このブログでも度々触れていますが、プロボクシングほど玉石混交の世界王者を抱えるスポーツは他にありません。

世界王者を承認することを生業とするアルファベット団体が、この50年でメジャーと呼ばれるものだけで4つに増殖、一つの団体の中でも「スーパー」「ダイアモンド」「暫定」「ゴールド」 「シルバー」…ともはや誰の目からも「それって世界一の称号じゃないよね」とわかる〝a champion〟だけを粗製乱造し続けているのです。

今の世の中に〝a champion〟でない〝The Champion〟なんてありえるのでしょうか?

あります。しかも、ややこしいことに二つも。

少なくともメジャー4団体を完全統一したUndisputed Championと、チャンピオン制度の根幹哲学であるLineal Championです。




混迷の4団体時代に突入してから約30年、4つのベルト全てを〝自力〟で束ねたUndisputed Champion 完全統一王者はバーナード・ホプキンス(ライトヘビー)、テレンス・クロフォード(ジュニアウェルター)、オレクサンダー・ウシク(クルーザー)の3人しかいません。※

さらに、ボクシングにおけるチャンピオン制度はThe man who beat the man(王者を倒した者だけが王者)というシンプルでわかりやすい掟が起源にあります。

この The man who beat the man(王者を倒した者だけが王者)、Lineal Championという誰もが納得出来るシンプルなシステムが、現代に複雑な混乱をもたらす要因の一つになってしまっているという矛盾もこのスポーツの腐敗を象徴しています。

明日、MGMグランドアリーナから〝聖地※の座を譲位されたT-Mobileアリーナのリングに上がるカネロ・アルバレスはリング誌/WBA/WBCという目に見えるベルトが存在するタイトルだけでなく、リネラル王者でもあります。
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ゲンナディ・ゴロフキンが満場一致でミドル級最強と称されていた2年前ですら、カネロがミドル級のLineal Championでした。

The man who beat the man(王者を倒した者だけが王者)、この掟に則った者がLineal Championです。

この掟では、バーナード・ホプキンスを倒したジャーメイン・テイラーを倒したセルヒオ・マルチネスを倒したミゲール・コットを倒したカネロがLineal Championなのです。

たとえ、膝に重傷を抱えたマルチネスにキャッチウェイトを要求したコットでも、勝ったらLineal Champion。

そのコットも呆れ果てるミドルではなくジュニアミドルより1ポンドだけ重い〝カネロ階級〟を創設した卑劣なカネロでも、コットに勝てば The man who beat the man つまり Lineal Champion なのです。

さらに、ホプキンスは4団体完全統一王者 Undisputed Champion で Lineal Champion でもありました。

しかし、いつもUndisputed Champion と Lineal Champion が両立するわけじゃないから複雑でわかり難いのです。



3団体時代に Undisputed Champion 完全統一王者となったマイク・タイソンは満場一致のヘビー級最強王者でしたが、Lineal Champion はラリー・ホームズに勝ったマイケル・スピンクスでした。

昨年12月、WBCヘビー級王者デオンティ・ワイルダーに挑戦したタイソン・フューリーは、世界戦のリングに上がるのは3年ぶりだったにもかかわらず、Lineal Championとコールされました。

スピンクスもフューリーも主要団体のベルトは一本も持っていなかったにもかかわらず、です。



チャンピオン制度とは、これすなわち The man who beat the man(王者を倒した者だけが王者)ということです。

現代の決定戦で就く王者は一応戦うからまだしも、暫定王者からの格上げなどリング上ではなく書類上で生まれる王者も珍しくありません。


あろうことか、21世紀のボクシング界を代表する巨星、マニー・パッキャオとフロイド・メイウェザーはそれぞれ8階級、5階級を制覇しながらも Undisputed Champion の座に就いたことは一度もありません。

そして、4団体完全統一王者 Undisputed Champion に登り詰めたホプキンス、クロフォード、ウシクはいずれもスターダムの頂点に君臨する選手ではなく、むしろその人気の低さに懊悩していました。

パックメイが3人のUndisputed Champion を凌駕するする途轍もない才能であることは認めざるをえません。

もし、彼らが完全統一王者を意識していたら、いくつかの階級で全てのベルトを収集出来たでしょう。

しかし、このスポーツが抱える深刻な問題は、その歴史的な二つの才能がともに Undisputed Champion を目指さなかった、全く関心を示さなかったということです。

メイウェザーは吐き捨てました。「俺はレガシーのために戦っているんじゃない。カネのためだ。カネだけのために戦ってる」。
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「品質(試合の面白さ)は落とせ、それでも利益(ファイトマネー)は上げろ」…マネーは人類史上で最も難解なビジネス命題に完璧な回答を出しました。

パッキャオもファンが幻滅するのを忘れてしまうくらいにあっけらかんと繰り返していました。「タイトルは大切だが、そこが最優先じゃない。とにかく大きな試合をしたい。それが大きければ大きいほど歓迎する」。
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よーーく聞いてみると、こいつら同じこと言ってるんですね。

二人ともタイトルに優先的な興味はないんです。タイトルを無視した「カネのため」と「とにかく大きな試合」は表現が違うだけで全くのイコールです。

マネーとパックマン…もしかしたら、彼らは二人ともマネーだったのかもしれません。いいえ、間違いなく、そうでした。

二人のマネーからスーパースターのトーチを引き継いだカネロは、彼らのようなことは口にしません。

「タイトルを統一したい。ミドル級のUndisputed Championになりたい。そして叶うならスーパーミドルとライトヘビーでもUndisputed Championになりたいんだ。誰からも尊敬されるボクサーになりたいんだ」。

二人のマネーとカネロ。

もしかしたら、3人の中で一番まともなのは、カネロなのかもしれません。カネロは、少なくとも彼らとの比較ではマネーではなく、ボクサー、アスリートに見えます。


 ※ジャーメイン・テイラーはホプキンスに勝って一時的に完全統一しましたが、自力ではないため除外しています。

※ ラスベガスは米国ボクシング、つまりかつてはヘビー級と中量級、現在は中量級の聖地ですが、ピンスポットの聖地は時代によって移ろって来ました。80年代までメガファイトの代名詞だったシーザースパレスは、莫大な招致フィーの札束攻勢でその地位をMGMグランドガーデンアリーナに簒奪され(勝利フィーの高騰にシーザース側が〝試合放棄〟)、そのMGMグループはより大きなアリーナT-Mobileにその座を譲位しました。