今週末、リング誌/WBA/WBC王者カネロ・アルバレスとIBF王者ダニエル・ジェイコブスがミドル級のネバダ州ラスベガスのT-Mobileアリーナで覇権を争います。

米国マッチルームと契約しているジェイコブスは、今年になって内容を更新。3試合の高額報酬契約にサインしています。

関係筋の話として「カネロ戦で1500万ドル、残りの2試合もカネロ戦の勝敗に関係なく400万ドルが最低保障される」(ロスアンゼルスタイムズ)と報道されました。

もしカネロに勝つか引き分けると、カネロが再戦条項を行使するかどうかに関わらず「残りの2試合」の報酬が400万ドルなんて数字に収まらないことは明らかです。

ジェイコブスのキャリア最高はゲンナディ・ゴロフキン戦(2017年3月18日)で、各種歩合収入を除いた公式発表は175万ドル。GGGとのビッグファイトは、PPVで全米生中継され17万世帯をセールスしました。

昨年10月のセルゲイ・デレビャンチェンコ戦でも160万ドルを稼いでいますが、この時点までだと年収500万ドル以上(リング誌)と見られる村田諒太の方がはるかにリッチなボクサーです。

しかし、今回は一気に約10倍に跳ね上がるわけです。さすがミドル級、さすがカネロ。

そのカネロは4000万ドルは受け取ると見られており、両者の報酬合計は5000万ドルを軽くクリアします。
Highest Paid Athletes In Boxing And The 4 Major U.S. Sports
ATHLETESPORTTOTAL SALARY IN MILLIONS
Mike TroutMLB$426.50
Canelo AlvarezBoxing$365
Russell WestbrookNBA$206.80
Alex OvechkinNHL$124
Russell WilsonNFL$107* 
※カネロが昨年10月にサインしたスポーツ史上最高金額の契約は、3月にマイク・トラウトに更新され、トップの座を5ヶ月で追われてしまいましたが、トラウトが12年契約ということを考えると5年11試合のカネロが上ですね…なんてことを言い出すと36分間で3億ドルを分け合ったメイパックとは何だったのか?となってしまいますが。


WBSSの賞金総額5000万ドルはとんでもない大嘘でしたが、カネロvsジェイコブスはたった1試合の話ですがガチ。もっと大きな金額になったとしても驚きはありません。

それにしても完全斜陽のマイナースポーツでも、メイパックやカネロがとんでもない金額の報酬を手にしてしまうことで、WBSSのホラを真に受けてしまう大きな勘違い、事実誤認が今でも散見されます。

一つ目の事実は、ボクシングは稼げるプロスポーツではないということです。ボクシング産業自体は誰もが認めるdying industry(衰退産業)です。

MLBの報酬はトラウトらを頂点にフモトまでなだらかな曲線を描いていますが、現役ではカネロの後ろは断崖絶壁の崖です。MLBどころか日本のプロ野球でレギュラー定着選手でも、平均的なボクシング世界王者よりも年収ははるかに上です。

カネロなんてのは例外中の例外なのです。
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フェラーリがお気に入りで何台も集めていたカネロですが、今はブガッティ・ラ ヴォワチュール ノワールに夢中なようです。「世界最速だ。発進から10秒ちょっとで時速300㎞を超えるんだぜ」。ちなみに1台14億円なり。わが愛車なら1000台買える計算です…。


二つ目は、百歩譲ってウェルター級を中核とした中量級では1試合でようやく100万ドルを超える報酬を得る選手がいますが、軽量級では世界王者でも10万ドルに手が届かないのが普通です。

軽量級に至っては世界王者になるよりも、日本でサラリーマンをしていた方が年収が高いなんてことが当たり前の貧困さなのです。世界王者でも副業(本業?)を持っていることが珍しくありません。

ゾラニ・テテやエマニュエル・ロドリゲス程度だとファイトマネー10万ドルが夢で、せいぜい5万ドル程度で生活しています。

WBSS優勝の先輩、オレクサンダー・ウシクやカラム・スミスですら「優勝賞金1000万ドル」なんてもらえていません。

WBSSはファーストシーズンからして〝公約〟を破っていたわけです。「すべての階級にも広げていきたい」と野心をみせていましたが、100%頓挫します。平気で嘘をつくのですから。

普通に考えたら賞金総額5000万ー優勝1000万=4000万ドルということは、単純計算で8人が決勝までの7試合を戦うので1試合平均571万ドル、一人285万ドルが分配されることになります。

キャリアハイ5万ドルのテテが、285万ドルもらえるチャンスを「100%の状態でないと戦えない」と棄権するでしょうか?

怪我が本当だとしても、常識的に考えたら「WBOタイトル持ったまま棄権して、優勝者と後で戦った方が効率いいし、もし井上と日本で戦えるならそっちの方がはるかに大きな報酬が期待できる」 ということでしょう。

イヴァン・バランチェクが「報酬のことでこれ以上悩みたくない」と棄権を示唆したものの、WBSS側が「報酬の件で棄権というのはありえない。それで棄権したらとんでもない額の損害賠償が発生するのだから、バランチェクは棄権できない」と契約内容をチラつかせて、結局はリングに引っ張り上げました。

バランチェクサイドは愚かです。テテのように怪我したことにすれば良かったのです。もちろん、テテはバランチェクのケースを学習したのでしょうが。



それにしても「カネロ」が例外中の例外にもかかわらず、それを軽量級に無理やり当て込もうとする記事が日本であとをたたないのはどうしてなのでしょうか?

「WBSS優勝したらラスベガスのスーパースターになる」なんてありえません。

カネロやメイウェザーは気が狂ってもWBSSみたいな詐欺大会に出場しません。WBSSはカネロとは対極にある、マイナーな階級のボクサーを嘘で釣り上げた最低団体です。

昨年、来日したカレ・ザウアランドは会見で「賞金総額は50億円なのか?」「優勝賞金は1000万ドルなのか?」という質問を受けてニヤニヤ笑っていました。「食いついてきた、食いついてきた」というところだったのでしょう。

賞金に関する質問があまりにしつこいので、最後は「優勝で400」とつい口にしてしまいました。

1000万ドルの半分以下という、その答えに「400万ドルか」と落胆の表情を見せる記者にザウアランドは「ドルか円かは想像にお任せする」と語り、そのときは誰もが「いくらなんでも400万円はないわ」とジョークと受け止めましたが、おそらくあれは円で事実なのでしょう。

もちろん、井上が優勝した場合はスポンサー収入や放映権料のジャパンマネーが回されますから400万円じゃすみませんが、人気のないテテやロドリゲスだと大きな上乗せなど期待できません。

同じグローブを着けて、同じリングで、同じルールで、同じチャンピオンベルトを争っているのですが、残念ながら欧米で人気のあるウェルター級やミドル級と、そうではないバンタム級を始めとするマイナーな軽量級は「報酬的には全く別のスポーツ」という割り切りが必要です。

「三浦隆司や亀海喜寛、伊藤雅雪のように軽量級ボクサーも米国を目指せ!」というのはモノの見方が安易すぎます。彼らの階級は米国で需要のあるのです。そして軽量級は日本で需要があるのです。

村田諒太の対戦相手は試合前にも必ず来日して大きな会見を開くけど、井上尚弥の対戦者はどうして試合直前にしか来ないんだろう?…理由は二つの階級にチョモランマとマリアナ海溝くらいの差があるからです。

もし、井上がバンタムでやっていることをミドル級でやっていればとんでもないことですが、それはソフトボールの天才プレーヤーに「メジャーリーグでも活躍できる!トラウトみたいに450億円契約だ!」と夢を描くのと大きな変わりはないのかもしれません。