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WBPHIL


「国内」ではささやかな未来も描けない貧しいフィリピン人が「世界」に夢を賭け、愛する母国を後にして「出稼ぎ」人生を送るのは、何もボクシングに限ったことではありません。

しかし、かの国で「ボクシング」は大きな成功につながる夢切符の象徴です。

マニー・パッキャオは「出稼ぎ」先の米国でスーパーヒーローの座を射止めましたが、彼の巨大な成功は例外です。後にも先にも、フィリピンに限らずこのレベルの成功を収める外国人ボクサーは二度と出現しないでしょう。

そして、彼らが目指す米国や日本の大きなマーケットでは、どんなに傑出した才能を持っていても外国人ボクサーが実力通りに報われることはありません。

もし、ゲンナディ・ゴロフキンやワシル・ロマチェンコが米国人やメキシコ人なら?アマチュア時代から多くのファンを獲得してプロ転向した彼らは、人気と報酬の低空飛行に甘んじることなどありえなかったでしょう。

もし、ホルヘ・リナレスとローマン・ゴンザレスが日本人なら?この二人は井上尚弥を凌駕し、村田諒太に並ぶスポーツヒーローになって、東京や大阪の大会場でメガファイトを繰り広げていたはずです。


ジョンリール・カシメロもまた、米国人でもメキシコ人でも日本人でもありません。

彼はパッキャオと同じフィリピン人ですが、現時点でパッキャオの持つ運と才能と実力とは比べるべくもありません。

カシメロは、呼ばれたら世界中のどこにでも喜んで馳せ参じる、サーカスライフを送ってきました。世界王者の看板を持ちながら、2万ドル前後の薄給でも喜んで。

全ては、いつか必ず「パッキャオのレドワバ」のような運命を変える巨大な爆弾につながる導火線に火を点ける日を夢見ていたからです。

そして、バレラには及ばないものの、レドワバ以上の獲物をついに視界にとらえました。

日本で最も評価の高い井上尚弥です。

昨年11月のノニト・ドネア戦で、バンタム級の試合にもかかわらず有料入場者2万人以上を集めるという米国では絶対にありえないメガファイトのリングを作ったのが井上です。

しかし、4月25日にセットされた井上とのバンタム級3団体統一戦はパンデミックのために延期。

カシメロはフロリダとネバダで練習を続けていますが、井上は渡米のビザが下りずに日本にとどまったまま。

試合日程が決まらないにもかかわらず、トップランクから報酬の減額を要求するメールと書類が届いていますが、その内容は一方的で複数の条件提示がないといいます。

「試合日程が9月と10月、あるいは11月ではおそらく状況が違う。9月なら今提示された報酬でも飲むしかないが、10月から観客を入れるなら話は違うはず。9月ならこの金額、10月や11月で有観客ならこの金額という提案が欲しい」と、カシメロは困惑しています。

トップランクからは「今まで言い値で戦ってきたじゃないか。この異常な状況下でどうしてわがままを押し通そうとするのか?」と説得されますが、どうしても受け入れられません。

「言い値で戦ってきたのは、いつか大きな試合を戦うため。敵地巡りで報酬が安く厳しいキャリアの中で、初めて日本のスター選手と戦えるチャンスを得たのだから、十分な報酬が欲しい」。

「井上と戦うのが最優先。でも、彼が米国に入れないなら、フィリピンに帰って娘に会いたい」とホームシックにかかってもいましたが「トップランクが10月までに調整試合を用意してくれるなら米国にとどまり、井上を待ちたい」と語っています。


▶︎▶︎▶︎〝史上最も不遇の3階級制覇王者〟カシメロにとって、井上はついに掴んだ夢への導火線です。何としても火を点けたい一方で、中途半端な妥協はしたくないでしょう。

井上はもちろん、カシメロにも早く舞台を用意して欲しい…そんな願いが募る毎日です。