先月引退した亀海喜寛は、日本ジュニアウェルター級、東洋太平洋ウェルター級のタイトルを獲得しましたが、世界タイトルとは無縁でした。

その34戦のキャリアは、強打と高等技術を操り無敗を守っていた21勝18KOのマエストリートの「前半」と、主戦場を米国に移して激闘を繰り広げた6勝6KO5敗2分のコラソン・デ・アセロ(鋼鉄の心臓)の「後半」に分けて見ることができます。

ミゲール・コットとロバート・ゲレーロというスーパースターと拳を交え、アルフォンソ・ゴメスやヘスス・ソト・カラスといったボクシングファンなら誰もが知っている世界のバイプレイヤーとも戦った、米国での10試合は、日本のボクシングシーンにとっても非常に有意義で濃密なものでした。

同じ帝拳の三浦隆司は 、WBC世界ジュニアライト級王者としてメキシコで1試合、米国で2試合を戦いました。米国では次期挑戦者決定戦のリングにも上がっていますから、海外で世界トップレベルの試合を4試合もこなしたことになります。

さらに、昨年は尾形堅一、今年は伊藤雅雪が敵地フロリダでジュニアライト級タイトルを奪取するなど、米国で活躍する日本人選手が目立っています。

一方で、軽量級では木村翔や村中優、石田匠が「咬ませ犬」として中国や英国のリングに上がることはあっても、そこを主戦場にする意図は読み取れません。

これをもって「軽量級ボクサーも世界を目指せ!」というのは、表層しか見ていないあまりに短絡的な考え方です。

世界のボクシング市場は階級によってエリア(稼げる国)が分かれます。

ストロー(105ポンド)からジュニアフェザー級(122ポンド)までは、日本を中心としたアジアが最も報酬の高いエリアです。

この「105−122」クラスは、日本人の世界王者なら1000万円レベルの報酬が普通に稼ぐことができ、外国人挑戦者も母国では10万円レベルの報酬が100万円近くに跳ね上がります。

井上尚弥や井岡一翔といった「エース」になると、日本での試合では3000万円前後のファイトマネーを手にしている一方、米国では井上が18万2500ドル、井岡は2万5000ドルまで暴落してしまいます(井岡のケースはHBOが瀕死の状態だったので1年前ならもう少し積まれたはずです)。

米国では「105−122」の需要はほとんどありませんが、フェザー級(126ポンド)になると、少し事情が変わってきます。

最近でも、レオ・サンタクルスやアブネル・マレス、カール・フランプトンがシノギを削り、マイキー・ガルシア、ワシル・ロマチェンコもフェザーからキャリアをスタートさせました。

「105−122」クラスではありえない、大会場でのメインイベント、ファイトマネー100万ドルがフェザー級以上ならありえるのです。

100万ドルまでいかないまでも、ジュニアライト級の三浦はvsミゲール・ベルチェルトで19万5000ドル、亀海は無冠戦のvsロバート・ゲレーロで7万5000ドル、世界戦となったvsミゲール・コットでは19万2000ドルを稼いでいます。

この数字は彼らが日本で戦っていても手に届くかどうか、微妙な金額ですが、このクラスにはスターが存在しますから「未来のビッグファイト、高報酬」の夢と希望が持てるわけです。

「105−122」クラスで米国を主戦場にすると、割に合わない報酬に、スターがいないわけですからビッグファイトや高報酬の夢も希望もありません。

「105−122」クラスのボクサーにとって、米国を主戦場とすることは何のメリットもないのです。

もちろん、バンタム級時代のサンタクルスやマレスと戦うのであれば夢も希望もありますが、そんなチャンスはまず、ありえませんし、彼らと何試合もできるわけもありません。

そんな千載一遇のチャンスをモノにできたとしても主戦場にするメリットは、やはりありません。

かつて、長谷川穂積とノニト・ドネアは、ショウタイムが企画したバンタム級トーナメントのオファーを「いくらなんでも報酬が低すぎる」と拒否しました。

山中慎介はサンタクルスとの対戦を熱望しましたが、サンタ側からしたら日本に行く選択肢はありえませんし、日本側も報酬が払えません。山中が「西海岸に行く」と言っても、サンタからしたら無名の日本人と戦うメリットは何一つありません。山中がいくら叫んでも、交渉すら始まりませんでした。

もし「どうしても米国で夢が見たい」というなら、フェザー級以上の階級で戦うしかないのです。

逆にフェザー級以上になるとベルチェルトのような選手でも28万ドル(三浦戦)を稼ぐことができるのですから、彼らを日本に呼ぶのは相当なコストがかかるわけです。

軽量級史上初のPFPキングになったローマン・ゴンザレスは最高60万ドルの報酬を手にしましたが(ロマゴンが人気があたわけではなくHBOが先行投資で捻出したもの)、それも一度きりです。

他の軽量級は、世界王者でも10万ドルが高報酬です。

「野球やサッカー、テニスのようにボクシング軽量級も欧米のお洒落な国がメッカであって欲しい」という気持ちはわからないでもありませんが、そもそも存在しないものを妄想するのは幼稚すぎます。