「リアル」。

目新しい言葉ではありませんし、日本のボクシング番組でも日本テレビは「THE REAL」と銘打って放送していました。

本物が何かがわからないボクシングの世界では、Undisputed Champion(完全統一王者)とともに〝本物の指標〟として語られる Lineal Champion(正当王者)のタイソン・フューリーも「リアル」を口にして話題になっています。

TYSON FURY SAYS ‘REAL CHAMPION WILL BE CROWNED’ IN REMATCH WITH DEONTAY WILDER. デオンティ・ワイルダーとの再戦(来年2月22日ラスベガスMGMグランドガーデンアリーナ)で「リアル・チャンピオンが戴冠することになる。

この試合はリング誌ランキング1位のフューリーと2位ワイルダーが激突、文句無しにリング誌王座がかかります。

このリング誌タイトルもかつては白井義男、ファイティング原田、海老原博幸の3人が認定されただけでしたが、2012年に五十嵐俊之が手にすると八重樫東、山中慎介、田口良一、京口紘人、井上尚弥と6人が雪崩打って認定されています。

アルファベット団体のランキングは誰にも理解しがたいものですが、リング誌やESPNのランキングはある程度は納得できます。その王者の権威がアルファベットを凌駕するのは当然です。

無償でチャンピオンベルトを贈呈するという当たり前の事も、ボクシング界では新鮮です。

このリング誌認定王者もまた、ボクシング界に放たれた「リアル」の一矢でしょう。

フューリーの引退宣言・長期離脱によって長らく空位が続いたリング誌ヘビー級王座でしたが、再びフューリー絡みで王者が決められることになります。

フューリーvsワイルダーのリング誌王者決定戦は、初戦と同じくSHOWTIMEがPPVで中継します。

昨日、このPPVについてボブ・アラムは「200万世帯を販売できるだろう」と予言。失笑を買っています。

今夜は、ボクシング界がリアルから乖離していく一因となったPPVについてです。

2015年5月2日フロイド・メイウェザーJr.vs. マニー・パッキャオ460万件HBO/SHOWTIME100ドル/HD
2015年9月12日フロイド・メイウェザー・ジュニア vs. アンドレ・ベルト40万件SHOWTIME75ドル/HD
2015年10月17日ゲンナジー・ゴロフキン vs. デイビッド・レミュー15万件HBO60ドル/HD
2015年11月21日ミゲール・コット vs. サウル・アルバレス90万件HBO70ドル/HD
2016年4月9日マニー・パッキャオ vs. ティモシー・ブラッドリー 340万件HBO70ドル/HD
2016年5月7日サウル・アルバレス vs. アミール・カーン60万件HBO70ドル/HD
2016年7月23日テレンス・クロフォード vs. ビクトル・ポストル5万件HBO60ドル/HD
2016年9月17日サウル・アルバレス vs. リアム・スミス30万件HBO65ドル/HD
2016年11月5日マニー・パッキャオ vs. ジェシー・バルガス30万件トップランク社70ドル/HD
2016年11月19日セルゲイ・コバレフ vs. アンドレ・ウォード 116万件HBO 
2017年3月18日ゲンナジー・ゴロフキン vs. ダニエル・ジェイコブス17万件HBO65ドル/HD
2017年5月6日アルバレス vs. フリオ・セサール・チャベスJr.100万件HBO70ドル/HD
2017年6月17日アンドレ・ウォード vs. セルゲイ・コバレフ 213万件HBO65ドル/HD
2017年8月26日フロイド・メイウェザーJr.vs. コナー・マクレガー430万件SHOWTIME100ドル/HD
2017年9月16日アルバレス vs. ゲンナジー・ゴロフキン 1130万件HBO80ドル/HD
2018年9月15日アルバレス vs. ゲンナジー・ゴロフキン 2110万件HBO85ドル/HD
2018年12月1日デオンテイ・ワイルダー vs. タイソン・フューリー32万5千件SHOWTIME75ドル/HD
2019年1月19日マニー・パッキャオ vs. エイドリアン・ブローナー40万件SHOWTIME75ドル/HD
2019年3月16日エロール・スペンスJr. vs. ミゲル・アンヘル・ガルシア36万件Fox75ドル/HD
2019年4月20日テレンス・クロフォード vs. アミール・カーン15万件ESPN70ドル/HD
2019年7月20日マニー・パッキャオ vs. キース・サーマン50万件Fox75ドル/HD
2019年9月28日エロール・スペンスJr. vs. ショーン・ポーター30万件Fox75ドル/HD
2019年11月23日デオンテイ・ワイルダー vs. ルイス・オルティス 227万5千件Fox75ドル/HD
2015年に「フロイド・メイウェザーvsマニー・パッキャオ」が460万件をセールス、史上最高記録をマークしてから4年8ヶ月が経ちました。

この間、100万世帯をクリアしたのはカネロ・アルバレス絡みの3試合と、メイウェザーとコナー・マクレガーの茶番劇、合わせて4試合だけです。

50万件までハードルを下げるとパッキャオの名前も加わりますが、メイウェザーが引退(誰も信じていませんが)、カネロがDAZNにプラットフォームを移したことで、今ではPPV100万セールスを売れる磁力を持つボクサーは一人も見当たらなくなってしまいました。

アラムが「トップランクが提供する最高のカード」と豪語するフューリーvsワイルダーにしても初戦は32万件。30万超えは合格点の数字ですが、200万セールスは考えられないですね。

「PPVは年に2回か3回しか手掛けない特別なボクサーにによる特別なイベント。ネット放送がカジュアルな食事なら、PPVは正装して出かける特別なディナー」(SHOWTIMEの責任者ステファン・エスピノサ)とはいえ、最も高額な食材であるカネロがDAZNと契約している現実を見るまでもなく説得力に欠きます。

「フューリーvsワイルダー」は初戦が名勝負だっただけに上積みを期待したいところですが、「ゲンナディ・ゴロフキンvsカネロ・アルバレス 第2戦」が初戦を下回る数字(130万→110万)に終わったことからも、PPVビジネスが大きな岐路に立っていることは明らかです。

クローズド・サーキットからPPVと目先の商売に走ってきた米国ボクシングは、ファンのマニア化が進み、マイナースポーツに転落しました。 

メガファイトの舞台がギャンブルシティというのも、金儲けだけに奔走してきたこのスポーツの暗部を象徴しています。

ワールドシリーズをラスベガスの特設球場で行い、PPVで放送なんてことになると、MLBでも没落します。

世界王者は世界に一人だけ、そして世界タイトルマッチはアクセスしやすい都市部のアリーナで開催され、それを誰もが気軽に地上波で観れるーーーそれもまた目指すべき「リアル」なのですが…。