なぜ、プロボクシングは日本や米国で凋落の一途を辿っているのか?

どうして、モハメド・アリと具志堅用高が Last Swan(白鳥が臨終の間際に歌う最期の美声)になってしまったのか?


①クローズドサーキットやPPVによるマニアの囲い込み(タダ見・一見さんお断り)によるものだとしたら、アリの時代からもっと坂道を転げ落ちて、レナードもハグラーももっとマイナーな存在であったはずです。

そして、基本的に地上波無料中継でボクシングの試合が観れる日本において「マニアの囲い込み」は凋落の理由になりません。
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アリvsフォアマン。クローズドサーキットが上映される劇場に群がる人々。(実際のシーンではなく映画のセットです)


②スポーツの多様化を原因とするなら、NPBやMLBの成功の説明が出来ません。

多様化の中で自分たちにしかない魅力を打ち出していけば良いだけなのです。



③スポーツファンの大衆化(女性や子供も楽しめる)という点では、確かにプロボクシングは、プロ野球のようなスタイルチェンジが難しかったかもしれません。

スポーツ観戦そのものが、働く男たちがリングや球場につめかけてタバコの煙をくゆらせヤジを飛ばす…そんなむさ苦しい男のものであった時代はとうの昔に過ぎ去りました。 



>①「マニアの囲い込み」についてはPPVが浸透していない日本では無縁とはいえ、無意識のうちにそれが進行しているようにも見えます。

後楽園ホールで自分の財布からチケットを購入し、タバコを吸いながらリングに向かってヤジを飛ばしていた男たちは、ある意味「マニア」でしたが、大衆の一部でもありました。
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しかし、現在のホールはノボリを立てて、声を合わせて応援する、そんな若者たちで埋め尽くされています。

多くの場合、彼らの関心は自分たちが応援している選手限定で、ボクシングではありません。

そこは、民度の低いオッさんが自由にヤジを飛ばせる場所ではなく、敬虔な信者が集まる儀式の場所にも似ています。

もちろん、彼らも大衆の一部です。

しかし、面白くなければ誰にでもヤジを飛ばすオッさんたちが絶滅したのは、ホールが禁煙になったからではないのです。



>②「観戦スポーツの多様化」 による相対的な地位低下は、オールド・スポーツでありながら見事に生き残っているNPBとMLBでも事情は変わりません。

「長嶋茂雄」も「ファイティング原田」も、成熟した先進国では二度とと我々に姿を見せてくれることはないのです。

プロ野球もプロボクシングも一部を除いて、地上波で放送される番組ではなくなりました。

それでも、読売ジャイアンツが全てだったプロ野球は、大きくその姿を変え、かつて観客が数えるほどの寂れた大阪球場や川崎球場はもはや存在しません。

凋落一方のボクシングに対して、キックボクシングK1(現在のK1ではありません)や、総合格闘技PRIDE は刹那のブームとはいえ大きなムーヴメントを創出して見せました。

アンディ・フグや魔裟斗、エメリヤーエンコ・ヒョードルや桜庭和志、グレイシー一族らは、ほぼ全てのプロボクサーを凌駕する認知度と人気を得ていました。

JBCも、WBCなどの承認団体よりも上の統括団体なのですから、もっと〝統括〟して独自色を打ち出していくべきです。



>③「観戦スポーツの大衆化」。女性や子供も楽しめる、という点ではボクシングは非常に厳しいかもしれません。

通常のホールはもちろん、横浜アリーナや有明コロシアムのようなリングでも、家族連れを呼ぶ施策なんて思い浮かびません。

応援していた選手が血だるまになるとか、失神KO負けするとか、子供に見せてはいけません。相手選手でもそうですね、子供には見せてはいけません。

「カープ女子」「プ女子」のように「ボ女子」が後楽園ホールに詰めかける絵も、全く想像できません。

この方向で、ボクシング界ができることは限られていますね。



>>>承認団体と階級がいたずらに増殖して、世界王者の権威が失墜している現状もまた、このスポーツが没落の一途をたどっている大きな原因でしょう。

そう考えると、50年以上前のように世界的な承認団体がまだ一つNBAしか存在せず、8階級しかなかった、あの時代の構造に戻れば、ボクシングの地位は少しは復興するはずです。

もちろん、そんなことは不可能ですが。

「団体と階級の増殖」については、マイナスの目でみるだけでなく、渡辺均会長のように「今がボクシングの黄金時代」という見方もあります。

半世紀前、世界王者は日本に一人かせいぜい二人の時代。ファイティング原田は現在の価値で2億円〜3億円とも言われるファイトマネーを稼いでいました。

世界タイトルマッチのテレビ視聴率が、50%を超えることも珍しくありませんでした。

ひるがえって現在。リング誌などが年収500万ドルと推定している村田諒太は例外(彼は電通と大企業がチームを組んだ神輿に乗った日本スポーツ史上例のないアスリートです)として、エースの井上尚弥でもファイトマネーは3000万円前後と見られています。

井上と原田では、報酬も視聴率も比べる対象ですらありません。

しかし、原田は一人ですが、現在の世界王者は井上だけではありません。男子だけで常時10人前後の世界王者を抱えているのです。

その全員のファイトマネーや視聴率を加算すると原田にも匹敵する。

ボクシングは没落なんかしていない、一つか二つしかなかった大粒が、いくつもの小粒に化けただけ。

日本がIBFとWBOを受け入れたことについて、渡辺会長は「(団体と階級の増殖で)世界挑戦のチャンスが増えることは良いことだ」と明言しているのです。

これは、一理ありますし、現場の人間として決まったことに反論するメリットも必要性もありません。

ただ、ボクシングファンが期待しているのは、一般人が誰も知らない世界王者が10人も20人も産まれることではありません。



ボクシング凋落・没落の影響を受けてリング誌も身売りとページ数削減を続けています。

98ページまで縮小した昨年まで連載されていた「OLD SCHOOL8」というコーナーがありました(現在は64ページまでさらに薄まり、このコーナーも消滅)。

リング誌の記者が「もし今なおオリジナル8(最初の8階級)の時代なら、誰がチャンピオンか?」を想像するお遊び企画です。

いまはなき企画を、現時点でやっちゃうと…。

★フライ級(112ポンド):「ライトヘビー級より古い」と勘違いしてる人も多いのですが、オリジナル8で最後に生まれたクラスです。シーサケット・ソールンビサイ(タイ)

★バンタム級(118ポンド):パナマ・アル・ブラウンやエデル・ジョフレ、階級を超えたグレートを生み出し、日本でも「あしたのジョー」によって特別な階級に昇華しています。井上尚弥(日本)
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★フェザー級(126ポンド):ミドル級上限の日本では中量級の扱い。世界的にも人気・層が一気に厚みを増すクラス。ジャーボンタ・デービス(米国)

★ライト級(135ポンド):世界的なスーパースターが産まれる下限のクラス。欧米ではこの階級までが文字どおり軽量級にカテゴライズされることが多い。ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)

★ウェルター級(147ポンド):世界で最も層が厚い、スーパースターの王宮。ミドル級までの13階級で日本人がまだ足を踏み入れることが許されていない最後のクラス。エロール・スペンスJr.(米国)

★ミドル級(160ポンド):ウェルター級に次ぐ花形階級。カネロ・アルバレス(メキシコ)

★ライトヘビー級(175ポンド):長らくヘビー級と隣接するクラスだったがゆえに日陰階級のイメージが強く、ナショナルタイトルがない日本でも馴染みが薄い。セルゲイ・コバレフ(ロシア)

★ヘビー級(weight unlimited 無差別級):アリの時代までボクシングと同義語だった最強クラス。アンソニー・ジョシュア(英国)



やはり、8人しかいないと王者の重み、価値は尋常じゃないですね。それに8階級だと複数階級制覇の難しさが、見るからにハンパないです。

まず階級そのものが少ない(パッキャオの8階級制覇なんて全階級制覇になってしまう)。

階級間の体重差が大きいから、複数階級制覇の負担も大きい。

そして何より、穴王者が一人もいない。当たり前ですが全員が階級最強王者。世界挑戦者決定戦に駒を進めるだけでも大変です。

現在の世界の風景がこの8人なら、ボクシングが軽視されることはありえないでしょうね。

日本人ボクサーがこの8人の誰に勝っても、スポーツ界を揺るがす大事件です(井上は日本人ですが)。

そして、ボクシングファンなら全王者の名前を簡単に諳んじるでしょうし、世界戦も全てチェックできます。

しかし、白井義男はまさにオリジナル8の世界で戦い、ファイティング原田も10階級時代に躍動したのです。

もし、白井と原田がいなければ、私たちはオリジナル8の時代を想像することは、今以上に難しかったでしょう。

二人は偉大です。

よくぞ、あんな時代に世界チャンピオンになってくれました。