リング誌/WBA/WBO世界ライト級王者:ワシル・ロマチェンコvs挑戦者:ルーク・キャンベル
この試合には空位のWBCタイトルもステイクされますから、勝者はリング誌を合わせた5大メジャーのうち4つのベルトを手に入れることになります。
試合前日のオッズはロマチェンコ勝利1/16(1.06倍)、キャンベル8/1(9倍)。大差が付いています。
順当にいけばロマチェンコが勝ち、プロとしての最終目標である「ライト級のUndisputed Champion」をコンプリートするまであと一つ、リチャード・コメイが保持するIBFバージョンだけとなりますが…。
同一階級で同時にリング誌と4つのベルト全てをコレクションした Undisputed Championは バーナード・ホプキンス、テレンス・クロフォード、オレクサンダー・ウシクの3人だけ。
単純に一つずつ取っていくと最短で4試合(リング誌はアルファベット王座を獲得するどこかの過程で手に入る)が必要になるばかりか、対立王者との対戦にプロモーターやテレビ局の壁が立ち塞がり、5つを集めるのは至難の技です。
最近でも「あと一つ」に迫りながらカネロ・アルバレスが指名挑戦者との対戦を巡ってIBFを剥奪され、アンソニー・ ジョシュアが大番狂わせに沈むなど、このコレクションがいかに困難なことかを思い知らされています。
ロマチェンコが足元をすくわれることは無いと思いますが、PFP1位のウクライナ人をホームに招いたキャンベルも乾坤一擲、不撓不屈の構えで戦います。
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"I don't know why," he says. "I just loved it. And I always wanted to be better than I was yesterday."
キャンベルの祖父はアイルランドでボクシング経験がありました。しかし、父親も兄弟も、周りの友達の誰1人としてボクシングなんてしてませんでした。
父親のバーナードは炭鉱で働いていました。地下深い炭鉱まで酸素をふんだんに含んだ圧縮空気を届けるトラック運転手だった。

「毎日、あんなに頑張って家族を養ってくれているんだと思い知らされたら、贅沢に何かを買ってなんて言えないよ」。
「自分も頑張って父親に喜んでもらいたい、それが恩返しになるならなんでもしたい、そんな気持ちになったよ」。
炭鉱は危険極まる場所です。
あるとき大きな落盤事故が発生、パーナードは脊椎の骨を7つも除去する大手術の末に一命を取り留めました。
"A brutal job," Luke says.
「危険で命がけの仕事さ。それにしても、父親はボクシングに興味がなかったはずなんだけど、テレビで試合を観てる父親なんて記憶にないし。それなのに、私がこのスポーツに熱中すると一転したんだ」。
最近の多くの父子鷹と違い、バーナードは最初からルークをボクサーにしようとしたわけではありません。
それでも彼はルークのボクシングに賭ける想いが中途半端なものでないと気づくと、全身全霊で応援しました。
バーナードにとって3人の息子たちは(長男は兵隊に末っ子は漁師に、そしてルークはボクサーに)みな愛すべき存在でしたが、特にルークへの思い入れは強烈でした。
「ライオンのように戦え。お前はオリンピックで金メダルが獲る!」。
ルークは父親の予言が信じられませんでした。2008年北京五輪は国内予選敗退。
それでも父親は繰り返します。
「絶対に金メダルが獲れるから!」。
4年後、バーナードの言葉は現実になります。地元では英国のロンドン五輪、バンタム級(56㎏)。
準決勝で清水聡、決勝でジョン・ジョー・ネビンを下して英国五輪史上で初めてバンタム級の金メダルを母国にもたらしたのです。
ロンドン五輪で最も喝采を浴びたのは世界的には完璧な内容で二連覇を果たしたウクライナのハイテクでしたが、ルークの地元ヨークシャー・エッセルの街も歓喜に沸騰しました。
「この金メダルを一番信じていたのは私じゃない。父親だ。その意味では父親が獲らせてくれた金メダルだ」。

平凡な少年から五輪金メダリストへと階段を駆け上がったルークは、ポール・マッカートニーらも受勲した大英帝国五等勲爵士が授与されセレブの仲間入り。
英国の著名人が出場するDancing on Iceショーに出演するなど、人気アスリートの一人として2013年にプロデビュー。
しかし、父親のバーナードは試合を見に行こうとはせず、知人から結果を聞いてから、ようやくビデオを再生するのでした。
"Come out like a lion. Keep your hands high. Get what you deserve. You're going to be a champion."
それでもルークにかける発破は同じ。「ライオンのように戦え。ガードをしっかり上げろ。お前は必ず本物の世界チャンピオンになる」。
父親が予言したのは「本物のチャンピオン」すなわち Undisputed Champion でした。明日の試合で勝名乗りをあげると、ロマチェンコに代わってキャンベルが「あと一つ」に迫ることになります。
2014年、バーナードが癌の診断を受けてしまいます。因果関係は明らかにできないものの、長年にわたって圧縮空気の炭鉱の中で働きづめだったことが災いしたのは間違いありません。
最初はリンパ管で癌が見つかり、やがて肺に転移しました。
そして、バーナードも息子同様に〝ファイター〟となります。
彼は病院で Titanium Man(チタン製の男=鉄人)と呼ばれるようになります。
瀕死の状態まで悪化しても必ず持ち直して見せたからです。
ルークは「医者からは『癌の進行は深刻で(死亡は)いつであってもおかしくない』と言われていた。あと1日、あと数時間…そんなふうに言われてから何度も持ち直したんだ。
涙目になっているルークを父親は病床から叱咤しました。
「こんなとことに来る暇があるなら練習しろ。私は大丈夫だ。巨大な岩石にいくつも襲われた落盤事故でも死ななかったんだから、癌なんかで死ぬわけが無い」。
そして、最後に必ずこう約束しました。「最初の世界チャンピオンのベルトを見るまでは絶対に死なない」。
2017年の夏。ルークは米国でキャンプを張っていました。ついに世界タイトル挑戦の機会が巡ってきたのです。
相手はWBAとWBC、二つのベルトを保持するホルヘ・リナレス。当時はPFPファイターにも数えられた強豪中の強豪です。
米国メディアにルークは「絶対に勝って父親に言いたいことがあるんだ。またあなたの予言が当たったよって。最初のベルトが二つになったよって」と試合に向けたモチベーションを語りました。
調整は万全でした。
しかし、試合前2週間を切って携帯電話が鳴ります。試合前には絶対に連絡してこない兄からでした。
「父さんが死んだ」。バーナードは58歳。若すぎる死でした。
私の勝利を誰よりも喜んでくれる父がいなくなった…。その父の死に目に会えなかった…。
パニック性の動悸に見舞われました。減量中なのに信じられないくらいに涙がこぼれて止まりません。肉体的にも精神的にも到底戦える状態ではありませんでした。
陣営は「こんな状態じゃ無理だ。棄権しよう。ハルへ帰ろう」と慰めますが、ルークは全身を震わせて泣きながら「このことは試合が終わるまで私たちだけの秘密だ。リナレスはもちろん、メディアやファンに知られて変な同情を受けたくない」と試合出場を選びます。
ルークは2ラウンドにダウンを喫しますが、そこからライオンのように戦い巻き返します。しかし、結果は1−2のスプリットデジションでリナレスに軍配が上がりました。
あれから2年後。思いもよらないチャンスが、運命の巡り合わせのような相手と共に目の前に現れます。
ロンドンで金を獲った会場に程近いO2アリーナで、相手はロマチェンコ。
「私のボクシングは私であって、私では無い。父親が私の肉体を使って操縦しているようなものだ」。父親との関係をそう語るロマチェンコとの激突。
ロンドンで共に金メダルに輝いたキャンベル(バンタム級)とロマチェンコ(ライト級)。父親の薫陶を受けてボクシングに研鑽してきた二人が合間見えるのです。
Finally, there's the father factor. If Lomachenko's father is in his corner, Campbell's is in his boy's heart.
ロマチェンコの父アナトリーはコーナーに陣取るでしょう。そしてキャンベルの父は彼の心の中に宿っているのです。
ESPNから「父親が今もそばにいるというのは本当か?」と聞かれたキャンベルは真剣な目で答えました。
「本当さ。信じようが信じまいが、今も父と話している」。
「父がなんて言ってるかって?いつもと同じさ『ルーク、全部のベルトを集めるんだ。ライオンのように戦え』ってね」。
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今日の計量は共に134.4ポンドでクリア。
身長170㎝/リーチ166㎝のロマチェンコに対して、キャンベルは175㎝/180㎝。二人が向き合うと、想像以上の体格差があります。
体格差に加えて、サウスポー同士の一戦ということで「ロマチェンコは圧勝できない」という予想もありますが、少数意見です。
しかし、ロマチェンコが倒しきれなかったホセ・ペドラザ(173㎝/179㎝)とリナレス(173㎝/175㎝)と同格のキャンベルは、ハイテク得意のクロスレンジを簡単には許さないかもしれません。
プロ14戦で明らかなダメージを負ったことがないロマチェンコですが、ライト級が限界というのは本人も認めるところです。限界というのはベストではありません。
キャンベルの右リードがロマチェンコを波打ち際で食い止めることが出来れば、大番狂わせもありえますが…キャリアを通して「最も遠い相手」の距離をハイテクがどうやって潰すのか、そこが見所の一戦です。

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