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信じられない人も多いだろうが、ボクシングの世界ヘビー級チャンピオンが、あらゆるスポーツで最も尊敬を集めるタイトルだった時代があった。嘘でも冗談でもない、事実だ。

しかし、もはやそんな時代は遥か彼方の過去に埋もれてしまった。

スーパー王者、暫定王者、休養王者、名誉王者、ダイアモンド王者、ゴールド王者、シルバー王者、インターナショナル王者、フランチャイズ王者…マニアならわかってもボクシングを初めて見た人は、どれが本物の世界王者なのか戸惑うだろう。

そう、どれが本物か戸惑うのが、素人なのだ。

私たち玄人は「全部が偽物」とわかっている。

そして、ボクシングに関心を持ってくれたスポーツファンは、すぐに興味を失うだろう。

「ボクシングって誰が一番かを決めないんだね」と。

当たり前だ。あらゆるスポーツは誰が一番かを決めるために存在している。

現在のボクシング界ほどチャピオンの名前を安売りしているスポーツは、人類史上存在しない。

ESPNや一部のメディア、ファンはタイソン・フューリーを「LINEAL CHAMPION」としてアルファベット団体承認の腐ったタイトルとは一線を画した特別な存在とみなしている。

他の階級ではめったに聞くことのない Lineal Champion は、ヘビー級王者が尊敬されていた理由そのものだ。

ボクシングは王位継承、いや王位簒奪のルールでしかチャンピオンが生まれないから、尊く厳かだった。

ジョン・L・サリバンをジェームズ・コーベットが倒し、コーベットをボブ・フィッツモンズが倒し…モハメド・アリの時代まではスポーツファンなら誰でも時代をつないできた王者の名前を諳んじることが出来た。大統領の名前のように。

ただ、ここには厳密に言うと嘘がある。

フィッツモンズを倒したジェームズ・ジェフリーズは1905年に引退してしまう。これでLInealの鎖は断ち切られた。1956年、ロッキー・マルシアノも王者のまま引退するなど、何度もLineal(正当の系譜)は途絶えて、新しくやり直してきた。

そして、承認団体が増殖すると何が正当化は誰にもわからなくなった。
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「マニー・パッキャオは史上唯一の8階級制覇王者」は理解できるが「同じくLineal Championとしても史上唯一の4階級制覇」という理屈を誰もが納得できるように説明できる人はいない。

実際に「パッキャオは5階級制覇の Lineal Champion」という人も少なくない(Wikipediaでは「Lineal Champion5階級制覇」)。

「たった一人しかいない」というLineal Championですら、その定義は曖昧で、フューリーが王位を奪われないまま引退すると、Lineal Championはアンソニー・ジョシュアになるのか、それともデオンティ・ワイルダーになるのか?

そもそも、ヘビー級のLineal Championは2015年にウラジミール・クリチコからフューリーが簒奪したもの。この試合から2年7ヶ月も引退状態、リングを離れていたフューリーにLineal Championを名乗る資格があるのか?

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プロボクシング。

本物のチャンピオンはおろか、世界的な統括団体すら存在しないスポーツにリアルなど、そもそも存在しないのかもしれません。

もし、リアルがあるとしたらそれは個々のボクサーが自身で設定した「リアル」があるだけです。

フロイド・メイウェザーにとって、二つの拳を操ってどれだけ莫大なカネが稼げるかを追求することがリアルでした。

マニー・パッキャオにとってのリングは、カネ儲けと栄光を掻き集める金脈でしかありませんでした。

パックメイにとってのリアルは、Undisputed Champion になることではありません。彼らはそんなものにはハナから興味を示しませんでした。

そして、井上尚弥や村田諒太をはじめ日本のボクサーにとってのリアルは、どうしたらリングの中で輝けるか、文字通り本物のチャンピオンを目指すことであり続けています。

アスリートとして、どちらが目指すべき正しい方向かは明らかです。

2020年、彼らが、彼らのリアルに辿り着く道程を考えていきます。