常に首尾一貫したものの考え方を持っている人間など、まず存在しません。
さかなクンや大谷翔平らは、極めて稀な例外です。
誰だって、どんな人だって、揺れながら、ブレながら生きているのです。
2019年3月、WOWOWで「エロール・スペンスJr.vsマイキー・ガルシア」の解説をつとめた井上尚弥は、マイキーの完敗を目にして「体力差がモロに出た。やっぱり階級の壁。適正階級がいかに大事なのかがわかる。あれじゃ階級を上げても意味がない」と語りました。
自らについても「行けてもフェザー。スーパーフェザー級? 普通の選手になりますよ。埋もれると思う」と、より人気のある階級への進出よりも、ベストパフォーマンスが発揮出来る階級へのこだわりを語りました。
その年の11月、ノニト・ドネア戦に勝利したあとトップランクと複数年契約。
翌2020年にはMGMグランドを訪問、ガーデンアリーナを見学、「ここで(メインで)やるのが夢。それにはバンタムでは話にならない。最低でもフェザー」「マニー・パッキャオが見た風景が見たい」と未来を〝上方修正〟。
「いつ」「どこで」「どんな状況で」「誰に聞かれたのか」…いろんな要素がからみあって、その人の答え、言葉が変節するのは、むしろ当然です。
2020年4月に決定していたジョンリール・カシメロ戦。ラスベガスのマンダレイベイ・イベンツセンター(ミケロブ・ウルトラ・アリーナ)にセットされた試合は、パンデミックの影響で中止に追いやられてしまいました。
この中止は100%残念でしかありませんでしたが、もしやっていれば米国で全く人気のないバンタム級のアジア人同士の試合、格安のチケットと上階席を封鎖した寂しい光景の中で行われていたのは間違いありません。
同じ場所で、約10年前にノニト・ドネアとフェルナンド・モンティエルが戦ったときよりは少しはマシだったかもしれませんが、それでも同じようなもので、ラスベガスにおける「バンタム級とアジア人の需要と現実」が百聞は一見に如かずで伝わっていたはずです。
その後、パンデミック下でラスベガス、MGMグランドの完全防疫した会議室(The Bubble)でジェイソン・モロニー(2020年10月)、ヴァージンシアターでマイケル・ダスマリナス(2021年6月)との防衛戦で「ファイトマネー100万ドル」(大橋秀行・談)を獲得。
ダスマリナス戦は有観客だったものの、井上は「(本場の観客は目が肥えてる?との質問に)ただ騒いでるだけ」と静かに答えただけでした。
石橋貴明の「薪を焚べる」では「カシメロが騒いでくれれば、くれるほどPPVががっぽがっぽ」という的外れな発言を何度も繰り返す石橋に「そうですね…」と返すだけで、話を膨らませようとはしませんでした。
少なくとも、この時点で井上は「ラスベガスに、期待していたような軽量級の需要は無い」ということを、肌身に沁みて感じていたように思えます。
トップランクと提携しているESPNは「井上尚弥なんて誰も知らない」などと書き立て、パンデミックの事情を考慮して高額の放映権料の減額を求めたであろう日本側へ牽制球を投げました。
昨年12月には、両国国技館でアラン・ディパエンとの防衛戦で凱旋。次の試合も5月〜6月に予定していると発表されます。
トップランクとの契約が破棄されたのか、更新しなかったのか、いずれにしても売り出す気の無いトップランクに見切りをつけ「米国を主戦場にする」という方針を大きく転換したことは間違いありません。
日本の多くのファンが期待し、井上本人も憧憬した「パッキャオが見た風景」は、バンタム級のアジア人が拝める種類のものでないことがハッキリしてしまいました。
井上も「(階級を上げて)潰されてしまうなら意味は無い。それでも、今年中にスーパーバンタムの体を作る自信はある」と、リカルド・ロペスやゲンナディ・ゴロフキンのように適正階級を重視する発言をしています。
もちろん、ゴロフキンにとってのカネロ・アルバレスのような超大物が1階級上にいてくれたら、井上も冒険の舵を取るでしょうが…。
現状のボクシングシーンで、井上が最も大きな注目と報酬を得ることができるマッチアップは、本人が既に気づいているように、「井岡一翔」戦をおいて他にありません。
このメガファイトは、井岡がジュニアバンタム級の統一戦線を最優先していることを考えると、少なくとも当面の実現可能性はありえないように思えます。
とはいえ、米国の夢が〝頓挫〟した井上にとってキャリア最大のメガファイト、対戦相手に〝メリット〟を口にしてきた井岡にとっては、体重の問題さえクリアできれば、利害関係は一致します。
田中恒成戦ですら「僕にとってメリットが無い」とうそぶいた井岡でしたが、現実にはオッズも予想もやや不利だったように、キャリア初の番狂わせを起こして、世界評価も急騰、大きなメリットがありました。
井上戦は敗北のリスクが大きいとはいえ、それ以外はメリットしかありません。
世間が注目するメガファイトを渇望する井上と、対戦相手にメリットを求める井岡。相思相愛なはずですが…。
井岡戦ほどのインパクトは、世界の軽量級には見当たりませんが、あえて探してみましょう。
◉バンタム級で盛り上がる一番手は、やはり「カシメロ」でしょう。
行儀の良い日本のファンでもカシメロの入場にブーイングを浴びせる、そんな前代未聞のシーンも見られるかもしれません。
井上にとって脅威という点では「ドネア」ですが、カシメロ級の盛り上がりは期待できません。
バンタムは、どう考えてもここまで。
◉バンタム級統一戦線が愚図つくようだと、年内にも転級が噂されるジュニアフェザーでは最高の人気者「ブランドン・フィゲロア」が陥落したのは痛い。
4つのベルトは、フィゲロアに勝ってWBO/WBC王者となった「スティーブン・フルトン」と、WBA/IBFのピースを掌握する「ムロジョン・アフマダリエフ」が分割。
井上がジュニアフェザーに上がるとき、タイトルが一本化している可能性があります。バンタム級では統一がままならなかった井上ですが、ジュニアフェザーでは一発完全統一のビッグショットの舞台に恵まれるかもしれません。
ビッグファイト、フルトンやアフマダリエフに勝っても世界の注目度という点ではコップの中のさざ波です。
それでも、完全統一王者になるとFighter Of TheYear(年間最高選手)やPFPなど専門家評価を集めるには最高の効果があります。
◉「行けてもフェザー」「最低でもフェザー」と井上がボーダーラインと読むフェザー級(126ポンド)は、最初に世界を獲ったジュニアフライ(108ポンド)から18ポンド先の世界。
パッキャオの42ポンド(フライ=112〜ジュニアミドル=154)には遠く及ばないものの、カネロ・アルバレスの21ポンド(ジュニアミドル〜ライトヘビー=175)とは遜色の無い階級レンジです。
ここのビッグネームはWBA王者「レオ・サンタクルス」。ガーボンタ・デービスに壮絶に沈められた傷物とはいえ、軽量級の枠を超えた人気者です。
「米国で注目されるにはメキシカンが必要」(井上)というニーズを具現化したキャラクターで、山中慎介も対戦を希求しましたが、全く相手にされませんでした。
キャリア17年、41戦(38勝19KO2敗)の33歳は経年劣化が目立ちますが、ニューヨークのバークレイズセンターとラスベガスのMGMグランドガーデナリーナでメインを張ったメキシカン。
米国ではほとんど商品価値の無い井上がオファーを出しても、サンタクルスにするとそれこそ「メリットがない」試合です。
日本に呼ぶには、ゴロフキン級ではないものの、ディパエン100人分でも足りません。
カネの問題だけでなく、サンタクルスのプロモーターはトップランクの天敵アル・ヘイモン。
やるなら、日本側が高額の放映権料をヘイモンとサンタクルスに差し出して、米国でということになるでしょう。
このクラスはWBOにエマヌエル・ナバレッテ、WBAセカンドにリー・ウッドという人気者に、番狂わせで王座に就いたIBFのキコ・マルチネスにWBCのマーク・マグサヨという〝狙い目〟の王者もいますが「倒せば美味しい」という点ではサンタクルスが図抜けています。
さかなクンや大谷翔平らは、極めて稀な例外です。
誰だって、どんな人だって、揺れながら、ブレながら生きているのです。
2019年3月、WOWOWで「エロール・スペンスJr.vsマイキー・ガルシア」の解説をつとめた井上尚弥は、マイキーの完敗を目にして「体力差がモロに出た。やっぱり階級の壁。適正階級がいかに大事なのかがわかる。あれじゃ階級を上げても意味がない」と語りました。
自らについても「行けてもフェザー。スーパーフェザー級? 普通の選手になりますよ。埋もれると思う」と、より人気のある階級への進出よりも、ベストパフォーマンスが発揮出来る階級へのこだわりを語りました。
その年の11月、ノニト・ドネア戦に勝利したあとトップランクと複数年契約。
翌2020年にはMGMグランドを訪問、ガーデンアリーナを見学、「ここで(メインで)やるのが夢。それにはバンタムでは話にならない。最低でもフェザー」「マニー・パッキャオが見た風景が見たい」と未来を〝上方修正〟。
「いつ」「どこで」「どんな状況で」「誰に聞かれたのか」…いろんな要素がからみあって、その人の答え、言葉が変節するのは、むしろ当然です。
2020年4月に決定していたジョンリール・カシメロ戦。ラスベガスのマンダレイベイ・イベンツセンター(ミケロブ・ウルトラ・アリーナ)にセットされた試合は、パンデミックの影響で中止に追いやられてしまいました。
この中止は100%残念でしかありませんでしたが、もしやっていれば米国で全く人気のないバンタム級のアジア人同士の試合、格安のチケットと上階席を封鎖した寂しい光景の中で行われていたのは間違いありません。
同じ場所で、約10年前にノニト・ドネアとフェルナンド・モンティエルが戦ったときよりは少しはマシだったかもしれませんが、それでも同じようなもので、ラスベガスにおける「バンタム級とアジア人の需要と現実」が百聞は一見に如かずで伝わっていたはずです。
その後、パンデミック下でラスベガス、MGMグランドの完全防疫した会議室(The Bubble)でジェイソン・モロニー(2020年10月)、ヴァージンシアターでマイケル・ダスマリナス(2021年6月)との防衛戦で「ファイトマネー100万ドル」(大橋秀行・談)を獲得。
ダスマリナス戦は有観客だったものの、井上は「(本場の観客は目が肥えてる?との質問に)ただ騒いでるだけ」と静かに答えただけでした。
石橋貴明の「薪を焚べる」では「カシメロが騒いでくれれば、くれるほどPPVががっぽがっぽ」という的外れな発言を何度も繰り返す石橋に「そうですね…」と返すだけで、話を膨らませようとはしませんでした。
少なくとも、この時点で井上は「ラスベガスに、期待していたような軽量級の需要は無い」ということを、肌身に沁みて感じていたように思えます。
トップランクと提携しているESPNは「井上尚弥なんて誰も知らない」などと書き立て、パンデミックの事情を考慮して高額の放映権料の減額を求めたであろう日本側へ牽制球を投げました。
昨年12月には、両国国技館でアラン・ディパエンとの防衛戦で凱旋。次の試合も5月〜6月に予定していると発表されます。
トップランクとの契約が破棄されたのか、更新しなかったのか、いずれにしても売り出す気の無いトップランクに見切りをつけ「米国を主戦場にする」という方針を大きく転換したことは間違いありません。
日本の多くのファンが期待し、井上本人も憧憬した「パッキャオが見た風景」は、バンタム級のアジア人が拝める種類のものでないことがハッキリしてしまいました。
井上も「(階級を上げて)潰されてしまうなら意味は無い。それでも、今年中にスーパーバンタムの体を作る自信はある」と、リカルド・ロペスやゲンナディ・ゴロフキンのように適正階級を重視する発言をしています。
もちろん、ゴロフキンにとってのカネロ・アルバレスのような超大物が1階級上にいてくれたら、井上も冒険の舵を取るでしょうが…。
現状のボクシングシーンで、井上が最も大きな注目と報酬を得ることができるマッチアップは、本人が既に気づいているように、「井岡一翔」戦をおいて他にありません。
このメガファイトは、井岡がジュニアバンタム級の統一戦線を最優先していることを考えると、少なくとも当面の実現可能性はありえないように思えます。
とはいえ、米国の夢が〝頓挫〟した井上にとってキャリア最大のメガファイト、対戦相手に〝メリット〟を口にしてきた井岡にとっては、体重の問題さえクリアできれば、利害関係は一致します。
田中恒成戦ですら「僕にとってメリットが無い」とうそぶいた井岡でしたが、現実にはオッズも予想もやや不利だったように、キャリア初の番狂わせを起こして、世界評価も急騰、大きなメリットがありました。
井上戦は敗北のリスクが大きいとはいえ、それ以外はメリットしかありません。
世間が注目するメガファイトを渇望する井上と、対戦相手にメリットを求める井岡。相思相愛なはずですが…。
井岡戦ほどのインパクトは、世界の軽量級には見当たりませんが、あえて探してみましょう。
◉バンタム級で盛り上がる一番手は、やはり「カシメロ」でしょう。
行儀の良い日本のファンでもカシメロの入場にブーイングを浴びせる、そんな前代未聞のシーンも見られるかもしれません。
井上にとって脅威という点では「ドネア」ですが、カシメロ級の盛り上がりは期待できません。
バンタムは、どう考えてもここまで。
◉バンタム級統一戦線が愚図つくようだと、年内にも転級が噂されるジュニアフェザーでは最高の人気者「ブランドン・フィゲロア」が陥落したのは痛い。
4つのベルトは、フィゲロアに勝ってWBO/WBC王者となった「スティーブン・フルトン」と、WBA/IBFのピースを掌握する「ムロジョン・アフマダリエフ」が分割。
井上がジュニアフェザーに上がるとき、タイトルが一本化している可能性があります。バンタム級では統一がままならなかった井上ですが、ジュニアフェザーでは一発完全統一のビッグショットの舞台に恵まれるかもしれません。
ビッグファイト、フルトンやアフマダリエフに勝っても世界の注目度という点ではコップの中のさざ波です。
それでも、完全統一王者になるとFighter Of TheYear(年間最高選手)やPFPなど専門家評価を集めるには最高の効果があります。
◉「行けてもフェザー」「最低でもフェザー」と井上がボーダーラインと読むフェザー級(126ポンド)は、最初に世界を獲ったジュニアフライ(108ポンド)から18ポンド先の世界。
パッキャオの42ポンド(フライ=112〜ジュニアミドル=154)には遠く及ばないものの、カネロ・アルバレスの21ポンド(ジュニアミドル〜ライトヘビー=175)とは遜色の無い階級レンジです。
ここのビッグネームはWBA王者「レオ・サンタクルス」。ガーボンタ・デービスに壮絶に沈められた傷物とはいえ、軽量級の枠を超えた人気者です。
「米国で注目されるにはメキシカンが必要」(井上)というニーズを具現化したキャラクターで、山中慎介も対戦を希求しましたが、全く相手にされませんでした。
キャリア17年、41戦(38勝19KO2敗)の33歳は経年劣化が目立ちますが、ニューヨークのバークレイズセンターとラスベガスのMGMグランドガーデナリーナでメインを張ったメキシカン。
米国ではほとんど商品価値の無い井上がオファーを出しても、サンタクルスにするとそれこそ「メリットがない」試合です。
日本に呼ぶには、ゴロフキン級ではないものの、ディパエン100人分でも足りません。
カネの問題だけでなく、サンタクルスのプロモーターはトップランクの天敵アル・ヘイモン。
やるなら、日本側が高額の放映権料をヘイモンとサンタクルスに差し出して、米国でということになるでしょう。
このクラスはWBOにエマヌエル・ナバレッテ、WBAセカンドにリー・ウッドという人気者に、番狂わせで王座に就いたIBFのキコ・マルチネスにWBCのマーク・マグサヨという〝狙い目〟の王者もいますが「倒せば美味しい」という点ではサンタクルスが図抜けています。
どの道を選ぶかは井上尚弥の自由、彼が選んだ道こそが正解です。
たとえ、それが、ファンの多数決的期待とは少し違う方向だったとしても。
たとえ、それが、ファンの多数決的期待とは少し違う方向だったとしても。





コメント
コメント一覧 (7)
フシ穴の眼
が
しました
フシ穴の眼
が
しました
PFP上位で勝てば価値が上がる上に、下の階級からなので勝てそうな気がする(美味しいと勘違いしてくれてるかも)。
井上側からしたら、ベガスでやろうぜ、と言われたら飛びつくべき相手と私は重ね重ね思います。
フシ穴の眼
が
しました
フシ穴の眼
が
しました