ヘビー級が動くが如く、ボクシングは動く。

ボクシングは、まずヘビー級ありき、のスポーツです。

ブリッジャー級を含めると全部で18階級。

ヘビー級以外の17階級は、人間が決めたポンドという度量衡によって意味なく細分化されていますが、ヘビー級には人間が干渉する隙はありません。

本当なら、ボクシングはヘビー級だけの1階級で良いのです。

百歩譲って「ヘビー級」と「その他16(17?)階級」で十分なのです。

つまり、極限すると、ボクシングには二つの種目があります。

「ヘビー級」と「それ以外」です。

IMG_2952

これまで、下のクラスで王者になった、つまり下のクラスで完成されながらも、ヘビー級も制したボクサーは、史上7人しかいません。

最初に断っておかなければならないのは、彼らは下のクラスでは超強豪のグレートでした。

この7人はボブ・フィッツモンズ(ミドル級)、マイケル・スピンクス(ライトヘビー級)、イベンダー・ホリフィールド(クルーザー級)、マイケル・モーラー(ライトヘビー級)、ロイ・ジョーンズJr.(ミドル級・ライトヘビー級)、デビッド・ヘイ(クルーザー級)、オレクサンダー・ウシク(クルーザー級)。

オリジナル8ですらまだ形を成していなかった19世紀末、ミドル級からヘビー級、ライトヘビー級の順で3階級制覇したフィッツモンズは別格。

「当時はレベルが低かった」というひねくれ者は「だったら人気のヘビー級に誰もが挑戦してフィッツモンズ以外の成功者もたくさん出ていたはず」という反駁にどう答えるのでしょうか?

1985年9月21日、Lineal/IBF/リング誌世界ヘビー級王者ラリー・ホームズを15回判で競り落とした元ライトヘビー級の完全統一王者マイケル・スピンクスは科学的なトレーニングで増量に成功。

このとき、スピンクスを指導したマッキー・シルストーンは女優リンダ・ハミルトンや、MLBのオジー・スミス、NFLのペイトン・マニング、テニスのセリーナ・ウィリアムズらスターの肉体改造を指導してきました。

Linealとリング誌のタイトルを持つ正統で最強の世界ヘビー級王者と考えられていたホームズ。ロッキー・マルシアノの49戦全勝の金字塔にあと1にまで迫り(48勝34KO)、WBCを16度、IBFを3度と絶対王政を敷いていました。

しかし、輝かしい通算記録は、キャリアの終幕が近づいている信号です。
IMG_0451 (1)

ボクシングほど数字や記録が意味を持たないスポーツはありません。レオ・ガメスやエイドリアン・ブローナーの4階級制覇、オマール・ナルバエスの2階級で2桁防衛は失笑とセットで語られます。

ボクサーとしては最高評価を集めるマニー・パッキャオでも、アントニオ・マルガリート相手の8階級制覇は非難の的でした(日本のメディアはなぜか大絶賛、そしてなぜか「6階級制覇」)。

特に試合数の少ない現代のボクサーは、綺麗な数字を並べるのが大の得意です。もちろん、数字はスポーツを楽しむエッセンスの一つですが、評価の本質は「誰に勝ったのか?」に尽きます。

もっと詳しく言うと「いつの誰に勝ったのか?」です。

完全劣化版のモハメド・アリやロベルト・デュランに勝っても評価されません。全盛期の彼らに勝てば、これはとんでも無いことですが。

その意味では、まともな相手の全盛期に勝っているホリフィールドとウシクの存在は際立っています。

ホリフィールドは当時最強と目されていたリディック・ボウとマイク・タイソンから勝利。ウシクはアンソニー・ジョシュアを番狂わせ。

とはいえ、ボウとタイソンは歴史的評価は低く、ジョシュアに至ってはすでに過大評価の烙印が押された状況でした。

体調不良のホリフィールドに勝ってフォアマンの引き立て役になったモーラー、「空き巣」と揶揄されるロイ、ウラジミール・クリチコには完敗のヘイ…。

井上尚弥やカネロ・アルバレスらが〝上〟の階級でも暴威を振るうのに対して、〝下〟の階級からヘビー級を制覇した彼らは悪戦苦闘だけが目立ちます。

よく考えると当たり前です。

彼らは、ヘビー級という全く別の種目に挑戦したですから。