Breez is Nice!

現在、日本人のボクシング世界王者は13人、男子だけで10人が〝世界一〟に君臨しています。同一種目のスポーツで、13人もの現役世界王者を擁し、なおかつ相当な人数の世界王者予備軍もスタンバイしている、異常な〝黄金時代〟を迎えています。

世界王者が一人もいない「空白の時代」は、1988年11月13日に井岡弘樹がナパ・キャットワンチャイと〝疑惑の初戦〟を受けての再戦で完敗、WBCストロー級王座を手放してから、1990年2月7日に大橋秀行が崔漸煥からやはりストロー級のWBCバージョンを取り戻すまでの、1年3ヶ月を最後に、経験していません。

それ以来30年近くもの間、いつも必ず世界チャンピオンがいてくれたのです。

しかし、過去を遡れば、空白時代は当たり前、世界王者が存在するだけで有難い、そんな悲しい極貧の時代がありました。

最も長い空白時代は、60年以上前の1954年11月26日から、1962年10月10日までの、なんと7年11ヶ月、およそ8年間です。

1952年、日本人初の世界王者となった「議論する余地の無い(正真正銘の)世界フライ級王者」白井義男が、1954年11月26日にパスカル・ペレスに敗れてタイトルを喪失してから、1962年10月10日にファイティング原田がポーン・キングピッチから白井が奪われた「正真正銘の世界フライ級王者」のベルトを取り戻すまでの、地獄の8年間です。

8年。それにしても、なんという長い歳月でしょう。当時のボクシングファンが、日本から2度と世界王者は生まれない、そう諦観していたとしてもなんら不思議ではありません。8年というのは、それほど長い時間です。


【王者ダド・マリノ(米国)vsランキング1位白井義男の世界タイトルマッチのポスター。1952年5月19日、舞台となった後楽園球場は最安値の外野後部席200円(大卒の初任給が約5000円の時代ですから、現在の貨幣価値だと約8000円といったところでしょうか)、最高値のリングサイドは3600円(約14万4000円)という破格のチケットがソールドアウト。NHKが TV放送を開始するのは翌年のことでしたが、このメガファイトが1年遅く行われていたら、その視聴率は、日本歴代最高の96.1%(1955年の白井vsペレス第二戦)を超えていたでしょう。】

この8年にも及ぶ厳冬の時代、白井(フライ級:ペレス)、米倉健志(フライ級:ペレス、バンタム級:ホセ・ベセラ)、矢尾板貞夫(フライ級:ペレス)、高山一夫(フェザー級:デイビー・ムーア×2戦)、関光徳(フライ級:キングピッチ)、野口恭(フライ級:キングピッチ)の述べ6人の精鋭が、合計8試合の正真正銘の世界タイトルに挑み、儚く散りました。

原田は、世界挑戦8試合連続失敗という忸怩の8年に見事ストップをかけたわけですが、大橋がピリオドを打った1年3ヶ月の空白時代には、なんと21試合連続もの失敗を繰り返していたのです。

8年で8試合、1年余りで21試合。この数字の大きなギャップの背景に存在するのは、原田の時代よりも日本が豊かになって気軽に世界戦を開催できるようになった、という経済的な理由ではありません。

大橋の時代には、かつてたった一つしかなかった正真正銘の世界王座が2つに分裂、10しかなかった階級は17にまで増殖、世界挑戦のチャンスが爆発的に拡大したという事実が、そこには横たわっているのです。


【WBC世界ストロー級タイトルマッチ、第9ラウンド。大橋の左ボディがナイフのように突き刺さり、崔がこのラウンド2度目のダウン。のたうつ崔にテンカウントが告げられた時、1年3ヶ月続いた〝冬〟が終わりました。「ストロー級なら大橋に敵はいない」とまで言われましたが、このとき、その男の足音は近づいていました。ボクシング120年の歴史で、最も精巧に完成されたボクサーの一人、リカルド・ロペスです。】

常時、男子だけで10人前後の世界王者を抱えて〝ボクシング黄金時代〟を迎えている現在、日本のエースの位置で世界タイトルのベルトを巻く山中慎介と井上尚弥の試合の視聴率は10%前後、大きな話題を呼んだ村田諒太の世界挑戦でも17.8%でした。通常は5%前後、世界戦でも生中継はもちろん、そもそもTV放送されないことまであることを考えると、この3人の視聴率でも傑出しているのです。

一方で、日本ボクシング界が直面した最も過酷なはずの8年間では、1955年:ペレスvs白井(96.1 %)、1959年:ペレスvs米倉(88.0%)、1959年:ペレスvs矢尾板(92.3%)、1960年:ベセラvs米倉(78.7%)、1961年:キングピッチvs関(64.9%)と、厳冬の空白時代にもかかわらず、軒並み60%を超える、今では信じられないほどの熱い視線を日本中から集めていたのです。

とはいえ、街頭TVに多くの人が群がり、なによりTVコンテンツが恐ろしく貧弱で限定的だった時代と、携帯端末からでもTV視聴でき、動画コンテンツが無限に溢れる現代を単純比較することには、明らかに無理があります。

そう、時代が、違うのです。

長嶋茂雄とイチローは、野球選手としての実績だけで見るとその優劣は明らかですが、日本列島に与えた感動や影響の絶対量は前者が圧倒的に上回ります。両者を分け隔てているのは、時代です、それだけです。

長嶋は、時代に愛されました。しかし、大リーグへ挑戦する、最高峰を目指すというアスリートの本能、欲求を満たすことは非常に難しい時代でした。アスリートの本能を満たすという点では、イチローの方が遥かに恵まれていると言い切れます。

しかし、ボクサーの場合はどうでしょうか。

山中や井上は、ファイティング原田らと比較すると、日本全国に与えた感動や影響の総量が圧倒的に少ないばかりか、アスリートの本能、正真正銘の世界一、最高峰を目指すという点ですら重たい足枷に繋がれてしまっているのです。

さらに、人気に比例するとはいえ、報酬面でも大きく水をあけられてしまっています。約50年、半世紀も前というのに、原田が1試合で手にした報酬は3000〜6000万円を超えていたのです。もはや「当時の6000万円を今の貨幣価値に換算したら」とか比較するのも憚られる、尋常ではない格差です。

原田の時代は、目の前に真っ直ぐ伸びる一本道を、ただひたすら全力疾走したら、その先に正真正銘の世界王座を掴むことが出来ました。世界チャンピオンになるには、地球上に10人しかいない世界チャンピオンを己の拳で倒す以外の道、方法はなかったのです。

なんという、当たり前でわかりやすい時代でしょう。おそらく原田は「誰に勝ったのか」という、現代のボクサーについて回る忌々しい評価などを気にしたことはなかったでしょう。「世界王者=正真正銘の世界一」という、常識の方程式がボクシング界でも通用していた時代ですから。

あの頃は、世界戦が今では想像もできないほどの注目を集め、世界王者になれば、プロ野球の高給選手の何十倍もの報酬を手にすることが出来たのです。


【キングピッチを11ラウンドKOで攻め落とし、8年間の冬の時代を終わらせた原田。現在なら数億円の報酬を受け取ったアスリートの祝勝会ですが、どう見てももそうはみえない、とてものどかで癒される風景です。】

原田にとっては「たまたまジョフレだっただけ」です。もし、原田が現代のボクサーなら、ジョフレを避けて別団体の王者に挑戦したり、ジュニアバンタムやジュニアフェザー級の王座の一つを狙っていたはずです。

今の時代、世界王者はよほどのマニアでも正確にわからないくらいに粗製乱造され、最強が誰なのかはメディアやファンが推定することしか出来ず、乱立したアルファベット団体は、我田引水の汚れたランキングを捏造し続けています。

真の最強を求めて、海外の強豪王者と統一戦を行なおうとしても、条件面で大幅な譲歩が求められ、莫大な資金ものしかかってきます。

強い王者からベルトを奪いたい。強い挑戦者を倒して本物の王者と認められたい。

そんな、まともなスポーツなら当たり前の希望すら、叶えられることが途轍もなく難しい時代に、山中や井上は生きています。

長谷川穂積は、 WBO王者のフェルナンド・モンティエルとの統一戦を実現させるために、自らの報酬の減額まで訴えました。けして評価も人気も高くなかったモンティエルとの試合を組むのでも、至難の作業だったのです。

西岡利晃は、世界王者になってからもその地位に満足することは出来ませんでした。「世界王者=世界一」の方程式が完全に瓦解した時代では、最強と推定されるノニト・ドネアに勝つことしか、正真正銘の世界王者であることを証明する手段が無いとわかっていたからです。

内山高志が、11度もの防衛戦を重ねたモチベーションには本当に頭が下がります。ジュニアライトという世界的な強豪が通過点とする階級で、彼らがこの階級を踏み台にしていく後ろ姿を見ながら、ついに世界の強豪と拳を交えるチャンスを一度も与えられることなく、グローブを吊るしたのです。

長谷川の熱望、西岡の執着、内山の我慢…本来はアスリートが気にすること、考えることではありません。生まれるのが50年早ければ、彼らも目の前に現れる敵をぶっ倒すだけで、人気も報酬も評価も、全てを手に入れることが出来たでしょう。

もちろん、その時代にこの3人が拳を振るっていたら、長谷川と内山の10度以上もの防衛は間違いなく不可能だったでしょうし、西岡も世界挑戦で同じ相手に4連続で失敗したにもかかわらず5度目のチャンスが用意されるなんて不条理は、絶対にありえなかったでしょう。そもそも、3人とも世界王者になれていなかったかもしれません。

それでも、どちらの時代がボクサーが良かったかといえば、50年前の方がはるかに恵まれていました。

あの、8年にも及ぶ長い長い厳冬の時代では、毎日のようにボクシングの試合が各局でゴールデンタイムに流され、日本ランカーでもその名が全国に知らしめられました。世界戦ともなると、日本列島が沸き立ち、野球や相撲では味わうことの出来ない「国際試合」の熱狂と興奮に、誰もが手に汗握って応援し、その残酷な結果にみんなが肩を落としたのです。あの8年間は、本当はボクシング黄金時代だったのではないか、そう思えてくるほどです。

今、13人の世界王者を抱えていても、現実は過酷な冬の時代です。

8月15日、この終戦の日に山中は具志堅に並ぶ連続13度の防衛をかけて、ルイス・ネリーと戦います。この相手はWBCでこそ1位に付けてますが、他団体ではランク外です。しかし、承認団体の思惑、営利が反映されないリング誌(6位)とESPN(8位)のランキングに入っていることは評価できます。

とはいえ、このWBC王者とWBC1位の試合をバンタム級最強決戦と考えている人は、日本でも世界でも誰一人としていないでしょう。

世界評価という点で、山中にとっては勝っても得るものは少なく、負けたら大きなものを失う、ハイリスクローリターンの相手です。

本心は、ハイリターンの本物の強豪と戦いたいでしょう。それでも、ともすれば揺らいでしまいそうなモチベーションを、具志堅用高の記録更新に集中させて、ネリーを圧倒的な差を見せて倒すことしか、アスリートである山中には出来ません。


【リング誌9月号 STATE OF THE GAME から。山中がバンタム級で最も評価が高いボクサーであることは間違いありません。そして、注目すべきは、この階級で世界が最も見たい試合は山中vs井上なんです!!このカードを、山中の14連続防衛の記録更新を賭けて日本で開催したら、どれほどの熱狂を呼ぶことでしょう。やらない理由があるとしたら、それは一体何なのでしょうか?】

そして、9月9日には井上尚弥が米国デビューを果たします。このSUPERFLYと銘打たれた興行は、HBOではWorld Championship Boxingの下に位置づけされるBoxing After Dark で全米生中継されます。

人気階級でリングに上がる亀海喜寛の試合は、来る8月26日のミゲール・コット戦はもちろん、昨年のヘスス・ソト・カラスとのノンタイトル2連戦でもWorld Championship Boxingでオンエアされましたから、米国で注目度の低いジュニアバンタム級を中心に組まれたSUPERFLYに出る井上には「俺にはこの舞台は小さすぎる!」と強烈にアピールするような衝撃的な試合を是非見せて欲しいですね。

今の時代、プロボクシング、世界チャンピオンにとっては非常に厳しい時代です。「黄金時代」なんて、少なくとも過去の盛り上がりと比べて言っているのなら大嘘です。世界王者の数だけで黄金時代と呼ぶのなら、4団体以外のアルファベットタイトルも認めたら、もっともっとすごい〝黄金時代〟が到来します。

今は、世界王者になっても、10度以上防衛しても「正真正銘の世界最強」と認めてもらえない、名前すらも覚えてもらえない時代です。

リングで戦うボクサーには、一片の責任もありません。こんな時代によくぞ、このスポーツに命を賭けてくれた!その感謝しかありません。

全て、このスポーツを取り巻く環境が悪いのです。しかし、時代や環境を嘆いていても何も始まりません。

「自分がコントロール出来ることにだけ集中する」。アスリートの基本です。

こんな報われることの少ない環境でも歯を食いしばって、アスリートなら本来気にする必要などのない「誰に勝ったか」を希求しながら、この過酷なスポーツで戦い続けている現代の世界チャンピオンは、限りなく美しく、感動的です。

険しくとも、その山を登れば、必ず頂上に正真正銘の世界でたった一人のチャンピオンが待っていた時代のボクサーは、本当に幸せでした。その山頂を見上げれば、エデル・ジョフレや、ポーン・キングピッチら議論する余地のない世界最強が、そこに鎮座している姿が、はっきりと目に見えていたのですから。

今のボクサー、世界チャンピオンは評価も待遇も何もかもが恵まれていませんが、最初からそこにある山を登るのではなく、自分の拳で「誰に勝ったか」を積み上げて、目に見えない正真正銘の世界一を目指す、そんな峻厳な道無き道を掻き分けて、前進しているのです。

その姿は、恵まれた時代にはない、自律的で、美しく、感動的な魅力があります。

山中慎介と、井上尚弥。そして、それに続く勇敢な若者たち。

彼らの進むその先に、必ず、明るい未来が用意されていますように。

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今月26日に、亀海喜寛がWBOジュニアミドル級タイトルをかけて拳を交えるミゲール・コットが、亀海戦を含めてあと2試合で引退するのは規定路線でしたが、注目の〝最終戦〟の相手がデビッド・レミューになると噂されています。

レミューは、元IBFミドル級王者で地元カナダだけでなく、甘いマスクと階級最強のパンチで世界的な人気選手です。そして、2年前にゲンナディ・ゴロフキンに敗れたとはいえ、まだ28歳、今がプライムタイムの強豪です。

本気でコットがレミューと戦おうと考えているなら、その勇気を絶賛したいところですが、そんなわけありませんね。もし、レミューを選ぶとしたらキャッチウェイトを飲ませて、ハンサムなカナダ人を徹底的に干からびさせて、弱体化させてからリングに上げる算段でしょう。

コットが戦ったミドル級の3試合は、セルヒオ・マルチネス戦は159ポンド、ダニエル・ギール戦は157ポンド、カネロ・アルバレス戦は155ポンドと、3戦ともにキャッチウェイトです。ミドル級の正規リミット、160ポンドで戦ったことがただの一度もないコットが、引退の花道にそんな危険な相手とまともなウェイトでリングで対決する理由がありません。

まさか155の〝カネロウェイト〟は無いでしょうが、156ポンドあたりを突きつけるつもりではないでしょうか。レミューもビッグネームとのビッグファイトを熱望していますから、理不尽なキャッチウェイトでも飲んでしまいそうです。


【全盛期からは大きく衰えたコットですが、世界最高クラスの左ジャブと、この強烈なフックは今なお脅威です。】

もちろん、この12月2日プランは「亀海に無傷で勝つこと」が大前提です。

このプエルトリカン、亀海を完全に舐めてますね。

もう絶対、勝ちましょう。それどころか、コットの引退を1試合早めてやりましょう!8月26日をコットの引退記念日にしてやりましょう!

そして、9月16日にはWBOを除いたミドル級タイトルを賭けた、ゴロフキンvsカネロの統一戦が控えています。

こちらも全世界注目のカードですが、カネロが「勝ってもWBCのベルトは要らない」と公言して、物議を醸し出しています。WBCの王座は、ゴロフキンが勝てば「防衛」、カネロが勝てば「空位」となります。

WBCミドル級は、もともとコットからカネロが奪ったタイトルですが、WBCがゴロフキンとの指名試合を短いスパンで要求、これにカネロが異を唱えてベルトを返上(廃棄)して、メキシコ最大の人気者と、メキシコベースの承認団体の関係がこじれます。

WBCも腐敗団体のくせに、何を考えているのでしょう。フリオ・セサール・チャベスJr.を不当に散々優遇したように、カネロも扱えば良かったんです。超人気選手と一承認団体の力関係が、どちらが上かを知らないわけでもあるまいに。

慌てたWBCは、5月のチャベスJr.戦でカネロのために「メキシコベルト」を特別に作製、関係修復にやっきになりますが、カネロの怒りは収まりません。「汚らわしいWBCの匂いがするベルトはリングに上げるな」と断固拒否、せっかく作ったベルトは一度も陽の目を見ずお蔵入りです。

【日本の山中慎介らをはじめとしたボクサーから徴収した承認料と、レギュラーで40万円もするチャンピオンベルトを売りつけて儲けた金で、こんなベルトを勝手に作って、結局お蔵入り。IOCやFIFA、悪名高い他スポーツの団体でもここまでの暴挙は許されません。何をやってもいいと思っているんでしょうね。】

ボクシング界最大のスーパースターと腐敗団体の、よくある確執に見えるこの一件ですが、別のアングルからはカネロに批判的な意見も挙がっています。

ジャーマル・チャーロのミドル級進出です。ジュニアミドル級時代のカネロが、徹底的に対戦を回避し続けたチャーロ兄弟のお兄さんです。このお兄さんがミドル級に転向した瞬間に、リング誌では10位(我らが村田諒太は8位)、ESPNでも村田(9位)を差し置いて8位とその評価は抜きん出ています。

先月、ジャーマルが4RKOでミドル級の試運転を完了、WBCの指名挑戦権を手にしたことから「カネロはミドル級でもチャーロから逃げている」と一部のマニアが騒いでいるのです。

このミドル級戦線に突然割って入ったジャーマルに対しては、「カネロに勝てばチャーロと戦うか?」と聞かれたアベル・サンチェスでも、いつもは誰とでも戦うと豪語しているのに「ゴロフキンは統一王者、承認団体の一つが指名試合だと言っても受け入れるとは限らない」と歯切れが悪いのです。

ゴロフキンにしてもジャーマルと戦うとなれば、スピードで圧倒されるのは間違いなく、パワーもキャリア最強の一人ですから難しい戦いになるのは間違いありません。もちろん、人気がなくて、超強いというジャーマルは、立場・肩書きのある選手なら誰でも絶対やりたく無いんですが。

【「勝負の鍵はカネロがGGGのパンチに耐えられるかどうか」リング誌9月号から。今年一番のメガファイトは〝ミドル級最強決戦〟では無いのかもしれません。】

ジャーマル本人は「俺はトーマス・ハーンズの再来だ!」とぶち上げていますが、ファンの間では同じ時代のマイク・マッカラム、やはり人気がなくて超強かったため、ハーンズ、ハグラー、レナード、デュランというビッグネームとのマッチアップは叶わなかったジャマイカ生まれの米国人をオーバーラップさせています。

ここは、村田の出番です。10月22日両国国技館でアッサン・エンダムを倒して、人気がなくて超強いジャーマルさんを東京に呼んで差し上げましょう。そして、このミドル級最強候補を木っ端微塵に粉砕してやりましょう!

おそらくは、周囲が考えているほどにはジャーマルは強くはないはずです。鉄壁のガードと、一打必倒の右を持つ純粋ミドルの村田なら、十二分に勝機があるはずです。ジャーマルを村田より上に評価したESPNに、大恥をかかすような圧勝劇をみせてやりましょう。

そうなると、ゴロフキンvsカネロの勝者は、今度は村田を回避することになるかもしれません。

ちなみにゴロフキンとの対戦を逃げ回っていた、9月16日のリングに上がらない唯一の主要4団体のベルト、WBOの王者、ビリー・ジョー・サンダースは、同じ9月16日に地元ロンドンでウィリー・モンロー・ジュニアを相手に二度目の防衛戦を行います。…どうでもいいですね。

しかし、キャッチウェイトとか、対戦を回避するとか、ボクシング界は本当にダメダメですね。

こういう腐りきった土壌から、マニー・パッキャオのような信じられないほど美しい花が咲くこともあるのが、プロボクシングのたまらない魅力なんですが、花の命は短くて、美しかったはずの花もキャッチウェイトを振り回し、ファンが望む強豪との対戦からは逃げちゃうんですけど…。

とにかく!亀海にはふざけたコットを叩きのめし、村田にはエンダムをしっかりノックアウトしていただきたいのです!

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20世紀、日本の男子マラソンは間違いなく世界をリードしていました。

今も昔も優秀なトラックの中長距離選手は、ほぼ例外なくマラソンを目指しました。現在のダイヤモンドリーグにあたる世界最高峰のDNガラン大会の1万メートルで優勝経験もある瀬古利彦は、この種目でも五輪でメダルを狙える実力がありましたが、より可能性の高いマラソンを専門種目に選びました。

「トラックでは世界に通用しないが、マラソンなら五輪でも勝てる」。悪く言えば「トラックからの逃避」でしたが、それは「可能性のある種目への選択・集中」であり、日本の中長距離界の過去から今までの一貫した考え方です。

実際に、1万メートルではメダル争いをする強豪選手の一人に過ぎなかった瀬古は、モスクワ、ロサンゼルスの2大会の五輪前には英国を始め主要ブックメーカーから優勝候補の筆頭に挙げられる世界最強のマラソンランナーに成長しました。


【トラックでも十分世界に通用するスピードを持った中長距離ランナーが、マラソンでさらなる高みを目指す。瀬古をはじめ、日本中長距離界がマラソンを目指したのは、伝統的な駅伝文化もあったとはいえ、強力なライバルがいないマラソンという〝スキマ種目〟に大きな可能性を見つけたからでした。】

90年代から2010年頃まで黄金期を迎えた女子マラソンの背景にあったのも、同じモチベーションでした。「まだ、世界が本格的に取り組んでいない女子なら男子以上に可能性がある」と。

かつて、世界トップの長距離トラックランナーにとってのマラソンは「陸上競技のマイナー種目」であり、「賞金額が少ない」「1年間で2〜3回しか走れない」という、all pain and no gain(労多くして益なし)の種目でした。

ところが、21世紀に入ってから、この構図に大きな地殻変動が起きています。

先日、大方の予想どおり男女共に惨敗してしまった世界陸上のマラソンでしたが、この地殻変動を象徴するような出来事がありました。

世界トップ選手の相次ぐ出場辞退です。世界記録保持者のデニス・キメットも、次の世界記録が期待されるトラックの絶対王者、ケネニサ・ベケレも、大きな物議を巻き起こした「NIKE Breaking 2」で2時間00分25秒の〝世界記録〟をマークしたエリウド・キプチョゲも、ロンドンのスタートラインには立ちませんでした。

それどころか、招待状を受けているはずの世界のトップ10選手がいずれも出場しないという異常事態です。その一方で、1万メートル優勝者のモハメド・ファラーをはじめ、なんと3000メートル障害の選手まで、複数の中長距離ランナーが「マラソン転向」を宣言したのです。

人気があるのか、ないのか、どっちなのか?一体、何が起きているのか?

今や、マラソンは「労多くして益なし」の種目ではなくなったのです。

IAAFが統括するトラック&フィールドで世界最高峰のダイヤモンドリーグの賞金は優勝1万ドル(約110万円)、2位6000ドル(660万円)、3位4000ドル(440万円)…年間14戦合計のポイントで選ばれる総合優勝者には40万ドル(4400万円)が報酬として用意されています。

また、やはりIAAF主催の世界陸上でも金メダル6万ドル(660万円)、銀3万ドル(330万円)、銅2万ドル(220万円)…の賞金が与えられます。

優秀なトラック選手は、14戦全勝で総合優勝すると54万ドル(約6000万円)、世界陸上金メダルで6万ドル、合わせて60万ドル(6600万円)が稼げる計算です。しかし、現実には14戦全てに勝つことはもちろん、全戦出場も難しいので60万ドルというのはあくまで机上の最高額です。トップランナーになると、エンドースメント(スポンサー収入や顔見せ料など競技以外からの収入、ウサイン・ボルトが2016年度で稼いだ3250万ドル・約36億円のほとんどがエンドースメントでしたが、ボルトは例外中の例外です)も多いとはいえ、そんなトップでも競技から得られる年間収入はせいぜい30万ドル程度でしょう。

1年に何回もトラックレースに出場して、トップランナーで30万ドルです。

一方で、マラソンの優勝賞金は、ドバイマラソンの25万ドル(2750万円)を筆頭に、パリ、バルセロナ、ポルト、ソルトレイクシティーのような地域大会でも欧米のマラソソン大会は1万ドル以上の高額賞金レースは珍しくありません。もちろん、1試合だけでこの金額が手に入るのです。

東京マラソンもその一角を占めるワールドマラソンメジャーズ(WMM)では優勝10万ドル(1100万円)、さらに2年間にわたるシリーズ総合優勝者は25万ドル(2750万円)も獲得できるのです。

WMMは世界陸上もポイントレースに数えていますが、世界のトップ選手が賞金の少ない世界陸上を回避したのは間違いありません。

日本実業団陸上競技連合がぶら下げた「日本記録で選手に1億円、指導者・コーチに5000万円」という「project EXCEED」は、日本選手は「どうせ無理」と戦意喪失した模様ですが、海外の選手の中には「日本に帰化したい」という声が上がるなど注目されました。

ケニアではマラソン経験の無い、農業や牧畜など一次産業で働く人までが賞金レースを嗅ぎつけ、ヨーロッパや北米の地域大会で年間500〜600万円近くを稼ぐ賞金稼ぎもいます。国民一人当たりの年間所得が約6万円という国ですから、たった一つの大会で優勝するだけで10年分以上、一年で100年分の年収が稼げる計算です。そんな彼らのレベルでも2時間12〜15分、ちょうど日本のトップ選手より少し遅いくらいなのです。

2000年東京国際マラソンなどで優勝したジャフェット・コスゲイも、農家から賞金稼ぎへの転向組ですね。

そして今や、ケニアやエチオピアのトップ選手でもお金で動く賞金稼ぎ、です。同じプロスポーツでも、サッカーや野球の選手が(複数)年契約を結び、日本の実業団選手に至っては終身雇用で庇護されているのに対して、彼らは〝完全歩合制〟の正真正銘のプロフェッショナルです。

「国の名誉を背負うのは五輪だけでもう十分、賞金の少ない世界陸上は要らない」。それが、賞金稼ぎの本音です。

世界陸上の3ヶ月前にナイキのプロジェクトで非公認レースを走ったキプチョゲなどは、世界陸上なんてハナから興味もなかったでしょう。あの全てが整備された実験室のようなサーキットコースを〝世界記録〟で走ったケニア人は、世界陸上の金メダル(6万ドル)を放擲した代わりに、一体いくらの報酬を受け取ったのでしょうか?

世界陸上(World Championships)は、文字通り世界王者を決める大会でしたが、少なくとも男子マラソンにおいてはその命題は形骸化しています。この傾向は今後も加速して、6万ドルを魅力に感じるレベルの賞金稼ぎ(世界20位〜のレベル)が戦うレースに変質していくかもしれません。

そうなると、将来、日本人でも、二軍の大会に堕ちた世界陸上なら入賞はもちろん、金メダルを獲る日が来てもおかしくありません。もちろん、そうなっても世界陸上が存続していれば、の話です。


【1998年バンコクアジア大会、灼熱のタイで2時間21分47秒という脅威的なタイム(当時の世界記録はテグラ・ロルーペが男子ペースメーカーを付けた快適なロッテルダムで出した2時間20分47秒)で走った高橋尚子。自らの下部組織が実施した大会だったにもかかわらず、国際陸連が「酷暑のバンコクでこのタイムはおかしい」と当初記録を認めなかったことも、東南アジアから届いたニュースがいかに衝撃的だったかを物語るエピソードです。これが日本のマラソンランナーが世界を震撼させた最後の瞬間になるのかもしれません。】

日本記録の時計が2002年で止まったまま、動き出す気配もない最大の原因は「高岡寿成の2時間6分16秒が日本人の肉体的限界だから」であるわけがありません。2時間6分16秒という平凡なタイムを切れば1億円がもらえるのに、やる気が全くないからです。生き馬の目を抜く賞金稼ぎの世界に太刀打ちするには、あまりにも脆弱な環境、心構えで競技に向き合ってしまっているからです。

「五輪や世界陸上で入賞、あわよくばメダル」。それだけを見ていては、賞金稼ぎのプロフェッショナルに勝てるわけがありません。彼らと同じ冷徹な目線を持つことです。

「世界陸上は賞金が少ないから出場しない」。そう言い放つ日本人ランナーが出現したとき、マラソン日本は復活するでしょう。そこから逆算して育成していくしかありません。もしかしたら「育成」という考え方自体が間違っているのかもしれませんが…。

厳しい言い方になりますが、世界陸上の標準記録も破れないトラックランナーが将来、一流のマラソンランナーになるとは思えません。「2時間7分台を目指す」公務員ランナーも、その公務員ランナーに負けてもクビにならない終身雇用で守られたぬるま湯ランナーも、彼らではもはやどうしようもない段階に世界のマラソンは突入しているのです。

皇居を走る大勢の市民ランナーの姿を見るまでもなく、空前のマラソンブームです。東京国際マラソン、東京国際女子マラソンといったエリートマラソンがなくなり、巨大市民マラソンに取って代わった時代の流れも、この地殻変動の一端です。

【かつて世界最高峰の女子マラソン大会だった東京国際女子マラソンは2003年が最後の大会となり、世界の潮流である男女混合の大規模マラソンに取って代わっていきました。市民ランナーが爆発的に増えた一方で、トップレベルの記録は低迷する…かつてのテニスと同じ現象がマラソンの世界でも起きています。】

日本よりも先行して世界中で健康ランニングブームです。ランニング市場は順調に拡大しており、シューズメーカー、ヘルスケアを始め関連産業はその恩恵を受け、豊富な資金を宣伝広告に費やし、大規模市民マラソンを支えています。

ヘルスケア・製薬大手のアボットがWMMの冠スポンサーについたのも、前述のナイキのプロジェクトも、こうした企業活動の代表的な例です。

大きなお金が動き、いろいろなステージ、レベルで賞金稼ぎが活躍するマラソンは、今や「陸上競技のマイナー種目」でも、トラック選手が敬遠する「実入りの少ない種目」でもありません。

「世界的にマイナー種目だから」「トラックの強豪がいないから」…かつて黄金期を築いた日本マラソンの思考は、全く通用しない過酷な時代を迎えているのです。

「2時間6分16秒を切ったら1億円」。そんなどでかいニンジンを目の前にぶら下げられても、誰一人としてかぶりつこうともしない。「日本人1位」と念仏のように唱えても、日本記録の更新は諦めてしまっている。根本的に世界と戦う気持ちを喪失したランナーたちが、非情な世界に生きる賞金稼ぎに勝てる道理がありません。

テニスも学校には部活があり、どこの町にもスクールがあり、市民マラソン同様に競技人口の多いスポーツですが、世界的なプレーヤーはほんのわずか、数えるほどしか生まれていません。

それでも、インターハイやインカレで優勝する、そんな国内で用意されたぬるい線路の上を走ることを拒否した錦織圭のような才能が歴史の扉をこじ開けました。

長距離も同じです。日本人が過剰に保護されたインターハイやインカレ、箱根駅伝を目標にしていては、到底、世界と戦えるわけもありません。世界と戦うには、それは時間的にも競技の質的にも全く無駄な遠回りです。世界の舞台に一旦立ってしまえば、外国人ライバルの出場を制限したり、順位をカウントしないなんて日本人を守ってくれる温室はありません。

川内優輝ではありませんが、本気で日本マラソンを世界の舞台に再登場させたいなら、抜本的な現状打破が必要です。というか、現状は一旦全て破壊するくらいの気持ちがなければならないでしょう。

例えば…実業団のシステムを廃止して、終身雇用ではなく2〜3年契約のプロ契約を結んでダイヤモンドリーグ、WMMを転戦させる。

例えば…国内大会では日本人保護ルールを全廃、箱根駅伝は関東の大学駅伝ではなく「天皇杯駅伝」の位置付けにして、全国の高校、大学、実業団ら駅伝チームが本戦出場枠を争う。

「国内の駅伝大会に出ずに、日本で馴染みのないダイヤモンドリーグに送り込んでも企業の宣伝にならない」「箱根駅伝を全国解放したら人気が下がる、関東学連が巨大な既得権益を失う」…現状破壊は自分たちの利益に固執する人々がリードしている陸上界では、普通に考えていては実現するわけがないアイデアです。

しかし、本気で「マラソン日本復活」を願うのなら、もはや普通に考えていてはどうにもならない悲惨な状況まで、マラソン日本は追い詰められてしまったのです。

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9月9日、井上尚弥が米国初上陸を果たす、HBO BOXING AFTER DARK、SUPERFLY まであと1ヶ月。

リング誌電子版で対戦相手のアントニオ・ニエベスが紹介されていたので、そのまま拙訳しちゃいます。

★★★ニエベスは、プロキャリアを通じて一貫したルーティンを守ってきた。起床したら早朝ロードワークに出かけ、帰宅したらすぐにPNC銀行に向かい住宅担保融資の銀行マンとしてフルタイムで働き、業務を終えたらストロングスタイル・ジムでプロボクサーとしての練習に励む。

プロボクサーと銀行マン。二つの顔を持つクリーブランド生まれの30歳は「みんなから大変なのによく出来るなと感心されるけど、ずっと続けていることだから苦にならないよ」と笑う。

しかし、キャリア最大の試合を控えてニエベスは銀行の仕事を休み、無敗の日本人に黒星をつけるべくボクシングに集中している。

HBOが全国生中継するBOXING AFTER DARKの興行、世界タイトルマッチの舞台に自分が選ばれたことに、ニエベスは驚きを隠せない。

「直近の試合(NABOバンタム級タイトルマッチ:ニコライ・ポタポフ戦)で負けているし、何よりジュニアバンタム級で戦った経験が一度もないしね。スーパーフライじゃないんだけど、スーパーフライって興行に出るんだから、驚きだよ」。

確かにニエベスはフェザー級でプロデビュー、最近はジュニア・フェザーかバンタムで戦っているが、ジュニアバンタムでリングに上がったことは一度もない。

井上の咬ませ犬扱いされていることについては「それだけ評価の高い相手と戦えるのはモチベーションが上がる。井上はほとんど見たことなかったけど、今回の試合が決まって調べてみると好きなように戦っているね。彼の思い通りにさせないこと、嫌がることをやることが作戦になる。こっちはジュニアフェザーやバンタム級で戦ってきたから、体格的には有利、体力で押し込んでラフな展開に持ち込みたい」。

長年、ニエベスのトレーナーをつとめてきたジョー・デルガイドは「速いし、パンチがあるのは認めるけど、対戦相手はやる気がないように見える。デビッド・カルモナなんかは勝つ気が無いじゃないか。今回はそうはいかない。井上は東京から出て戦ったことがない。彼が、東京以外の場所で同じように戦える保証はどこにもない」と、日本最高のボクサーにも付け入る隙があると考えている。

ニエベスが初めて格闘技に触れたのは、両親にマーシャルアーツの教室に連れられていった7歳のとき。次にキックボクシングを始めて、それからボクシングの道へ進んだ。両親のルーツ、プエルトリコの英雄、フェリックス・トリニダードに夢中になったニエベスは、次第にこのスポーツにのめり込んでいく。

ニエベスによるとアマチュアでは約90戦をこなし、クリーブランドのゴールデングローブ大会で5度優勝、2011年には全米ゴールデングローブで2位になりロンドン五輪出場にあと一歩まで迫った、とのこと。

デルガイドは「中学時代から野球部のスター選手で運動神経は抜群、勉強も出来る優等生だった。チャンセラー大学に進学したニエベスから『プロボクサーにななりたい』と相談を受けた時は、卒業が先だと止めたんだ。卒業式に参列した私を見つけたニエベスは『さあ、約束を守ってくれよ。今日から私はプロボクサーだ』と駆け寄ってきたんだよ」と呆れ顔で、ボクシングへの情熱の炎を絶やさなかったニエベスを回想している。

いきなり飛び込んできた世界タイトルマッチ。ここで勝てば、ニエベスが描く大きな目標を叶えることが出来る。

ニエベスが目指すのは、ストロングスタイル・ジムで「二人目の現役世界チャンピオンになる」ことだ。

一人は、スティーペ・ミオシッチ。UFCのヘビー級王者。ボクシングで五輪を目指していた二人は長年の大親友で、ニエベスもアマチュアながらMMAの試合経験があるという。「キックボクシングと聞いてたのにMMAの試合だったんだ。びっくりしたけど、もう出るしかないし、なんとか引き分けに持ち込めたよ」。

銀行マンとボクサー。二つの顔を持つ男に生涯最大のチャンスが、突然舞い込んできた。

ニエベスの仕事は顧客の資産を有効活用することだが、井上から番狂わせを起こせば彼自身の口座もまた、しっかり潤うことになるはずだ。★★★

…これまで一度も115ポンドの体重を作ったことがないニエベスにとって、減量をクリアするのも大きな課題ですね。減量で衰弱してしまうようなら、勝ち目はありません。

また、順調に115ポンドまで落とせても陣営が期待している「体格差で押す」ことは難しいでしょう。井上自体がリバウンド効果を最大限に発揮してパワーを解放するタイプなだけに、身長(井上164㎝/ニエベス163㎝)とリーチ(171㎝/174㎝)でも大差なく、体格での優位性はありません。

それどころか、ニエベスは前日計量から大きくリバウンドするタイプでないだけに、当日のリングでは井上の方が重い体重で上がることになりそうです。

初めての海外、というのも精神的には問題ないでしょう。ただ、リバウンドという点では、じっくり体重管理できた日本とは違うスケジュールで体重を落とすでしょうから、同じように増量して元気な肉体でリングに上がれるかどうか。

また、いつもと違う減量スケジュールだけに、ピーキングにも影響が出るかもしれません。

日本のリングに上がる井上尚弥のままで、9月9日のスタハブセンターに登場するのなら、何の問題もないでしょう。

しかし、思うようなリバウンド効果を上げられず、ピークも外してしまうようだと、もたついた試合になることも予想されます。

ストロングスタイル・ジムで技を磨き、あのミオシッチが同門で大親友というのも何だか不気味です。ミオシッチは、スケジュールさえ合えば大親友の応援にスタハブのリングサイドに駆けつけて、194㎝120㎏の巨体を揺さぶり大声援を送るでしょう(これも楽しみですね〜)。

しかし、最近はボクシングだけでなくMMAも含めた格闘技全般を練習するジムが増え、そこを拠点とするボクサーも増えました。フレディ・ローチやワシル・ロマチェンコらがボクシング技術をMMAに提供、スポーツの世界でボーダレス化、交流が進むのは悪いことじゃありません。

自国で戦うとはいえ、コンディション面で不安を抱えるのは、初めての115ポンド戦となるニエベスの方でしょうが、井上にはベストに仕上げてもらいたいですね。

井上勝利は間違いないでしょうが、全米デビュー戦です。メインイベントを喰うような圧倒的な戦いぶりを見せて欲しいですね。

米国では人気の低いジュニアバンタム級を中心に興行を打つ冒険的な試みだけに、視聴者数が心配ですが、BOXING AFTER DARKは100万人以上が視聴することもあります(古い話ですが2013年のマイキー・ガルシアvsファンマ・ロペスはピーク時130万人が視聴しました)。

ここは、一発!多くの米国のボクシングファンに、井上尚弥の頭抜けた強さを見せつけてやりましょう!

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日本時間8月27日、カリフォルニア州カーソン・スタハブセンター。WBO世界ジュニアミドル級タイトルマッチ。ミゲール・コットvs亀海喜寛。

いよいよ、その時が迫ってきました。

コットは、過去に日本人が戦ったどのボクサーよりもビッグネームです。

1960年代にはファイティング原田が当時のPFP1位、エデル・ジョフレを相手に2連勝を収めて世界のボクシングファンの度肝を抜きましたが、当時はヘビー級の時代、あのモハメド・アリを旗頭にソニー・リストンやフロイド・パターソンら最重量級のボクサーこそが世界のビッグネームでした。

世界的に人気の高い中量級の殿堂入りボクサーから世界戦で勝利を挙げたとなると、1992年にWBAジュニアウェルター級王者のエドウィン・ロサリオを1Rで粉砕した平仲明信の快挙が思い出されます。ロサリオはコットと同じプエルトリコ人で、メキシコのダニエル・サラゴザと共に、いわゆるボクシング大国ゆえのコネ殿堂入と揶揄されることもありますが、殿堂クラスかどうかはさておき、世界的な強豪王者であったことは間違いありません。

コットとロサリオ、時代が違うので単純比較は出来ませんが、評価・人気ともにコットが上です。両者ともにキャリア最大の大勝負(コットはマニー・パッキャオ、ロサリオはフリオ・セサール・チャベス)で惨敗を喫したという共通点がありますが、強豪とより多く戦い、より多くの勝利を積み上げたコットに軍配が上がります。

もちろん、ロサリオを叩きのめしたリングで、コットをも上回るビッグネーム、ドン・キングからも手を挙げられ惜しみない賞賛を受けた平仲の偉大さは、全く揺るぎませんが。

【1992年4月10日、メキシコシチーのエル・トレオ闘牛場で世界的なビッグネーム、エドゥイン・ロサリオをわずか92秒でストップ。日本ボクシング界は、井岡弘樹、鬼塚勝也、辰吉丈一郎と合わせて4人の世界王者を抱えることになり「ボクシング黄金時代到来」と盛り上がりました。たった4人程度で黄金期なら、常時10人前後がひしめく現在は何と表現すればいいのでしょうか。】

話を8月27日に戻します。

コットは36歳、戦績は40勝(33KO)5敗。亀海は34歳、27勝(24KO)3敗2分。

年齢的にはわずか2歳差、試合数はコットの方が多いものの、負け数が少なく、KO率も高い亀海の方が数字的な内容では上回っているようにも見えます。

もちろん、ボクシングは数字ではありません。しかも、相手は一発殿堂確実の伝説的なボクサーです。

ボクサーの評価は「誰に勝ったのか」で決まります。これに「誰と戦ったのか」を加えて、二人のキャリアを振り返ってみます。

まず「誰に勝ったのか」。

コットはケルソン・ピント(WBOジュニアウェルター)、ランドール・ベイリー(元WBA暫定ジュニア・ウェルター/未来のIBFジュニアウェルター/未来のIBFウェルター級)、デマーカス・コーリー(元WBOジュニア・ウェルター)、リカルド・トーレス(未来のWBOジュニア・ウェルター)、ポール・マリナッジ(未来のIBFジュニアウェルター/WBAウェルター)、カルロス・キンタナ(未来のWBOウェルター級)、ザブ・ジュダー(元IBF・WBOジュニアウェルター/元WBA・WBC・IBFウェルター級/未来のIBFジュニアウェルター級)、シェーン・モズリー(元IBFライト/元WBCウェルター/未来のWBA:スーパーのウェルター)、ユーリ・フォアマン(WBAジュニアミドル)、リカルド・マヨルガ(元WBA:スーパー・WBCウェルター/元WBCジュニアミドル)、セルヒオ・マルチネス(WBCミドル)、ダニエル・ギール(元IBFミドル)、12人の現役、元、未来の世界チャンピオンから勝利を収めています。

強豪の名前が連なっていますが、中でも全盛期のザブ・ジュダーとシェーン・モズリーというビッグネームから奪った星が輝いています。オッズは拮抗していたものの、スピードでは圧倒的に不利と思われたコットでしたが、ラウンドを重ねるごとにアジャストしていきました。ボクシング技術の土台がしっかりしているから、途轍も無いスピードを持っていた二人を苦にしなかったのでしょう。

一方で、敗れたのは全盛期のアントニオ・マルガリート、全盛期のマニー・パッキャオ、全盛期のオースティン・トラウト、晩年とはいえ難攻不落のフロイド・メイウェザー、全盛期のカネロ・アルバレスの5人です。有利と見られていたマルガリート、トラウトに負けたのは痛かったですが、カネロと戦ったのは完全にピークが過ぎたコット、パッキャオとメイウェザーに敗れたのは誰も責められません。

そして、我らが亀海ですが、元、未来を含めても今のところは世界王者から奪った勝利はありません。

亀海の最も大きな勝利は、昨年9月にヘスス・ソト・カラスを打撃戦の末に試合放棄に追い込んだ一戦です。アンドレ・ベルトから大番狂わせのTKO勝利をもぎ取ったこともあるソト・カラスですが、世界クラスのボクサーの格付け、◀︎強豪世界王者>世界王者>コンテンダー(実質的な世界ランカー)>ゲートキーパー・ジャーニーマン(その階級で世界を目指すなら倒さなければならない門番的存在)▶︎では、誰が見てもゲートキーパーでした。

過去形で書いたのは、激戦続きで劣化消耗した今のソト・カラスはゲートキーパーの実力も怪しいかもしれないからです。直近5戦は亀海と引き分けた以外は4戦全敗、完全に黄昏時を迎えたロートルです。



【ソト・カラスとの第1戦は惜しくもスプリット・ドロー。日本のボクシングマガジンは白黒1ページでレポートしましたが、リング誌はなんと巻頭「OPENING SHOTS」の見開きカラーで二人の激闘を讃えました。そして、いずれの写真も福田直樹によるもにです。いやはや、最高の絵を切り取りますね!】

そして、32戦のキャリアで最も実績のある相手はロバート・ゲレーロ。ソト・カラスが攻め落とす直前にベルトから大金星を挙げて、メイウェザー戦につなげた幸運なボクサーです。

もちろん、フェザー級からウェルターまで5階級に渡って世界のトップレベルで戦った実力者ですが、メイウェザーに完敗してからは亀海に勝った星を含めて2勝7敗、この7月15日にはオマール・フィゲロアにTKO負け、引退してしまいました。

冷静に両者のキャリアを振り返ってみると、亀海には100%勝ち目はありません。戦ってきた相手、舞台にあまりにも差があり過ぎます。

あと2試合で引退と言われるコットの調整試合、試し斬り。亀海は咬ませ犬です。海外メディアも試合が近づいても報道量が驚くほど少ないことは、完全なミスマッチと考えているからです。

しかし、どんなにミスマッチに見える試合でも大番狂わせの種は必ず蒔かれています。

実は亀海には全盛期のコットにも圧勝するくらいの実力が秘められており、それがこの試合で覚醒する…なんて事は絶対ありません。亀海は、引退前のエリートボクサーとのパンチの交換に一歩も引かず、落ち目のゲートキーパーと激闘を繰り広げるレベルのジャーニーマンです。

一方のコットは、過去の実績、過去の実力はとんでもないレベルの伝説です。しかし、最後にリングに上がった2015年11月のカネロ戦でも反射は明らかに衰え、フットワークも鈍っていました。そこから、さらに2年のブランクがあるのです。間違いなく、カネロ戦以下のコンディションしか作れないでしょう。

さらに、全盛期でもマルガリートやジョシュア・クロッティら体格で押してくる打たれ強いファイターは大の苦手にしていたコットが、体格とリーチで大きく上回り(亀海は身長175㎝/リーチ180㎝:コットは共に170㎝)、ゲレーロがその豊富なキャリアで「最強のアゴ」と認めるタフな亀海を簡単にさばけるとは思えません。

我慢比べの打撃戦に持ち込めば、先に音を上げるのはプエルトリコの伝説の方です。

もちろん、コットはその展開が最悪のシナリオであり、亀海が序盤から被弾覚悟で前進し、距離を潰してくることは十分警戒しているはずです。マルガリートやクロッティが中盤まで苦しめられ、パッキャオやメイウェザー相手でも引けを取らなかった左ジャブで亀海の接近を遮断してくるでしょう。

そして、これまで数多くの強豪を沈めてきた、あの小さな体からは信じられない重たい左右フックを叩き込む隙を狙ってくるに違いありません。

厄介なことに、ジャブを繰り出すハンドスピードは加齢による衰えが遅く、パワーパンチが衰えるのは一番最後です。コットの左ジャブで前進が止められ、攻撃を寸断され、強引に攻め込んだ隙を突かれて強烈な左右フックが叩き込まれる…亀海にとっての最悪のシナリオです。

亀海がコットの世界最高レベルの左ジャブを見切り、やはり世界トップレベルのフェイントにも引っかからずにビッグパンチをかわすことは、常識的に考えて不可能です。

パンチをもらうのは避けられません。そして少なくとも序盤は亀海のパンチは当たらないでしょう。それでも、我慢して、強烈なフックはまともには食わないことです。マルガリートがやったように肉を斬らせて骨を断つ戦い方しかありません。

ラウンドが進めば、コットの足は必ず鈍ります。マルガリート並み(と信じたい!)の鉄のアゴを持つ亀海が、体格差を生かして押し込んでいけば、錆び付いた伝説を必ず倒せます。

多くのメディアが、この一戦をコットの「tune up(調整)」「rust off(サビ落とし)」試合と見ていますが、その通りでしょう。加齢とブランクによってコットのボクシングは、tune upしなければいけないほどにあちこちに狂いや誤差が生じているのです。そして、この試合で落とさなければいけないサビもあちこちにこびりついているのです。

とはいえ、あれだけの偉大なボクサーです。序盤は、サビや不調を巧妙に隠してくるでしょう。それでも、サビや不調はタフな中盤に突入したら必ず噴き出してくるはずです。

村田諒太がミドル級でカネロやゲンナディ・ゴロフキンと拳を交える可能性もありますが、もし村田が頓挫してしまうようなことがあると(そんなこと考えたくないですが)、日本人がビッグネームと戦う、勝利を収めるなんていう贅沢な夢は、当分の間、見ることが出来ないでしょう。

亀海喜寛!頑張れ!ケッパレ!きばりゃんせ!

とにかく勝つんだ!ミゲール・コットに勝つんだ!!!

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