承認団体と階級がいたずらに増殖した現在、ボクシングにおいて最も重要な「誰が一番強いのか」がリングの中で決着することは極めてまれです。

長谷川穂積や内山高志、山中慎介は10度以上も王座を防衛したにもかかわらず、階級最強の称号を手にすることが出来ませんでした。

リングの中で「誰が一番強いのか」を決めることが出来ない狂乱の時代に、ファンにありがたく受け入れられているのが、PFPに代表される専門家やメディアが脳内で想像するランキングです。

PFPはもちろん、各階級別でも多くのメディアが脳内想像ランキングを発表しています。

腐敗を極めた承認団体が自己都合(承認料をより多く稼げる選手を高くランキングする)によって造り上げたランキングなど誰も信じていないからです。

本来なら、PFPや脳内想像ランキングなどが入り込む余地のないことが理想で、健全な構造を持ったスポーツならそれが当たり前のことです。

世界的な統括団体が一つだけ存在し、そこが唯一無二のランキングを発表する ーその理想郷ではメディアの考えた階級ランキングなど必要ありません。

しかし、時代や階級を超えたALL TIME - PFPは、ファンのお楽しみとしてその存在意義は十分にあるでしょう。

このブログでも何度も書いているのですが、PFPにはこう考えなければならないという定義はありません。

「モハメド・アリよりもアンソニー・ジョシュアやデオンティ・ワイルダーは大きく、より洗練された練習で技術の幅も広いはずから、ヘビー級のPFPは現代の現役ボクサーが10位までを占めるのだ」という考え方も当然アリです。

ただ、この考え方だと議論にはなりません。脳内ランキングの楽しみ方は、何を重視して強さを測るかを議論することです。
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リング誌が2010年に企画した「BEST EVER, A to Z」(名前の頭文字のPFPを決める)。所詮は脳内ランキング、遊び心は不可欠です。「ボクシングの歴史に巨大な実績と衝撃を残したジャック・ジョンソンを選び、偉大なエデル・ジョフレを切り捨てることは難しい作業ではなかった」。

ファイティング原田と井上尚弥を比較するとき、1965年の原田をいきなりタイムマシンに乗せて2018年のリングに上がらせるのは不公平です。

十分な準備期間を持たせて原田を21世紀の技術やルールに馴化させた場合、何が起きるかを考えるべきです。

「原田ならあっという間に現代の技術を吸収してしまうだろう」「原田にとって現代の前日計量は願ったり叶ったり。翌日は大きくリバウンドしてとんでもない猛威を振るうはずだ」「一団体10階級時代に実質三階級制覇したということは現在では六〜八階級制覇に相当する」…脳内ランキングだからこそ、そんな想像が楽しめるのです。

逆に井上尚弥が1965年の日本武道館のリングにタイムスリップしたら、その洗練された見たこともないスタイルとスキルに観客と対戦相手は度肝を抜かれるでしょう。

しかし、薄い6ozのグローブや粗末なギアで、どこまで本来のパフォーマンスに近付けるでしょうか。そして何よりも、当時の短い試合間隔は井上のボクシングの精度を間違いなく引き下げ、感覚を狂わせるはずです。

原田と井上、タイムマシンを介してそれぞれの時代のリングにあげると、原田は強くなり、井上は弱くなります。これは環境や試合間隔の問題で、時代を超えて比較するあらゆるボクサーに当てはまります。

100m9秒台で走る現代のスプリンターに、10秒3の自己ベストを持つジェシー・オーエンスが活躍した1930年代の粗末なスパイクで土のサーフェイスを走らせると何度走らせても11秒近くかかったというドキュメンタリーもありました。
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↑リング誌のPFPランキング。「ファン・カルロス・パヤノを粉砕しても井上尚弥はマイキー・ガルシアを抜くことはできない」と考えていましたが、抜きましたね。言い訳ですが、リング誌のアジアや軽量級への考え方は大きく転換しています。PFPにアジアの軽量級が3人もランクされ、誌面でも日本の特集を定期的に組むなど、潮目は明らかに変わりました。

PFPをはじめ脳内想像ランキング、対決は、過去のグレートに有利に働くのは仕方がありません。

承認団体や階級が増殖して真の世界王者が極めて誕生しにくい環境も、現代のボクサーにとって責任無きディスアドバンテージです。

それでも、マニー・パッキャオはそのキャリアで一度もUndisputed Championになれなくとも八階級制覇、そのうち四階級はリネラルチャンピオンから王座を奪うという、ともに史上唯一の階級制覇を成し遂げ、「アジア史上最高のボクサー」の座を原田から奪い取りました。

井上にも、文句なしで原田を蹴落として「日本史上最高のボクサー」の座を掴み取って欲しいものです。