辰吉丈一郎は実際にラスベガスで大きなイベントを開催したにもかかわらず「ラスベガスでメガファイト」を夢見ることはありませんでした。

大きなイベントといっても、大阪城ホールでやる方がはるかに大きな商売になるのに、渋々海外で戦わざるを得なかったのは網膜裂孔によってライセンスが発行されなかったことも原因でした。
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辰吉がメインでリングに上がったミラージュ。

ところが、21世紀になると長谷川穂積や西岡利晃、井上尚弥らは「ラスベガスでビッグファイト」と、ありもしない幻覚を語るようになります。

彼らは、野球で野茂英雄やイチロー、松坂大輔ら、サッカーでは中田英寿ら国内で傑出した才能が続々と本場に舞台を移して、日本にいては考えられない高額の報酬を得て、日本では集めることのできなかった種類の注目と尊敬に浴するのを見て「よし、ボクシングだって!」と、浅はかで虚しい野望を抱いてしまったのです。

残念ながら、バンタム級やジュニアフェザー級に、そんな舞台は、ありません。

井上は「(MGMグランドガーデン・アリーナでメインを張るには)最低でもフェザー、フェザーまで行けば風景が変わる」と夢見ました。

しかし、現実にはフェザーでも莫大なオイルマネーのサポートや、メキシコのスーパースターとの絡みなど、いくつもの奇跡が重ならないと、あり得ません。

それでも、ボクシングファンがため息をつくウェルター級やミドル級、ヘビー級など人気階級で繰り広げられるメガファイトとは比べようもない規模の興行です。

2019年11月、ノニト・ドネアに勝利してトップランクと契約した井上は、ラスベガスに進出しますがそこで悲しい現実を知ることになります。

思い通りの鮮やかな勝利を重ねながらも、米国メディアの取り上げ方は小さく、トップランクと堅固な提携関係にあるESPNからは「井上は無名」と揶揄される始末。

日本史上最大の戦いとなった、ミドル級の「村田諒太vsゲンナジー・ゴロフキン」も、日本開催だからあそこまでの興行になりました。

もちろん、世界的に人気の高いミドル級でゴロフキンはけして人気があるとはいえず、その商品価値は「カネロ・アルバレスのライバル」という一点で支えられています。

もし、村田が五輪金メダリストの恩恵を受けずに、ミドル級の強豪を撃破して、カネロ戦となれば、おそらく舞台はラスベガスのT-Mobileアリーナか、テキサス州の巨大スタジアムになっていたでしょう。

米国で需要の低いバンタム級の井上の場合は、どんな僥倖が重なっても、そんなことは起きません。

具体的に名前は出さなかったものの、井岡一翔との対戦を希望したり、那須川天心vs武尊の東京ドーム興行に羨望したのは、憧れていたビッグファイトがラスベガスには存在せず、日本に可能性があることに気づいたからでしょう。

プラットフォームをネット配信に絞っているのは残念ですが、向かおうとしているベクトルは正しいと思います。

米国ではPPV興行は論外、大会場のメインを張ることも一度もなかったドネアですが、日本では2万人を超える箱が用意されるのです。

もし、井上vsドネアをラスベガスでやったらMGMグランドのボールルームが適正会場でしょう。チケット価格も格安になります。

しかも、トップランクにマネジメント料、ESPNに放映権料を取られ、まさにこれぞカモネギ。

馬鹿みたいにラスベガスに憧れるのは、そろそろやめましょう。