られています。

現在の井上尚弥は丁度彼らと同じような立ち位置にいます。

もちろん、1990年代以降の「4-Belt Era (4つのベルトの時代)」の日本人PFPを考えるにあたって、1団体10階級時代の原田を持ち出すのは無粋です。

彼らの評価が後世暴落した最大の原因は「4-Belt Era」という時代そのものににあるのですから。

もし長谷川らが原田の時代にリングに上がったいたとしたら、彼らが何者であるかは無駄に先送りされることなく早い段階で白日のもとに晒されたらでしょう。

その意味からも「4-Belt Era (4つのベルトの時代)」の日本人PFPを考えることは、白井や原田が戦った単純明快な時代をテーマにするよりも遥かに想像力をかきたてられる作業になります。

まずは来年50歳になるというのに、今なお現役の浪速のジョーから採点します。

「人気」。それも純粋なボクシングファンから集めた密度の高い期待という点では 4-Belt Era で最高クラス。もちろん満点の5点です。
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「勝ったら神様」「負けても主役」。思えば薬師寺保栄ら対戦相手に失礼なメディアやファンの反応でしたが、それほどの引力を持ったボクサーでした(過去形だと今度は辰吉に失礼?)。

次にバンタム級を主戦場にした辰吉の「階級難易度」の点数は4点/10点満点。

原田以来、遠い階級になっていたバンタムは六車卓也によって再び日本にもたらされました。

純粋階級の残り香がまだあった当時のバンタムは、今よりも明らかにスペシャルなオーラを纏っていました。

しかし、誰に勝ったかが最重要とはいえ、バンタムの攻略難易度は高くはありません。

そして「世界評価」。ホセ・スライマン会長から直々にWBC殿堂を薦められても「まだ現役」と固辞したジョー。

WBC殿堂が今でもあるかどうかはわかりませんし、興味もありません。わざわざ調べる時間も勿体ない、いずれにしても価値のないものです。

では辰吉は期待外れの紛い物だったのか?

ミゲール〝ハッピー〟ロラからの正当を継ぐLINEAL Champion グレグ・リチャードソンを撃破、階級最強と目されたシリモンコン・ナコントンパークビューを伝説的なKOで斬り落としたジョーは、後年になると単純な戦績だけから過小評価される傾向が強まっていますが、勝った相手の質は低くありません。

35点満点の「世界評価」で20点は与えても文句はないでしょう。

辰吉丈一郎の合計、29点/50点満点。

ここまで書いてきて、20人以上の候補者を点数順に紹介していくのは電車や車の中で暇つぶしでやるのは私の知能では難しいと気づきました、ようやく。

ということで、1位から一気ですね。

第1位、これは井上尚弥でしょう。 

かつての高嶺の花、リング誌PFPにはこの3年間で山中と内山を加えて3人がランクイン。

井岡一翔や田中恒成、拳四朗、京口紘人、田口良一(引退宣言しましたね。勇気を売り物にする好きなタイプのボクサーでした)らもダグ・フィッシャー編集長がことあるごとに「PFPは射程距離」と太鼓判を押すなど、日本人ボクサーはウェイティングサークルに列を作っています。

それでも、対立王者(エマヌエル・ロドリゲス)を序盤で粉砕した業績は、日本人ボクサーでは際立っています。

そして、個人的には素直に喜べないもののリング誌PFPで3位、ESPNでも4位と世界評価は天井すれすれまで沸騰しています。
Top 4 P4P: Combined Record Last 5 Opponents
RECORDWINPCT
Canelo Alvarez171-6-20.955
Terence Crawford119-5-10.952
Naoya Inoue126-8-30.92
Vasiliy Lomachenko140-12-30.903
ESPNから。「対戦相手の戦績を合計して割り出した勝率(直近5試合)」では4位の井上が2位のワシル・ロマチェンコを抜いて3位に。

しかも、対戦相手の8敗のうち4つはドネアですから、想定通りバーネットとの無敗対決なら105勝4敗3分となり勝率は「0.94」に…あれ?カネにもクロにも届かず、あまり変わらないんですね。

ドネアの勝ち星が多いこと(40)、逆にバーネットが少ないこと(19)で、結局0.02ポイントしか上積めないんですね…。

数字遊びですが、カネロが一番というのは興味を引くマッチメイクの巧妙さを表しているようで、なんだかヤな感じです。


井上の「世界評価」は、満点の35点です。

そして、バンタム級の「階級難易度」は4点ですがジュニアフライとジュニアバンタムを合わせて2点、合計6点。

「人気」は辰吉と亀田興毅を基準点の満点5点としましたから、現状の井上はせいぜい2点。

合計43点。「世界が4つに分裂した時代」の日本人PFPキングで文句はありません。 

では、2位は誰になるのか…これは難問です。