IMG_5127
IMG_5128

会社の営業系部署に三浦君っていう30過ぎのお兄ちゃんがいます。

一緒にお仕事することはほとんど無いのですが、採用面接で私が「絶対合格にしましょう」と推したことから、社内では私が彼のことを結構気に入ってると思われています。

野球少年で「甲子園出場、六大学でも活躍」と、私にとってコイツを上回る殺し文句は「2代前の日本フライ級王者です」とかのレベルでしたから、即合格。

「うちはなんの会社なんだ?!」「うちの採用試験はドラフトか?」という役員・上司の悲鳴なんて一切気にしません。

そんな彼が先日、出勤日ということで海外からの受け取り荷物を確認しなければならない仕事がありました。

もちろん、その仕事と全く関係のない私に声かける必要はありません。

それでも「久しぶりに昼飯でもどうですか?」と内線して来たので、ちょっと高めな居酒屋の「ノドグロ弁当」を買ってあげました。

食後もちょっと話し込んで、彼がトイレかなんかで席を外したときに置いていった会社携帯が鳴ったので、代わりに出たんです。

管理部の男性の声。「あ、タイシ?どう?大丈夫?連絡ないから心配で」。

私が「〇〇(私のこと)だけど、三浦君、ちょっと席外してるけど、折り返す?なんか伝言しとく?」と言うと、電話越しにも動揺した雰囲気が伝わってきました。

管理部「〇〇さんでしたか!失礼しました!お勤めご苦労様です!」

私「お勤めご苦労様って、懲役食らったヤクザか!まー、7時ラストオーダーの街でホテル暮らしはそれに近いけどなー」。

なんて普通に会話して電話は切ったのですが「タイシ」というのが耳に残って、三浦君が戻ると電話があったことと「お前、タイシって呼ばれてるの?」と聞くと、いつも落ち着いている三浦君まで急に動揺しだすのです。

「え?な、な、な、なんでそんなこと知ってるんですか?」という三浦君に「な、な、な、な、なんでそんなにドモッてうろたえてるん?」と笑いかけると、ちょっと神妙になって「僕、〇〇さんに確認事項をお伝えすることときどき頼まれるんですが、それに引っ掛けてタイシ=大使って呼ばれてるんです」と説明してくれました。

なんだか理解できない私は「確認事項?部署も仕事も違うのにそんなんないやろ?」。

三浦君「それがあるんです。役員とか管理部が直接言いにくいことを〇〇さんに伝える大使なんです」。

私「はあ?今日もその大使として?その伝達はこれから?」

三浦君「いいえ、もう終わりました」

私「意味がわからん」

三浦君「帝国ホテル36万円の件です」

私「???????」 

確かに弁当食べながら「帝国ホテルが一部の客室をアパートメントとして月貸しを始めた」という世間話はしました。

。。。。。段々とわかってきました。

私の宿泊してるこのホテルも一月契約で借りてるのですが、もちろん帝国ホテルよりはグレードが落ちます。

「〇〇さんの仕事が増えて申し訳ない。アシスタントなしでいくつも案件を抱えてるので、いま感染したら引き継ぎがいない。通勤ラッシュの電車は避けて欲しい」と、ホテル住まいを提案されたのが昨年。

「銀座や有楽町で遅くまで飲めるし、悪くないでしょ?」という戯言には「8時で店閉まるのにそんな訳ないだろ」と言いつつも、会社の考えも理解できたので、受け入れました。

そういえば管理部の説明では「まともに宿泊すると1ヶ月200万とか300万とか400万とかしますが、こういう時勢ですから会社としては最高のお部屋を用意しました」と、金額レンジが2倍に膨らむ例えにイラッとしましたが「横になって寝れたらいいです」と答えました。

そして、数日前に一般紙で「帝国ホテル36万円」の記事が大きく躍り、私が「ここは絶対、もっと安い。安いのはいいけど400万とか口走った性根が気に食わん!」と怒り狂ってるのではないか,と管理部が心配して、偵察ともし怒ってたなら、火消し役に〝大使〟を派遣した、という算段でした。

折しも、複数の国会議員が銀座で深夜豪遊も報道され、私が「松本人志じゃないけど切腹もの」と怒ってホテル暮らしにストレスを溜め込んでることも人づてで伝わったようです。

 

ああ、そういえば昨年、私の手伝いをしてくれてたアシスタントの大学生の契約期間をコロナを理由に短縮したことがあったのですが、それも事後報告というか大学生から聞いて初めて知る、という理不尽なことがあり、人事部に怒りの電話をかけるとなぜか三浦君が説明に来たことがありました。

そのときは営業関係の別件を頼まれて「ついで」のオブラートにくるまれていたのですが〝本題〟は大学生の件を相談・報告しなかったこと怒りを〝大使〟に鎮めてもらおうとしたようです。

このご時世で、契約期間を短縮するなとか言いません。相談も要りません。決めてもらって構いません。私にそこまで権限ありません。

でも、そういうのって、まず私に伝えて、私からその大学生に説明するのが筋だということです。

今回の「帝国ホテル」だってどうでもいいし、200万とか400万とかあとで調べたら簡単にバレる嘘つくのが嫌なだけで、月2万の宿でも構わないんです。

そういえば、三浦君は「帝国ホテルの36万は一番狭い部屋の値段で、ここは一応スイートですし、こっちの方が絶対快適ですね」とやけに説明口調でした。

そんなすぐ怒る人間じゃないというか、そもそも怒ったことなんてその大学生の契約のときくらいのはずですが、いつの間にか知らないうちに会社の中で腫れ物扱いされていました。

まあ、それでも三浦君を〝大使〟にしたアイデアは奴らにしては鋭い。

ただし、奴らは「甲子園」と「六大学」の野球キーワードで私が気に入ってると思ってますが、それだけではありません。

この三浦君、私なんかと違って人間の器がデカいんです。

数年前に彼の同期も交えてお酒飲んだときのこと、三次会あたりで、同じ座席にいたタチのわるそうなグループに絡まれたことがありました。

こんな年になっで乱闘してボコボコにされて怪我して入院とか…いやーな予感に震えながら、三浦君たちに「お前らは先に店を出とけ」と言ったのに、出て行かないし、タチ悪グループは大声で凄んでくるし、店の人が警察に電話してくれてますように!警察が早く来てくれますように!と祈っていました。

そしたら、三浦君がすっと土下座して謝り始めたんです。

「すみませんでした!申し訳なございませんでした!お許しください!」って店中に響くような大声で何度も何度も頭を畳に擦り付けて。

相手のバカ一人が三浦君の頭を蹴りつけましたが、他のメンバーは止めて、私たちに「シラける奴らやなあ!」とか罵声浴びせたところで、やっと警察が入ってきました。

タチ悪グループは途端にオドオドしましたが、三浦君が警察にも「すみません、電話して呼んだの、僕です。何もないんです。ごめんなさい」と警察を帰したんです。

静まり返った店内にも「お騒がせして申し訳ありませんでした。もう静かにしますので、引き継ぎ楽しくお酒飲んで下さい」と大声で謝って。

タチ悪と警察とお店、美しいまでの三方平謝りです。 

酒場でトラブルになった経験は後にも先にもこれが初めて。それでも、中高時代は酒なしでそんなスリリングなシーンが珍しくありませんでしたが、大抵は「逃げる」という最大のオプションがある屋外でした。

しかし、居酒屋の奥座敷です。「逃げれないなら助けや警察が来るまで戦う」という野生動物と同じ思考しか私には出来なかったのですが、三浦君はスマートすぎるやり方で完璧に切り抜けたのです。


騒ぎが収まって店を出たとき「大丈夫?」と心配する同期に彼は「怖くて死にそうだった、あの人たちも許してくれて良かった」と泣きそうな声を絞り出すのです。

私は「今日は不愉快な感じになってごめんな、ここでお開き、別の日に飲み直そう」と解散させましたが、三浦君にはもう一軒だけ付き合わせました。

私「ありがとうな、お前がいなかったら今頃血まみれで救急車の中やった」。

三浦君「僕も血まみれにされてましたよ、いい人たちで良かったです」。

私「とぼけたヤツやなあ。こんなん、慣れっこなんか?」

三浦君「こんな恐ろしい思い、慣れたくないですよ。僕、ずっと進学校で野球でも目立ってたから、絡まれることは何回かありましたけど」。

私「そうか、ケンカしたら甲子園も進学もおじゃんやもんな。三浦はすごく立派だった。俺、感動したよ」。

三浦君「弱いからケンカなんてできないです。真面目な話、あの人たちが本気で悪い人なら無事じゃ済まなかったかもしれません、何持ってるかわからないし」。

私「そうやな。本当に勉強になった。俺にもあんな謝り方出来るかな…」。

三浦君「出来ますよ。一緒にいたのが奥さんと娘さんだったら、そうしてたはずです」。

私「待て、待て、俺、お前らも大切やで」。

三浦君「でも、僕に店出ろって言ったとき、僕らを逃がして何しようとしてました?」。

私「土下座して謝ろうととさ思ってた。お前らに見られるのが恥ずかしいから、店出ろっていったんや」。

三浦君「嘘でしょ。あのときは一番怖い人がここにいた!って思いましたもん」。

私「お前、何言ってるのか意味わからん」。

三浦君「あんな若造4人くらいなら簡単にぶっ飛ばせるんですか?」。

私「そんな訳ないやろ。お前には感謝してるけど、会話が噛み合わん。もう出るぞ」。

別れ際に「今度、謝り方教えてくれ。今日はありがとう」とお礼を言うと、彼は「じゃあ代わりにケンカの仕方も教えて下さいね」と笑いました。

そんな会話を交わしました。

それから、確か2年もしないうちに彼の部署のミスで大口の得意先を激怒させてしまい、そこの偉いさんを知ってる私に「謝罪を同行してくれ」と頼みにきたのも彼でした。

「▲▲(彼の上司)が頼みに来るんが筋やろう」とは思いましたが、彼のお願いを断る理由は一つもありません。

どうしてありえないミスを犯してしまったのか、それをすぐに気付かなかったのか、報告が遅れたのか、包み隠さずとはいきませんが、誠心誠意心を込めてお詫びしました。

そのうち、先方の偉いさんは以前に私がしでかした大きな失敗を思い出し「あれに比べたらまだ笑えるか?」と柔和になってくれました。

私が「あのときはデータ納品前日に二人で朝まで飲んでたからですよ。私は最後にチェックしたいって何回もお願いしたのに」と話す頃には、謝罪訪問ではなくなり、新規のお仕事までいただきました。 

謝罪の帰り道。

「感動しました!でもあの謝罪は〇〇さんしか出来ませんよね?ロールプレーイングとかには全く活用できないですね」という三浦くんに「謝罪の仕方はお前が教えてくれるんちゃかったんかいや、逆やないか!」と返して二人で笑いをこらえていました。

他の社員からは妙に仲がいいと思われてるのは、確かに心当たりがあります…。
IMG_5017なんで、こんな話を書き出したかというと、今日書いたお話に

>1. つちエム 2021年02月03日 13:36
モズリーもジュニアウェルター飛ばしてデラホーヤに挑まなかったでしたっけ?

というコメントが寄せられて…私の間違いなんです。つちエムさん、ありがとうございました。

PFP1位のグレート、ライト級史上最強をデュランと争うシュガー・シェーンも「ジュニアウェルター飛ばし」なのに…。

別に仕事じゃないし、大したことではないのですが、ここに書くお話も大筋は最初からなんとなく輪郭があるんです。今回の話は、ずばり「デュランvsパッキャオ」でした。

この「デュランvsパッキャオ」が先に頭に浮かんだので「ジュニアウェルター飛ばしのライト級はこの二人だけでないと話が進まない!」という思いがモズリーの〝飛ばし〟を見過ごしたのかもしれません。

仕事でもこういう〝失敗〟〝トラブル〟があると、最初に描いていたデザインが狂います。

そういう場合の選択肢は①このテーマでは進めないので中止する、②〝モズリー〟も絡めて最初のデザインとは違う絵を描き進める、の二つです。

よくよく考えると、私の場合は前者を選ぶことはまずありません。これは人によって違うんでしょうが。

①を選択して、全く新しい案件に取り組む人もいますし、人それぞれです。

私の場合は「せっかく手掛けた仕事だから」「大幅に軌道修正しても面白くなるかも」という 意識ですが、①は「最初のデザインが狂ったら振り出しに戻るしかない」という考え方ですね。

ずいぶん前に①タイプの仕事先の人とお酒飲んだときに「月ロケットを打ち上げて軌道が間違ってたらやり直すしかないでしょう」という話になり、私は「間違った軌道の先にある別の星目指す手もあります」と返すと「人が乗ってるんですよ!そんなの別の星になんて絶対辿り着かないし!」とマジで怒らせたことがありました。 

まー、今も仲良くお仕事してる人で、酒飲むとやっぱりこの種の話で衝突を繰り返しています。

というわけで、あの話は②の方向で〝別の星〟を目指します。