アンソニー・ジョシュアに心の隙がなかったか、というとそれは大きな口を開けて広がっていたでしょう。

フランシス・ガヌーという過大評価の黒船(現実は泥船)を完全破壊したことは、ジョシュアにとってマイナスでした。

オレクサンデル・ウシクと2試合24ラウンド、72分間にわたって互角に戦ったことが再評価されていることも、ジョシュアにとってマイナスでした。

エディー・ハーンが「英国史上最高のアスリート」と絶賛、永久契約を締結したこともマイナスでした。

そんなことを言い出すと、地元で迎え2012年ロンドン五輪で準メダルを獲得し、国民的スターになったこともマイナスでした。

もちろん、全部タラレバです。



それにしても、あのウィンブリースタジアムをフルハウス(9万6000人!)にしたばかりか、英国人12人だけのマッチアップで全6試合。しかも、WBOライトヘビー級王者決定戦に出場したウィリー・ハッチンソン(スコットランド)を除くと11人がイングランド。

五輪を例外に多くの国際大会でイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドと4カ国がエントリーしてくる〝暴挙〟を当たり前にしちゃってるUnited Kingdom。

私自身は英国に行ったことが一度もありませんが、大学時代の友達、仕事関係の知人にはイングランド人もスコットランドもウェールズも北アイルランドの人も結構な数でいます。

彼らは、この〝暴挙〟を暴挙と考えていません。その要因は一つだけではありません。これも面白い話なので、いつか詳しく。

今回のテーマは「番狂せ」です。

モハメド・アリやマニー・パッキャオに代表されるように、スポーツの醍醐味である大番狂せは当たり前ながら、勝者が主人公でした。

その意味で「アンソニー・ジョシュア」は非常に特殊なサンプルです。

戦前予想やオッズが接近していたオレクサンデル・ウシクとの2試合は例外にして、アンディ・ルイスJr.とダニエル・デュボアは主人公の価値がない〝chump〟(雑魚)。

あのマイク・タイソンですら晩年以外に惨敗したのは、イベンダー・ホリフィールドとレノックス・ルイスという歴史的評価でタイソンを上回るChampionでした(レノックス戦は完全アンダードッグでこのストーリーラインには相応しくないかもしれません)。

ジョシュアは何故,chumpに不覚をとってしまったのか?

試合前のハーンやジョシュアの雰囲気はリラックスしきっていたように映り、そこにガヌー戦の緊張感は感じられませんでした。

では、ガヌー戦のように集中力を高めてリングに上がっていたら、リング誌が予想した19−1のままの結果が得られたのでしょうか?

ジョシュアは「バックステップが踏めない」「Bプランを持たないリングIQの低さ」が指摘されていたタイソンのような欠陥品とは違い、致命的な欠陥は見当たりません。

もちろん、グラスジョーはヘビー級において致命的ですが、アンディ・ルイスJr.との再戦で見せたように、デュボアとの再戦でもBプランを発動したなら完勝できるのか?


アンソニー・ジョシュア。ボクシング史上最高の身体能力を持つアスリートが嵌った陥穽の正体を考えてみます。