「怪物に敗れた男たち〜モンスター井上尚弥が変えた人生〜」(BSトゥエルビ)を2日遅れで見ました。

オマール・ナルバエス戦を「圧倒的不利の予想だった」と大嘘をつくなど、この手の番組ならではの虚飾も盛り込まれていましたが、まーそれは置いておいて。

佐野友樹と田口良一。井上尚弥に敗れたにもかかわらず、全く後悔していない、それどころか戦ったことを誇りに、彼らがボクサー人生を全うした物語でした。

世界的には無名時代のマニー・パッキャオと戦った寺尾新や千里馬哲虎の「後から思えば武勇伝」と、佐野と田口のケースは全く違います。

2人は「井上尚弥が何者であるか」をよく理解して、モンスターとの戦いに挑んだのです。

彼らの言葉から響いてくるのは、井上への尊敬だけでなく、ボクシングへの未練が全くないという、このスポーツでは極めて特別な清々しい音色でした。
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どうして、こんな話を書いているのかというと元WBAミドル級王者フェリックス・シュトゥルムが、週末の土曜日、ドイツ・ドルトムントでイシュトヴァン・シリと対戦するというニュースを耳にしたからです。

43歳のシュトルムは2016年6月のWBAスーパーミドル級タイトルマッチで判定やグローブ疑惑のスキャンダルにまみれてリングから遠ざかり、4年以上のブランクから2020年12月にカムバック。これが復帰3戦目になります。

シュトルムの復帰の理由には、スキャンダルのほとぼりが冷めて未納の税金支払いの必要があったこと、ドイツのボクシング界が停滞していること、などが挙げられています。

ただ、他にも「何か」がないと、こんな過酷なスポーツに43歳で舞い戻るなんて考えられません。

シュトルムはドイツのスターですが、ボクシングファンの中ではチキンでも知れ渡っています。

プロモーターが同じゲンナディ・ゴロフキンとの対戦はもちろん、スパーリングすら1度やってからその後一切応じなかった事実が「ファン・マルケス・マルケスからあからさまに逃亡したナジーム・ハメド」と並んで嘲笑されているのです。

ビッグファイトになるメキシカンを避けたハメドの究極のチキンっぷりと比べると、シュトルムは「カザフスタン人と仲良くする商業的なメリットはない」という大義名分がありましたが、スパーリングで圧倒されたトラウマから逃げ出したのは間違いありません。

田口良一の場合は、井上尚弥とのスペーリングで〝惨敗〟 。井上を避けては前に進めないことを痛感して、モンスターの姿を睨みつけ、追い続けました。

一方の、シュトルムは、ゴロフキンとの凄惨なスパーリングをきっかけに、このカザフスタン人に対して耳を塞ぎ目を瞑りました。 

ミドル級とスーパーミドル級で5度アルファベットタイトルを獲得しているシュトルムは「6つ目の世界タイトルが欲しい」とモチベーションを語っています。

もちろん、それもあるでしょう。しかし、あらゆるカムバックがそうであるように、彼も忘れ物を取り戻す旅に出てしまったのです。
 



Having achieved what he has, most fighters would have walked off into the sunset to enjoy the fruits of their labor.

彼は引退後の生活を十分に楽しめるだけの、未練を残すことのない業績を残した。


確かに、表向きの業績だけを見ると佐野はもちろん、田口をも凌駕する業績です。

しかし、そのシュトルムを「自分のキャリアには後悔もある」と言わしめてしまう、佐野や田口には微塵もないリングへの未練の正体は何だったのでしょうか?