軽量級史上、世界最大の戦いを一試合だけ選べ。※ここでの軽量級は世界基準の「ライト級以下」ではなく、アジア基準の「フェザー級以下」とします。
その答えは、カルロス・サラテやアルフォンソ・サモラ、ウィルフレド・ゴメス、サルバドール・サンチェスがバンタム級からフェザー級にかけて繰り広げた名勝負の中にあるでしょう。
ただし、興行規模という一点からは軽量級の本場は日本です。世界王者になって地上波の乗ると、ファイトマネー1000万円を超えてきます。世界の軽量級では王者でも6フィギュア(6桁=10万ドルファイター)を稼ぐのは一部のファイターだけです。
最近ではタイのONEチャンピオンシップが米国HBO(スーパーフライ)を上回る条件提示でシーサケット・ソールンビサイを引き抜くなど、これまでになかった動きも出てきていますが、軽量級では日本人世界王者が非常に恵まれた経済環境にあるのは間違いありません。
話は戻って「軽量級史上で世界最大の興行」です。
答えは「マイケル・カルバハルvsウンベルト・ゴンザレス」ではありません。米国人の多くが史上最高の軽量級決戦と勘違いしているあの試合の興行規模は、確かにビッグファイトでしたが「内藤大助vs亀田興毅」にも及ばないものでした。
軽量級史上最も大きなカネが動いたのは1994年12月4日に行われた「薬師寺保栄vs辰吉丈一郎」です。〝最も多くの耳目を集めた〟〝当時の為替レートを換算〟となると「エデル・ジョフレvsファイティング原田 第二戦」となるかもしれませんが。
WBCバンタム級チャンピオン:薬師寺保栄vs同暫定チャンピオン:辰吉丈一郎。「世界統一戦」と煽られた試合でしたが、その内実はその後「暫定王者」を乱発するWBCの新たな詐欺商法の第一弾でした。
「名古屋開催、中部日本放送(CBS)放送」(薬師寺陣営)と「大阪開催、日本テレビ(NTV)放送」(辰吉陣営)を両陣営が強硬に主張してプロモート権を譲らず、9月1日にメキシコシチーのWBC本部で競争入札が行われる事態になりました。
当初から入札には両陣営だけでなく米国の大手プロモーターも参戦すると言われていた通り、大阪帝拳と松田ジムの一対一の勝負になりません。
入札の分かれ目は200万ドルとも言われていたことから、一時は「320万1500ドルを提示したドン・キングが落札」という情報も流れましたが、薬師寺陣営は342万ドルを提示してキングを振り切りました(辰吉陣営は237万9999ドル)。
辰吉陣営の提示額まで含めて、この数字はヘビー級を除く全階級で史上最高の入札額でした。
「名古屋」勝利の最大の要因は、「(大阪)帝拳」「NTV」という中央への反発と、名古屋ローカルの意地でした。
名古屋サイドは「帝拳と関係が深いドン・キングが高額で競り落とし、帝拳と折半した興行を打つ」という見方もしており、CBCは「これは薬師寺だけの勝負じゃない。名古屋の田舎者と世界の戦いだ」と異常な執着を見せていました。
名古屋の大企業からスポンサーを募るだけでなく、CBCは「薬師寺の放映権量は普通は1500万円だが、今回は特別、中日・巨人戦レベルの9000万円を用意する」と自らも身を削ります。
名古屋がなりふり構わず入札を競り落とそうとするのも無理はなく、当時の世間は辰吉丈一郎一辺倒に動いていたのです。
テレビも雑誌も専門家もファンも、この試合を取り巻く全てが辰吉丈一郎を中心に回っていたのですから、名古屋が意地でも負けられないと思ったのは当然でした。

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