「4団体全部獲りましょう」(宮根誠司)。

「あ、それはもう近々の目標なんで」(井上尚弥)。

「近々の目標なんで」。つまり「議論する余地のない王者」になるのは、大きな目標のずっと手前ということでしょうか。「もっと大きな目標があります」ということでしょうか。

「バンタム級完全統一」の先に見据えるものは何でしょうか?
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もし、それが「パッキャオが見た風景」を拝みに行くというのなら、今までの減量はもちろん、練習は全部考え直さなければなりません。

伝統(因習)的で過酷な減量と、一気のリバウンド。そこに合わせた練習。

その体重マネジメントが井上尚弥の強さの一端を担っていることも間違いありません。

計量が終わるとコンビニ前でカップ麺をすする(今回は「フラペチーノ」)。

この一連のサイクルが健康に悪影響を及ぼさないわけがありません。すでにコメント欄でもいただいていますが、こんなことを繰り返すと代謝や神経に異常が生じて、感覚の狂いを進行させ、劣化を早めるだけです。

本格的な減量に入る試合前1ヶ月のナチュラルな体重が約62㎏とされている井上ですが、66㎏のウェルター級までバルクアップすることは至難の業ではあっても、絶対不可能ではありません。

もちろん、これまでの練習パターンは大きく塗り替えられます。

事実、ボクシングの歴史では多くのボクサーが「至難」と見られた増量に成功してきました。

マイケル・スピンクスにイベンダー・ホリフィールド、マニー・パッキャオ、ファン・マヌエル・マルケス、マイキー・ガルシア…。

彼ら全てに当てはまることは、それまで陣営に加わっていなかった「増量に関して特殊な知見に長けた専門家、strength and conditioning coach 」に体重コントロールを100%委ねたということです。

もちろん、トップ選手のほとんど全員が技術面を指導するトレーナーに加えてstrength and conditioning coach を抱えていますが、増量の場合はさらに特別な知見が求められます。

減量が大前提のボクサーのダイエットを野放しにしてしまうと、大変な事態になるのは当たり前です。

比嘉大吾はもちろん、井上尚弥もこのあたりのマネジメントに、世界トップの実力に見合ったstrength and conditioning coach が付いているとは思えません。

誤解を恐れずに言うと「天才は育てるものじゃない、生まれてくるもの」です。

技術なら、より専門知識に長けた名匠に委ねるよりも、素人でも良い意味での相思相愛のトレーナーが付くことで、技術的にマイナス影響は出ないこともあります。

ウクライナの五輪代表チームを率いて大きな成果を残し続けているアナトリー・ロマチェンコは別格にして、日本では特に顕著ですが世界的にも多くの親族(父親)トレーナーに汎用性が乏しいのはそのためです。

父親トレーナーは技術よりも心で選手を支えているのです。技術的なことは選手もよくわかっているケースが多いのです。

しかし、これが栄養管理、コンディション調整になると伝統的・直感的な方法論に終始してしまうのが日本のボクシング界です。そして、技術と違い選手の知識と経験は貧弱で浅い。

ジーコが日本サッカーの中に入って最も驚いたのは「選手が夜中にスナック菓子と甘いジュースを飲む」ことでした。「食べるべきものを、食べるべきタイミングで、食べるべき量を食べて、しっかり睡眠をとる」。そんな常識が全くない世界に驚愕したのです。

今は内田篤人が「引退して好きなものを好きな時間に食べられる」と大喜びしているように、劇的に改善されました。

プロ野球は食事も練習も遅れていますね。これは悪しき伝統がそのままです。

日本野球は今でも試合前の練習を、試合後の練習(クーリングダウンも兼ねたウェイトトレーニング)よりも長く濃密なケースがありますが、これは「大切な試合を疲れて臨む愚行」です。もちろん、一番先にグラウンドに来て一番後に帰るイチローのような前後の練習どちらも濃密な変態もいます。

最近のボクシングではテオフィモ・ロペスのダイエットが有名でしょう。

かつて「試合前1週間は絶食することもあった」「エディス・タトリ戦前は何をしても体重が落ちず4度も中止を考えた」ロペスでしたが、ワシル・ロマチェンコ戦の前日計量当日は「ボクサーになってから初めて朝食を摂った」というのです。

そして「長いラウンドを戦っても足が痺れることがなくなった。それに、疲れにくくなっている」とも。
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日本的・因習的な減量で毎度疲弊したいたマイク・アルバラード。翌日のリングには別人のようにふっくらして上がるのですが、リングドクターからは「身体中が重度に酸化している」と厳重注意を受けます。もちろん、この過酷な減量のおかげで「より小さくより弱い相手と戦える」のですが…計量前の井上の〝コケ方〟も心配です。

現在、ロペスが取り入れているダイエットとコンディショニングのプログラムはPerfecting Athletes社のメソッドです。

同社の創業者でもあるミッシェル・イングルスが直々にロペスを担当、従来の「計量後にバーガーキングとオレオクッキーを味わうのが最高の楽しみ」(ロペス)という間違った減量プログラムにメスを入れます。

減量期間でも基本的に1日3食を守り、2度デザートも用意します。メニューと量はトレーニングの内容から緻密に計算されます。

ロペスは「Perfecting Athletes社が信じられないくらいに細かいダイエットを要求してくるのは知っていたから嫌いな食べ物も食べなきゃいけないと覚悟を決めていた。でも、現実はそれまでの減量が嘘のように楽なプログラムで、嫌いな素材も一切出てこなかった」と良いこと尽くしだったと喜んでいます。

イングルスは「私の仕事は前日計量の秤に完全で最高の健康体で乗せること。脱水症状で秤に乗るなんて許さない。テオフィモは初日に『(大嫌いな)寿司でも食べる』と神妙な顔で挨拶して来たけど、ストレスがかかるものを食べさせるわけがない。好き嫌いを聞いて、好きな素材と味付けを基本に、嫌いなものは一切出さない」と健康と選手の嗜好を最優先するポリシーを語ります。

「ただし、食べる時間とタイミング(多くの場合は練習直後の20分以内)は守ってもらう。私のメニュー以外にオレオが食べたいなら用意はするけど、その場合は練習も追加になる。そして私の目を盗んでの外食は絶対禁止。それをされると全てがご破算。だからどうしても食べたい物、飲み物があれば、言ってくれたら、練習メニューも含めてこちらで計算し直す」。

イングルスは「アスリートの肉体を最も蝕むのは脱水。誰もがわかってるのに平気で水分摂取を控えるのは狂ってる。テオフィモには毎日4.5リットルのアルカリイオン水を飲ませたけど、それでも激しい練習に対応するギリギリの量」。

Perfecting Athletes社は「井上vsマロニー」の co-featureで登場したミカエラ・メイヤーやテレンス・クロフォード、ジャメル・ヘリング、シャクール・スティーブンソンらの栄養・食事の管理も担っています。

話は戻って「増量」に関して特殊な知見に長けた専門家、strength and conditioning coach です。こちらは「減量」とは真逆の結果を目的としますが、緻密な計算で組み立てられたメソッドである事は同じです。

パッキャオの場合はトレーニングメニューに合わせて1日7〜8食、5000〜8000kcalを摂取していきます。「すぐに食事時間が来て、しかも全部食べなければならない。ある意味、減量よりもキツい」。

このパッキャオの〝増量〟strength and conditioning coach に就いてライト級(デビッド・ディアス)、ウェルター級(オスカー・デラホーヤ)を粉砕させたのがアレックス・アリザでした。

増量トレーナーの「元祖」マッキー・シルストーンは175ポンドのマイケル・スピンクスを200ポンドにスムースに「拡大」する魔法を見せました。スピンクスは「筋トレが多くなるのはわかっていたが、スプリントや反射を徹底的に鍛えてスピードが落ちる危険を排除してくれた」と評価しています。

シルストーンはMLBやテニスのトップ選手の栄養管理も担当、ボクシングでもロマチェンコらがその指導を仰いでいます。

ファン・マヌエル・マルケスの緩んだ肉体を短期間でボディビルダーのように仕上げたアンヘル・ギレルモ・ヘレディアもちょっと怪しい〝増量の魔術師〟です。

そして、ドーピングに詳しいヘレディアが証人台に立った「バルコ事件」の首謀者が〝ドーピング・グル〟〝ステロイド・プロフェッサー〟のビクター・コンテ。

コンテが司法取引で社会復帰するや、ノニト・ドネアらが行列を作ってstrength and conditioning coach契約を結びました。
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井上には、ドーピングに手を染めた経験のあるヘレディアやコンテの門は叩いて欲しくありませんが「パッキャオが見た風景」を本気で見たいのなら、先進的な増量専門のstrength and conditioning coachを新たに雇用する必要が、早い段階で必要でしょう。