山火事が吹き上げた炎と灰が作った巨大で不気味な雲が、窒息的な蓋のように、カリフォルニアを覆っていた。

不屈の23歳、ルーベン・ビラもジムを締め切ってトレッドミルで走る日もあった。

空位の世界フェザー級、WBOのピースをエマヌエル・ナバレッテと争うサウスボーは、歴史的な大災害に成す術もない自分が情けなく思えた。

100万エーカーを超える大地を焼き尽くした今年の山火事は、従来のmega fireの規格では測りきれないgiga fire、未曾有の大惨事を引き起こしている。

カリフォルニア州サリナスで生まれ育ったビラにとってこの地が特別であることは当たり前だ。
 

父系の祖父母はメキシコからカリフォルニアに移住、農園でイチゴ摘みをして働き、生計を立てて来た。

カリフォルニアの農家にとって農地まで焼き尽くしたgiga fireと、それに先立つCOVID-19による作物出荷に与えた大打撃は死活に関わる大問題。

“I have to do my job to help them do their job. That’s helping them in any way I can.” 

「こんな大災害に苦しむ地元の人々に私ができることなんて無い。私には仕事(ボクシング)しかできない。私ができることはそこで諦めずに勝利を追求すること、それぐらいしか彼らを勇気付けることはできない。でも、だからこそ、私が全身全霊を賭けて戦う理由になる」。

ビラのマネージャー、リック・ミリジャンは「ビラとカリフォルニアの農業従事者をどうやって助けるかについて話し合った。

ミリジャンはWBC/WBO統一ジュニアウェルター級王者ホセ・ラミレスとタッグを組んでセントラル・バレーの農家に“Fight for Water” キャンペーン(ファイトマネーの一部で農業用水などを提供する)を展開しており、ビラもこの運動に巻き込んだ。

「ラミレスとビラはこの辺りじゃ有名人だ。地域に密着した彼らが地元を応援することの意味は測り知れない」(ミリジャン)。

最近、ビラは農地に足を運びN95マスクを配布した。

このマスクは、米国労働安全衛生研究所のN95規格をクリア・認可された微粒子用マスクで、大規模な山火事で大気が汚染されたカリフォルニアでは品薄になっていた。

ビラは、他にも試合で使ったグローブをチャリティオークションに出品してカリフォルニア農家への支援金に充てるなど、出来ることはなんでもしようと動いていた。
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顔見知りの農夫たちは「ルー!絶対に勝て!ESPNを見て応援してるから!」と元気な声を張り上げてくれる。

そんな、声と明るい顔を見ると、ビラは「もしかしたら、自分みたいな人間でも役に立っているのかもしれない」と、逆に勇気付けられるのだ。

そして、この熱い応援に対する最高の恩返しが何であるかも、ビラははっきりと理解していた。

明日、リングに上がるルーベン・ビラは間違いなく、アンダードッグだ。1−5のオッズは試合当日で引っくり返ることは無い。


明日、リングに上がるビラのトランクスに是非注目して欲しい。

彼は生まれ育ったサリナス市の紋章がプリントされたトランクスでリングインするはずだ。
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ビラのトレーナー、マックス・ガルシアは、ビラの祖父母のイチゴ摘みを手伝ったことがあった。

「ストロベリー・フィールドでお仕事、楽しそうだったけど、現実はとんでもない重労働だ。炎天下、汗まみれになって大きな箱にイチゴを一杯に摘み取って…なんと15セントだった」。

ビラはその大変さをよく知っている。

「朝の2時か3時から、その時間でもう暑いのに祖父母は不平も言わずに働きづめて、家族を繋いでくれたんだ。私の周りはそんな勤勉な農家ばかりだった。尊敬する彼らが、今、打ちひしがれている。私にできることなんて限られているけど、それをやり遂げること、それしか考えられない」。

「農場でマスクを配布したとき、まだ10代の男の子が母親のあとに付いて、レタスやイチゴを摘んでいた。私がマスクを配ってるのを知っているのに、並ぶ時間も惜しかったんだ」。(ビラ)。

用意したマスクが全部捌けたとき、ビラはその親子のもとに駆け寄り、摘み取りを手伝いはじめた。

「日暮れまでにこの列を全部摘み切らなきゃならないんだな。がんばろうぜ!」。ビラの励ましに親子は摘み取りの手を休めずに、笑顔で感謝を伝えた。

日暮れ前になんとか摘み終えると、ベラはバツが悪そうに謝った。

「申し訳ない。N95マスクは全部配りきって、なくなっちゃったんだ。また注文してるからそのときには真っ先に届けるから」と頭を下げた。

親子は、笑った。

「どうしてあなたが謝るの?あんなに大勢にマスクを配って、摘み取りまで手伝ってくれて」。

「試合が終わったらN95を届けるから。絶対届けるから」。そう言って別れたビラの背中に、親子は「怪我はしないで、戻ってきて」と静かに、それでも確かなエールを送った。


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今日の前日計量でナバレッテ126のリミット一杯、ビラが1ポンド軽い125で両者一発クリア。

ナバレッテはIBF王者ジョシュ・ウォリントンとのピッグファイトを、今日あらためてアピールしました。

小さな油断から綻ぶタイプではないかもしれませんが、試合直前のボクサーが先の対戦を語るのはけして良いサインではありません。

ジュニアフェザー級で熱望しながら叶わなかった完全統一王者の夢を、フェザー級で果たそうという意気込みもよく分かります。

 

そして一方、文字通り自分の足元を見つめてキャリア最強の敵に立ち向かうビラ。

「英国に行くことも厭わない」とウォリントンとのピッグファイトに夢を馳せるナバレッテとは対照的です。

それでも、勝敗を決めるのはリングの上で発揮する実力だけです。
 

試合を翌日に控えたオッズは4/11=1.36倍と12/5=3.4倍。

乱高下しながらも、今週から少しずつ縮まっている基調にあるのは、大穴狙いのギャンブラーの動きか、それとも何か風向きが変わりつつあるということでしょうか?
 

いずれにしても、リングの上は弱肉強食です。

筋書きのあるドラマならビラが大番狂わせを起こすのかもしれませんが、美談と勝敗には1ミクロンの因果関係も存在しません。