確かにその通りだったが、私にとって教科書の上で踊る細かい数字と、リングの上で世界最高の名誉を懸けて戦う巨人たちとは全くかけ離れた存在だった。
14歳の少年にとって当時の世界ヘビー級チャンピオンは、地球上で最も強い男ということに他ならなかった。
コミックのヒーローや映画のカウボーイも強かったが、それは虚構に過ぎず、本物は世界ヘビー級チャンピオンだけだった。
世界ヘビー級王座は、チャンピオンを倒した者だけが継承出来る唯一無二の地位で、その簡潔さと高尚さは子供にでもよく理解できた。
兎にも角にもLineal championは特別な存在だった。
しかし、現在では痰壷に吐かれる痰のように価値のないアルファベットタイトルが増え、彼らの中でもいくつも世界王者を認定している。
正規王者?スーパー王者?名誉王者?ダイアモンド王者?暫定王者?休養王者?シルバー王者?フランチャイズ王者?
WBCが乱発する空位の暫定シルバー王者決定戦とは承認料稼ぎ以外に1ミリでも意味があるのだろうか。
腐敗した承認団体には良心が無い。
1978年、WBCは自らが勝手に決めたランキング1位のケン・ノートンとの対戦を無視してモハメド・アリとの再戦を選んだレオン・スピンクスのタイトルを剥奪。
承認団体が営利のみに走ることをバート・シュガーを先鋒にボクシングメディアは批判し続けてきた。
団体の数だけランキングがあるのは明らかに狂っている。しかも、そのランキングには実力ではなく、承認料の支払い能力が大きな力学が働く。
分裂したヘビー級タイトルが再び統一されるのはマイク・タイソンの登場まで待たねばならなかった。
タイソンは1987年に3つのアルファベットタイトルを統一、翌年マイケル・スピンクスを倒してようやくlineal championの座に就いた。
それらはコインの裏表であるにも関わらず、lineal championと完全統一チャンピオンは常に同じとは限らない。
lineal championは王者を倒して王位を強奪した王者だが、完全統一王者は決定戦や事後認定など王者を倒さなくても就くことが出来る。
There is only one world and, therefore, there can be only one world champion. And, if everybody is a champion, then nobody is.
lineal championにして完全統一王者、つまり議論する余地の無い王者は2003年のレノックス・ルイスを最後に生き絶えたまま。
しかし、これは偶然なんかじゃない。どの承認団体もタイトルマッチを量産したい。議論する余地の無い王者はもちろん、統一王者が生まれるとタイトルマッチの数は大きく目減りしてしまう。
承認団体にとって最大の悪夢は世界王者が世界に1人しかいない状態だ。階級まで減らされてオリジナル8の時代に戻ったら、全ての承認団体が破綻するだろう。
サリバンからアリまで美しく継承された王位は、今やズタズタに引き裂かれてしまった。
2004年にレノックス・ルイスが王者のまま引退したとき、ウラジミル・クリチコはあり得ない形でlineal titleを手に入れた。
当時、ウラジミルが1位で兄ピタリが2位。2人が決着をつけなけれはならないはずだったが、2人は母親と交わした「兄弟では絶対に戦わない」という約束を優先した。
ウラジミルはルスラン・チャガエフを9ラウンドでストップ、いびつな形でlineal championに就いた。
王位がカネで売買される世界では、本当の王者が誰なのか誰にもわからない。
どんなシステムでも、誰もが納得できるものはないかもしれない。
それでもアルファベット団体が乱造する具のない濁ったスープのようなタイトルよりも、lineal title が遥かに説得力がある。
現在、このlineal title の価値を誰よりも世の中に再認識させているのがタイソン・フューリーだ。
日本時間の15日、ラスベガスはT-Mobileアリーナのリングに上がるフューリーはアルファベットのベルトは一本も持っていない。
しかし、それが何か問題でも?
今のフューリーの実績は他の誰よりも充実、存在感は世界一だ。
自身の問題からブランクを作ったフューリーだが、これはジャック・デンプシーのそれよりも短いものだった。
デンプシーは1923年にルイス・フィリボをKOしてから3年もの間、マネージャーの不手際からリングから遠ざかった。
デンプシーはマネージャーを訴える代わりに、映画に出たりパーティに興じたりしながら、ハリウッド女優エステル・テイラーとの生活を満喫した。
それでもデンプシーからタイトルを奪おうなんて誰も思わなかった。
ブランク明けにlineal heavyweight championとしてジーン・タニーと防衛戦を行うことに異議を唱えるものなど誰もいなかったのだ。

コメント