誰だって大谷翔平のように最高峰の舞台で、投打で大活躍したい。

三冠王とサイ・ヤング賞なんて、あり得ないことですが、それ以上ない、最高の夢です。

野球を始めた〝少年〟が最初に夢見るのは〝そこ〟です。

「どんな夢でも描いてみろ」と言われて、送りバントや守備固めの役回りを夢見る〝少年〟はいません。

最初から競歩を目指す陸上競技選手など、いないのです。

キャリアを積む中で、何かを諦め、季節が深まり、どこかで自分と折り合いをつけて、生き残りの道を見出すのです。
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ボクシングで「どんな夢でも描いてみろ」と言われたなら、ウェルター級かミドル級で五輪金メダルを獲得、プロでも人気階級のスター選手を次々にノックアウトしてヘビー級まで制覇することでしょうか。

世界のボクシングを少しでも知っていたら「フライ級やバンタム級で完全統一王者になる」と夢見る〝少年〟はいません。

もちろん、持って生まれた体のサイズがあります。

生まれた国の歴史や文化があります。

かつて、井上尚弥は「具志堅用高の連続防衛記録を更新する」と大きな目標を掲げました。

また、ラスベガスデビューが決まったときにはMGMグランド・ガーデンアリーナを訪れ「ここでメインを張るのが夢」と話し「そのためにはバンタム級では無理。フェザー級に上がれば少しは景色が変わる」と語りました。

しかし、パンデミックの中でMGMグランドの会議室棟に設られたThe Bubble という、非常にわかりにくい舞台でメインを張ることに対して「まさかバンタム級でも」と前向きに捉えました。

このブログでも何度も書いていますが、自分が乗る船の身の丈にあった、勝手知ったる狭い港湾で絶妙の技術を披露する〝リカルド・ロペス〟と、「そんな笹舟じゃ絶対無理だ」という声を無視して遥かな大洋に乗り出して巨大戦艦を撃ち沈める〝マニー・パッキャオ〟に、優劣を付けることは出来ません。

もちろん、見る者を興奮させるのは後者ですが〝パッキャオ〟は傑出したパフォーマンスを披露し続けた勝手知ったる港湾を持っていません。

パッキャオやフロイド・メイウェザーは狭い港湾に安住することを拒否した、宿無しファイターです。

主戦場としたウェルター級、つまり大海原では、2人とも退屈な判定試合を繰り返すことしか出来ませんでした。

パッキャオが126ポンド・フェザー級、メイウェザーが135ポンド・ライト級にとどまって完全統一王者になっていたなら、歴史に残る絶対王朝が築かれていたかもしれませんし、そうでなかったかもしれません。

それは誰にもわかりません。

いずれにしても、パッキャオとメイウェザーは2人でのべ13階級も制覇しながら、どのクラスでも一度もUndisputed Champion(議論する余地の無い王者=完全統一王者)になれなかった(なろうとしなかった)のは動かぬ事実です。

パックメイがやったのは、広い大洋に乗り出して派手で目立つ獲物を追いかけ、地味な試合を繰り広げただけです。

一方で、派手さはなくても、狭くて浅い港湾でも、そこで出来得る最高に上質なパフォーマンスを追求することこそが、アスリートの正しい姿勢です。

ただ、私がかつての長谷川穂積や西岡利晃、井上尚弥に腐臭を感じるのは、狭くて浅い港湾をさも大海原のように見せかける嘘を重ねるからです。

帝拳は日本が世界に誇る大プロモーターですが、そういう体質だけは好きになれません。

狭くて浅い港湾でも、そこで傑出したパフォーマンスを見せること、たとえ、それが〝少年〟の夢見たものと違う形であっても、何も恥ずかしいことではないというのに…。