ボクシングの世界では「高い身長と長いリーチは有利」だと、言われています。

中谷潤人を見ると、それが正しいような気もしますが、カネロ・アルバレスやオレクサンダー・ウシクに目を移すと、それは間違いにも思えてきます。

GettyImages-159922647-768x1016

1980年8月2日、ミシガン州デトロイト、ジョー・ルイス アリーナ。

WBAウェルター級王者ピピノ・クエバス(身長173㎝/リーチ178㎝)は、挑戦者トーマス・ハーンズ(185㎝/198㎝)の前に成す術もなく2ラウンドで破壊されてしまいます。

クエバスのコーナーに付いていたルペ・サンチェスは「ボクシングは体重だけでなく身長、リーチでも階級分けしないと不公平だ」と嘆きました。

しかし、メキシコの名伯楽の言葉は負け惜しみとしか受けとめられず、体格でも階級を区分する議論が進展することはありませんでした。

そして、ハーンズのウェルター級としては異形の体格は、線の細さと無縁ではいられませんでした。

セバスチャン・フンドラは、現時点ではハーンズほどの細さと脆さは感じさせませんが、彼の戦い方に身長とリーチのアドバンテージはほとんど感じることが出来ません。

マイク・タイソンやナジーム・ハメドは身長・リーチこそ同一階級のライバルたちに劣りましたが、ハメドの場合は体重は126ポンドで同じ、タイソンに至っては相手よりも重いケースも珍しくありませんでした。

彼らはSmall but not Light, 小さかったが、けして軽くはなかったのです。

身長・リーチとも165㎝のカール・フランプトンは、レオ・サンタクルス(171㎝/175㎝)との初戦に競り勝ち、ノニト・ドネア(170㎝/174㎝)を翻弄しました。

身長166㎝/リーチ171㎝のガーボンタ・デービスはサンタクルスをパワーでねじ伏せ、175㎝−175㎝のウーゴ・ルイスを全く問題にしませんでした。

その階級の中で特別身長が高い、リーチが長いことは勝負事で最も大きなアドバンテージになる「異質」です。

ハーンズやフンドラを相手にするボクサーは、経験したことのない距離や角度に戸惑うことになります。

しかし、これは逆もまた然り。フランプトンやタンクと対峙したボクサーは見たことがない距離と角度、パンチの回転力に晒さられてしまうのです。

一方で〝異質な〟彼らは当該階級で平均的な体格の相手とのトレーニングに不自由することはありません。

プロ野球のスカウトが、全く同じ実力の左右の投手がいたとして、どちらに手を伸ばすかは明らかです。

しかし、体重で不利ではなかったタイソンやハメド、タンク、フランプトンらとは違い、体格でも体重でも圧倒的に劣ったオレクサンダー・ウシクの強さは、どう説明すれば良いのでしょうか?

「異質」のアドバンテージだけで対抗するには、ジョシュアはあまりにも大きな壁だったはずです。

また、ジュニアミドル級(154ポンド)の世界戦に、151ポンドのキャッチウェイトだったとはいえ、ウェルター級リミットを、3ボンドも下回る144ボンドで前日計量の秤を降りたマニー・パッキャオとは何者だったのでしょうか?

ウシクやパッキャオは、Small and Light, 小さくて軽いというのに。