井岡一翔と井上尚弥。日本の東西のエースは二人とも優れたボクサーであると共にリバウンド名人です。

二人とも過酷な減量に耐えて耐えて、前日計量を終えると一気にリバウンド 。その割合はほぼ10%を超えてきます。

他の日本人ボクサーとこの2人の決定的な違いは高度な技術に目が行きがちですが、長谷川穂積の系譜を継ぐ稀代のリバウンド名人という点でも傑出しているのです。

ESPNの編輯委員ナイジェル・コリンズの記事からです。 
2017年選手前日当日増加増加率
4月23日井岡一翔50.8kg56.6kg5.8kg11.42%
8月15日山中慎介53.5kg58.2kg4.7kg8.79%
8月15日ルイス・ネリ53.5kg58.6kg5.1kg9.53%
10月22日比嘉大吾50.7kg54.2kg3.5kg6.90%
10月22日村田諒太72.5kg77.1kg4.6kg6.34%
12月31日京口紘人47.5kg51.5kg4.0kg8.42%
12月31日カルロス・ブイドラゴ47.1kg55.0kg7.9kg16.77%
      
2018年選手前日当日増加増加率
5月25日井上尚弥53.5kg59.5kg6.0kg11.21%
5月25日ジェイミー・マクドネル53.5kg65.3kg12.0kg22.42%
10月7日井上尚弥53.5kg58.5kg5.0kg9.35%
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昔むかし。まだ、ベアナックルの時代の話です。

英国にサミュエル・エリアス(1775年ー1816年)という19世紀初めに活躍したプロボクサーがいました。ボクシングの歴史好きの方には、ダッチ・スミスといった方がすぐ伝わるかもしれません。

そうです。アッパーカットのメカニズムを初めてボクシングに取り入れた、アッパーの発明家ダッチ・スミスのことです。

身長5フィート6インチ(168㎝)で130(58.96kg)〜133ポンド(60.33kg)で戦っていたと伝えられています。

その強打は〝The Man with the Iron hands〟(鋼鉄の拳)と恐れられ、1801年から1814年の現役生活で同体型・同体重の相手に負けたことは一度もありませんでした。

しかし、ダッチ・スミスは生涯一度もベアナックルの世界チャンピオンになれませんでした。

そうです。当時はライト級などなかった時代です。

この時代にあったのは無差別級だけ。複数階級制覇などという小賢しいものは影も姿もなかった時代です。

身長170㎝もなく体重60kgの小男が、山のような大男に勝てる道理がありません。

「オリジナル8(8階級)」が可愛く見える「ワイルド1(野生の1階級)」の時代。そんな時代が19世紀半ばまで続きました。

もし、Wild1の時代ならマニー・パッキャオは8階級制覇どころか一度も王者になることは出来ていません。もし、アルファベット王座の破片でも拾いたいならーーーデオンティ・ワイルダーかタイソン・フューリーかアンディ・ルイスJr.を倒すしかありません(ルイスなら可能性がありそう、なんて思ってはいけません。絶対に粉砕されます)。

1886年10月29日、ジャック・マカリーフェがビリー・フレイジャーを21ラウンドでKOして世界ライト級の初代王者となりましたが、1816年に亡くなったダッチ・スミスにとってはライト級の創設はあまりも遅すぎました。

それでも、ミドル級とライト級の誕生によって、体格で勝負が決まる試合が激減。

ライトとミドル(1886年)が創設されると、このスポーツが階級制こそ相応しいことに気づいてウェルター(1888年)、フェザーとバンタム(1889年)、ライトヘビー級(1903年)の7階級制に。そして最後にフライ(1909年)が追加されて8階級時代が幕を開けました。

もはや誰もが「それが正義」だと気づいています。

ボクシングを見始めたばかりのファンでも、気づいている方がほとんどでしょう。

「ボクシングの階級は8階級で十分だ」と。

階級制が制定された本来の目的は、体重による不平等を排除することでした。

しかし、過酷な減量による事故が相次ぎ、選手の安全・健康を守るために導入されたのが前日計量です。それがいまや、体重の不平等を引き起こしているばかりか、その不平等から当初の目的であった選手の安全・健康にまで重大な影響を及ぼしているのです。

当日計量と前日計量。どちらが危険か?不平等なリバウンドがまかり通る現実では、前日計量の方が危険と言わざるをえません。

それでも、前日計量には個々のボクサーの健康を守るメリットがあるように思えますが、それも幻想です。前日だからと余計に無理な減量をするからです。前日計量なら危篤状態でリングに上がれない状況でも、24時間でリカバリー&リバウンドを図ろうとするからです。

ただ、プロボクシング界では正論は通りません。階級が増殖するたびに「そんな階級は不要」とメディアは口を揃え、その階級を創設しない承認団体まで批判していましたが、いざ新階級が船出するとみんな右に倣えです。

一つだけ間違いないことがあります。オリジナル8から増殖を重ねてきた階級の歴史で、階級削減の試みは一度もなされませんでした。そういうことです。正義は一度も効果を示すことは出来ませんでした。

そして、無理な計量を可能にした前日計量と、階級の増殖、さらに団体の乱立は複数階級をより安易に簡便に制覇する魔法のツールになりました。

そのアルファベットタイトルにどれほどの価値があるのか?それは本当に複数階級制覇なのか?その〝王座〟は世界一に勝ったのか、それとも?

それを真剣に問い詰めなければいけない時代は、団体と階級の乱立・増殖が進行して半世紀、現在以上にありません。