1968年、WBCがWBAから分離独立してから50年の歳月が流れ、矢吹丈が「世界王者は世界にたった一人しかいないんだ!」と叫んだその玉座は粗製乱造大量生産され続け、今やボクシングはマイナースポーツに成り下がってしまいました。



〓〓〓「ラスベガスでビッグファイト」という白昼夢を見た長谷川穂積は、SHOWTIMEから届いた「バンタム級最強トーナメント」の信じられないほど低い報酬を目にしても夢から醒めませんでした。

そして、2010年。「自分の報酬を削ってでも」と当時誰もが認める絶対最弱王者フェルナンド・モンティエルを迎えるのです。

世界最強を証明したらビッグマネーが付いてくるはずなのに…モンティエルごときを呼ぶだけでこっちの報酬を削る…この矛盾が世界の軽量級の正体です。




〓〓〓そしてこの白昼夢でしかない「ラスベガスでビッグファイト」を無理やりデッチあげたのが西岡利晃でした。

パックメイのホーム、MGMグランドで、ビッグネームと対戦、その報酬は100万ドルと発表されました。

表面上はなるほどビッグファイトに見えますが…リングが作られたのは1万6000人キャパのアリーナではなく宴会場、相手はWBCから異例の引退勧告が出されていた完全ロートルのラファエル・マルケス。

HBOもSHOWTIMEも全く関心を示さず、小さなローカル局がテレビ放映するマイナーイベントでした。

もちろん、西岡一人で考えたデッチあげではないでしょう。どこかでストーリーを練り上げた人、矮小な興行でありえない100万ドルを用意した人、衛生放送局の人などなどがいるのです。

西岡も〝加害者〟であり〝被害者〟でした。

WOWOWの解説でも「パッキャオやメイウェザーと同じリングに上がったわけですよね」というのは今や禁句になってしまいました。「MGM詐欺」と指摘されても一言の反論もできないわけですから。






軽量級には〝ラスベガス〟は存在しませんし、PPVでメインを張るようなスターも歴史上たったの一人も存在しないのです。

それでもM資金のように「軽量級でもラスベガスで高額報酬のメガファイトはある」というホラ話が湧いてきて、一般メディア上ですらまことしやかに語られることが珍しくありません。

もう、第二の長谷川、西岡は作ってはいけないのです。

繰り返しますが「井上もラスベガスで試合をしてPPVで何十億円も稼ぐかも」なんて素っ頓狂な記事やコメントを今も目にしますが、軽量級で戦う限り100%ありえません。

米国にもラスベガスにも軽量級のメガファイトの需要なんて100%ないのです。軽量級メイン(歩合報酬が入る)のPPVも歴史上ただの一度の前例すらないのですから。

日本から見たら、ラスベガス、米国なんて軽量級不毛の地です。

PFP1位のロマゴンのファイトマネーですら60万ドルが精一杯、軽量級随一の実力者ファン・フランシスコ・エストラーダですらキャリアハイがシーサケットとの再戦で得た20万ドル、それまでは10万ドル以下でした。

井上尚弥の一昨年の遠征でも、ジャパンマネーが補填されてようやく4000万円。米国でやっていては日本よりも格安報酬で経費もかかる、経済的には何一つ良いことはありません。

DAZNが巨額の大型契約したボクサーの階級を見れば一目瞭然です。米国は軽量級不毛、不遇の地なのです。




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ボクシングは滅びゆくスポーツ。

この40年間、米国でこのスポーツを支え続けたHBOの撤退は、ボクシング落日の象徴的な出来事でした。

その一方で、世界のアスリート長者番付でトップボクサーは、今でも首位を賑わしています。

ボクシングが没落の坂道を転がり落ちているにもかかわらず、フロイド・メイウェザーやカネロ・アルバレスはメジャースポーツの選手たちも羨む莫大なカネを手にしているのです。
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〓〓〓日本でも村田諒太が登場、従来のボクサーとは一線を画するスポーツセレブとして認められています。

ただし、これはメイウェザーやカネロ、村田にだけ限定される〝超常現象〟であり、ボクシング界全体には全く当てはまらない排他的な特例です。

ボクシングはトップに立てば豊かな報酬が約束される中量級とヘビー級、そしてトップですら副業を持たざるを得ない貧困な軽量級という二重構造になっています。

この二重構造を理解出来ない無知蒙昧が「バンタム級最強になればラスベガスでカネロのようなメガファイトの舞台が用意される」なんて有り得ない白昼夢を見てしまうのです。

そして、単純に中量級でトップに立ってもカネロやメイウェザー、村田にはなれません。中量級のトップでも、軽量級と比較したら遥かに見入りが良いというだけで、メジャースポーツから見ると恵まれているとは言えません。

彼らの共通点はメキシコと米国、日本というボクシング大国、経済大国をバックに、ウェルター級とミドル級という中量級の人気クラスで頂点に立ったということです。

もしゲンナディ・ゴロフキンがメキシカンだったなら、その報酬は10倍では済まなかったでしょう。

逆にカネロがカザフスタン人なら、DAZNはあんな突拍子も無い巨額の契約を結ぶわけがありません。

村田は頂点に立っていませんが、超富裕階級で日本人としては奇跡的な五輪金メダルを獲り、メイウェザーやカネロの世界に斬り込める可能性があると大きな夢を託されたのです。

残酷な断定になりますが、井上尚弥は貧困な軽量級にとどまる限り「ラスベガスでメガファイト」なんて寝言に過ぎません。

しかし、村田にはその可能性が十分にあるのです。 

それが例え、ロブ・ブラントに再戦で敗れたとしてもカネロの調整試合に呼ばれる可能性はゼロではありませんし、GGGとならその可能性はさらに跳ね上がります。

もちろん、ブラントに連敗となると村田も決断するでしょうが…。

ブラントのタイトルはWBAセカンドタイトルで世界的には認められていませんから、カネロも「完全統一まであと一つ(デメトリアス・アンドラーデのWBO)」と発言しています。

それでもブラントに雪辱することで「まだここにいるぞ」というアピールになります。



もし、日本でも衰退の一途をたどるこのスポーツに決定的な救世主が現れるとしたら、中量級の世界的なスターが登場することしかないでしょう。

先日の大谷翔平の新聞一面広告や、あるいはイチローの偉業に出た号外…あの扱いをボクサーで受けることが出来るとしたら、村田しかいません。

村田本人がそこに辿り付かなくとも、村田のアプローチならそれが可能です。

村田がここから連勝し、T-Mobileアリーナでカネロを倒すようなことになれば、世界のボクシング界を揺らして、日本のスポーツシーンでも最大の偉業の一つに数えられるでしょう。

号外も普通に出るでしょう。



王貞治から大谷翔平へ。

しかし、ボクシングは具志堅用高から井上尚弥へ、何も変わっていません。

この50年の間に日本人アスリートの体格は飛躍的に向上したというのに、ボクシングはずっと軽量級にしがみついています。

この最大の元凶は階級制度でしょう。

「骨と肉を削ればより弱くて小さな相手と戦える」。この誘惑には誰も勝てないのかもしれません。

そして、ボクシングが小さな才能の受け皿になっていることも、相変わらず軽量級にタレントが集中している背景の一つにはありますが、それはやはり言い訳でしょう。

大谷がMLBをパワーでねじ伏せる令和の時代、ボクシングだって日本人の中重量級の世界王者が現れても驚いてはいけないはずなのですが…。

身長180㎝で運動神経が並外れて優れた少年はボクシングに興味を持つ前に野球などメジャースポーツに奪われてしまうのは仕方がありません。

だからといって競争率の激しい、すなわちレベルの高いウェルター級やヘビー級から目を背け続けていては一歩も前に進めません。

正直、アクションに富んでスタミナ抜群の軽量級ボクシングが大好きです。

しかし、欧米(日本でも?)では軽量級は発展途上国の小さなボクサーが低報酬で戦う見るに値しないもの、という偏見が今でも付きまとっています。

競技人口が少なく、貧困な東南アジアや中南米、アフリカに偏る人口分布も、欧米の視界から外れる理由でした。

しかし、東西冷戦が終わって〝東側諸国〟が解放され、中国が世界最大の経済大国にノシ上がり、東南アジアや中南米、アフリカが急成長中の現在、ウェルター級やヘビー級は欧米のものだなんて遠慮する必要などありません。

マニー・パッキャオはマイナー(軽量級)からでも、メジャー(中量級)を 征服できることを証明しました。

このメジャーに直接殴り込みをかけているのが村田です

ファンも電通もフジテレビも、米国のMGMリゾーツまで巻き込んだスポンサー企業群も、大きな夢を胸に村田の船に乗りました。

村田の挑戦は「最強階級で最強になる」という紛うことなき〝聖戦〟です。

その海に村田は漕ぎだしたのです。

そして万一、村田が志半ばで座礁したとしても、次の船が近い将来港を出るでしょう。

その船が約束の地に着岸したとき、もしかしたら軽量級の素晴らしいボクシングもまた、あらためて評価されるのかもしれません。