2011年4月23日にロスアンゼルスのノキア・シアターでセットされていたバンタム級最強トーナメント決勝戦。

ジョセフ・アグベコvsアブネル・マレス。

アグベコ31歳、マレス25歳。

このとき二人はともに、軽量級ボクサーとしてプライムタイムを迎えていました。

軽量級ボクシングをこよなく愛するハシクレとしては、垂涎のマッチアップでした。
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しかし、4月20日、ショウタイム広報担当責任者クリス・デブラシオから「ロスアンゼルス入りしたアグベコが宿舎で転倒、背中の神経を痛めてしまった」と発表。

ガーナのキングコングは決勝戦を棄権します。

マレスをプロモートするゴールデンボーイ・プロモーションズのリチャード・シェーファー(WBSSの仕掛け人でもあります)は「アグベコの代わりの選手は決まっていない。ただ、噂されているボクサーではない」とメディアの憶測を否定しました。

その「噂されているボクサー」こそが亀田和毅でした。

長谷川穂積があまりに低い報酬に参戦を見送って、日本人ボクサーには縁がなかったと、少し遠巻きに見ていた「バンタム4」が急に身近に感じたものでした。

メキシコを主戦場にキャリアを重ねていた亀田和は、日本のボクシングシーンを沸騰させていた亀田兄弟の〝最終兵器〟。世界の軽量級マニアには知られた名前です。

米国のメディアは、全く盛り上がらない「バンタム4」でも「亀田和がいきなり決勝から参戦(その是非はともかく)するならジャパンマネーが流れ込む、つまり大きな興行になる」と見ていました。

亀田和には「4月23日は無理にしても近い日時でマレスと決勝戦」という、オファーが何らかの形であったことは間違いありません。

ただ、巡り合わせの悪さです。このときの亀田和は運が向いていませんでした。

米国メディアがメキシコにいると踏んでいた亀田和は、WBAセカンド王座を持つ亀田興毅が5月7日の防衛戦に備えてキャンプを張っているフィリピン合宿に合流していたのです。

亀田和との交渉は思うように進まず、アグベコ陣営とは8月に延期することで合意します。

このアグベコのドタキャンは、医師の診断書が提出されなかったことで「仮病説」が流れました。

「あまりにも低い報酬に嫌気がさした」「マレスとの対決では公正なジャッジは望めない」など、アグベコには決勝棄権を駆け引きに使う理由は、いくつでもありました。

そして「低報酬」については、キャリア最高の13万ドルを保証させることに成功します。

「公正なジャッジ」についても、ことあるごとにメディアに訴え、牽制球を投げ続けました。

しかし…公正なジャッジが行われるどころか、仕切り直しとなった8月13日ラスベガス・ハードロックホテル&カジノの特設リングに上がったガーナ人を待ち構えていたのは、史上最悪の試合の一つでした…。

軽量級は、スピードとテンポ無尽蔵のスタミナといったリング内のスペクタクルがそのエッセンスですが、欧米ではほとんど需要がありません。

「欧米のファンはボクシングの面白さの半分、いやそれ以上を堪能できていない」(元リング誌編集長ナイジェル・コリンズ)ということは、その試合が密室に近いことも意味します。

ウェルター級やヘビー級で同じことがあれば事件になることも、軽量級では見過ごされてしまうということです。

サッカー W杯決勝で誤審があれば「世紀の誤審」として世界中のスポーツファンが叱咤しますが、それがバンタム級トーナメント決勝で起きてしまうと軽量級に精通している日本のボクシングファンですら看過してしまうのです。

マイナーの悲劇、です。