
元大統領候補で、戦艦にもその名が付けられる大政治家ですが、このブログではそんなこと知ったこっちゃありません。ここで大切なことはただ一つ、ボクシングです。
脳腫瘍を患い、地元アリゾナ州で療養生活を送っていた共和党の重鎮は、ボクシングとも深く関わってきたことで知られています。
海軍時代にはライト級のボクサーとしてリングに上がり、「国を守ることが最優先だが、そうでなければプロボクサーになりたかった」と言うほどこのスポーツに耽溺していました。ただし、ボクサーとしての素質と技量は乏しく「怖いもの知らずの勇敢なファイターだったが、ボクサーとしては三流以下だった」(当時の同僚)そうです。
ボクシングを愛したマケインが天国へ旅立ったその日、奇しくもアリゾナ州グレンダーレで行われたダブル世界タイトルマッチ(WBOジュニアフェザー級:アイザック・ドグボーvs大竹秀典/WBOライト級:レイムンド・ベルトランvsホセ・ペドラザ)では、マケイン氏を悼んでテンカウントゴングが鳴らされました。
興行をプロモートしたボブ・アラムは「マケイン氏はあれほどの立場になってからも、普通にチケットを買ってボクシング観戦に来る、根っからのボクシングファンだった」とリングサイドで回想。
一方でアラムは「マケインとは意見が衝突することが多かった。彼もプロモーター側の人間だと思ってたら大間違い。体の芯からプロボクサーのことを考えていた。有名なアリ法は彼なしでは議会を通過しなかっただろうね」と笑います。
ボクサーの権利と安全を守るモハメド・アリボクシング改革法(アリ法)が正式に成立したのは1996年。この条例によって、ボクサーの健康と安全が整備されただけでなく、プロモーターはその興行の収支をボクサーにも知らせる義務が課せられたのです。
例えばこれまでは、5万ドルの報酬を得ていたメインイベンターが、プロモーターがテレビ局から100万ドル受け取っていたことを知らされることはありませんでした。
この条例は、プロモーターの不当な搾取を監視「アリ法以前に好き放題やっていたドン・キングが没落した最大の原因」と言われるほど絶大な効果をあげました。
「お前ら(プロモーターやマネージャー)がいなくなったってボクシングは続くが、選手がいなくなったらこのスポーツは死ぬ。一番大切にしなければならないのが誰なのかは明らかだ!」。
保守系の急先鋒でボクシングマニアのマケインは、 総合格闘技に対しては禁止の立場を取っていましたが、UFCが米国で定着すると一転、「このスポーツは一過性ではない。だとするなら選手の健康と権利を守らなければならない」と、やはりアスリート・ファーストの姿勢を打ち出しました。

「格闘技スポーツの脳障害を防止する安全研究会」の記者会見でオースティン・トラウトとMMAファイターのフィル・デイビースと意見交換するマケイン上院議員。その保守的な姿勢は賛同しかねることが多かったマケインですが、ことスポーツとなると一貫してアスリート・ファーストの立場を貫いた生き様には尊敬の念しかありません(2016年)。
そして、マケイン氏の最後の大仕事も忘れてはなりません。
今年、5月24日に史上最も偉大なボクサーの一人、ジャック・ジョンソンに名誉回復と死後恩赦を与えたのです。実際の手続き上はトランプ大統領が行いましたが、長年に渡ってジョンソンの名誉回復を訴え続けてきたのはマケインでした。
人種差別が公然と許されていた時代に、マン法(白人女性が州を超えて移動することを禁じた法律)に抵触したとして受けた有罪判決は、黒人差別が根底にある不当判決だというマケインの主張は、まさしく正義でした。
トランプ大統領とは確執が絶えなかったマケイン氏ですが、このときは「トランプ大統領の英断に拍手を送る」と敵味方を超えて賞賛の言葉を贈りました。
トランプもまたボクシングに深く関わり、かつてはアトランティックシティに大きな興行をいくつも招致しましたが、それは自らが経営するカジノ&リゾートに利益を誘導する方便としてであり、そこにはボクシングへの愛は欠片も見られませんでした。
「トランプとマケイン。ボクシングを共通項に持つ二人の偉大な政治家をどう思うか?」。以前、そう問われたアラムは即答しています。
「ふざけるな。トランプは頭の悪い犯罪者だが、マケインは真実のアメリカン・ヒーローだ。この二人に共通項などあるわけがない。比べる対象ではない!そもそもトランプとボクシングは無関係だ。汚らわしい!」。
さらには「1991年のイベンダー・ホリフィールドvsジョージ・フォアマンはトランプのカジノがスポンサードしたが、そのときに私に支払うべき招致フィーのうち250万ドルが、いまだに支払われていないんだ。借金を踏み倒す男が大統領だなんて、この国は終わっている」とトランプに250万ドルもの貸しがあるとボヤいています。
アラムとトランプ。二人は、ボクシング史上屈指の悪ですから、きっとどちらが正しいかじゃなくて、どちらがより凶悪なのかって話ですね。
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