ずっと理解に苦しんでいました。

あの激闘の13ラウンド終了後のインタバル。


状況証拠と呼ぶにはあまりにも生々しいパナマ・ルイスの言動の一部始終が、テレビでオンエアされたのです。

ルイスはこの薄汚いスポーツの歴史の中で、最も卑劣な男です。そんな極悪人が「そのボトルじゃない。俺が混ぜたボトルだ!」とはっきり発言しているのです。

そして、その黒いボトルの液体を飲んだプライアーは14ラウンドに爆発的な猛攻を見せて一進一退の大激闘に疑惑のピリオドを打ちます。
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アルゲリョの立場で考えると、絶対おかしい、です。実際に「納得できない」という趣旨のコメントはいくつも残しています。

パナマ・ルイスに限っていえば「疑わしきは罰せず」のレベルはとうに超えています。

マイク・タイソンとイベンダー・ホリフィールド、レノックス・ルイスのケースとは違います。タイソンは自分の過ちを認めて謝罪しています。何より卑怯者タイソンは惨敗しているのです。

そして、ホリフィールドもルイスも、その後の言動を見るまでもなく心の底ではタイソンを許してはいません。

しかし、プライアーとアルゲリョの関係はなにか理解しがたい不思議な空気を発散させています。

タイソンが否定のしようのない卑劣な〝主犯〟であったのに対して、プライアーはパナマ・ルイスとグルではなかったかもしれません。

それを踏まえても、やはり2人は目に見えない何かでずっと昔からつながっていたようにも思えます。

もちろん、その私たちの目には見えない「何か」は2人だけにははっきり見えたのでしょう。
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1986年12月に、ある街角でアルゲリョはプライヤーと偶然出会います。

アルゲリョは「ショックだった。痩せ細って衰弱してて。近づいて声をかけたけど、彼は私がわからなかったかもしれない」と落ちぶれたかつてのライバルの姿を語っています。

それにしても、そんな偶然がありえるでしょうか?

ありえません。アルゲリョが幻覚を見たのか、そうでなければ神の配剤です。


時計の針を3年戻します。

1983年9月9日の再戦でプライアーは10ラウンドKOで決着をつけました。奇妙なことに試合後に2人は揃って引退を発表するのです。

そして、アルゲリョは13ヶ月後、プライアーは11ヶ月後という短い時間で2人はリングに戻ってきてしまいます。野球やサッカーならまだしも、ボクシングでは珍しいことではありません。

カネのためです。

この2試合だけで何百万ドルも稼いだはずの2人が、世界中のボクシングファンを感動させた2人が、どうしてカネなんかに困らなければならないのでしょうか?

その後、2人は引退と復帰を繰り返します。

アルゲリョは42歳になる1995年まで戦い続け、プライアーは1990年に最後の引退をしますが、そのときまだ35歳でした。
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アルゲリョ「今度はミドル級でやろう」。プライアー「もういいよ、お腹いっぱいだ」。


アルゲリョは反政府ゲリラ、コントラの兵士として内戦に参加しますが、政府軍が勝利すると財産を没収されてしまいます。

引退後は政府側に寝返ったアルゲリョは首都マナグアの市長に当選、北京2008の開会式ではニカラグア代表の旗手をつとめました。

この開会式ではフィリピン代表の旗手がマニー・パッキャオとボクシングファンにはたまらない入場行進でした。

その翌年に、アルゲリョは自宅で自ら胸を撃って自殺。

家族をはじめ多くの友人知人は「自殺するわけがない」と声をあげましたが、中央政府との政治理念の違いに悩んだ末の自殺という説も拭えないまま。

「汚職がらみの口封じ」「コントラの残党が裏切り者を処刑した」などの他殺説も流布されてきました。


アルゲリョの死を聞いたプライアーは「ありえない」と声を絞り出しました。

そして「耐えられない」と。

抱き合ってじゃれつきながら「国も誕生日も違うけど死ぬときは一緒だ」と笑い合っていた2人。

生まれた国も、肌の色も、体を流れる血も違いましたが、そんなくだらないことは本当の兄弟の定義ではありません。

お互いに思いやり、絶対に裏切るわけがないと信じられる間柄、それが兄弟です。

裏切りと不条理が渦巻くボクシングの世界に足を踏み入れたばかりに、心も肉体もズタズタに傷つけられてしまった2人。

2人は不幸な時代に不幸な環境で不幸な職業に就いて、不幸に死んでしまったという人もいます。

しかし、本当にそうでしょうか?

そう言う人には、心の底から思いやれる人がいますか?絶対に裏切らない人が何人いますか?

もし、ボクシングをやっていなければ、彼らが出会うことはなかったでしょう。


きっと彼らは天国で地上での日々を「最高に楽しかったな」と振り返っているはずです。


2人は間違いなく幸せで濃密な人生を全うしたのです。


*▶︎*▶︎*▶︎*▶︎*▶︎*▶︎*▶︎*▶︎いつになったらオレンジボールの大勝負の話になるのか、われながらまったくわからなくなってきました。

ESPNの名物特集「敗れざる者たち」の「AARON PRYOR: A BOXING LIFE REMEMBERED 」なんかも読み返してると、本当の幸せとは?を考えさせられてしまいます。