2015年にページ数削減、年9回発行と月刊誌から転落したリング誌は、親会社のGBPの経営悪化から、年4回発行の季刊誌化など、さらなるリストラだけでなく、廃刊の危機まで噂されるようになります。

Yahoo!Sports はリング誌との提携を更新せず、GBPも赤字雑誌を支える体力は残されていませんでした。

さらに、パックメイが〝大失敗〟に終わった翌2016年6月3日、ボクシング界だけでなく米国に大激震が走ってしまいます。

モハメド・アリ(1942−2016)の逝去です。 

1960年から70年代、アリの時代までボクシングヘビー級がスポーツの王様でした。

そして、リング誌が最も売れて、最も尊敬されていた時代でもありました。

米国ではボクシングはマイナースポーツに凋落したといっても、アリは別格です。

CNNが48時間、丸二日にわたり哀悼したのをはじめ、全てのテレビが偉大な人が天国に召されたことを悲しみ、ジャンルを超えて多くの雑誌が特別号を発行しました。
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TIME、Newsweekなどの一般誌までが通常号でもアリを悼んだだけでなく、特別号まで出してその偉大な生涯を振り返りました。

もちろん、リング誌も。アリを特集させて、リング誌の右に出る雑誌などありえません。


パックメイでも売れ行きが伸びなかったリング誌ですが、アリ特集はあっという間にスタンドから売り切れました。

リング誌もそのお礼を兼ねてというわけではないでしょうが、2016年9月号からアリがカバーした代表的なリング誌の表紙をポスターにして1年間、毎号織り込んで読者に届けてくれました。

一方で、再興著しい英国を特集するコーナーを強化、英国市場に秋波を送ります。



2017年は、議論を呼ぶ判定だったとはいえ、マニー・パッキャオが大番狂わせでフジェフ・ホーンに敗退。

かつての巨人狩りの名手が、デカイだけで遅鈍なオージーを最後まで持て余した姿は、一つの時代が終わったことを非常に分かりやすい形で世界中に知らしめました。

リング誌も「米国ボクシング市場にとってメイパックは英語を話す最後のスーパースター。これからはスペイン語版を出さないと生き残れない」と言われましたが、具体的には何も出来ないまま時間だけが経過しています。

そして、フロイド・メイウェザーvsコナー・マクレガーのプロモーショナルツアーから豪奢に煽り続けた大見世物。

この茶番劇をリング誌は一貫して非難しましたが、恐れていた通りにこの年最大のボクシングマッチ、ゲンナディ・ゴロフキンvsカネロ・アルバレスの興行に悪影響を与える結果となりました。


そして、2018年。

ESPNやDAZNが主導するネット配信によるボクシング中継が大きなうねりとなって、既存のテレビ中継を飲み込みました。

半世紀に渡って米国ボクシングの看板であり続けた HBOがこのスポーツから完全撤退、ShowTimeにとってライバルが消えたことは好機到来などではなく「次は我々が退場する番か?」と戦々恐々と執行の順番を待つ囚人の心境でしょう。

既存メディアが苦境に追い込まれる状況に、業界きっての老舗リング誌が無縁でいられるはずがありません。

そして、GBPがリング誌の経営権を投資家ステファン・フリードマンに売却。

フリードマンは年12回発行の月刊誌復帰を宣言する一方で、98ページまで削減したプリント版をなんと64ページまで、さらに大幅カットします。

そして、色気を示しながらも大きな成果を上げることが出来なかった英国には見切りをつけて、日本を中心としたアジアの情報に重点を移すのです。


2019年、リング誌は2月号で井上尚弥の単独カバーに踏み切り、暗黙のタブーだったMMAのコーナーも毎号連載する方針です。

2月号の表紙は、バンタム級のアジア人と「ENTER THE OCTAGON」(MMAコーナー)の活字が全面。

〝フリードマン体制〟がどこを目指しているのかが、はっきりわかる狼煙でした。

旧来の米国人読者からは「The Ring じゃなくて The Octagon に改名しろ」「東京に本社事務所を移せ」というやっかみも聞こえてきますが、時代の流れです。

ボクシングでは売れない、米国では売れない、それがもはや明白なのですから、このままでは座して死を待つだけです。

暗中模索の中でも何か手を打たなければなりません。
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2015年のパックメイ → → → → → → → → → → → → → →  2019年の井上尚弥まで。

この5年間で、リング誌のスタンスは大きく変わりました。

市場環境が激変、経営者まで変わったのですから当然です。

長年の愛読者にとっては、日本人ボクサーや軽量級を評価してくれるようになったことは嬉しい限りですが、それは日本メディアの得意分野で、軽量級のマーケットも日本を中心としたアジアにあります。

私が今でもこの雑誌を愛読しているのは「中量級以上の階級の豊富な情報量と正確でユニークな分析」「厖大な過去データ」そして、それらを基盤とした「物語性あふれる特集記事」が読めるという日本のメディアでは及びもしないクオリティに魅せられているからです。

リング誌には、表面的な数字データを並べ立てるだけではないイマジネーションを感じることができるのです。

しかし、そのクオリティが、軽量級や日本人ボクサーを対象にしても維持できるとは到底考えられません。
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リング誌90周年記念号は「リング誌の歴史=米国ボクシングの歴史」を振り返る充実の一冊でした。

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022年に創刊100周年を迎えるリング誌ですが、そのときまで命脈をつなげることができるのかどうか、少なくとも純粋なボクシング専門誌として存在しているのかどうかは、きわめて怪しい雲行きです。

それでも…。

パックメイでも一般のスポーツファンを取り戻すことが出来なかった米国ボクシングですが、このスポーツを一部のマニア限定の迷宮に貶めてきた、クローズドサーキットやPPVの視聴形式に大きな革命が起きようとしています。

これは、ニッチスポーツからの脱出を目指す米国ボクシングにとって悪い流れではありません。

現在、64ページまで痩せ細ったリング誌ですが、これ以上薄くなることはいくら何でもないでしょう。


2022年には「2019年前後がどん底だった」と振り返りながら、分厚い100周年記念号を手に取りたいものです!!!