リッキー・ハットン。

アマチュアで73勝7敗。1996年にキューバ・ハバナで行われたジュニア世界選手権で銅メダル。アマチュア実績もなかなかのものでした。

それでも、マンチェスターのヒットマンを語るとき「叩き上げのプロ」のイメージが先行してしまうのは、イングランドのブルーカラーから圧倒的な支持を集めたworking class heroだったからかもしれません。

フリオ・セサール・チャベス、コンスタンチン・チューとリレーされた、とにかく強いジュニアウエルター級王者のトーチを守り続けたタフガイ。

2009年5月9日、そのLineal/The Ring magazine/IBOのジュニアウエルター級タイトルを、鬼神の勢いで人気階級を侵略してきたマニー・パッキャオに歴史に残る壮絶なKO負けで奪われてしまい、引退を宣言します。

パッキャオとは同い年の30歳。まだまだ老け込む年齢ではありませんでしたが、パブでビールを痛飲するのが大好きなマンチェスターの英雄は凄まじい激闘をかい潜ってきました。

あのとき引退していたら、殿堂入りがもっと早まっていたのは間違いありません。

そして、何よりも、その鮮烈なブルーカラーに彩られたキャリアで敗れたのは、全盛期のフロイド・メイウエザーJr.とパッキャオに真っ向から勝負を挑んでの玉砕だけ。これは、もはや胸を張っても良い二つの黒星でした。

しかし…本人にとってはパッキャオに喫した失神KO負けは深いトラウマとなり、ドラッグとアルコールに溺れた3年のブランクを経て、リングに舞い戻ってしまうのです。




One Ricky Hatton
Walkin along
Singing this song
Walkin in a Hatton Wonderland

There's only one Ricky Hatton,one Ricky Hatton
Walkin Along
Singing this song
Hatton's gonna whip Floyd's punk ass

There's only one Ricky Hatton,one Ricky Hatton
Walkin along
Singing this song
Hatton's gonna KO Floyd with a bodyshot on Dec.8



「リングの上ではハットンだが、リングを降りるとビールをたらふく飲んでファットンになるのさ」。

ワーキング・ヒーローはいつも豪快で子供達にも人気がありました。

メイウエザーとパッキャオと戦ったメガファイト、この2試合ともMGMグランドガーデンアリーナに英国から約5000人のファンが詰めかけた光景に、私は「わかってたけど、ここまで人気があるのか」と驚きました。

Saying there were so many that the MGM Grand once ran out of beer -- just the way they supported him at home.

(メイウエザー戦で)ハットンの応援団があまりにもビールを飲むもんだから、アリーナに用意されたビールが全部売り切れてしまったーーハットンの応援団は英国でやるのと同じやり方で自分たちのヒーローに大声援を送ったのでした。

メイウエザー戦の反省を生かして、パッキャオ戦ではアリーナのパントリーだけでなく他のキッチンや冷蔵庫も使って十分なビールを用意したと言いますが、それでも想定を上回る飲みっぷりで試合開始時には「また売り切れる」と担当者は覚悟しましたが「試合が2ラウンドで終わってくれたから、なんとかサービス出来た」。

そして、ハットンといえばなんといってもサッカースタジアムにいるかのような、あの応援歌。

マンチェスターからパッキャオ戦に駆けつけたという中年男性は「俺たちのヒーローが圧倒的不利の予想を立てられて世界最高のボクサーに挑むんだぞ。(英国で)テレビでなんか見てられるか!」と、ハットンの応援歌を歌うのでした。

パッキャオやメイウェザーがロンドンやマンチェスターで試合をしても、観客席をあそこまで熱くさせることは出来ません。

壇上に上がってハットンが語ったスピーチもまた、これぞハットンでした。

「俺は激闘ばかりを繰り広げてきた、そうだろう?」

「チューとの試合は大番狂せと言われたが、俺としたら予定通り。予定が狂ったのは3試合だけ。メイウエザーとパッキャオ、そして一番辛かったのは離婚だったな」。

そして、ファンへの感謝も忘れていません。

「ファンはみんな俺から勇気をもらったと、感謝してくれる。でも、俺が勇気を振り絞って戦い続けることが出来たのは、ファンがいたからだ。あれだけ大声援を送られたら、勇敢に戦い抜くしかない。俺は世界一、幸せなファイターだ」。

そして、ハットンの記念プレートが彼の生涯のアイドル、ロベルト・デュランの二つ隣に飾られることになると知らされると…おしゃべりな酔っ払いは言葉を失ってしまうのでした。