ビッグファイト、クラシック(大勝負)の定義とは?
誰もが文句無しのビッグファイトというなら、桁外れの興行規模となった2015年の「フロイド・メイウェザーvsマニー・パッキャオ」が思い浮かびます。
野球なら大谷翔平がリアル二刀流でワールドシリーズ進出を賭けたニューヨーク・ヤンキースとの決戦のマウンドに上がり、打席に立つ…。
ボクシングなら、村田諒太がカネロ・アルバレスのスーパーミドル級完全統一王座に挑む…。
そんな興行規模の数字や米国の関心の高さだけて〝ビッグファイト〟の目盛りを決めるとしたら、そんな「単純な話」はありません。
日本のボクシングファンは、具志堅用高の左ストレートに酔い、辰吉丈一郎の復活祭に感涙し、井上尚弥のジャブクロスに喝采を送ってきたのです。
2010年4月30日、日本武道館。WBCの長谷川穂積vsWBOのフェルナンド・モンティエル。
もし「単純な話」だけで語るなら、この日の武道館と2019年12月5日のさいたまスーパーアリーナは、日本のエースが事実上の二団体統一戦、対立王者(長谷川は勝ってもWBOは獲得できない契約/このとき井上のWBAはセカンドタイトル)に圧倒的有利予想の風を受けて挑んだ、という点で同格でした。
もちろん、最も大切な結果、勝敗を考えると「さいたま」の方がより大きな意味を持っています。
しかし「日本ボクシングの興廃、この一戦にあり」という緊張感は、あの日の日本武道館にこそ強烈に張り付いていました。
この10年間で日本のボクシング観戦は非常に内輪な性格を色濃くしていきました。
幟を立てて盲目的に教祖様を〝信仰する〟。教祖様以外の選手を受け付けない。
ひどいケースではチケットを買ったのに教祖の試合しか見ない、なんてことも普通にあります。
30年前の後楽園ホールは煙草が煙り、前座から席に着いたおっさんのヤジがメインまで響く、やさぐれたボクシングファンの空間でした。
亀田兄弟や井上兄弟の応援団とは違い、おっさんは特定の選手の幟を立てません。というか、奴らはそもそも幟なんて持ってません。

私の場合、結婚したり子供が出来たり、勤務先が東京を離れたりする中で、後楽園ホールから足が遠のいたと思っていました。
しかし、ボクマガなどで〝後楽園ホールの排他的な内輪ウケ〟を嘆く記事をいくつか読むうちに、この雰囲気に嫌気がさした部分もあるのかもしれないなと思うようになりました。
長谷川の時代も、その芽はすでに息吹いていましたが、いまはそれがフェイクニュースを肥やしにして醜い毒花に育った感じです。
ダミ声のおっさんがヤジを飛ばす昔のホールは排他的でなく健全だったのか?と質されると、答えに窮してしまいますが、これも時代なんでしょう。


このビッグファイトの舞台も日本武道館でした。
武道館を凍てつかせた緊張の末の「審判ま」には、〝自腹アナ〟に代表される「世界中が注目するメガファイト」と喧伝する欺瞞も渦巻いていましたが、9ヶ月と19日後にラスベガスで下されたもう一つの「審判」では一切の欺瞞や虚飾を拝した軽量級の哀しい実態を剥き出しにした現実を目の当たりにすることになります。
さて、2010年4月30日の「審判の日」。
まずは、当時のバンタム級シーンを振り返ります。
WBCは長谷川、WBOはモンティエル。
そして、WBAはアンセルモ・モレノが粛々と存在感を高めていた時期です。
WBAバンタムは2010年12月から3年間、亀田興毅がセカンドタイトルを保持しますが、これは世界の中心地図とは全く関係のない、辺境での出来事でした。このお話のテーマから大きく逸脱する事象なので、無視して差し支えありません。
そして、もう一つのピース、IBFで非常に興味深い動きがあったのもこの頃でした。プレミアムケーブルSHOWTIMEが仕掛けたSuper4、バンタム級トーナメントです。

スーパーミドル級で展開したSuper Six World Boxing Classic の極小版がSuper4でしたが、誰が優勝するかがわからなかったスーパー6とは違い、バンタム4は、ゴールデン・ボーイ・プロモーションズ(GBP)とSHOWTIMEが仕組んだ出来レースでした。
バンタム4は、ビック・ダルチニアン、ジョゼフ・アグベコ、ヨニー・ペレスというバンタム級抜きにしても地味な3人に、スター候補のアブネル・マレスで争われます。
Winner Takes All〜勝者が全てを手に入れる、敗者は全てを失う。
バンタム4の正体は、Mares Takes All でした。
バンタム転向を表明していたノニト・ドネアに長谷川にもSHOWTIMEから招待状が届きましたが、2人はあまりにも劣悪な報酬に呆れ果て参戦を見送ります。
1試合3000万円以上を稼ぎ出していた長谷川はともかく、ドネアはPFP10傑には名前を連ねていたものの、報酬は10万ドル前後の不人気選手。
長谷川だけでなく、人気のないドネアまでが参戦を拒否したのですから、契約書に記されていた報酬が背筋も凍る恐ろしい数字だったことは間違いありません。
アルメニアのダルチニアン、ガーナのアグベコ、コロンビアのヨニー・ペレスはドネアに輪をかけて人気がありませんでしたから、世界王者でもその報酬は2万ドル前後。
モンティエルが2階級制覇したときは1万5000ドルでしたから、メキシカンの衣を羽織ってた彼が本当は一番悲惨だったかもしれません。
「マレスを倒して有名になりたい」(アグベコ)という動機は、自然なことでした。
逆に言うとSHOWTIMEは、嘘で塗り固めたWBSSとは違い、バンタム級の現実と正直に向き合っていたのです。
「GBPからは生え抜きの世界王者は生まれない」。
そのジンクスを初めて打ち破ったのが、ハンサムなメキシコ系、マレスでした。
2010年当時は、今以上に承認団体間の確執が深く、統一戦にはいくつもの障害が横たわっていたこともあり、バンタム級の動きもバラバラ。
実力的には無冠ながらドネアが最強、長谷川がその対抗馬(たりうるかどうかがモンティエル戦でテストされる)、そして不気味な存在の〝ゴースト〟モレノ、という構図でした。
そして、人気で長谷川に匹敵する亀田興毅とマレスは、ドネアと長谷川、モレノの最強決戦には近寄らないであろうことは、多くのファンにもわかっていました。
GBPとしても将来、フェザー級で100万ドルファイターになるマレスを米国で全く人気のないドネアやモレノ、〝未知の強豪〟長谷川との危険な勝負に晒すことは出来ません。
大勝負はレオ・サンタクルスのような、ハイリターンを伴う相手でなければならないのです。
話が脇道に逸れました。
2010年4月30日、日本武道館。
長谷川穂積vsフェルナンド・モンティエル。
試合前から両者は舌戦を繰り広げ、長谷川が小さいモンティエルをバカにしたTシャツを作ると、モンティエルも「自分の家から出ない引きこもり王者」と応酬。
そして、これぞ「国際試合」という緊迫感の中でゴングが打ち鳴らされます。
その張り詰めた空気と不釣り合いだったのは、3-1~4-1というオッズと、楽観的な専門家が語る「長谷川の圧勝」という予想だけでした。
モンティエルは衆目一致で階級最弱王者と見られ、世界王者にもかかわらずリング誌バンタム級9位という王者でなければ10位にも数えられないファイターでした。
メキシカンで無敗で2階級制覇してもファイトマネー1万5000ドル、王者なのにリング誌9位というのは悲劇を通り越してもはや喜劇です。
その、モンティエルと拳を交えた長谷川がコーナーに戻って口にした言葉をマイクが拾いました。
「過去最強や」。
実質世界9位以下を相手にした、その言葉に、この試合でどんな審判が下されるのか…多くのファンの喉元に嫌な予感が込み上げて来ました。
誰もが文句無しのビッグファイトというなら、桁外れの興行規模となった2015年の「フロイド・メイウェザーvsマニー・パッキャオ」が思い浮かびます。
野球なら大谷翔平がリアル二刀流でワールドシリーズ進出を賭けたニューヨーク・ヤンキースとの決戦のマウンドに上がり、打席に立つ…。
ボクシングなら、村田諒太がカネロ・アルバレスのスーパーミドル級完全統一王座に挑む…。
そんな興行規模の数字や米国の関心の高さだけて〝ビッグファイト〟の目盛りを決めるとしたら、そんな「単純な話」はありません。
日本のボクシングファンは、具志堅用高の左ストレートに酔い、辰吉丈一郎の復活祭に感涙し、井上尚弥のジャブクロスに喝采を送ってきたのです。
2010年4月30日、日本武道館。WBCの長谷川穂積vsWBOのフェルナンド・モンティエル。
もし「単純な話」だけで語るなら、この日の武道館と2019年12月5日のさいたまスーパーアリーナは、日本のエースが事実上の二団体統一戦、対立王者(長谷川は勝ってもWBOは獲得できない契約/このとき井上のWBAはセカンドタイトル)に圧倒的有利予想の風を受けて挑んだ、という点で同格でした。
もちろん、最も大切な結果、勝敗を考えると「さいたま」の方がより大きな意味を持っています。
しかし「日本ボクシングの興廃、この一戦にあり」という緊張感は、あの日の日本武道館にこそ強烈に張り付いていました。
この10年間で日本のボクシング観戦は非常に内輪な性格を色濃くしていきました。
幟を立てて盲目的に教祖様を〝信仰する〟。教祖様以外の選手を受け付けない。
ひどいケースではチケットを買ったのに教祖の試合しか見ない、なんてことも普通にあります。
30年前の後楽園ホールは煙草が煙り、前座から席に着いたおっさんのヤジがメインまで響く、やさぐれたボクシングファンの空間でした。
亀田兄弟や井上兄弟の応援団とは違い、おっさんは特定の選手の幟を立てません。というか、奴らはそもそも幟なんて持ってません。

私の場合、結婚したり子供が出来たり、勤務先が東京を離れたりする中で、後楽園ホールから足が遠のいたと思っていました。
しかし、ボクマガなどで〝後楽園ホールの排他的な内輪ウケ〟を嘆く記事をいくつか読むうちに、この雰囲気に嫌気がさした部分もあるのかもしれないなと思うようになりました。
長谷川の時代も、その芽はすでに息吹いていましたが、いまはそれがフェイクニュースを肥やしにして醜い毒花に育った感じです。
ダミ声のおっさんがヤジを飛ばす昔のホールは排他的でなく健全だったのか?と質されると、答えに窮してしまいますが、これも時代なんでしょう。


このビッグファイトの舞台も日本武道館でした。
武道館を凍てつかせた緊張の末の「審判ま」には、〝自腹アナ〟に代表される「世界中が注目するメガファイト」と喧伝する欺瞞も渦巻いていましたが、9ヶ月と19日後にラスベガスで下されたもう一つの「審判」では一切の欺瞞や虚飾を拝した軽量級の哀しい実態を剥き出しにした現実を目の当たりにすることになります。
さて、2010年4月30日の「審判の日」。
まずは、当時のバンタム級シーンを振り返ります。
WBCは長谷川、WBOはモンティエル。
そして、WBAはアンセルモ・モレノが粛々と存在感を高めていた時期です。
WBAバンタムは2010年12月から3年間、亀田興毅がセカンドタイトルを保持しますが、これは世界の中心地図とは全く関係のない、辺境での出来事でした。このお話のテーマから大きく逸脱する事象なので、無視して差し支えありません。
そして、もう一つのピース、IBFで非常に興味深い動きがあったのもこの頃でした。プレミアムケーブルSHOWTIMEが仕掛けたSuper4、バンタム級トーナメントです。

スーパーミドル級で展開したSuper Six World Boxing Classic の極小版がSuper4でしたが、誰が優勝するかがわからなかったスーパー6とは違い、バンタム4は、ゴールデン・ボーイ・プロモーションズ(GBP)とSHOWTIMEが仕組んだ出来レースでした。
バンタム4は、ビック・ダルチニアン、ジョゼフ・アグベコ、ヨニー・ペレスというバンタム級抜きにしても地味な3人に、スター候補のアブネル・マレスで争われます。
Winner Takes All〜勝者が全てを手に入れる、敗者は全てを失う。
バンタム4の正体は、Mares Takes All でした。
バンタム転向を表明していたノニト・ドネアに長谷川にもSHOWTIMEから招待状が届きましたが、2人はあまりにも劣悪な報酬に呆れ果て参戦を見送ります。
1試合3000万円以上を稼ぎ出していた長谷川はともかく、ドネアはPFP10傑には名前を連ねていたものの、報酬は10万ドル前後の不人気選手。
長谷川だけでなく、人気のないドネアまでが参戦を拒否したのですから、契約書に記されていた報酬が背筋も凍る恐ろしい数字だったことは間違いありません。
アルメニアのダルチニアン、ガーナのアグベコ、コロンビアのヨニー・ペレスはドネアに輪をかけて人気がありませんでしたから、世界王者でもその報酬は2万ドル前後。
モンティエルが2階級制覇したときは1万5000ドルでしたから、メキシカンの衣を羽織ってた彼が本当は一番悲惨だったかもしれません。
「マレスを倒して有名になりたい」(アグベコ)という動機は、自然なことでした。
逆に言うとSHOWTIMEは、嘘で塗り固めたWBSSとは違い、バンタム級の現実と正直に向き合っていたのです。
「GBPからは生え抜きの世界王者は生まれない」。
そのジンクスを初めて打ち破ったのが、ハンサムなメキシコ系、マレスでした。
2010年当時は、今以上に承認団体間の確執が深く、統一戦にはいくつもの障害が横たわっていたこともあり、バンタム級の動きもバラバラ。
実力的には無冠ながらドネアが最強、長谷川がその対抗馬(たりうるかどうかがモンティエル戦でテストされる)、そして不気味な存在の〝ゴースト〟モレノ、という構図でした。
そして、人気で長谷川に匹敵する亀田興毅とマレスは、ドネアと長谷川、モレノの最強決戦には近寄らないであろうことは、多くのファンにもわかっていました。
GBPとしても将来、フェザー級で100万ドルファイターになるマレスを米国で全く人気のないドネアやモレノ、〝未知の強豪〟長谷川との危険な勝負に晒すことは出来ません。
大勝負はレオ・サンタクルスのような、ハイリターンを伴う相手でなければならないのです。
話が脇道に逸れました。
2010年4月30日、日本武道館。
長谷川穂積vsフェルナンド・モンティエル。
試合前から両者は舌戦を繰り広げ、長谷川が小さいモンティエルをバカにしたTシャツを作ると、モンティエルも「自分の家から出ない引きこもり王者」と応酬。
そして、これぞ「国際試合」という緊迫感の中でゴングが打ち鳴らされます。
その張り詰めた空気と不釣り合いだったのは、3-1~4-1というオッズと、楽観的な専門家が語る「長谷川の圧勝」という予想だけでした。
モンティエルは衆目一致で階級最弱王者と見られ、世界王者にもかかわらずリング誌バンタム級9位という王者でなければ10位にも数えられないファイターでした。
メキシカンで無敗で2階級制覇してもファイトマネー1万5000ドル、王者なのにリング誌9位というのは悲劇を通り越してもはや喜劇です。
その、モンティエルと拳を交えた長谷川がコーナーに戻って口にした言葉をマイクが拾いました。
「過去最強や」。
実質世界9位以下を相手にした、その言葉に、この試合でどんな審判が下されるのか…多くのファンの喉元に嫌な予感が込み上げて来ました。
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