カテゴリ: 複数階級制覇

7月25日、井上尚弥が大方の予想通りにスティーブン・フルトンを倒してジュニアフェザー級のタイトルを奪取すると、井岡一翔に続く日本人2人目の4階級制覇を達成します。

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来月25日の有明アリーナ、史上2人目の4階級制覇達成は確実!

「4階級制覇」は、井岡の他にノニト・ドネア、エイドリアン・ブローナー、ローマン・ゴンサレス、ドニー・ニエテス、レオ・サンタクルスらが現役でリングに上がっていますから、稀代の大偉業とは言えません。

それでも、井岡ら現役の4階級制覇は一人残らずPFP10傑の評価を受け、ロマゴンは2年間もPFPキングに君臨しました。

そして、現在の米国市場で傑出した人気を誇るカネロ・アルバレスも4階級制覇。

世界では一般的な認知度は低いものの、専門家評価はトップランナーの井上も、フルトンに勝てば4階級制覇。

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カネロと井上。

「4階級制覇」を軸に「カネロvs井上 12回戦」のゴングを打ち鳴らします。


Round①はPFP。

どちらもPFPの常連で、1位も経験。リング誌のランクインは井上が302週間、カネロが246週間と、30歳の日本人が32歳のメキシカンに優っています。

現在の順位も、カネロが井上よりも上、というメディアは見当たりません。

しかし、2019〜2022年まで2年も1位をキープしたカネロに対して、井上の1位滞在時間は2週間足らず。

というわけで、オープニングラウンドは、10−9でカネロ。
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「階級を上げてつぶされたら意味がない」。

今の井上尚弥の階級に対する考え方は、この言葉に集約されている気がします。

モンスターがそう語ったのは、2019年3月。エロール・スペンスJr.のウェルター級タイトルにマイキー・ガルシアが挑戦したビッグファイトの感想を求められた時のことでした。

この試合、フェザー級王者からウェルター級までの5階級制覇を狙ったマイキーでしたが、判定まで粘ること以外は何も出来ずに敗れ去りました。

試合前は「フェザー級王者がウェルター級を制覇するとヘンリー・アームストロング、マニー・パッキャオ以来、史上2人目の快挙」と、軽量級から人気階級への偉大な冒険が注目されていましたが、完敗に終わると「偉大な冒険」は「無謀な挑戦」と冷ややかに見られ、PFP評価も暴落してしまいます。

このブログでどなたかにご指摘頂いたと思いますが「マイキーがスペンスに負けてPFPが下がるのはおかしくないか?」というのは、その通りですが、PFPはもともとおかしなもの、逆に言えばその発想自体がおかしいのですから、おかしくなければPFPではありません。

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ヘビー級では傑出した強さを見せていないオレクサンダー・ウシクがPFPで高い評価を得ているのは、クルーザー級で完全統一を果たし、頭抜けて難しい2階級制覇を果たした余韻からです。

PFPって余韻で決まるんかいッ!って言われたら、余韻でも好き嫌いでも、何を根拠に決めても全く差し支えのないのがこのランキングの醍醐味です。

脳内妄想ですから間違ったPFPはありません。もちろん正しいPFPもあるわけがないのです。


マイキーはフェザー級から5階級、21ポンドも上の人気階級ウェルター級で、当時最強と見られていたスペンスに挑みます。

増量した肉体は不自然に太く、マイキー特有のスピードとタイミングは完全に失われているように見えました。

スペンスの攻勢に為す術もなく、枯れ葉のように揺れるマイキーは、井上の目に「意味もなく階級を上げてつぶされた」と映ったのでしょう。

フェザー〜ウェルターを制覇するなんて、世界王者が溢れる4団体17階級時代でも至難の業です。

同じ5階級制覇でもストローからバンタムなら体重差13ポンドですが、フェザー〜ウェルターは21ポンド。

そればかりか、ストロー〜バンタムとは比べるべくもなく層が厚く、レベルも遥かに高い舞台で勝ち抜けなければならないのです。

不人気階級から、光り輝くクラスへの脱出。フェザー〜ウェルター5階級制覇の難易度は、計り知れません。

そう考えると、人気や難易度を完全度外視して全ての階級を平等に見るPFPが良い意味でも悪い意味でも、ぶっ飛びまくりのトンデモランキングだと言うことがわかるでしょう。

フットサルやビーチサッカーの選手も含めて、バロンドールを選ぶようなものです。

もちろん、そんな無茶苦茶さは嫌いじゃありませんが、それを権威があるとか、バロンドールなようなもの、というのはあまりにも暗愚すぎです。

そんなことを口走る人はFighter of the year、シュガー・レイ・ロビンソン賞の存在を知らないのでしょうが、脳みそ同様に知る順番が狂っています。



フェザー級どころかフライ級から、ジュニアミドル級まで駆け上がって、飛び級8階級制覇を成し遂げたパッキャオ。

投手と打者でMLBトップレベルの成績を2年連続で残している大谷翔平。

彼らの「絶対無理」「ありえない」というユニコーンな活躍は、失敗に終わっていたら「無謀な挑戦」と嘲笑われていたでしょう。

パッキャオがライト級王者になったとき、すでに築いていた米国のファンですら、〝それ以上〟など求めていませんでした。

ジュニアライト級が上限の日本やアジアの国々では、ライト級でも目が眩む高嶺の花、それなのにパッキャオはこのクラスを世界戦1試合だけで放擲して、英国で絶大な人気を誇るジュニアウエルター級王者リッキー・ハットンとのメガ・ファイトを選びます。

のちの一発殿堂マルコ・アントニオ・バレラ、エリック・モラレス、ファン・マヌエル・マルケスと歴史的な総当たり戦を展開していたパッキャオは、すでにアジアのボクサーの枠を超えた世界的なアイコンでした。

アジアのボクサーには手が届かない大舞台、ハットンとの大勝負となれば、オスカー・デラホーヤに並ぶ当時史上最多の6階級制覇。

それなのに、パッキャオはハットンに待機料を支払い、急に舞い込んだ試合を優先させようとします。

待機料は本当に強い指名挑戦者との対戦を避けるために王者が支払う〝一時逃避費〟というのが一般的ですが、このケースは全く逆、さらなる冒険の旅を優先させる〝お詫び料〟でした。

ハットンは「待機料は要らないからその試合の勝者と試合をさせてくれ」と頼み込みます。

その超弩級のメガファイトがデラホーヤ戦!

当時はリーマンショック直後で米国経済は冷え切っていましたが、PPVは125万セールスを記録、階級制を嘲笑うパッキャオにボクシング界は大きな衝撃を受けました。

試合前は「偉大な冒険」に打って出るパッキャオへの賛歌はほとんど聞こえず、「無謀な挑戦」という声だけが大きくがなり立てられていました。

マイキーのケースの真逆です。それほどまでに、絶対に無理」と決めつけられていたのです。

小さなフィリピン人が公開処刑される。

ミドル級王者にまでなったデラホーヤに、フライ級上がりのパッキャオが勝てるわけがない。

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日米でもメディアや専門家から「不可能」と決めつけられたばかりか、熱心なファンですら「早い段階でどちらかに絞った方がいい」と考えられていた大谷の二刀流。

「偉大な冒険」を通り越すと、ファンですら「無謀な冒険」に見えてしまいます。

ただ、いつの時代でも、誰もが冒険者を愛しています。

冒険者を「不可能」「前例がない」と否定する人々でも、心の底では愛しているのです。

当たり前です。

私たちは、冒険する能力を持っていないのですから。

いえ…それは能力の問題ではありません。

私たちの中にも、パッキャオや大谷よりも恵まれた才能を持っている人がいるでしょう。

しかし、彼ら以上の才能を持っていたとしても、私たちには冒険の旅に出る勇気がないのです。

私たちは彼らの才能よりも、その勇気がとにかく羨ましくてたまらないのです。

その勇気に、私たちは無条件で降伏するしかないのです。
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現在の122ポンドシーンをリング誌ランキングから。


1位:スティーブン・フルトン(米国)

2位:ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)

3位:ライース・アリーム(米国)

4位:アザト・ホバニシャン(アルメニア)

5位:マーロン・タパレス(フィリピン)

6位:ルイス・ネリ(メキシコ)

7位:ロニー・リオス(米国)

8位:ゾラニ・テテ(南アフリカ)

9位:マイク・プラニア(フィリピン)

10位:井上拓真(日本)





フルトンがいくつかのメディアでPFP入りしている、とはいえ、まあ地味なランキングです。

「(人気者の)メキシカンは欲しい」(井上尚弥)とはいえ、メキシカンはお馴染みのネリだけ。

そのネリは、けして人気のあるメキシカンではありません。

日本に呼んでようやく商品価値が高騰するメキシカンですが、日本では〝永久追放〟扱い。

だからといって米国でネリでは、メインとしてはしょぼい興行しか打てません。

このクラスの魅力を考えるとフルトンがWBOとWBC、アフマダリエフがIBFとWBAと、4つのベルトが2分割されていることです。

この2人が戦うと勝者がUndisputed champion、リング誌王者も手にします。

井上尚弥がジュニアフェザーに上がったとき、世界挑戦=Undisputed championshipという図式になれば最高です。

Undisputed titleの2階級制覇となると4-belt eraでは史上初の快挙です。

ライバルはオレクサンダー・ウシクとテレンス・クロフォード。

ウシクがタイソンフューリーに勝つとクルーザーとヘビーの2階級でUndisputed champion、クロフォードがエロール・スペンスJr.に勝ってもライト級とウェルター級でUndisputed championになります。

ウシクとクロフォードは欧米で注目度の高いクラス、井上のバンタム、ジュニアフェザーはまともなランキングが組めない不人気クラス。

先乗りはされたくありません。

こうして眺めると、トップ3は無敗。4位以下はキズモノで、ホバニシャンはレイ・バルガスにタパレスは岩佐亮佑に敗れています。

ネリ以下も、最近の世界戦で底を見せたファイターばかりが並んでいます。

一つ下のバンタム級は、みなさんご存知の通り全階級を通じても最もタレント貧弱なクラス。バンタムから強豪が上がって来るのも期待できません。

フルトンとアフマダリエフの勝者を撃破、初防衛戦でアリームを屠れば、もう用のない階級です。 
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階級の壁。

17にも細分化されたプロボクシング。昔日と比べると、複数階級制覇は劇的に安易になりました。

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もし、ファイティング原田の時代が17階級だったなら、〝狂った風車〟はストローからライト級までの9階級でアルファベット王者になっていたかもしれません。

しかし、現代でも階級の壁は厳然と存在します。そいつは、何階級か制覇したところで突然現れるのです。

112(フライ級)と115(ジュニアバンタム級)で圧倒的に強かったビッグ・ダルチニアンは118(バンタム級)でも最強候補でしたが、その強打はほとんど通用しませんでした。

112ポンドでダルチニアンを倒して世界に狼煙を上げたノニト・ドネアは122ポンド(ジュニアフェザー級)では破壊力が激減、126ポンド(フェザー級)では凄惨なKO負けを喫してしまいます。

ローマン・ゴンサレスは105(ストロー級)で王座に就くと、112でリング誌PFPキングに推されますが、115ではシーサケット・ソールンビサイに2連敗。

軽量級の場合、階級を上げると層が厚くなる傾向が強く、単なる体重だけの問題ではありません。

ドネアやチョコラティトでも苦しんだ〝10ポンドの壁〟。105スタート、115でも安定的な強さを見せつけている井岡一翔は特異なサンプルと言えるでしょう。

さて、108ポンド(ジュニアフライ級)から世界タイトルを獲った井上尚弥は〝10ポンドの壁〟となるはずの118ポンド(バンタム級)でキャリア最強の輝きを放っています。

しかし、最初の108ポンドが、将来的な複数階級制覇を意識して、かなり無理な減量をしたことを考慮すると、井上の適正なスタート階級は112ポンドだったのかもしれません。

そう考えると、井上が迎える鬼門は122ポンド、ジュニアフェザー級になる可能性があります、

バンタム級であれほどの強さを発揮しているのに、ジュニアフェザーで通用しないわけがない。

…というのは十分あり得る仮説ですが、ダルチニアンもドネアもチョコラティトも、たった1階級で別人になった事実を思い出せば、モンスターの快進撃ロードがジュニアフェザーで頓挫する心配は拭いきれません。

もちろん、それはそれで楽しみです。

井上はピンチに弱いタイプじゃありません。

スティーブン・フルトンやムロジョン・アフマダリエフのような旬の強豪と激闘を繰り広げるモンスター。

是非、前のめりになって見たいものです。


次は、米国の軽量級というプアなマーケットで、少しは注目されるファイターが122ポンドにいるのか?

勝てば井上が有名になるような名前を持つファイターがいるのか?
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リング誌/Lineal/IBF/WBA/WBOヘビー級王者オレクサンダー・ウシクが「あと3試合して引退する」と、自身のYouTubeチャンネルのインタビューで語りました。

Undisputed heavyweight champion まで、あと一つのWBCタイトルを持つタイソン・フューリーとの対戦を熱望。

デオンティ・ワイルダーとの第3戦で277ポンドの重量でリングに上がったジプシーキングと、アンソニー・ジョシュアとの再戦で221.5ポンドのウシク。その差は56.5ポンド(25.7㎏)!

単純な体重差では、ストロー(105ポンド)の重岡銀次朗が、ミドル(160ポンド)のゲンナジー・ゴロフキンと戦うようなもの。

2009年に行われたWBA世界戦では、316ポンドの王者ニコライ・ワルーエフに217ポンドのデビッド・ヘイが挑戦。この「格差99ポンド=44.9㎏」対決は、重岡が200ポンド〜のヘビー級に挑戦するようなものでした。

しかし、誰もが認める当時の絶対最強はウラジミール・クリチコで、この試合は瑣末なアルファベット団体のタイトルマッチでした。


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ヘビー級のUndisputed championという「実」を取った後は、「カネロ・アルバレスとのa freak fight just for the sake of earning money.(莫大な報酬が期待できるメガファイト)」という「金」。

カネロもウシクとの対戦を口にしたことがあり、相思相愛でしたが…ライトヘビー級のドミトリー・ビボルに完敗、ミドル級上がりのゲンナジー・ゴロフキンにも決定的な場面を作れなかったカネロは、大きな心境の変化を起こしているかもしれません。

そして最後の引退試合は、故郷ウクライナ、キーウのオリンピスキ・スタジアムで有終の「美」 を飾るという、完璧な引退マップを描いています。

https://www.youtube.com/watch?v=CgM1TC8C0FU https://www.youtube.com/watch?v=CgM1TC8C0FU

オリンピスキ・スタジアムは、1980年モスクワオリンピックでサッカーの予選会場として使用された、キャパ7万人以上のウクライナ最大のスタジアム。 

ウシクが故郷の巨大スタジアムに凱旋する日は、いつか訪れるでしょうか。
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長谷川陣営が「オーラがある」と戦慄したフェルナンド・モンティエルを「2ラウンドKO」の予告通りになぎ倒したのがノニト・ドネアでした。

ドネアとモンティエルは何度もスパーリングをしており、ドネアには「どう転んでも負けるわけがない」という自信満々。

一方のモンティエルは本人だけでなく陣営も緊張感で表情が強張ったまま試合開始ゴングを迎えてしまいます。



【まさかそこが終着駅だったとは…】


ノニト・ドネアは2001年2月にバンタム級4回戦でプロデビュー。

2007年7月、IBFフライ級王者ビック・ダルチニアン戦で大番狂わせを起こすまでの18試合でフライ級で戦ったのはわずか3試合。フィリピンの閃光は自分の適正階級に迷いながらキャリアを積み重ねていきます。 

フライ級王者としてはモルティー・ムザラネとの〝原石〟対決、ジュニアバンタム級では先に上がっていたダルチニアンとの再戦がメディアとファンから熱望されますが実現ならず。

バンタム級はモンティエルを破壊、当時無敗のフライ〜ジュニアバンタム2階級制覇王者オマール・ナルバエスに「勝とうとしない相手ほど楽な相手はいないが、もうナルバエスとは関わりたくない」という圧勝で初黒星を付けて「ライト級まで7階級制覇してPFPファイターになる」という公約を果たすべくジュニアフェザー級へ。

2012年にはジュニアフェザー級で4戦全勝、この年の業績が認められて全米ボクシング記者協会(BWAA)からFighter of the yearが贈られます。

しかし、ウィルフレド・バスケスを圧倒できず、ジェフリー・マブセラにトドメを刺せず、、西岡利晃に終盤まで粘られるドネアの姿に「衰えた」と断言する専門家も少なくありませんでした。

そして2013年、ギレルモ・リゴンドーに完敗。

2014年にはニコラス・ウォータースに破壊されてしまいます。

世界戦ではジュニアフェザー級で6勝2敗、フェザー級で1勝2敗。

4階級制覇したドネアにとっての階級の壁。それがジュニアフェザー級であったことは、バンタム級に逃げるように出戻ったことからも明らかでした。


プロ22年で42勝29KO7敗。

誰に勝ったのか?では、殿堂クラスのファイターには、ついに勝つことができませんでした。

しかし、PFPファイターのビック・ダルチニアンを大番狂わせに撃沈し、ホルヘ・アルセ、ライアン・バーネットというビッグネームをねじ伏せ、無敗の2階級制覇王者オマール・ナルバエスにも初黒星を擦りつけました。

キャリア2戦目で喫した敗北を除くと、負けたのはリゴンドー、ウォータース、ヘスス・マグダレノ、カール・フランプトン、そして井上尚弥に2敗。

リゴンドー は歴史に残るテクニシャン。フランプトンはBWAAとリング誌のFighter of the yearをW受賞経験者。井上はPFPキング。ウォータースとマグダレノも穴王者ではありませんでした。

21世紀が幕開けた年にデビューしたドネアは、この世紀のジュニアフェザー級以下の超軽量級シーンのフロントランナーであり続けたのです。

そして、その殻を破壊する、あと一歩まで迫ったこと、バンタムに出戻ったもののそこで再び輝いたことをボクシングマニアはフィリピンの閃光を永遠に記憶し続けるでしょう。
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ファイティング原田を超える日本史上最高のボクサー。

そう語られる選手は間歇的にわいてきました。

具志堅用高、辰吉丈一郎、西岡利晃、井上尚弥…。長谷川穂積もそんな〝日本史上最高ボクサー〟の一人でした。

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【そもそもバンタム級でも誰に勝ったのか?】


長谷川穂積は1999年11月プロデビューからの5戦は3勝2敗でしたが、2003年5月にジェス・マーカをSDで競り落として東洋太平洋、2005年4月にウィラポン・ナコンルンプロモーションを破ってWBCバンタム級のストラップを獲得。

WBC御用達のランカーを次々と倒して10連続防衛を果たすも、当時はネット社会も成熟「強い相手には勝っていない」という批判がつきまとっていました。

日本王者サーシャ・バクティンとの試合を「面白い試合にならない」と回避、防衛を重ねて自信を深める中で山下正人会長が「サーシャとやろ!やったらええんやろ」と 苛立つこともありました。

また、山下会長は「WBCには恩義がある」という余計なことまで口にすることが多く、長谷川がどこまで強いのかは誰にもわかりませんでした。

リング誌はマニー・パッキャオに憧れる長谷川を「ジャパニーズ・パッキャオ」と紹介、Best Fighters in the World(年間PFP100傑)で最高位12位に付ける一方で、ルシアン・ブテらとともに「本当に強いのかわからない未知の強豪」にも数えられるなど、旬の強豪との対戦が欠落していたのです。

JBCが特例で認めた他団体王者との対戦は、誰に聞いても階級最弱王者と太鼓判が押されたWBOのフェルナンド・モンティエル。

2010年4月30日、モンティエルは前年に〝普通の防衛戦〟も内定していた〝いつもの雑魚〟の一人で「長谷川の楽勝」とも見られていましたが、武道館は異様な緊張感に包まれていました。

そして、リング上では福田トレーナーが「こいつは強い」とオーラに気圧され、試合中のインタビューでも長谷川本人が「過去最強」と認めてしまいます。

世界王者と複数階級制覇のハードルが劇的に下がった4-Belt Eraでなければ、間違っても3階級制覇などありえなかったモンティエルとの試合は、「3ラウンドまでは長谷川がスピードで圧倒していた」というジョー小泉は幻覚を見ていたのか、拮抗したフェイント合戦が展開。

第4ラウンド、残り10秒の拍子木をゴングと勘違いしたという長谷川はモンティエルの右ストレートから左フックのフェイントにはまってロープに後退。最弱王者のフォローに長谷川は顎を跳ね上げられ防戦一方、ここでローレンス・コールが試合を止めました。

当時のバンタム級は派手な勝利を重ねる長谷川が最強と目されていましたが、WBAのアンセルモ・モレノを推す声も少なくなく、IBFのヨニー・ペレスも地味ながらタフな実力派とみられ、WBO王者をヨレヨレで守っていたモンティエルは最弱とみられていたのは当然です。

そして、長谷川を上回る〝隠れ最強〟の評価を集めていたのが、バンタム転向を表明していたWBAジュニアバンタム級暫定王者のノニト・ドネアでした。

長谷川は再起戦でいきなりWBCフェザー級王者決定戦に出場、ファン・カルロス・ブルゴスを下して2階級制覇。しかし、「おいしい相手」と自信満々でジョニー・ゴンザレスを迎えた初防衛戦では4ラウンドで粉砕されてしまいます。実際のオッズも3−1と、西岡利晃にも逆転KO負けを喰らい、とにかく勝負弱くザルディフェンスのジョニゴンになら勝てると期待されていました。

この頃には、リング誌が「過大評価の典型」「グラスジョー」と長谷川の株は暴落。

その後、3階級制覇を狙って穴王者とみられていたIBFジュニアフェザー級王者キコ・マルチネスに挑戦するも7ラウンドで破壊されてしまいます。

ジョニゴン、キコよりも穴王者…そんなのいないと思われましたが、いたのです。亀田興毅に完敗しているWBAジュニアフェザー級王者ウーゴ・ルイスとのボーナスマッチで一進一退の攻防の末に9ラウンドストップ勝ち。〝感動の〟3階級制覇を果たしました。

バンタム級で10度防衛した長谷川でしたが、フェザーとジュニアフェザーでは一度も防衛できず。

ジャパニーズパッキャオと何だったのか?

階級の壁に残酷なまでに跳ね返されただけでなく、そもそもバンタム級でも強かったのでしょうか?

少なくとも…日本の多くのファンが信じていたバンタム最強が、全くの幻想だったことは間違いありません。
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階級の壁。

承認団体が4つに増え、階級が17にも増殖した時代でも階級の壁は厳然として存在します。

世界王者になること、複数階級制覇することが飛躍的に安易になった時代にもかかわらず、階級の壁の存在を思い知らせてくれたロマンチストたちのリストです。

彼らにロマンを見せ、無謀な挑戦に誘ったのは勇気と冒険心だけではありません。

このお話を始める前に、その張本人がいたことを紹介しなければなりません。

複数階級制覇を従前よりもはるかに軽く考え、成功への拠り所とされていたのはマニー・パッキャオの存在でした。

フライ級からジュニアミドル級まで、10階級のスパンで8階級を制覇した正真正銘の傑物。

エイドリアン・ブローナーからマイキー・ガルシアまで、亀田興毅から井上尚弥まで、つまりFrom pin to drill=ビンからキリまでパッキャオを強烈に意識した発言を残し続けてきました。

そして…ピンからキリまで、結局のところ誰一人としてパッキャオの領域には触れることすらできないのです。

その意味ではマイキーもブローナーも、亀田も井上も、同じリーグの住人に過ぎません。

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【3ボンドの壁か、それとも経年劣化か?】


アルメニア生まれで豪州を拠点に活躍、主戦場を米国に移したビック・ダルチニアンは2004年12月に無敗のIBF王者イレーネ・パチェコを11ラウンドでストップすると、KOを逃したのは負傷判定の1試合だけという圧巻の6連続防衛でIBO王座も吸収、PFPファイターにもその名を連ねました。

7度目の防衛戦も一方的に有利と見られていたましたが、ノニト・ドネアにまさかのTKO負け、デビュー以来の連取を28で止められてしまいます。

その瞬間まで拮抗していたドネアとの再戦を急がず、すぐにジュニアバンタムに上げると再起戦でIBO王座を強奪、再起2戦目でIBFもコレクション。WBA/WBC王者クリスチャン・ミハレスを攻め落とし、人気者ホルヘ・アルセも破壊してUndisputed champion に王手をかけましたが、3階級制覇を狙ってバンタム級進出。

スーパーミドル級の「スーパー6」トーナメントでで一定の成果を残したShowTimeが企画した、低予算の「バンタム4」に優勝候補の筆頭として参戦します。

ダルチニアンと、ガーナのジョセフ・アグベコ、コロンビアのヨニー・ペレス、そしてメキシコ系米国人でオスカー・デラホーヤの秘蔵っ子アブネル・マレスによる総当たり戦。

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しかし、115ポンドで絶対王政を敷いていたレイジングブルが118ポンドでは平凡なボクサーになってしまうのです。

IBF王者アグベコにマジョリティデジションでドネア戦いらいの黒星をつけられると、マレスにはスプリットデジションで敗退。ジュニアバンタムで見せていた鮮やかな決定力は、バンタムで完全に喪失してしまっていました。

もちろん、アグベコは地味ながら2020年、43歳になるまで戦い続けたタフな強豪。マレスは判定では勝ち目のない軽量級では稀有なスター。

ジュニアバンタムまでの相手とは一味も二味も違いましたが、それにしてもパワーはもちろん、スピードもタイミングも何もかも失ったダルチニアンの変わりようは、見えないはずの階級の壁をはっきり映し出してくれた気がしました。
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フェザー級から無敗のままジュニアウェルター級までの4階級を制覇したマイキー・ガルシアは、ウェルター級に挑んだ5階級目で苦い敗北を味わってしまいます。

舞台はAT&Tスタジアム、FOXがPPVで仕掛けたビッグイベント、リングサイドにはこのスタジアムで初めて戦ったファイター、マニー・パッキャオも招待されていました。

タイトルだけでなく、勝者がパッキャオとのメガファイトのチャンスを掴む、というカネと名誉も絡んだ試合は、当時も階級最強候補の一画でミドル級まで視野に入れているIBF王者エロール・スペンスにマイキーは何も出来ずに押し切られてしまいます。

浜田剛史は「階級の壁というよりもスペンスの壁」と表現しましたが、試合が行われた2019年3月19日時点での他団体王者はWBOがテレンス・クロフォード、WBCがショーン・ポーター、WBAスーパーがキース・サーマン、WBAセカンドに至ってはマニー・パッキャオという豪華さ。

誰が相手でも、マイキーにとって非常にリスキーな挑戦でした。

とはいえ、それはウェルターの〝階級事情〟。他のクラスなら、王者が5人いると一人くらいは穴王者を見つけられるものです。

2013年前後まで遡ると、このハイレベル階級でも生粋の穴王者エイドリアン・ブローナーや、Bレベルのロバート・ゲレーロ、マルコス・マイダナらがベルトを巻いていました。

井上尚弥はマイキーの挫折を見て「階級を上げて潰されたら意味がない」と語りましたが、潰されるという危険に立ち向かうような階級上げに、多くの人は身勝手なロマンを感じるものです。

マイキーのように、ロマンの香りを発散させながら美しく散ったファイターを振り返ります。
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幻に終わった「パッキャオvsスペンス」。「階級の壁」という常識をあざ笑うように越えていったフィリピン人の〝栄光への脱出〟。私たちはまたいつか〝パックマン〟と巡り会える幸運に恵まれるでしょうか?

「階級の壁」。承認団体や階級の数が膨れ上がる以前は、世界タイトルの価値は重く、その牙城を守るのが王者の生き方でした。

それでも、アーチー・ムーアらライトヘビー級の名選手にとって、ヘビー級への挑戦はまさに〝栄光への脱出〟でした。


これからご紹介するのは、4Belt-Eraでも複数階級制覇が当たり前になった21世紀以降の〝美しく散ったファイター〟たちです。
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ボクシングに数字は意味を持たないことが殆どです。

「誰に勝ったのか」。それが全てだと言い切っても差し支えありません。

のちの殿堂入り選手のプライムタイムに勝つ、現在ランクされているPFPファイターに勝つ。

もちろん、ボクシングもスポーツである限り、記録は試合の前景気を煽り、ファンの関心を高めるものです。

具志堅用高の「13」で43年間も時計の針が止まったままの連続防衛記録は、現代の複数階級制覇トレンドを考えると更新するのは至難の業。内山高志や山中慎介のような〝その階級で心中〟する覚悟のサムライの登場を待つしかありません。

一方で、井岡一翔が「4」でトップを走る複数階級制覇は、具志堅の記録とは違い、井上尚弥や田中恒成を筆頭に並ぶだけでなく「5」へ更新される光景が近い将来見ることができるかもしれません。

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現在の日本人世界王者は谷口将隆(WBOストロー級)、京口紘人(WBAジュニアフライ級)、寺地拳四朗(WBCジュニアフライ級)、中谷潤人(WBOフライ級)、井岡一翔(WBOジュニアバンタム級)、井上尚弥(WBA/WBC/IBFバンタム級)の6人。

このうち、複数階級制覇していないのは昨年12月に最初のタイトルを獲ったばかりの谷口、具志堅越えを狙っていた寺地、ジュニアバンタム進出が時間の問題の中谷の3人。

80年代までの複数階級制覇は「2」でも快挙でしたがレオ・ガメスやエイドリアン・ブローナーらのように4階級に渡って一貫して並王者(かそれ以下)で制覇する〝傑物〟も出現しています。

ファイティング原田が世界初の軽量級2階級制覇を達成した「2」を「3」に更新したのは亀田興毅という〝傑物〟でしたが、1団体10階級時代の原田と、いくつ階級があって何人世界王者がいるのかよくわからない現代のシステムに乗って産み落とされた亀田を同列で語るのはどんな詭弁を弄しても不可能です。

さて、その原田はフライ級では初防衛戦に失敗。バンタム級で4度防衛。

リング誌にTHE JAPANESE STAR, WHO WON WORLD TITLES IN TWO (ALMOST THREE) WEIGHT CLASSES (2階級制覇、いや実質3階級制覇)と認められた原田の防衛成功はバンタム級のみの〝わずか〟4でした。



その、バンタム級タイトルをエデル・ジョフレと同じ8度!も防衛したのが興毅です。興毅はバンタムの「8」に加えてジュニアフライ級の「1」を加えて防衛成功回数は「9」。

もし、この〝傑物〟が原田と同じ60年代に生まれていれば、一発殿堂間違い無しで、軽量級のレジェンドとして記憶されていたかもしれません。

現実には生まれる時代に恵まれず、素晴らしい数字を残しながらも殿堂にはノミネートすらされていません。

単一階級にこだわらない防衛回数では井岡一翔の「15」(ストロー=3/ジュニアフライ=3/フライ=5/ジュニアバンタム=4)が最多で、ノニト・ドネアを破壊した井上尚弥も「15」(ジュニアフライ=1/ジュニアバンタム=7/バンタム=7) で追いついています。

この二人、対戦相手の質という点では井岡に軍配が上がりますが、井上の数字には無敗と圧倒的な勝利という〝箔〟が付いています。

結局のところ、防衛回数や階級制覇数、およそ数字と呼べるのは〝傑物〟の登場で簡単に塗り替えられるマヤカシです。

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ただ、オリジナル8の時代はもちろん、原田の1団体10階級時代の数字は、他のスポーツ同様にそなまま受け入れて差し支えありません。

世界王者が一人残らず The Undisputed champion だった時代。世界王者は途轍もなく強く、弱い世界ランカーはいない。そんな当たり前が、当たり前だった時代です。

世界王者の経年劣化や大番狂わせで〝傑物〟が王者になったとしても、防衛することはまず出来ません。ましてや8度も防衛するなんて、ありえません。
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