仙台といえば牛タン、海鮮…そして銘酒。

独眼竜正宗が奨励したという酒造りの伝統は「一ノ蔵」や「浦霞」といったビッグネームだけでなく、個人的に愛する「乾坤一」など魅惑の銘柄を多数抱えています。

どこに行っても必ず地酒がある。

私たちの国は、なんて豊饒な文化を育んできたのでしょうか。

一方で、ワインやウィスキー、広義の〝洋酒〟についてはその醸造所や蒸留所の数は限られています。

欧州と新世界(米国/南米/豪州)にも根を張ったワインに対して、ウィスキーは本場スコットランドですら稼働している蒸留所は200程度と言われています。

日本酒やワインなどの醸造酒と違い、新酒(ヌーボー)として売れない、つまり相当年の熟成を重ねなければ売り出せないという宿命がウィスキービジネスに厳しく立ち塞がり、新規の参入も困難しています。

莫大な投資をして事業を立ち上げてから、少なくとも3年は経たないと売れません。

しかも、無名で若いエイジングのウィスキーは高くは売れません。ましてや「3年もの」なんて。

事業開始から何年もの間、1円も資金が回収できないのですから「大金持ちの道楽」か「恐るべき情熱」がなければウィスキービジネスなど手を出せません。

ウィスキーをスピリッツ(恐るべき情熱)と呼ぶのは、ある意味当然でした。

ニッカウヰスキーの「ニッカ」の最初の社名は「日果林檎汁」でした。

ウィスキーが売り出されるまでの約3年の創業資金を、リンゴを使ったジュースやワイン、ゼリーなどの製造販売でつないでいたからです。

「最初の数年は売り上げゼロ」。この高いハードルをクリアしなければならないため、日本でもウィスキーの蒸留所は、一般に知られていないものも含めても10もないでは?

さらに、一定規模のモルトを作る蒸留所となると、今やレジェンドの北海道「余市」に、宮城「宮城狭」、京都「山崎」、山梨「白州」、静岡「富士山麓」の5つだけです。

モルトファンにとって、すべからく蒸留所は聖地ですが、この5つは日本において別格です。

その熟成倉庫では、とんでもない原酒が眠っていのは間違いありません。

聖地を護る神器のようなものです。

IMG_2250
2019.2.16.仙台の「宮城峡」の熟成倉庫。どんな原酒をどんな樽で、どの位置で、どの高さで、どれくらい熟成させるかでその香りも味わいも異なってきます。「ウィスキーは人間が作るものじゃない」(竹鶴政孝)。至言です。

まだ、モルトなど一部のマニアにしか知られていなかった30年近く前に、小さなバーで働く知人のコネで「グレンモーレンジ」のセミナーに出席する機会に恵まれました。

シングルモルトとブレンデッドの違いはわかっていたものの「シングルモルトは個性が強く単独では飲みにくいから、複数のモルトとグレーンを混ぜ合わせて飲みやすく仕上げたのがブレンデッド・ウィスキー」という程度の認識でした。

そんな私にグレンモーレンジの蒸留責任者、ビル・ラムズデン博士が様々な年代と、新しいウッド・フィニッシュ、カスクデザインされたウィスキーを、詳細な解説とともに振舞ってくれたのです。

カスクデザインは、90年代に入ってラムズデンが騎手となって広まった自由で多様な樽熟成でした。

従来のウッド・フィニッシュは米国のバーボン樽で熟成することが主流でしたが、熟成樽にシェリーやワイン樽など様々なバリエーションを加え、なおかついくつかの樽を使って熟成にアクセントをつけるのがカスク(樽)デザインです。

ウィスキーの深遠な歴史と、最新の秘密を知ってしまった気分でした。

ほろ酔いで水天宮のロイヤルパークホテルを出た、あの日から、私はほぼ30年来のモルト信者です。

山崎を熟成した樽で、梅酒を熟成させた「焙煎樽梅酒」(サントリー)も、ウィスキーではありませんがカスクデザインのお酒です。

カスクデザインはやりすぎると、原酒の個性を殺してしまって甘ったるいウィスキーになってしまい、よりナチュラルであることというシングルモルトの概念にも反するという批判もあります。

もちろん、フルーティさや香り、味の奥行き、厚みは、蒸留所の空気と風と四季、自然が醸成してくれるものです。

〝何も足さない、何も引かない〟。

それもまた、モルトの醍醐味です。

〝何も足さない、何も引かない〟。…あ、これって、まさしくボクシングですね。